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宣戦布告

私と勉は、先日晴れて(納得済みの)恋人になった。

正直、まだ良いのか悪いのかはわからないけれど。

まぁ、今までみたいにアイツを否定する様な言動は控えようとは思ってる。

だからと言って、今更周りの環境が変わるわけでもないし、私の中での認識が変わるだけで、これといって大きな変化もない。


アイツのことは、基本的には気に入らない。だけどそれが好きか嫌いかといわれれば、嫌いだとも言い難い。見ての通り、私はこんな性格だから、今まで犬猿の仲だった相手に掌を返すような言動もできない。


だけどそれを新堂──いや、勉は問題ないと言ってくれた。

取り敢えずは、それで満足というか、イチャイチャラブラブするだけが恋人じゃないし、こんな形も良いだろうと思えてきた。そんな矢先の出来事だった。


「織原先輩!大変ですよっ」


突然クラスに入って来た人物を見て、目を丸くした。『織原先輩』なんて言うから誰かと思ったら。


「なんだ、満井。突然入って来て」


これもまた誰かと思ったら、鷹瞳君だ。

普段なら『お!駿、珍しいなぁ。どうした?』とでも言うくせに、クラスの生徒がいる手前、仕方ないのかもしれない。つくづく生徒会は演技派というかなんというか。

彼らで演劇をしたらかなりイイ物ができる気がする。


「すみません、鷹……いや、新橋先輩。それより織原先輩、早く来て下さい。なんか新堂先輩の所に変な奴が来てるんですよ」


あぁ、また勉がらみか。

今までなら、勉の事なんかどうでもいいし関係ないと言い放っていたが、今はそうもいかない。

仮にも彼女なら、彼氏の大変なことには反応しておかなければ。


「面白そうだから行こうか美栄ちゃん!」


ニヤリと笑みを漏らし、鷹瞳君は教室から出ていった。


「また生徒会室?」


「勿論。事件は常に生徒会で起きてるからね!」


その流れ、もう飽きたんだけどな。

溜め息をつきつつも、言われた通り生徒会室に向かった。


----------------------------------------


「兄様!会いたかった~」


何やら生徒会室から女の子の声がする。

鈴先輩とは違う、明るくて、なんというかキャッキャした様なテンションの声。

恐る恐るドアを開けて中を覗き、愕然──いや、唖然とした。


「誰?その子」


見た目は15歳くらいだろうか。とにかく高校生とは思えない年齢の女の子が、嬉しそうに勉に抱きついている。しかし、当の勉の表情は固く、かなり嫌そうな表情をしている。


「鷹瞳。いい所に来たな。コイツをどこかに捨ててきてくれないか」


よく見ると、いつも自信満々な勉が冷や汗とかかいてるし、なんだか怯えてる様な。


「ひどーい。兄様に会いたくて、はるばるやって来たのに」


ひしっとしがみつく女の子を、懸命に押し戻している。

なんだか貴重な光景を見ている気がする。


「いいか。俺は別にお前には会いたくなかったし、目障りだ。それに今はちゃんと恋人もいる。誤解されちゃ困るんだよ」


勉の『恋人』というフレーズを聞いたとたん、女の子の目の色が変わった。


「嘘!?今で恋人なんか作らなかったクセにっ」


「嘘じゃない。ねぇ、美栄ちゃん」


突然勉はこちらを向いてニコリと笑みを浮かべた。いや、突然話をふられても困るんだけど。


「え。恋人ってまさか──」


女の子がこちらを見た。目が大きくてなかなかカワイイ。


「あぁ、織原美栄さん。彼女が俺の恋人さ」


そう勉が言うと、その子は急に目の色を変えた。


「こんな不良みたいな人が!?嘘っ!信じらんないっ」


──こいつ、中々度胸あるじゃない。本人を目の前にして『不良』ってどうなのよ。


「失礼な事を言うな。不良なんかじゃない」


勉もムッとしながら彼女をにらんでいる。やっぱりコイツの怒った顔は怖い。


だけど彼女は、馴れているのか怯むこともなくギュッと抱きついたままだ。


「いやっ!こんな不釣り合いな不良に負けるなんて納得できないっ!千里は昔からお兄様と結婚するのが夢でここまで来たんですよ!?」


「いいか。夢は夢だ。そう簡単に叶うものじゃないから夢なんだよ。お前は今まで人生のレールを踏み外してきたみたいだな。だから俺は諦めて鷹瞳にしろ」


「な!?なんで俺なんだよ!」


あぁもう、何がなんだか。

溜め息をつきながら黙って聞いていると、事はさらにエスカレートしているらしく、千里ちゃんとやらはとうとう怒りだした。


「なんで!?なんで千里じゃだめなんですか!こんな一昔前の金髪不良なんかのどこがいいの!?」


「だから不良じゃないって言ってるだろう。彼女はハーフなんだよ」


「はぁ?ハーフぅ?」


噴出したかと思うと、こちらを指差して大笑いしてきた。


「あはははは!超ウケる!その顔のどこがハーフ?がっつり日本人顔じゃん。なに?まさか自称ハーフ?どこの国?中国?韓国?」


今まで、ハーフであることを疑われることは多々あった。なにせこの顔だ。

冒頭でも言ったとおり、私は東洋顔に西洋の髪色だから、金髪に染めた勘違い女か不良と思われることもあった。


だけど、こんなことは初めてだ。初対面の奴に指を差されて、大笑いされながら馬鹿にされるなんて!


「さっきから黙って聞いてりゃふざけんじゃないわよ、このクソガキっ!私は正真正銘、アメリカ人とのハーフよ!ハーフって言っても色々あんのよ遺伝子には!芸能人くらいでしか見たことないくせに、知ったような口利くんじゃないわよ!!」


私の勢いに、勉は目を丸くして唖然としている。だけど敵は強い。とにかく動じない。動じないどころか、さらに挑発してきた。


「てか、それで本当にハーフだっていうなら意味ないじゃん。可哀想ー」


「よ、よくもそこまで言ったわね……!」


今までは髪の色を貶されても、叱られてもなんとも思わなかった。だけど、こいつの言葉は許せない。こちらの怒りをよそに、千里は相変わらずニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべる。


「何その顔。悔しかったら千里と勝負しなさいよ。ハーフ(笑)とか言うなら、千里よりも可愛くって、兄様に釣り合う女になってみれば?あぁ、期限は無期限でいいですよ」


まるで高笑いでもしそうなセリフに、さらにイライラする。

ちょっと可愛いからって、その言い種は何なのよ!


「言ったわね!その勝負受けてたつわ。今に見てなさい!」


「美栄ちゃん。なにもそこまで」


「あんたは黙ってなさい!」


ムカツク。絶対アイツを負かしてやる!

そのままドアを開けると、千里と勉を置き去りにし、生徒会室から飛び出す。


「待ってよ。あれ本気?千里を相手にするだけ無駄だと思うけど」


後を追ってきた鷹瞳君は、他人事というか、初めから勝負がついている様な物言いをされ、更に腹が立った。


「なによ。私じゃ敵わないって意味なわけ!?」


「いや、そういう意味じゃなくてさ。てゆーか、前から思ってたけど、煽られ耐性なさすぎじゃない?」


「関係ないんだから口出ししないでっ」


「美栄ちゃーん」


立ち尽くす鷹瞳君を置き去りにし、廊下を突き進む。

とは言ったものの、正直どうすれば『釣り合う美少女』になれるかなんて見当もつかない。

これは勉が好きとか嫌い以前に、絶対に負けられない。


とりあえずここは、身近な先輩たちにでも相談してみよう。だけど、なんて相談すればいいんだろうか。『勉にお似合いの女の子になりたいの』なんて有り得ない。口が避けても言えない。

ということは、正直に話すしかないだろうか。



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