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遠巻き

「相変わらず混んでるわね」


学食に着いた私達3人は、その混雑ぶりに唖然としていた。


校舎内にはこんなに居たのかと思う程の混雑具合だ。当然ながら、私達3人が座れそうな場所はない。


「ちょっとこれは無いなぁ。どうする?駿君」


ざっと一通り見渡しながら、香織は大きな溜め息を吐く。


私には意見を求めないって、一体なんなの?


「そうですねぇ。どうします?美栄先輩」


それを悟ってか、駿君は私に意見を求めてきた。確かに、人が多すぎて座る場所はなさそうだ。


「仕方ないから、購買で何か買おうか」


いつもは途中で買ったパンなどを代わりにしているけど、たまに学食に行きたくなり、こうして訪れる。


だけどスタートダッシュが悪いのか、いつもあきらめて結局は教室で済ませる割合が高い。なので今日もその流れかと思ったが、香織は不満らしく断固反対してきた。


「せっかく来たのに、また教室でなんてイヤだからね!意地でも空いてる場所探すっ」


無駄な意気込みを見せ、獲物を狙うハンターの様な目で辺りを見回している。


なんだか怖い。


昼休みが始まったばかりの時間に、席が空くわけがない。とりあえず形だけは空き席を探すフリをしていると、不意に駿君が「あ」と呟いた。


「空いてる場所あった!?」


小さな声にも関わらず、勢い良く香織が反応する。駿君は笑顔のまま、1つのテーブルを指差した。


「あそこに顔見知りがいますよ。相席頼みましょう」


人差し指を辿り、見た先に居たのは、6人席をたった3人で使用しているメンバーだった。


周りは混み混みなのに、なぜかあそこだけ人口密度が低い。

視力はあまり良くないため、いまいちわからないけど、90パーセントの確率で生徒会だろう。


「あそこに行くの?」


なんだか嫌な予感がする。

もしもあの中に新堂が居たら。

考えただけで身震いがする。

あんな奴と一緒にご飯はごめんだ。


しかし駿君は、お構いなしにどんどん進んで行く。

近付くにつれ、3人のメンツが明らかになってきた。

鷹瞳君、孝文先輩。そして最後の一人は――。


「セーフ」


思わず小さな声で呟く。


ラストは鈴原先輩だ。

5分の1の確率で新堂がいなかったのは、ラッキーかもしれない。


「こんにちはー。僕たちもここで食べていいですかぁ?」


相変わらず駿君は生徒会の先輩達にも小動物の様に話しかける。その声を聞き、3人は一斉にギョッとした顔をして振り向いた。


「な、なんだ。お前かよ。何かと思っただろ」


ラーメンを食べていた鷹瞳君は、箸を持ったまま苦笑いを浮かべている。他の2人も、遠からず同様のリアクションだ。


「おかしな奴だな」


あまり人の悪口──というか、人を貶したりしない雰囲気の鈴原先輩でさえ、そんな事を言って苦笑いしている。


「僕達、ご飯食べる場所がなくて困ってるんですよ。相席してもいいですよね?」


どこか断定的な雰囲気で言い切り、椅子を引いて座ってしまう。先輩達は「そりゃ、いいけど」と、少し戸惑い気味だ。


なんとか先輩達と合流した私達は、それぞれ希望の昼食を持って、席に戻った。


私は無難な、日替わりのランチ。ご飯に味噌汁、コロッケに唐揚げが1つずつ。そしてサラダが着いて、450円のお手頃価格。


ちなみに駿君は、見た目によらず大食いらしく、大盛のカツ丼と、豚汁。

香織は、華の生徒会様達とご一緒という事で気を遣ったのか、容量の少ない冷やし中華(小)。


ちなみに駿君の分は、本人が申請した通り香織の奢りだ。


「なんだ。よく見たらお前、両手に花だなぁ」


香織と私に挟まれて立っている駿君に向かい、鷹瞳君はニヤニヤと笑いながら言う。


確かに、花に価するかどうかはわからないけど、男1人に女2人である事は間違いない。駿君は、僅かに鼻で笑った気がした。


「とりあえず座りなよ。確か相原さん、だったよね?君はこっちへどーぞ」


鷹瞳君は笑顔で、隣の椅子をポンポンと叩く。


「は、はい!」


些か緊張した面もちで頷くと、香織は恐る恐る鷹瞳君の隣に向かう。


同じクラスでも、会話は皆無だった人だ。気持ちはわかる。


私も自然な流れで、目の前の空いている椅子に座った。


横には孝文先輩、そして逆横には、駿君。空いている場所があって座れたのは幸運だけど………周りの視線がちょっとだけ痛い。


「せやけど、美栄ちゃんが駿と居るなんてびっくりしたわ。あんま接点ないと思てたんやけど」


こってり油の醤油ラーメンをすすりながら、孝文先輩は笑う。確かに駿君と顔を合わせたのは、あの日以来だ。


「前にみんなと挨拶した時以来ですね」


私と駿君の接点は無いに等しい。なのにどうして、私に声をかけてきたのだろうか。

不思議そうに見ていると、駿君は小首を傾げた。


「確かに僕は1年生だから、美栄先輩に会える機会はないですよ。でも、ずーっと仲良くなりたいなぁって思ってたんです」


なんて健気(?)で素直で可愛いんだろう。こんな弟が欲しかった。きっとこの感覚が、俗に言う『萌え』なんだろうと思った。


「なんや、先から聞いとったらお前、めちゃくちゃ気味悪ぃな………いっ!?」


駿君の純少年ぶりを見て、孝文先輩がぽつりと呟く。が、すぐに表情を歪めて黙り込んだ。


一体どうしたんだろう。


そう思うと同時にふと気付いた。


「先輩、なんで関西弁使ってるんですか?」


確か前、優等生の雰囲気を守るため、わざと標準語を使ってるって言っていた気がする。

ここには香織もいるのに大丈夫なんだろうか。しかし先輩は「えぇねん、えぇねん」と笑った。


「今、あの子にはこっちの会話聞く余裕無いやろうし」


そう言われ、改めて香織を見る。


「相原さんて彼氏いるの?可愛いからきっといるよね?」


「い、いないです。最近は」


「本当?じゃあ俺と同じだね。フリー同士仲良くしようよ」


「なんだ、ナンパかよ鷹瞳。お前、そのノリちょっと軽くないか?」


「軽くねーって!生徒会の中で独り身は俺だけだろー!必死なんだよっ」


なるほど。確かに、こちらの話を盗み聞きする余裕は無さそうだ。


鷹瞳君にからかわれており、なんだかその光景は、初めてホストクラブに来た人みたいに挙動不審になっている。この状態なら安全かもしれない。


「鷹瞳君て、意外と軟派なんですね。まぁ、硬派にも見えないですけど」


箸を片手に香織を口説いている姿を見て、溜め息を吐く。


多分、鷹瞳君のはコミュニケーションの一貫の戯れだろう。あれが本気なら、ちょっと苦手なタイプだ。


私は経験がないせいもあるかもしれないけど、ナンパや合コンのノリが苦手だ。

鷹瞳君と香織の様子を眺めていると、ふと孝文先輩は声を潜めた。


「アカンよ、美栄ちゃんには勉が居るんやから」


「なっ!?」


不意打ちでそんな事を言われ、口に運ぼうとしたご飯が落ち、味噌汁にダイブしてしまった。


「な、なんて事言うんですか!香織には秘密にしてるんですから、黙ってて下さい!」


いくら鷹瞳君とのやり取りに夢中とは言え、こちらの会話が全く聞こえていないわけではないだろう。


「え!?まさか、誰にも話してへんの?あの新堂勉の彼女や言うたら、ちょっと自慢できるもんなんやけどなぁ」


なんたってあの新堂勉なんやから。と、孝文先輩はよくわからない事を言っている。


「自慢なんて出来ませんよ。絶対に誰にも言えないんで、秘密にして下さい」


人生で初の彼氏が、事実上のみとしても、あんな男だなんて。最大の汚点だ。


「じゃあ、どーして美栄先輩は、新堂先輩と付き合ってるんですか?正直……2人はちょっと、不釣り合いだと思います」


箸先を口にくわえながら、駿君はおずおずとつぶやく。


「そうよね!実は私もそう思うの」


食い付いた私を見て、2人は目を丸くして驚いている。


「なんや。勉の事好きやないんか」


「当たり前ですよ。誰があんな奴」


きっぱり言い切ると、ますます2人は混乱してしまったらしく、言葉に詰まっている。


もうこの際だから、話してしまおう。好き合ってもいない同士が、どうしてこんな事になっているのかを。


ただでさえ表面上の事実だけでも嫌なのに、友達にバレるなんて冗談じゃない。


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