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真相の究明

次の日、久しぶりにきちんとした通学時間に登校した私は、授業が始まる前の教室に顔を出した。


「おはよう」


その瞬間、一瞬だけ教室内が静まり返った。と思った瞬間、一気に湧き上がった。


「識原が寝坊せずに登校してきたぞ!」


「すごい!久しぶりじゃない?今日はなんかあるかもっ」


失礼な奴らだ。

ムッとしながら一瞥し、席に着く。すると案の定、香織もニヤニヤと笑いながら近付いて来た。


「おはよー。さすがに昨日の今日だから、自粛みたいな?」


「まぁね」


本当は、昨日の出来事を考えすぎて眠れなかった。

あの時は何が何だかわからずに受け入れたけど、やはり変だ。新堂勉の何もかもが。

こうなったら納得できる理由がわかるまで詰め寄ってやる。意気込んでいると、突然スピーカーから声がした。


『本日は、緊急の生徒集会を行います。生徒は速やかに、体育館に集合して下さい』


恐らくこれも、生徒会の役員生徒の声だろう。少し子供っぽいけど、慣れた感じの話し方だ。


「集会なんて珍しい。新任の先生とかかな?」


ミーハーな香織は、何を期待しているのか目を輝かせている。


「こんな時期に新任なんてないでしょ」


席を立った時。ふと視線を感じて振り向く。

そこには副会長の新橋鷹瞳が立っており、私と目が合うと、僅かに口端を上げて笑った。

まるで悪戯を仕掛けたばかりの子供の様な、企み笑み。不思議に思いながら体育館に向かうと、ステージに生徒会長である新堂勉が堂々と登った。


「おはようございます。実は皆様に、とても残念な知らせがあります」


言葉だけで、全然残念そうじゃない奴の口から出た言葉に、耳を疑った。


「古文を担当しており、また、学年主任として熱心に指導して下さっていた安西典久先生が、急遽転任されました」


耳を疑った。内容は、理事長直々の命により、安西が急遽他校に飛ばされてしまったというものだった。しかも、皮肉にも安西を殴った張本人である、生徒会長新堂勉から全校生徒に伝えられた。


昨日の出来事が頭を過ぎる。こんな急に、何かが変わるわけがない。だとすれば犯人はもう、アイツしかいない。事実を知るには、奴のテリトリーに入るしかない。行きたくないけど、仕方ない。

とりあえず放課後になったら、奴の縄張りに行こうと決めた。


----------------------------------------


放課後になり、向かった先は3階にある奴の拠点『生徒会室』

噂によると、奴は学校生活の半分はそこで過ごしているとかいないとか。真相は定かではないが、クラスにもいなかったし、上靴もあった。となれば、残るはそこしかないだろう。

廊下を抜けて階段を駆け上がり、全速力で1分ともしないうちに3階にある生徒会室にたどり着いた。

いつもお世話になっている、無駄に豪華なドアの生徒会室。

来る度来る度、あの男に頭を下げ『遅刻届』なる用紙を貰いに来ていた。この忌々しい場所に、まさか遅刻をしていないのに来る事になろうとは。

軽く深呼吸をし、ドアを開ける。


「失礼します!」


いつも通りだと、ドアを開けた真正面の机に奴はいるはずだ。だが今日は違った。そこには誰の姿もない。と言うか、室内に人気はない。


「あれ?」


なんだか勢いが殺がれてしまった。

とりあえず中に入り、辺りを見回す。まさか隠れているわけでもないだろう。だとすると、新堂はどこに。どうする事もできずに佇んでいると、背を向けていたドアが開いた音がした。


「あれ……何か用?」


後ろから突然声がして、驚いて振り返る。するとそこには、同じクラスの、副会長が立っていた。


「新堂に用事があるんだけど」


「どうして?」


「聞きたい事があったから」


そう言うと、副会長は黙り込んでしまった。

なんだか、気まずい雰囲気が漂う。仮にも2年も同じクラスなのに、こうして会話したのは初めてかもしれない。


もしかしたら向こうは、私の事なんて知らないかもしれない。もしかしら、いったん出直した方がいいだろうか。そもそも、会話のキャッチボールが成り立たない。


「いないみたいだから、出直します」


呟き、ドアに向かった時だった。


「あ!思い出したっ」


副会長は声を上げ、手を叩いた。突然の事に驚き、思わず悲鳴を上げる所だった。


「君、あれだろ。同じクラスの、識原美栄!」


「そうだけど……」


やはり、ちゃんと把握していなかったんだ。

まぁ、無理もないか。私だって、この人の名前くらいしか知らない。

複雑な顔で見ていると、彼はにっこりと笑顔を浮かべた。笑うと結構、人懐っこい。


「識原さんなら識原さんって言ってくれなきゃ困るよー。勉に用事ね!大歓迎だよ」


なんだろう。クラスとキャラが違う。少なくとも私が知っている新橋鷹瞳は、こんな気さくに話す人ではない。彼は「こっちこっち」と手招きをし、奥にあるドアをノックもせずに開けた。


「勉!お前が言ってた通り来たぞ。識原さんっ。あはははっ」


ドアを開けるなりそう叫び、笑い出す。

なんだろう。私はバカにされているんだろうか。

横目で副会長を見つつ、正面に視線をやる。そこには相変わらず偉そうな態度で椅子に座っている新堂勉が居り、もはやデフォルトでもある薄笑いを浮かべていた。


「いらっしゃい。随分遅かったね。俺の予想だと、昼休み頃だったんだけど。安西の事で聞きに来たんだろう?」


「まぁ、そうだけど」


確かに当たっている。だけどなんだか、素直に頷きたくない気がした。


「俺のささやかな気遣いは、気に入ってもらえたかい?」


恐らく初めて見たであろう満面の笑みを浮かべる。それは、少し不気味に見えた。


「ささやかな気遣いって何なのよ。大体、なんであんな都合よく、安西が転任するわけ?」


コイツは無駄に上に通ずる生徒会長様ではない。教師の出入りを把握するなんて、訳無いかもしれない。しかし新堂は「まさか」と小さく呟いた。


「そう都合よく自然に物事が進む程、世の中は甘くない」


「はぁ?」


意味がわからない。現に安西は、翌日にあっさり姿を消した。

訝し気に見ていると、いつの間にかコーヒーを片手にした副会長が「識原さんは鈍いんだねぇ」と笑った。


「ちょっと、何よ2人して。言いたい事があるなら、ハッキリ言ったらどうなの?」


なんだか隠し事をされてるみたいで、だんだんイライラしてきた。軽く睨みながら言うと、副会長は「怖いなぁ」と呑気にぼやいた。その反応が異常にムカつく。


「鈍い君のために、説明してあげるよ。俺は昨日、君を助けた足で生徒会室に戻った。そして、そのまま安西の転任を求めた。翌日、安西は隣町の学校に急遽移動。ざっくり説明すると、こんな感じかな?」


「なにそれ」


つまり、やっぱりコイツが安西を移動させたって事だろうか?


「じゃあ、アンタが安西を移動させたって事!?」


そんなの有り得ない。

いくら縦社会に通ずるとは言え、1人の一存で、教師を飛ばせるわけがない。しかしコイツは、しれっとしながら言い放ったのだ。


「まぁ、きっかけは作ったかな」


「嘘!」


絶対に無理だ。何を言ったのかはわからないけど、たかが一般生徒が教師の移動を左右できるだなんて。しかし新堂は、相変わらず余裕の笑みで首を傾げる。


「有り得なくなんてないさ。まぁ、今回ばかりは、俺の力ではないけどね」


「じゃあ誰の力なのよ」


まさかPTA会長の母親とか?だとしたら、有り得るかもしれない。うちの学校は私立なだけあって、保護者の目には敏感みたいだから。しかし新堂が「コイツのおかげだよ」と指を差したのは、私のすぐ後ろにいる生徒だった。

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