【六話】 ミランダさんの秘密がばれちゃった日
その日は、とても大変だった。
午後に、本部から、大量の資料作成依頼が飛んできていたのだった。
私も、その資料作成に関しては、大分慣れてきていた。
――――――そう、思っていた。
「あ、……アカリちゃーん、……次ー、これー」
「は、はいぃぃぃ」
多すぎだった。
とにかく多い。
ミランダさんも、疲れ気味で、私に指示を飛ばす。
「メイ、資料室から、今送った資料引っ張って、アンカに持って行って」
「あ、は、はい! ……………………え! こ、こんなに!?」
「そう、そんなに…………」
セリカさんが、メイちゃんに資料室での資料収集を指示しているが、あちらは、あちらで、これまた大量の収集があるようである。
「あー、それとこっちもー、メイちゃんお願いー」
「え……こ、これも!?」
その上に、更にミランダさんからも、資料収集を頼まれているメイちゃん。私も手伝いたいが、こちらも今、資料作成で手一杯だった。
「なーんで、こんな一辺に、来るんかねー……?」
「こっちも多いです……調べる項目が多すぎる……」
ユウカさんも、調べ物が大量にある様子である。
「あー……。そっちもー、資料にせんといかんのかー……。これー、何時に終われるんー?」
「終わるまで、ね………………」
普段は、あの、猛スピードで作業を行う、セリカさんですら、疲れ気味。一体何故こんなに大量に来るのか。せめて分けてもらいたいとは、私も思う。
「…………ミランダ。……これ間違ってるわ」
「え? まじでー?」
「直して………………」
多少、普段より覇気もないセリカさん。だが、ミスはミスで、しっかりと確認している。
ここで、こう言った資料を作成する場合、実務は基本、私やメイちゃん、ユウカさん等が行う。そしてミランダさんがまとめと確認を行い、ミランダさんから、資料をセリカさんに渡し、セリカさんが再確認し、それを更にアンカ室長が最終確認をし、そして問題なければ、ようやく、それを本部へと転送する。
そういう流れと知ったのは、作業が慣れてきた、つい最近であった。
(で、でも…………”ひずみ”も出て無いのに………………なんで、こんなに)
さすがに多すぎて、私も疑問に思ってしまう。今日は、ここで、”ひずみ”が起きた訳でもない。
それなのに大量の仕事が舞い降りてきている。
”ひずみ”が起きて、仕事が遅くなるのならば、それは仕方が無いと、みんな納得する。その覚悟は出来ている。
だが、今日の作業は、どうやら、本部からの応援要請での仕事らしい。それは良い、それは良いが、あまりにも多い。さすがにこれには、セリカさんも終始ご機嫌斜めであるようで、文句を言っている。
「全く……! 何よ、この多さは……! ……これ、……後で、……絶対、抗議してやるわ!」
そんな事を言いつつも、猛スピードで作業をしている。それはそれとして、やる事は、やるようである。
「……あ、せ、セリカさん、ミランダさん、資料、アンカ室長に渡して来ましたー……………………」
「……ああ、ありがとう、メイ」
「……ありがとー、メイちゃんー。…………でー、次、これ作ってー…………」
終わった、と報告した後に、更に次が舞い降りる、メイちゃん。そして、私も一つの作業が終わる。
「……み、ミランダさーん、……資料、入れましたー」
「………………あー、うん……、じゃ、次これー……」
私にもまた来た。こうなってくると、朝立てた計画も、あまり意味を成さない。
「ちょ! ミランダ! また間違ってる!」
「……えー? マジスカー? だってー、アカリちゃん」
私がやった作業だった……。
「あ! こっちも! ミランダ!」
「……えー? ……だってー、メイちゃんー」
今度はメイちゃんだった……。
確認はしているつもりだが、まだ、他の人よりミスが多い、私とメイちゃん。だが、最近ではあまりそれも無くなっていた。しかし、こう多いと、まだ、やってしまう事もある。
私もメイちゃんも、ユウカさんも、みんなで必死で作業をした。
チュンさんと、エレナさんは、今日は巡回業務に出て、戻って来てから、少し手伝ってくれた後に、みんなの代わりに掃除と、そして食事当番をやってくれていた。
あの二人も疲れているだろうに、そちらはそちらで、やってもらえるので、助かっている。
なので、こちらもしっかりと仕事をこなそうとする。
そして、もうすぐ晩御飯の時間、と言う頃に、なんとか仕事が終わるようであった。
「………………はぁ…………多かったわ」
「ふいー…………ようやくかー…………」
ユウカさんも、ミランダさんもお疲れ気味。
そこに、チュンさんがフロアーにやって来た。
「みんな、お疲れ。終われそうか? 手伝うか?」
どうやら、食事の準備も終わったようである。そして、心配して、見に来てくれたようだ。
チュンさんは、こうして、誰かの作業が遅いと、自分がやるべき事をやった後に、ちょくちょく声をかけてくれる。
「……あー、チュンー。もうすぐだよー。今ねー、セリカっちが確認してくれてるー。ごはんはー?」
「ん。食事の準備は終わっている。そうか、終われそうか」
チュンさんは、少し安堵した口調で言う。
「あー。……終わったわ。そう、終わった。ええ、終わった。今、終わったわ」
何度も終わったを連呼するセリカさん。
「ふいー、終わったねー、良かった良かったー」
「もう、本部にもこれはしっかり抗議しておくわ。後は……アンカは遅くなりそうね……」
最終確認も大変であろう。だが、ようやく私達は終われそうだった。そこで、セリカさんがミランダさんに言い始める。
「あー、終わった。ねえミランダ? 終わったわ?」
「んー? じゃー食事に――」
「ミランダ? ねえ、今日多かったわよね。ええ、多すぎよ。はっきり言って、これは問題ね。ええ、問題よ。ねえ? ミランダ」
「…………んー。多かったねー…………? ………………どしたの?」
少し、セリカさんの様子がおかしい。そしてミランダさんにそれを問う。
「ええ、多かったわ。本当に。ねえなんでかしらねぇ? ミランダ?」
「んー? 何でこんなに来るんだろうねー? 一辺にさー………………?」
「ええ、それは、そう。文句言っとくわ。…………で、なんかさー。それにしても多いと思うのよねー? ミスが」
…………確かに。…………私やメイちゃんが沢山ミスをしてしまっていた。その為、何度も、セリカさんが、それを指摘していた。
「で、も、さー? ねー? ミランダー? 何でなのかしらねぇ? 前はこんなにー、ミス無かったわねー? ええ、それを確認するのも大変だわー? 何で!? ん!? ほらぁ!?」
「…………えーっと、セリカっちー。………………え?」
「ちょーっと気なってねぇー、悪いとは思ったのだけれどねぇ、見ちゃったのよねぇ?」
何故だろうか。だんだんと、セリカさんは笑いつつも、目が怒り始めている。
「…………え! えー!? せ、セリカっちー………………、ま、まさかー」
「ええ、ええ。本当、アカリが来てくれたおかげで助かってるわぁ? まぁねぇ、まだ慣れていないものねぇ? ミスはそりゃあるわ。だから、こうして、何度もチェックがあるのよねぇ? メイも伸び悩んでいたけれどぉ! アカリが来てからぁ! 最近伸び始めたわぁ!? ええ、ええ! 良いことよ! だからってねぇ! ミランダぁぁぁ!? これ! 何かしらねぇ!!??」
セリカさんの口調も怒り始めている。何の事か、さっぱり分からない。セリカさんと、それに気が付いたようである、ミランダさんだけ分かっているようである。
「ちょ! セリカっち! そ、それ――――」
何かいい訳をしようとした、ミランダさんの頭を掴んで、セリカさんが皆を見て言う。
「もうっ! ばらしちゃうからっ!! ねえーっ! みんなぁ!? ちょーっとこっち来てくれるかしらぁっっ!?」
鬼の形相になりかけている、セリカさんに言われ、皆で、セリカさんの席に呼ばれる。
「――――――ちょー! セリカっち! いや、セリカ様! それ! 駄目! プライバ――――」
セリカさんは、言いかけたミランダさんの頭を、ガシっと鷲掴みして、皆に向けて、中に浮いたモニターを見せる。私は、ああ、これはこうやって、モニターを動かせるのか、と違う事を考えてしまう。
「さっきぃ! 仕事中なんだけどさぁ!? これちょーっと見てくれるかしらぁ?」
「いたたたたた! いたー! セリカっち! 握力つおい!!」
そうして、見せられた画面。そこには、先程の仕事の風景が映っている。
(――――あ、これ、もしかして……)
「ん? これって……あれか。ミランダのカメラからの映像か。ってセリカさん見れるのか?」
チュンさんも気が付いたようだ。
私もそうだと、分かった。その映像は、少し上から見えている。メイちゃんが、資料を持ってきた時の映像だろう。報告している姿が見える。
「ええ! まぁねぇ! これってぇ、普通はミランダしか見れない仕様になってるのよねぇ!? ここのカメラ以外はぁ! でぇ! こっち!! 分かるかしらぁ!?」
そうして、その映像の隣に、別の映像が流れる。
(…………なんだろ? これ…………? ………………映画?)
ここの映像では無い。何かの映画だろうか。それが、メイちゃんが、ミランダさんに報告を終えて、資料作成の為に、席に戻っている映像の隣に映し出されている。
「……え? ……これって、昔の動画じゃないですか?」
今度は、それにユウカさんが気が付いたようである。
「ええ! そう! でねぇ! これねぇ! この時間に流れてたのよぉ! ミランダの! 自室の! 端末から!」
「――いたたたたた! セリカ様ー! ちょー、ま――――」
セリカさんを、”様”扱いする、ミランダさんは、セリカさんにアイアンクローをされている。
「カメラはねぇ! そんなに電波届かないんだけどねぇ! 端末はっ! 届いちゃうのよっっ! 結構遠くまでねっ!」
「――ま! ちょ! セリ――――」
「――――ん? それって……! つまり!?」
何か、チュンさんも気が付いたようだ。
「そうそう! 仕事中にねっ! アカリが来て、メイも成長してきてっ! 時間が出来たのかしらねぇ!?」
「ほうほう! なるほどな、セリカさん! んー!? なるほどなぁ!? んー? ミランダ!!? そう言う事だったのか!? ほうほう! お前最近、頑張ってるなぁ、と! 思ってたんだけどなぁ!?」
私と、メイちゃん、そしてユウカさんは、まだ分からない。そこにセリカさんの説明が入る。
「ねえ、知ってたぁ!? ミランダの! この! ”MELM”って! 四つ同時に画面映せるのよねぇ!!」
(ん…………? ……え!? よ、四つ? 同時に!? え!?)
「いたー! セリカ様ーー! やめてー!」
「だからぁ! カメラ見ながら! 端末の画面も見れちゃうのよっ!? でぇ! ミランダの自室にも端末があるのよねぇ! ええ、ええ! プライベートな時間なら良いわ!? で! これ! さっきの仕事中なんだけどぉ!!」
「「「………………え?」」」
少し、分かりかけてきた、私達三人。
つまり、ミランダさんの付けている、”MELM”なる機械は、四つ同時に映像を確認することが出来、そして、端末の画面もそれで確認出来る。そして、端末の画面は遠くまで電波が届き、ここから、自室の端末でも、見る事が出来る。それを見れるのは、基本ミランダさん、それからセリカさんも確認はできるようであり、今、見えているモニターの映像は、先程の、あの、多忙な時間帯である。
(つまり……………………あの、忙しい中………………仕事しながら、娯楽映像見て、楽しんでた………………え?)
「あ、あのー、でも操作は…………?」
いくら離れていて、見えたとしても、端末画面だと操作が出来なければ、あまり意味を成さない。そう考えたのだろう、ユウカさんがそれを聞く。
「ええ! そうねぇ!? ユウカも、まだ知らなかったっけぇ!? この最新の”MELM”はねぇ!! 簡単な操作なら、遠隔で出来ちゃうのよ!!」
「そうんなだよなぁ! ミランダ! んー!? お前! 自室に端末あるもんなぁ!?」
なんと、そこまで、出来る代物だったのか。
(……ん? あれ? じゃあ…………)
「えーっと、ミランダさん、もしかして……、この城の中だと、端末、遠隔で操作出来ちゃうんですか?」
「ええ! もしかしなくても、そう! でぇ! これよぉ!?」
私の問いに、頭に角が生えたようにも見えてしまう、セリカさんが答える。
「その事までは知っていたんだがなぁ!? 何処からこんな映像仕入れたんだろうなぁ!?」
同じく、頭に角が生えたらしき、チュンさんが問う。
「それがねぇ!! 最近! なぁーんか! 通信室のぉ! 記録がぁ! 夜中に動いてたのよぉ!? 延々とねぇ! なーんかねぇ、夜中にぃ! 映像を! 受信してる人がいたのよねぇ!!?」
「いたたたたーー! だ、だってー! 夜中じゃないと! 駄目じゃん! 映像、受信、するのー、時間かかる、いたたた、セリカっちー! もちっと、やさしくーー!」
後に知る事であった。
ここは、受信、送信は本部と出来る。だが、その受信、送信も、簡単な資料くらいでも結構時間がかかる。それが映像ともなると、延々と受信をし続けなければならない。
だから、ここで、映像を本部に送ることは、基本無い。それくらい、通信回線が遅い。それなのに、ミランダさんは、結構な数の動画映像を本部から受信していたらしい。
それは、つまり、夜中に延々と、受信をしていたから出来たのであり、昼間などは仕事で使うので、まず出来ない。いや、やってはいけない。
だが、夜中なら、基本、仕事では使っていないので、そういう事も出来る上、ミランダさんは、限られた人しか入れない、通信室に入る事が出来る、その一人でもある。
「いたー! だってー、この前ー! いっぱい動画があったって、いたたたたた!」
「ええ!! それも! 調べがついてるわ! ここの通信室! 本部としか! 通信出来ないはず! なのに! 誰かしらね! そんなオバカな事をした! ここのトップのオバカは!?」
ここのトップ。つまりは………………それは………………、ここの社長。
(………………という事は、ここの社長さんが、動画を、ミランダさんに……………………?)
「他の! 支社の! 誰かも! 同じような事やってるみたいだけど!? で! 本部の! それ以外の、どこかのオバカも! 動画をたまに! 送信してやがるのよ!?」
どうやら、ミランダさんの見ている、動画。それは、ここの会社で周っているようである。そして、その元凶は、社長を始めとした、本部の人間であるらしい。
「他のなぁ! 支社とかぁ、本部とかはなぁ! まあ! セリカさんに頼んどくよぉ!? で! だ! 今はお前だ! ミランダぁぁぁ!!」
「ええ! そうねぇ! チュン! 今日のも含めて! 滅茶苦茶言っとくからぁ!! ねぇ? ミランダぁぁぁああああ?」
「ひー! お、お許し! セリカ様! チュン様! た、たっけてーーー! みんなーー!」
本格的に、ミランダさんは、チュンさんとセリカさんに、叱られ始めた。
そんな三人を見てから、ユウカさんが言う。
「………………メイ、アカリ………………ごはん、食べに行こっか……………………」
「「あ、は、はい………………」」
その後、しばらく、ミランダさんは、夜間の通信室は出入り禁止になった。
そして後に、ミランダさんはこう言った。
「あれはー………………、前門の虎、後門の狼だったよー……………………おっかねーっす…………」
お読みいただき、ありがとうございます。
エッセイと、ネタが被りました。
そして、似たような風景を、実際に見たことあります………………




