【七話】 リーゼのゲームの日
今日も、じっくりとそのゲームをやり始める。
だが、しかし――
「――――ああ! ま、また……くっ」
リーゼは今、娯楽室で、ゲームをしていた。
だが、中々クリアが出来ない。
リーゼがやっているゲームは、昔のレトロゲームの一つ。
今では、何処にも無い物を、一体何処からなのか、セリカが入手した物だった。
しかし、ミランダと、セリカは、難無くクリアをしていた。
そして、リーゼは、それをクリアしようと、必死でゲームをやっていた。
「くっ! つ、次」
何度でも、出来るのは良いのだが、どうしてもクリアが出来ない。
「――あ! そ、そんな……」
やはり、最後の所で、躓いてしまう。
あの二人は、簡単にクリアをした上、今では、二人はその上のスコアー争いをしている。
自分もそこのステージに行きたいと思っていた。
しかし、ゲームが難しすぎる。
(な、何故、あの二人は、あんなに簡単そうに……)
リーゼは、手先は器用な方である。
そして、実際に、仕事でもそれを活かし、巡回艇のメンテナンス作業を行ったり、改造を施したりとしているのだが、ゲームだと、何故かその二人には勝てない。
(くっ! いや! ここで、そう! で、次がっ……)
ここの娯楽室で、まさかリーゼがゲームにはまってしまうとは、誰も思わなかった事であった。
最初は、ミランダに、ほぼ無理やり連れてこられ、ゲームをさせられた。
きっかけは単純。そして、そんな事なら簡単に出来るだろう、と思い、やってみた結果、実際はそうでなかった。
中々、ミランダのように出来ない。そして、そのスコアが越せない。
自分は器用な方であると、自覚もあった事から、ならば出来るはずだと、やっていた結果が、今に至っている。
「――あ! な、なんで、そこで……」
仕事では、実際にプランの方が、全てにおいて、上回っている。それは良い。それは分かっていた。
何でも、ほぼ完璧にこなしてしまう、プランを見て、リーゼは育ってきた。
だから、リーゼにとってのプランは、人としての目標でもあり、先生でもある。
だが、そんなプランに対しても、何か一つくらいは、自分が上である事が欲しい、と思っていた。
それが、どんなに、小さな事であったとしても。
そこに舞い降りたのが、ここのゲームであった。
プランは普段、ゲームはあまりやらない。やっている姿を見る事も、ほぼ無い。おそらく、ほとんど知らない状態であろう、と思っている。
ならば、自分が完璧に出来れば、それを教える事も出来るかもしれない。微々たる事ではあるが、それでも、一つあるのと無いとでは違う。
しかし、初めは、そんな事も思っていたはずなのだが、いつの間にか、その目標は、ミランダや、セリカに変わっていた。
(くっ! これでは、まだ、あの二人には……)
そう考える、リーゼであるが、確かにリーゼは手先は器用。それは、ここのメンバーでも、トップクラスである。
しかし、手先は器用だが、思考が少し不器用なリーゼ。物事は、順番にこなしていかないと、良い気分がしない。そして、それが、まだまだ改良の余地があれば、そこを目指したがる。
そんな上向きの思考自体は、問題ない。いや、とても良い事なのだろう。
だが、今、リーゼがやっているゲームは、手先の器用さよりも、どちらかと言うと、反射神経が物を言うゲームである。
ゲーム自体は、至極簡単。だから、考える事はあまり必要としない。
操作自体も、至極簡単。だから、器用差もほぼ出ない。
「…………あ、あれ?」
そんな声が、リーゼに聞こえた。
丁度、ゲームオーバーになった時であった。
「ああ、アカリさん。一人?」
アカリが一人で、娯楽室に来ていた。居る事自体は、珍しくは無いが、一人で来るのは珍しい。
「はい。ミランダさんは……あれ?」
どうやら、ミランダに呼ばれてきたようであった。
「見てないけど。呼ばれたの?」
「はい。一緒にゲームしようって、言われてたんですけど……」
仕事の後にでも、そう言われたのだろう。しかし、その呼んだ本人が居ない。
「私は、見てないけど。……あ、でも食事の時は居たよね?」
「はい。……だから、……ここに居ると思ったんですけど……」
ミランダは、よくここに居る。それはリーゼも知っている事である。しかし、今居ない、という事は、おそらく自室なのだろう、と考える。
「そのうち来るんじゃないかな?」
「そうですね……」
アカリは、答えながら、リーゼの近くに来る。どうやら、アカリもミランダはそのうち来る、と思っているのであろう。
だから、それまでは、ここで待つようである。
「あ、そうだ。アカリさん、これやった事ある?」
「……え? これですか? ……やった事は、無い、です」
リーゼは、少しの間、アカリと過ごしてきて、分かってきた事があった。
それは、アカリは、あまり、話が得意ではない、という事である。
メイもそうであった。
言いたい事があっても、中々上手く言葉にして発する事が出来ない。
自分の事を上手く人に話せない。それは、リーゼも察する事が出来ていた。
「じゃあ、ちょっとやってみない?」
「……え? で、でも……」
「ミランダさんが来たら、そっちに行けば良いし。私も、他の人がやるとこ見てみたい」
アカリは、一度迷ってからも、席に座ってくれる。
リーゼは感じていた。
アカリは、言葉は上手で無いかもしれないが、決断する事に関しては、とても早い。そして、その決断した事に関しては、迷いが無い。
「……えーっと、これ、どうやるんですか……?」
「ああ、うん。これを――――」
そうして、リーゼは、やり方を教える。
昔は、プランに、そうする事を考えてやっていたのだが、今は、あまりそちらは気にならなくなっていた。
そして、アカリがゲームをし始める。
「……えと、あ、……あれ?」
「あ。それで、これ終わってしまうよ?」
「…………え!? こ、これで、終わり、ですか?」
「そう。だから、難しいんだよね。これ」
あっという間に、終わってしまった。
このゲームは、そういうゲームである。だからこそ、それを難無くクリアした、ミランダや、セリカには驚愕していた。
「……む、難しいです……」
「うん。でも、何回でも出来るから」
ミランダが来る気配はまだ無い。リーゼは人がやる所見て、分析をしてから、自分に反映する事も多い。その人が上手くなくとも、何故そうなのか、を分析する事で、自分に反映する事も出来た経験も、実際にあった。
折角なので、と、アカリにゲームを続るように言う。
するとアカリも、納得して、ゲームを続けてくれた。
「そう。そんな感じ。で次は――」
「……えっと……あ、これ……ええっーと、……これ、えい!」
アカリに、何度かゲームをやってもらっていた。
すると、どんどんと上達していく。面白いように、進んでいく。
先程が初めてだったはずなのに――――
「えい! えーっと、あ、これ! えい!」
「あ、あれ?」
「……え? 間違え……ましたか?」
「い、いや。全然。全く問題ないよ。あ、次の――」
えい、えい、と掛け声をかけつつも、あっという間に上達していく。教えた事は、既に吸収しており、教えていない事も、どんどんやり始めている。
そんなアカリを見ながら、リーゼは驚愕する。
(は、初めは、全然だった……はず……なのに……何故……)
そして、しばらくし、アカリは、そのゲームをクリアしていた。
(な! 何故!? 早すぎる!)
「えーっと……あれ? これで……終わり……ですか?」
「う、うん。それで……クリア……」
スコアを見ると、一位を取っている。
アカリは、全てにおいて、初めてな事が多い。
そして、だからこそ、初めはミスも多いし、戸惑いも多い。
しかし、戸惑いも無くなり、一旦覚え始めると、その吸収力と応用力は、もしかするとここの誰よりも――
そんな事を考えていた、リーゼとアカリの所に、ミランダがやって来た。
「あー、ごめん、アカリちゃんー。リーゼちゃんとゲームしてたんだねー。って、ありゃー!? それやってたんー? ええー、リーゼちゃんー。これからそれやろうと――」
「……あ、ご、ごめんなさい、ミランダさん。……えーっと……」
どうやら、ミランダは、今日これを、アカリとやるつもりだったのだろう。
そして、リーゼはミランダを見てから言う。
「あ、すみません。……で、これ、なんですけど」
ミランダが、その画面を確認し始める。
「んー、どりゃどりゃ? んー。……ありゃー。セリカっち、まーたスコア伸ばしてたんー?」
「……いえ、今ここで、アカリさんですよ。それ……」
「…………へ?」
アカリは、よく分からないような顔をしている。
しかし、ミランダも驚いている。
「ありゃー!? え? まじすか!?」
「……ええ、目の前で、先程」
「……えと、間違えましたか……?」
アカリは、まだそのすごさが分かっていない。しかし、ミランダは納得する。
「……あー、そっかー。アカリちゃん、覚えるの早いからねー。んじゃーまー、ちょっくら本気出すかねー?」
そして、ミランダは、その後本気を出した。
これまでのスコアを全て塗り替え、先程のアカリのスコアを越えてしまった。
「ふっふっふ……また、つまらぬスコアを出してしまった……」
そんな事を言うミランダを目の前にしつつも、もしかしたら、とリーゼは思っていた。しかし、そのもしかしたら、だった。
ミランダは本気でやっていない。そして、おそらくセリカも。
本気でやると、スコアを伸ばす事など、簡単にやってのける。
普段は、二人とも、スコア等より、楽しむ事に重点を置いている。
しかし、リーゼは本気でやっている。そのつもりである。
だが、やはり、二人には勝てないのか。そして、新生アカリにも、あっという間に追い抜かれるのではないか。
そう考えたリーゼだが、気付いていなかった。
本来ならば、最終の箇所さえミスをしなければ、リーゼのスコアは、誰にも超す事など出来ないような、遥か高みに居たのである。
このゲームは、途中で終わると、そのスコアは反映されない。
完璧を目指している、リーゼは、そこまでが、ほぼ完璧に出来ていても、最後にたった一度だけ、自覚が無い緊張で、ミスをしてしまっていただけである。
完璧を目指すリーゼは、ゲームを通して、既に完成され始めていた。
超が付く程の、几帳面で、真面目で、努力家のリーゼ。
皆、そう考えている。
そして、だからこそ、皆、安心して、ここでは最重要な物であるはずの、”巡回艇”を任されている事を、リーゼは自覚していなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。
今回は、ギャグ要素は無く……
そんなリーゼは、ただ、自覚が無いだけで、結構何でも出来るようになっています、というお話。




