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ブルーデイズ  作者: fujito
第二章 蒼い日々 色々
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【四話】 お茶会の日

 その日は、皆、少し早く終われるようだった。


 しかし、早く終われた、と言っても、まだまだ、私は作業に慣れていない。ミランダさんや、ユウカさんに聞きつつ、セリカさんに叱られつつ、なんとか最後の方で、作業を終えていた。


(…………ああ……つ、疲れたー……)


 自分の席で、そんな事を考えていた所に、メイちゃんが話しかけてきた。


「……ねえ、アカリちゃん、この後、何か用事とかある?」

「…………え、あ、ううん? 特には…………」


 それを聞いて、ぱぁっと明るい表情で、メイちゃんが言ってくる。


「じゃあ、アカリちゃん、この後、一緒にお茶しない?」

「え? あ、うん。……あ、でも私、ティーセットとか…………」


そう言いかけて、思い出す。


(…………あ、メイちゃんが……確か、いっぱい持ってる…………)


 あの時、そう、あの私が、ここで働き続ける、と宣言してから、数日経っていた。そして、その少し後に、私はメイちゃんと話をした。私の、あの、事を……。

 それを聞いたメイちゃんは、しばらく、悩んでしまっていたようだった。

 だが、私は、それを、ここに来てから一番仲良くなれた、メイちゃんには、話しておきたかった。メイちゃんその後から、これまでより、更に詳しく、ここの事を教えてくれていた。

 ここでの生活は、それでも、楽しいから……。言葉にはしなかったが、そう、言ってくれているようだった。

 だが、やはりメイちゃんもまだ、ここの事を、他の人よりはそこまで知らないと、言っていた。

そしてこの大フロアーで、今私が使っているカップ。初めは借り物だから、と思っていたが、それは、私にプレゼントしてくれた。


「アカリちゃん、じゃあ、小テラスでいいかな?」

「あ、うん」


 小テラスには、何度がお世話になっている。


「じゃあ、……もう、終われそう?」

「……………………あ………………日報が…………まだ…………」

「………………あ…………」


 何度かやっているが、まだ、皆よりそれも遅い。やる事は分かってきたが、まだ、上手く順序立ててやれていない。そして、今はもう、私とメイちゃん以外は、ここのフロアーには誰も居ない。


「…………日報……やってから…………」

「……う、うん、じゃあ先に小テラスで準備してるね」


 そうして、メイちゃんも去ってしまい、私は日報を書き始める。だが、少しそれも時間がかかった。


 私は日報を終えて、一度部屋に戻る。

だが、部屋に戻る時に、小テラスで準備をしているメイちゃんが見えた。だから、私に準備する事は、特に何も無さそうだった。

 その後小テラスに向かうと、メイちゃんがお茶の準備をしていた。ちゃんと、私の分も用意してくれている。


「ごめんね、遅くなちゃッた」

「……あ、ううん? 私もまだ、全然他の人より遅いし」


 ここに入ってきてから、しばらく仕事を通じて、どうやらメイちゃんが、仕事に関しては少し苦手なのが分かってきていた。だが、料理や掃除、こう言った、お茶の準備等は得意なのか、好きなのか、楽しそうに準備していた。その準備しているテーブルに置いてある物に気が付く。


「あれ? メイちゃん、これって……」

「うん、この前のカタログ。まだアカリちゃん、ちゃんと見れてないんじゃないかな、って」


 確かに、ちゃんと見れていない。特に、欲しい物が思い浮かばなかった事もある。お洒落なティーセットを準備して、メイちゃんはそのテーブルの席に座る。


「あ、アカリちゃん、そっちの椅子で」

「あ、うん」


 どうやら、今日はお茶をしながら、そのカタログを見るようである。


「あ、お茶ありがとう」

「うん、でも勝手に紅茶に決めちゃったけど良かった?」

「うん」


 お茶は、紅茶のようだった。私は紅茶はあまり詳しくは無い。その紅茶を少し飲んでから、メイちゃんが聞いてくる。


「アカリちゃん、このカタログ、もう見た?」

「まだ、ちゃんとは見れてないかな……」

「そうなんだ。あ、そうだね。あの時もちゃんと見た訳じゃなかったもんね。……あ、貰ってるのかな?」

「うん。ミランダさんに。でも、あんまり時間も無かったし……」


 この新しいカタログを貰ったのは、つい先日。まだ、見る時間は無かった。

 ここのカタログ、つまりは、ここの空間でお買い物をする為には、これの中から選んで、発注するしかない。だが、最初の頃は、カタログ自体を渡される事を忘れられていた……。

 しばらく後にカタログを貰ったが、その後忙しかったり、色々あったりで、ちゃんと見れていない。その後、新しい物と交換するからと言われ、渡してしまったので、結局ほとんど見れないままであった。

 そういう訳で、私は、ミランダさんに、初めてこのカタログを渡され、説明されてからは、カタログの中に、どういう物があるのか見れていなかった。


「……でも、これって他にどんなのがあるの?」

「うん、色々あるよ。ほら例えばこれとか……」


 そうして、お茶をしながら、メイちゃんとカタログの話をする。私が想像していたより、豊富に種類がある。


「この前は……これを買ったんだよね」

「うん、あれなら色々調理も出来そう」


 そう言われるが、あの鍋はかなりの大きさだった。


ここに来て、私が正式に入社を決めた少し後に、給料日が来た。

 私にとっては、ここで初めての給料日。

 その日は、みんなで、カタログを見て、最終的に皆で鍋を買った。

私は、みんながカタログを見て選んでいた物から、買う物を決めただけだった。ピックアップされていた、そのうちの、鍋を選んだだけだった。

 そして、その鍋は、今調理室にある。


「私、これも欲しいんだけど……私結構すぐ使っちゃうから……」


 メイちゃんは大量のカップを持っている。おそらくはその資金であろう……。そして今見ているのもカップである。


「うーん……でも私、何を買ったらいいのか……」

(…………カップ以外で……)

「まだ、アカリちゃんのお部屋には無い物も結構あるし。……それにほら、アカリちゃん、まだ自分の物とか発注してないんじゃないのかな?」


 確かに、部屋は、まだほとんど物は無い。だが、生活するには今のところ困った事など無いようにも思える。


「あ、でもこの前、皆でお鍋買ったよね? だからそのお金で……残ってるのかな……私……」

「うん。アカリちゃんは今回の支払いには入ってないと思うよ」

「え? それってどういう事?」


 皆でお金を出し合っているから、あれほどの高価な物でも買えたはずだ。


「アカリちゃん、一ヶ月分じゃないし、まだ最初だから。……私も最初の方は支払いしてなかったみたいだったの。その事は、その後に私も聞いたんだけれど」

「…………え。じゃ、じゃあ私が、今回選んじゃったけど……良かったのかな……?」


 アリスさんに指名され、と言う前提はあったが。


「うん。皆が納得する物だったし。良かったと思うよ」

「……あ、そ、そうなんだ」


 そうして、再度カタログを見始める。


「……うーん、でも、本当、色々あるねー」

「うん、あ、ほら服とかも」

「あ、棚とかもあるんだ」

「う、うん、他にもこんなのとか」


 カタログを見つつ、そんな話をして居ると、小テラスに人が来た。

 チュンさんだった。


「ん? お疲れ。ああ、カタログか」


 片手で、お茶と煎餅が乗ったお皿をが乗っている、お盆を持っていた。


「新しいやつだな。なんか買うのか?」

「アカリちゃん、まだちゃんとカタログ見れてないみたいだったんです」

「ああ、なるほど。あ、一緒して良い?」

「「あ、どうぞ」」


 ここのテラスのテーブルには、三つ椅子がある。それが三セット。


「よっと。……ん、…………メイ。…………また買うのか? カップ………………」

「え、えーっと」

「…………いや、別に良いんだが……」


 また。そうだろう。メイちゃんの部屋は、カップだらけだ。


「……あ、そ、そう言えば、棚、ありがとうございます」

「ん。ま、構わんさ。と言うか、それはもう何度も聞いた」

「…………どういうことですか?」


 棚を、ありがとう、と言うメイちゃん。貰ったのだろうか?


「……えっと、アカリちゃんも見たよね。私の部屋の……あの棚なんだけど」


 確かに大量のカップが、沢山の棚に、綺麗に並べられていた。


「……あの……カップは大体は自分で買ったんだけど、……棚はみんなに買って貰ったの……」

「……あれは、必要だった……」

(みんなで……?)


 その後、ああ、と思い出す。


(この前のように、みんなで決めて買ったのかな? あれ? でも、あれは皆で使うから、皆で買うのであって…………)


「ま、今じゃ、湯飲みやカップ、他にスプーンとかが欲しければ、メイに言えば貰えるし。ほら、これもメイから貰ったやつだ」


 チュンさんはそう言って、持っている湯飲みを見せる。おそらく中は煎茶だろう。


「四階フロアーのも、今じゃ、ほとんどそうだしな。……ま、最初見た時は私も驚いたが……」

「えと…………?」


 最初とは何だろうか、と考えていた私にメイちゃんが苦笑しながら答える。


「……あ、あー……、そ、そのー……、み、みんなに棚を買ってもらう前は…………置き場が無くて…………」

「床がカップだらけだった……」

「……………………あ、な、なるほど」


 つまりは、買った良いが、置く為の棚が無くて、部屋の床中にカップがあったという事なのだろう。が、それはどんな光景だったのだろうか……。


「せ、折角買って貰っちゃったし、あの、棚もちゃんと使わないと……」

「で、またカップか……」

「え、えっとー」


 メイちゃんは目を少し背けながら、苦笑いをしている。けれど、それが好きだという事で、自分のお金で買っているのなら、ここの人はそれに文句は言わないだろう。実際、私もカップを貰っている。


「いや、良いけど。で、アカリも買うのか? カップ……」

「え? えっと、私は、それ以外にも………………」


 欲しい物はあっただろうか?


「ち、チュンさんは何か買わないんですか?」


 メイちゃんが聞く。


「うーん、そうだな。……服は、まあ、今はいいし、何か面白そうな本でもあれば……」


 そうして、三人でお茶をしながら、カタログを見始める。こんな物が増えている、あれが無くなった、これが新しくなっている、そんな会話をしながら、カタログを見る。


「そういえば、アカリ、まだちゃんと見れてないって事は、まだ何にも買ってないのか?」

「あ、そうです。でも、何を買うとか、何にもなくて……」

「服とか……アカリちゃん、今持ってるので足りる?」


 チュンさんに聞かれ、私が悩んでいると、メイちゃんがそう言ってくる。


「……あ、うーん、ちゃんとお洗濯してれば…………多分……」

「もし、無かったら……アレ……着るのか?」


 チュンさんが言うアレ。それはあの服のことだ。来た時から部屋に置かれていた、何故か真っ赤なスーツらしき服。


「…………えーっと…………さ、さすがにアレは………………」

「じゃあ、服、買ったらどうだ? 私もアレは着たくない。絶対」

「そ、そうですね…………」


 そしてカタログの服の項目を見始める。

 だが、いざ見始めると、色々ありすぎて、どれが良いかと迷ってくる。


「あ、これなんかどうだ?」

「あ、こっちもかわいいよ、アカリちゃん」

「うーん、でもこれもいいなぁ」

「ん? ああ、それは似合いそうだな」

「あ、ちょっと出して見よう」


 このカタログは、ピックアップすると、空中にその物の立体映像が浮かび上がる。ゆっくりと回転しているその服を見てから、チュンさんが言う。


「うーん、そうだな……うん。似合いそうだな。………………しかし、実際に試着が出来ないのは残念だな」


 確かに、ここでは試着は出来ない。前にミランダさんがカタログを説明してくれた時、ミランダさんは、短時間で服を決め、あっさりと買っていた。


「でも、贅沢は言えませんし。………………うーん、じゃあこれにしちゃおうかなー」

「そうですね……ちゃんと試着できれば良いんですけれど……」

「こう、写真か何かで良いから、自分に合わせて見てから買いたいもんだが」


 そんな事を言われるが、その服は、良さそうな服だった。私は、それを発注してもらった。

 その服の金額も、あの時見た、給料明細通りであれば、全く問題は無い金額であった。自分のサイズに合った物を選んで発注する。どうも、ここに居ると、金銭感覚が麻痺してくる感じだ。


「…………こ、これで買っちゃったんですよね…………」

「ん。まぁ一応な。実際は、これをまた、本部に転送してからだが。それよりアカリ、まだ金は足りてるか?」

「え? あ、はい、多分……」

「じゃあ、こっちも頼んでおいた方が良いぞ?」


 そう言われ、カタログから見せられたのは、見た事のある物だった。


「あ、これって、確か、チュンさん持ってましたよね?」


 私は思い出しながら、チュンさんに聞く。 


「うん、湯沸かし器。持っていたほうが良い。部屋に無いだろ?」

「あ、私も持ってるよ。アカリちゃん」

「ん? これ、また新しくなったか? 少し違うみたいだな……」

「あ、本当ですね。……あ、ちょっと大きなのも」

「ふむ……。私も買うか。アカリ、発注するぞ?」


 どうやら、メイちゃんとチュンさんが持っている物より、新しくなっているらしい。


「あ、き、金額は…………?」

「ん? ほら、こんなもんだが。足りるよな?」


 金額を見る。

 少し高い。いや、本当なら、ものすごく高いはずなのだが、ここの給料が高すぎて、少し、と思ってしまう。

 そして、私とチュンさんで、その湯沸かし器を二個発注した。


 その後も、三人で、カタログの他の項目を見たり、次はこれを買おう、ああ、これも欲しいと、お茶をしながら話をしていた。


 そんな、ゆっくりとした、お茶会の時間が流れていった。



お読みいただき、ありがとうございます。


そんな感じで続いている、チュンとメイとアカリのお茶会です。

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