勉のピンチ3
「黙って聞いてれば好き勝手言ってんじゃないわよハゲッ!」
「わっ!美栄ちゃんっ」
鷹瞳君の止める声も聞かず、会議室に怒鳴りこんだ。
「美栄ちゃん!?」
私を見た勉は、さすがに驚いていた。
「教師に向かってなんだ、その口の利き方は!」
「うるさいわねっ!教師なら何言っても良いわけ!?勉はね、頭だっていいし、スポーツだって出来るし、メガネ取るとそれなりにカッコイイのよ!それに、努力だって誰よりもしてきた!アンタに、勉を馬鹿にする資格なんかないっ!」
完全に頭にきていた私は、思い切りぶちまけた。
「こうなったら、お前も一緒に退学にしてやる!」
「いいわよ!そしたら生徒会のみんなだって辞めるんだから!ね!?鷹瞳君っ」
「えぇ!?いや、どうかな……」
この薄情者!嘘でも話を合わせなさいよッ!
「じ、じゃあ、鷹瞳君が理事長に言って、アンタなんか退職にさせるんだから!生徒の人間関係にまで口出す教師なんか最低よ!」
鷹瞳君が一緒に退学になってくれないなら仕方ない。代わりにこの最低教師達を退学にしてもらおう。
「あ、それなら出来るかも。じいちゃん、教育者に相応しくない奴はいらないって言ってるからさぁ」
そう言い、鷹瞳君はニヤリと笑った。その言葉を聞いた教頭達は、思わず黙りこむ。
さすがは私立。いくら教頭や校長でも、理事長には勝てないらしい。
私は勝利を確信した。が、その時。
「それはちょっと違うんじゃないかしら。織原さん」
部屋に入ってきたのは、ここの学校の教師の1人美海先生だった。
美海先生は私達をじっと見つめると、穏やかに言う。
「新堂君が先生に暴力を振るった事は事実なのよ。だから、彼の退学を取り消してもらいたいなら、脅迫ではなくてお願いをしなきゃね」
そう言われ、ハッとした。そうだ。そうよね。
私は深呼吸をすると、先生達に頭を下げる。
「先ほどは、大変失礼な事を言ってすみませんでした。……どうかお願いします!退学だけは。その代わり、私にも責任があります!私も勉と同じ期間停学にしてください。もう二度と、遅刻も早退もしないって誓います!だから、お願いします」
「私からもお願いします。新堂君は将来がとても有望です。退学だけは勘弁してあげてはくれませんか?」
美海先生の言葉に、先生達は顔を見合わせた。
そして──。
「まぁ、美海先生がそうおっしゃるならば」
美海先生は、そこらの女優よりも美人で、先生達のマドンナだ。
この場にいたのが、みんな男の先生だったのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
それにしても、たった美人先生の一言であっさりと退学が取り消しになるなんて。
なんだか、うれしい様な悲しい様な。
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「こんな事なら、私も停学にだなんて言わなきゃ良かった」
帰り道、私は自分の言葉を後悔していた。
美海先生には感謝している。
だけど正直、どうにも釈然としない気持ちがあった。
そもそも、こんなことになったのは、先生達の行き過ぎた指導が問題だ。
この件に関していえば、私は被害者じゃないだろうか。
それなのにどうして、私まで停学処分になるんだろうか。
「いいじゃないか。1週間くらい」
呑気に隣でクスクスと笑う勉を睨む。
「良くないわよ!それよりアンタはいいの?生徒会長が1週間も停学だなんてさ、怒られない?」
「別に平気さ。うちの親は話がわかるからね。それに俺は退学でも構わなかったんだ。退学になったら、毎日君に会いに行けるから」
不意打ちを食らい、思わず真っ赤になってしまう。
「な、何を馬鹿な事言ってんのよっ!それに、なにが退学でも構わなかったよ!人がせっかく──」
「ごめんごめん。悪かった。それにしても嬉しかったよ。君が俺の事をあんな風に想ってくれてたなんて」
ニコニコと微笑まれ、段々恥ずかしくなってきた。 とにかく、退学にならなくて良かったのかな。
結局私と勉は、1週間の『停学』ということになり、なんとか事態は治まった。
「そ、それより、なんで先生の言うことなんか聞いたのよ?」
実際の所、それが1番気になる事だ。
話によると、勉が先生達に頼まれたのは紛れもない事実らしい。
教師の言いなりになる人間じゃないのはわかっている。
ポイントアップの為じゃないのも理解した。
だったらなんで、あんな真似をしたのかわからない。
「あぁ、君にはちゃんと話してなかったな。俺はあの人達に利用されてたわけじゃない。俺があの人達を利用したんだ」
その言葉に首をかしげる。どういう意味なのかさっぱりわからない。
「俺が君に一目惚れしたのは本当。だけど、世間的には君は『問題児』で俺は『優等生』。君に近付きたくても、うっかり近付きすぎると教師の邪魔が入るから。そんな時、彼等からの例の計画を話された。これはチャンスだと思ってね。俺が君と一緒にいても邪魔されないだろう?俺は君に近付け、更には付き合う事もできた。しかも先生達の希望も叶う。まさに一石三鳥だ」
それを聞いて愕然とする。そして新たに気付いた。
私はコイツを甘く見ていたみたいだ。
今まで、勉は『転んでもタダでは起きない奴』だと思ってた。
だけど本当は、コイツはタダでは転ばない奴なんだ。




