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美少女になるためには

放課後。

私は先輩達を探すために学校をさ迷っていた。

いつもは、毎日必ず1回は顔を合わせるのに、何故かこんな時に限って1人も出会う事ができない。

なんだか幸先悪いなと思っていると、やっと前方に優等生オーラを放つ人間を発見した。


「待ってください!」


急いで、その人物に駆け寄る。


「あ、美栄ちゃん」


振り返ったのは鈴原先輩だった。

正直、この人とはあまり面識がない。故に得意ではない。

だけど、相談する身の上で、こんな風に選り好みするのも失礼だろう。

ここは思い切って、鈴原先輩に相談しよう。


「へぇ、千里ちゃんがね。それは大変だな」


さすが家族並に色々と把握しあっている生徒会。どうやら鈴原先輩も、千里については把握しているらしい。


「私、負けず嫌いだからつい」


「あぁ。美栄ちゃんらしいな。でも、俺は別に君達が不釣り合いだなんて思ってないから、良い答えは出せないかもしれないな」


うーん。嬉しいんだか、悲しいんだか。


やっぱり鈴原先輩は、馴れないせいか緊張してしまう。

それによく考えれば、自分の欠点を指摘してもらうんだ。

優しい鈴原先輩には難しいかもしれない。


「すみません、お時間をとらせてしまって……」


あまり使い馴れない敬語に、土下座しそうな勢いの私を見て、鈴原先輩は慌てて首を振った。


「いや、なにもそこまで。役にたてなくてごめん。そうだ。孝文なら、なにかいい案をだしてくれるんじゃないかな。アイツを探してごらん」


「ありがとうございます!」


頭を下げ、鈴原先輩を見送る。

言われてみれば確かに、適任なのは孝文先輩みたいに、良くも悪くもズバズバ意見を言ってくれる人だろう。早速私は、孝文先輩を探す旅に出かけた。


「先輩まだいるのかなぁ。下駄箱見てみようかな」


何せ1時間以上さ迷っているのに、鈴原先輩しか見かけていない。

もしかしたら帰ってしまったのかもしれないと思い玄関に行くと、丁度孝文先輩は帰ろうとしている所だった。


「あ、孝文先輩!帰っちゃダメっ」


「うわっ!?なっ……なんだ、美栄ちゃんか。脅かさないでよ」


苦笑いを浮かべる先輩に駆け寄る。


「今時間大丈夫ですか?聞きたい事があるんです」


「えぇけど。場所変えようか」


孝文先輩はチラリと周りを見る。あぁ、確かにここはギャラリーの視線が痛い。

そうして私達はすぐ近くにあった図書館へ向かった。


「で?話ってなんや?」


何故か先輩はヒソヒソと小声で話す。


「何もそんな小さい声じゃなくても」


「あかんねん。周りに関西弁つこてるのバレたら」


「だったら標準語使えばいいじゃないですか」


「嫌や。標準語は堅苦しくてなぁ。落ちつかへんのや。だからこの方がええんや」


「だけどなんか怪しいですよ。これって」


図書館の隅でヒソヒソと話すのは、やっぱ少し変だ。


「せやな。こんな所を勉に見られたら殺されるもんなぁ。しゃーない。普通でいくか。で?話ってなんだい?」


「あのですね。私はどうしたら勉と似合いの女になれると思いますか?」


そう聞いたとたん、先輩は顔を青ざめて私の肩をつかんだ。


「まさか、ついにアイツに本気で惚れてしまったのかい!?」


「いや。ただ、今日来た千里って奴と勝負する事になったから──」


私は事の経緯を先輩に話した。


「そうだなぁ。似合ってるかと言われたら似合ってないと思うけど、いざ何処が変かって言われたらなぁ。ゴメン、わかんないや」


「……もういいです」


せっかく苦労して探したのに、期待していた成果を得られなかった。

自分でも自分勝手だと思いつつも諦めて立ち上がると、先輩は慌てて言った。


「そういうのは鷹瞳に聞いたらいいわ。アイツは美栄ちゃんにも勉にも1番近い存在だしな」


「ありがとうございました」


確かに言われた通り、一番の適任は鷹瞳君かもしれない。

だけど鷹瞳君は、千里との勝負を最初から投げている。というか、勝負にならないと思っている。

そういう意味では適任とは思えないけれど、事情も知っているし、聞いて損はないかもしれない。


なんだかたらい回しにされてる感は否めないが、取りあえず次は鷹瞳君を探す旅に出る事にした。

図書館を出て歩いていると、丁度良い事に、後ろから鷹瞳君が駆け寄って来た。


「おーい。美栄ちゃん!今帰り?」


「うん」


「俺さぁ、今帰りなんだけど一緒に帰らない?」


「いいけど、勉は?」


「アイツは会長様だからさ。なんかやってるよ」


確かに生徒会は色々雑務があるみたいだけれど、仮にも鷹瞳君は副会長のはず。

それを指摘したが「あくまでも副だからね」と上靴を脱いでいる。

全く、無責任な副会長だ。こうして私達は一緒に下校することにした。


「勉ってさぁ、なんであぁ傲慢でいつも自信に満ち溢れてるのかしらね」


「アイツは昔からあぁなんだよ。いつも沈着冷静で常に上から物を言う人間だから」


「じゃあ、クラスとかでも嫌われてたでしょ?」


「いや、それが一目置かれてるからムカツクんだよなぁ」


「やっぱ見た目なんじゃないの?」


「かもね。なにもしてなくても頭良さそうに見えるし。アイツみたいなのがいるから世の中はいつまでも不公平なんだよ」


そんなセリフ、イケメンランキングも成績も2位な鷹瞳君が言うもんじゃないと思うけれど。


鷹瞳君とは馬が合うのか、会話が弾む。話の大半が勉の悪口なのは、とてもじゃないが本人には言えない。交差点に差し掛かった時、ハッと本題を思い出した。


「そうだ!大事な事を忘れてたわ。私どうしたら釣り合う美少女になれると思う?」


「え?あぁ……千里君に言われたやつだね。急に美少女になれるとかいうから何かと思ったよ」


そう呟くと、鷹瞳君はマジマジと私を見た。


「美少女のところは気にしなくてもいいと思うよ。美栄ちゃんは美少女──ではないけど、可愛くないわけじゃないしさ。性格も勉のあの性格にはぴったりだと思うし。強いていえば──。いや、やっぱりやめとこうかなぁ。言ったら美栄ちゃん、怒りそうだし」


「今さらなに言われても怒らないわよ。はっきり言って!」


そう言い張ると、鷹瞳君は何やら耳打ちをしてきた。


----------------------------------------


「あら、美栄。遅かったのね」


「こんにちは、美栄ちゃん」


帰宅すると、リビングにはお母さんと、お母さんの親友でPTA会長の静枝おばさんが仲良くお茶を飲んでいた。


「おばさん、いらっしゃい」


とりあえずそれだけ言い、急いで風呂場に向かう。


「ちょっと。帰ってきて早々に何してるの?」


様子を身に来たお母さんが、私の格好と手にしているものを見て眉を寄せた。


「決意したのよ。これは私のプライドに関わる問題なの。だから仕方ないのよ!」


「なによ今更。別に好きにすればいいけど……。変な子ねぇ」


お母さんは首を傾げ、リビングに戻っていった。


私は自身の姿を鏡で見つめ、無意識に笑みを浮かべた。


これなら完璧だわ。見てなさい千里。明日ギャフンと言わせてやる。

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