勉のピンチ
「美栄ちゃん、学校来ないの?」
電話口で、鷹瞳君がポツリと呟いた。
あの日以来──勉と別れて以来、私はどうしても学校に行けないでいた。
今日で3日目だ。
「ゴメンね。行こうとは思ってるんだけど」
だけど学校に行けば、勉と顔を合わせてしまうかもしれない。
そうなった時、私はアイツの横を素通り出来る自信がない。
絶対に駆け寄って、ぶん殴ってしまう。
「アイツ学校に出てきてからなんか変なんだ。冷たいって言うか暗いって言うか、なんか落ち込んでる」
「なんで?落ち込みたいのは私の方よ。みんなアイツが悪いんだからっ」
そう叫ぶと、鷹瞳君は少し黙りこんだ。
「──そうだね。今回はアイツが100%悪いんだ。だけどさ、いつまでもこうしてはられないだろ?」
「それは、そうだけど……」
ずっと休むわけにはいかない。
それは分かってるんだけど、なんだか一歩が踏み出せない。
今度は私が黙りこんでいると、鷹瞳君は少し遠慮がちに呟いた。
「あのさ、なにも男は勉だけじゃないんだしさ。他にも君の事好きな人はいると思うよ」
「ありがとう」
鷹瞳君らしい励まし方だ。なんとなく笑ってしまった。
「とりあえず、明日は金曜日だから休むね。週明けに行こうと思ってるんだ」
「そっか。わかった。じゃあ、そろそろ切るよ」
「ありがとう鷹瞳君。いつも電話くれて。じゃあまたね」
電話を切ろうとした時、突然鷹瞳君が声を上げた。
「あのさ!美栄ちゃん。俺──」
「なに?」
終話ボタンに置いた手を止めて訪ねると、少し間が空いて笑い出した。
「あはは。いや、なんでもない。ゴメンゴメン。じゃあ月曜日に」
一方的に言われ、プツンと電話が切れてしまった。
何を言いかけたんだろう。
しかし、電話が切れてしまっては仕方ない。携帯を置くと、ベットに潜り込む。
「このまま登校拒否になんかならないからね。なんか逃げてるみたいだしっ」
逃げるのは今だけで十分。月曜日からは必ず学校に行こう。
そう決心し、眠りに就いた。
翌日、うっかり二度寝してしまった私は、夕方にけたたましいチャイムの音で目を覚ました。
「あーもう4時……。そっか、お母さん仕事かぁ」
欠伸をしながら玄関に向かうと、寝惚けていた為、誰なのかも確認しないでドアを開けてしまった。
「美栄ちゃん!大変だっ」
飛込んできたのは、なんと鷹瞳君だった。
「え?な、何しに来たの?」
「もしかして寝てたの!?すごいたくさん連絡してたんだけど!」
何故か焦り気味の鷹瞳君を、ポカンとしながら見つめる。
「ごめん。てか、何してんの?学校終わったの?」
「それより大変なんだっ!勉と別れたってホントなのかよ!?」
そう言えば、別れたって話してなかったっけ。
鷹瞳君はずっと、私が勉に騙されたって知ったから休んでると思ってたんだ。
「そうよ。ほら、お見舞いに来てくれた次の日」
「なんて事してくれたんだよ!?退学になったら、美栄ちゃんのせいだからなっ!」
そう言われて驚いた。
「退学?鷹瞳君、退学になるの!?」
まさか、勉の計画を台無しにしたとかでキレさせて、鷹瞳君がとばっちり食らったんじゃ……。
驚きながら見る私を、鷹瞳君は怖い顔で睨みつけた。
「なんで俺が退学になんなきゃならないんだよっ」
「じゃぁ……まさか、私!?」
「違うよっ!勉がだよっ」
その言葉を聞いて、唖然とした。
なんで勉が退学に?
あの、退学・停学・留年には縁のない優等生が。
「なんで勉が退学なのよ。ありえない」
「とにかく、学校に来てよ!大変なんだっ」
腕を掴まれ、それを振り払った。
「嫌よ!私には関係ない!第一、勉が退学なんて絶対ありえないじゃないっ」
そう言うと、鷹瞳君はさらに怖い顔をした。
「勉のヤツ、昼休みに先生に抗議しに行ったんだ。美栄ちゃんを傷付けたからって。それでアイツ、先生を殴って──」
「殴った?だって、アイツが元々先生とグルになってたんじゃない」
「アイツが先生のいいなりになるわけないだろ!俺が言うんだから間違いない!」
「……」
そういえば、勉はプライドが高くて、先生の言うことを素直に聞くとは思えないと言っていたっけ。
鷹瞳君の言うこともわからなくはない。でも──。
「だったらなんで!?」
「いいから早く!学校に行こうっ。詳しい話はその時するから」
「わ、わかった」
まだ、鷹瞳君の言うことを100%信じたわけじゃない。だけど、嘘を吐いている様にも思えない。
着替えると、急いで学校に向かった。




