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おまじないと呪いは同じもの

連れて行かれた先は、例の事件があった指導室の前だった。

昼休み真っ最中なため、生徒はみんな教室にいるか、体育館にいるか、グラウンドにいるか。

つまり、元安西のテリトリーの周囲をうろついたりしていない。にも関わらず、鷹瞳君はしきりに周囲を気にしている。


「どうしたの?何かあった?」


呟くと、鷹瞳君は声を潜めた。


「来る途中、アイツに会ってないよね?」


「アイツって誰?」


「1人しかいないじゃん。勉だよ、新堂勉」


「会ってないけど。どうせまた、生徒会室とかにでも引きこもってるんじゃないの?」


なんで私に聞くんだろうか。眉を寄せて呟くと、鷹瞳君は「良かった」とぼやいて、深く息を吐いた。


「見られたら色々ややこしいもんなぁ。何せ、美栄ちゃんがいる場所に勉有りだし」


「なにそれ」


敵は本能寺に有りみたいに、綺麗にまとめないで欲しい。と言うか、意味がわからない。

それに、セットみたいな扱いも気に入らない。すると鷹瞳君は、とたんに目を丸くした。


「もしかして美栄ちゃん、気付いてないの?鈍いよ!」


「何が?」


昨日から、やけに鈍い鈍い言われてる気がする。私はそんなに鈍くない。かと言って、鋭くもないけれど。私の顔を見て、本当に『気付いてない』と気づき、鷹瞳君は悲観の声を上げた。


「うわぁ。どうしよう~。最悪だよ。美栄ちゃんは鈍いよ!鈍感すぎる!」


ビシッと指を差して言い放たれ、反射的に身を退く。


「ちょっと、昨日から人を鈍いだとか馬鹿だとか間抜けだとか、いい加減にしてくれない?」


あまり気分が良いものじゃない。むしろ不愉快だ。そう伝えると、鷹瞳君は「馬鹿や間抜けとは言ってないけど」と訂正した。


「まぁ、いいや。じゃあもう言っちゃうね。あのね、勉は君が好きなんだって」


「は?」


聞き取れたけど、理解できなかった。きっと今のは、タチの悪い聞き間違いだ。


「ご、ごめん。意味がわからなかった。もう1回言ってくれる?」


できれば、さっき言った言葉とは真逆の意味の言葉が欲しい。しかし鷹瞳君は、私の期待を切り捨てた。


「だからね、勉は、美栄ちゃんの事が好きなんだよ。おめでとう」


「ちょ、ちょっと待ってよ!!」


嫌な言葉と言うか、有り得ない言葉を聞いてしまった。

新堂が私を好き?そんなの、何があっても絶対に有り得ない。


「新堂勉が、私を好き!?な、何を根拠に!」


お願いだから、嘘だと言ってほしい。今のは冗談だよ、びっくりしちゃった?と笑って欲しい。今ならまだ、笑って許せるから。

しかし鷹瞳君は顔は笑顔でも、決して『嘘』とも『冗談』とも言ってくれなかった。


「本当だよ。だって、勉が言ってたんだから。おめでとうございます」


「ちょっと!おめでとうって何よ!?全然おめでたくなんかない!」


それが本当なら、むしろご愁傷様と言って欲しい。それ程悲惨な事だし、不幸な事だ。


「えー。なんで。勉だよ?あの、俺様秀才の彼女になるんだよ?人生勝ち組だよ」


「だから、意味がわからないわよ!だ、大体、なんでアイツが私を好きになるのよ!?理由は!?意味は!?根拠は!しょ、証拠は!?」


「ちょっと、落ち着いてよ。取り乱し過ぎだって……」


「取り乱してなんかいない!いつアイツがそんな事言ったの!何時何分何秒!?」


気付けば鷹瞳君に詰め寄り、かなり必死になっていた。


「とにかく落ち着いて。勉の言動見れば、普通気付くはずなんだけど。好きでもない子を苛めるわけないし、助けるわけないじゃん」


「そんなの知らないわよ!」


確かに日々嫌みを言われたり、苛められた覚えはあるし、つい先日助けられた覚えもある。だからと言って、イコールで私の事好きなのねと思う程、私は自惚れてはいない。


「とにかく私聞いてないから!そんなの知らないし、関係ないし!」


取りあえず逃げようと踵を返した瞬間、鷹瞳君が声を上げて私の腕を掴んだ。


「酷いよ美栄ちゃん!俺を見殺しにするつもり!?いや、俺だけじゃないよ!未来永劫、末代までの新橋一族を犠牲にするつもり!?」


「はぁ!?」


わけがわからない。どうしてそうなるんだろうか。

しかし、振り向いた時に視界に入って来た鷹瞳君の顔が、本気で泣きそうだったため、それ以上歩みを進める事ができなくなってしまった。


「一生のお願いだよ美栄ちゃん!俺今、勉の中の呪いたい奴ナンバー1なんだ!このままだと新橋家は滅亡だよ!」


「な、なにそれ」


なんでそこまで飛躍するんだろうか。ちょっと引き気味に見ていると、鷹瞳君は至って真面目な顔で続けた。


「美栄ちゃん、呪いって信じる?」


「信じない」


そんなオカルト臭いもの、誰が信じるもんか。

即答すると、鷹瞳君は少し考えた後、また呟いた。


「じゃあ占いとか、おまじないは!?小学校の頃、好きな人の名前を書いた消しゴムとかやんなかった!?朝の占いで、1位になったら、テンション上がったりしないの!?」


「そりゃまぁ、そのくらいは」


確かに某朝のニュースの占いは、自分の星座が発表されるまで見るし、小さい頃、おまじないみたいな事をした覚えもある。でもそれと呪いは関係ない。


「じゃあ、正月に初詣行かない!?受験の時、絵馬飾ったりしなかった!?おみくじが大吉でも、そのまま破って捨てるの!?」


「わかったわよ。呪いがなに?」


根気負けだ。溜め息を吐きながら言うと、鷹瞳君はぱっと表情を変えた。


「美栄ちゃんと俺は、もう仲良しになっただろ?それを見て勉の奴怒ってるんだ。いわゆる嫉妬ってやつ?俺さぁ、全人類を敵に回しても勉だけは勘弁なわけ。アイツを敵に回すには末代まで呪われる覚悟がいるんだ。本当に嫉妬深さには参るよね」


「は、はぁ?」


あの新堂が嫉妬?ジェラシー?信じられない。

それに、昨日ちょっと話しただけで仲良し認定をしているのも信じられない。否定するのは申し訳ないから、敢えて何も言わないが。


「ごめん。おまじないも占いも呪いも信じてもいいけど、それだけは信じられない」


有り得ない。あの男が嫉妬するなんて。絶対にない。

しかし鷹瞳君は、相変わらず引かない。


「するんだよ!勉はあぁ見えて、中身は結構子供なんだから!」


仮に百歩譲って、それが事実だとしても、だからと言って私にどうこうしなければならない理由はない。


「玄関先に塩でも撒いておけば大丈夫なんじゃないかな」


「そんな生ぬるいもんじゃないんだよ、アイツの末代呪いは!」


「……」


なんて言えば良いんだろう。いい加減、反論ネタが尽きてきた。

そうこうしているうちに、昼休み終了のチャイムが鳴った。するととたんに鷹瞳君は慌てふためき、早口に一気にまくしたてた。


「でね、美栄ちゃんに頼みがあるんだ。アイツの事も新堂とか生徒会長じゃなくて勉って呼んであげてくれない?あ、あともし君に告白しても断るならきちんとね。ま、俺的にはOKしてくれるとありがたいんだけど」


「えー……」


2番目のお願い以外は無理がある。だいいち、なんで私がアイツを「勉」なんて呼ばなきゃならないのか。2番目はまぁ「ごめんなさい」でクリアだけれど、3番目は最初から論外だ。


「頼むよ!新橋家を助けると思ってさ!」


「嫌よ。2番目以外は、申し訳ありませんけどお断りします。鷹瞳君、ご愁傷様でした」


「あ、ちょっと酷いよ!」


一礼をして去り、鷹瞳君が私を捕まえようと一歩踏み出した瞬間だった。

ゴン!と鈍い音が響き、振り向く。

すると、ちょうど鷹瞳君が立っていた場所に、煉瓦のブロックが割れていた。2人で顔を見合わせ、恐る恐る顔を上げ、すぐ上の階段を見る。そこには、私達よりも更に驚いた顔をした女子生徒が、1つ上の階段の上手で立ち尽くしていた。


「す、すみません!大丈夫でしたか!?」


女の子は泣きそうな顔で叫ぶと、階段を駆け下りて来た。彼女の手には、ブロックや植木鉢等、「なんで?」と聞きたくなる程の花壇用具一式を抱えていた。


「す、すみません!やだ……新橋先輩!?どうしよう!怪我とかしてませんか!?」


どうやら1年生らしきその子は、鷹瞳君を見た瞬間、ほぼ半泣きになった。


「いや、大丈夫。ギリギリセーフだったかな」


そう呟く鷹瞳君の顔は、青ざめている。


「本当にすみませんでした!」


ブロックを拾い、足早に去っていく後輩の背中を見送りつつ、鷹瞳君は引きつった笑みで振り返る。


「美栄ちゃん。本当にお願い。人命救助だと思って」


「わ、わかった」


正直、占いも呪いも信じていない。だけど、あんな現場を見せられて、NOという程、私は人でなしではない。


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