【二話】 ユウカとエレナの食事当番の日
その日は、ユウカとエレナで食事当番になってしまった。
私は今、自室で休んでいた。
本来なら、私と、エレナであったのだが、あれが起きた。
”ひずみ”
あれが起きると、どうしてもこうなってしまう。
メイやアカリ、プランが入れれば良かったのだが、メイもアカリもまだまだ、作業に時間がかかる。
チュンと私で、巡回中に起きてしまった。
極めて小さい”ひずみ”であった事で、もうそろそろ、戻れそうではある。
しかし、そのせいで、巡回艇も少し壊してしまった。
プランもリリーゼもそれのメンテナンス。
こうなると、アンカはまず無理。
チュンやミランダも、アカリとメイの仕事を見ている。
そういう訳で、自動的に食事当番がユウカになった。
ユウカはそれなりに料理は上手である。
そこは心配していない。
エレナはあまり上手くない。
だが、出来ない訳でもない。
だから、私の心配は別にある。
それは……あの……二人が組んだ時の料理……
……かつて……それで事件が起きた……
だから、アンカも食事当番で、あの二人を組ませる事は無い。
(…………しかし…………何故…………ああ、なったのだろうか…………?)
その事を知るのは……私とアンカのみだ。
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「ねぇー、ユウカさんー、何作るぅー?」
「そうね……みんな大丈夫かしら……」
エレナが聞いてくるが、それに答えず、ユウカは、今業務中のメンバーを思いやる。
「あ、もぅ、終われるんじゃないかなぁ……小さかったし」
「そうね……少しだけ遅めにすれば、皆一緒にご飯食べれるかもね」
確かに今日の”ひずみ”は小さかった。
その為、業務が遅くなる、と言っても、そう、大幅に遅くなるわけではない。
「んじゃぁー、何作る?」
「あなた、今日、セリカさんと何を作る予定だったの?」
「カレースープ?」
「はぁ……あの人は……まぁ私も、カレーが嫌いな訳じゃないけれど……って、ちょっと待って。カレー……スープ? ……何? それ……」
ユウカは、カレー、なら分かる。そして、スープ、なら分かる。
(……カレースープとは?)
足すと分からない。カレーを薄めたような物なのだろうか……どんな味がするのか気になる。
「ねえ、そのカレースープってどういうの? エレナ知ってる?」
「んー? 知らないよぉー。なんかねー、セリカさんの……そぉさく料理……? って言ってたよ?」
「創作料理か……でも……不思議よね……あの人、何にでもカレー入れるけれど、確かに美味しいわ。メイはたまに失敗したとか言うけれど……確かにその時のは、ちょっと、って感じだったわ」
「んー? そうだっけぇ? でもー、メイちゃんの料理美味しいよぉ?」
「うん、それも知ってる。良く出来た、って時のメイの顔分かりやすいし。その時の料理は確かにすごく美味しいわ」
そこで、ユウカはふと考える。
(確か……アカリもたまにアレンジするって言っていたわね……あの子も料理は上手だし、うん、美味しいわ。多少はやっぱり、アレンジすると美味しくなるのかも……)
「ねえ、エレナはカレースープの作り方分かる?」
「ええー? 私知らないよぉ?」
考えながらユウカは言う。
「でも……カレースープ……だから……基本は……カレー、よね?」
カレーならユウカも作れる。
何度もセリカを手伝った。
何度も手伝わされた。
その為、自動的に覚えた。
「ねえ、エレナ、あなたもカレーは作れるでしょ?」
「うん、それは分かるよぉ」
「じゃあ…………やってみましょうか、カレースープ」
「ええー? ユウカさん作れるのぉ?」
「いいえ? でも、私もたまには、チャレンジしてみたいわ」
カレースープなる物が、どんな物かは分からない。
だが、カレーが分かれば、何とかなるだろう、とユウカは考えた。
それにカレー味なら、セリカも喜ぶかもしれない。
今日は、セリカは大変だったのだ。
そして、たまにユウカは、こうチャレンジをしたくなる。
多少気まぐれではあるが、やる気になった時は、それをやる。
カレースープ、いや、実際に”スープカレー”なら存在する。
だが、ユウカとエレナはそれを知らない。
「ええっと、じゃあ……まずはと、普通にカレー作ればいいかしら」
「んー? でもぉースープだよねぇ」
エレナにとってのスープ。
それは、ほとんど水分のような物、と言う感覚である。
例えるなら、お湯に、塩と、あと何かを少し入れた、と言う程度。
何も具が無い、ただの飲み物、と……
何故か。
それは、エレナが汁物を、味噌汁しか知らないからである。
しかし、それすらも、自分で作った事は無かった。
ここに来るまでは。
シチューは分かる。カレーも分かる。
今は。
だが、それもここに来て知った物。
料理は、二人ともここに来て初めて覚えたのである。
だから、それも本来はスープの一種とは知らないのである。
そして、それはユウカも同じなのだった……
「じゃあ、そうね……カレーの味付けは……あら、そう言えばあったかしら?」
ここでは今ではほとんど流通していない、市販のカレーの元を使うことも多い。
だが、セリカのみ、それが無くても作れる。
そして、今は、その市販のカレーの元も無く、セリカも居ない。
「あー、どこだっけぇ……ここには…………無さそうだねぇ……セリカさんしか分からないかもぉ」
「じゃあ、それっぽい味付けのスープ……かしら」
「どうやるの?それ」
「……ま、試してみましょう。」
そして……ユウカとエレナの……カレースープ作成が始まった。
-グツグツ-
「あら、先に具を入れるのかしら……」
「でもぉ、具があったらスープじゃないよぉ?」
「あら、でも、ちゃんと煮込めば……」
「じゃぁ、細かぁーく、切っちゃえばいいんじゃないかなぁ?」
「じゃあ、そうしてみましょうか。あと……味付けは…………調味料……………………あら?……これ、何だったかしら?」
「なんだろぅ、それ?」
「ええっと……ん、ちょっとしょっぱい……のかしら」
少しスプーンで舐めてみた。
「いれちゃえー!」
「あ!ちょっと! エレナ!……ああ、もう……結構今入れたでしょ?」
-グツグツグツ-
「んー……カレーとは程遠いわねー……」
「じゃぁー、もぉーっと調味料入れちゃえばー?」
「ええ? それで良いの?」
「だってぇ、セリカさんが、カレーは調味料が沢山使ってるって言ってたよ?」
「あら、そうなの?あの人が言うなら…………じゃあ、そうね、カレースープなんだし……入れてみましょうか。」
そして、二人は、色々な調味料をどんどん入れていった。
-グツグツグツグツ-
「なんか、色おかしくない?」
「うーん……よーくかき混ぜるんじゃないのぉー?」
「調味料、入れすぎかしら……」
「でもぉ、煮込めば煮込んだ分ー、美味しくなるって聞いたよー?」
「でも、このまま煮込んで、本当にそうなるかしら……」
「やっぱりぃ、具ももうちょっと入れたほうが良いんじゃないー? カレーだしぃ。」
「うーん、それもそうね。さっきの材料、まだ余ってたわよね。」
「入れちゃおー!」
「あ、でも……それ入れると、この鍋じゃちょっと入らないかも」
「じゃぁ、具を入れる前にー、あっちのあの大きな方に移せば良いんじゃなーい?」
「そうね……まだ…………皆来るまで時間もあるし……」
そうして、今度はソレを、大きな鍋に移し、更に細かく刻んだ具を入れていった。
-グッツグッツグッツグッツグッツ-
「うーん………………なんか…………結局カレーっぽくなってきたわねー」
「…………ねぇー、これちょっと、かき混ぜるの大変だよぅ…………」
「あら? そう?」
ユウカのほうが、若干エレナより背丈が高い。
「あら?あれ? ……なんか……重いわね……ねえ、エレナ……何か踏み台か何か無かった?」
「あ、これー、セリカさんが時々使ってるやつぅ」
「あ、ありがとう、ああ、これだとやりやすいわ」
そして、踏み台に乗り、大きな鍋をかき回すユウカ。
そう、この二人、確かに料理は出来る。
ここで教えてもらった。
が、それだけ。
はっきり言って、料理は教えられた事しか知らない。
このオートで料理が出来てしまう時代、それしか、知らない。
そして……肝心の味見をしない……
-グツグツポコポコグッツンポッコン-
「ねえ、エレナ、美味しそうな香りする?」
「んー……どうなんだろ……良く分かんないやぁ」
「見た目は……うーん……ちょっと色が違うみたいだけど……カレー……よね」
「んー、そうだと思うよぉー」
ユウカがそれを、踏み台に乗りグルグルとかき回す。
「あ、これ、メイちゃんが作ってたジャムだ」
「あら、そんな所にあったの?」
「いれちゃえー」
「あ! ちょ! エレナ! カレーにそれは………………どうなるの……? これ………………」
「良いんじゃないのぉ? 煮込めば美味しくなるよぉ」
「うーん……でもこれだけ量があると、もうパンもいらないわね。」
その光景は、知る人が見れば、魔女の実験、としか思えない。
-グッツグッツグツリポコリ-
「そろそろ、皆来る頃ね」
「んじゃー、準備しよっかー」
「そうね、ええっと……もう……いいかしら?」
そこには……よく分からない……何かの……何かが出来ていた……
そして、仕事を終えたメンバーがやって来る。
「あー、つかれたよー、あれー? なんか良い匂いだねー」
「ん? そうだな」
「「お…………お疲れ様ですぅ……」」
「あら、終わったのね。お疲れ。あら、二人ともずいぶん疲れてるわね」
「お疲れ様、うん? 良い匂いだね、何作ってるの?」
「あら、リリーゼ達も終われたのね」
「ええ、たいした故障ではなかったですよ」
コクコク、と頷くプラン。
問題無かった、という事だ。
そして、夜間巡回組の、アリスと、マイヤも入って来る。
「あ、もう準備できるわ」
「うんー出来たよぉー」
そして、”ソレ”をいれた皿を配膳する。
「ああ、アンカ室長はまだ来れなさそうだった」
「セリカさんも…………来ませんね」
「残念だが仕方ない。じゃあ、食事を始めるか」
「んじゃー、地球の全てに感謝と祈りをー。良い食事を致しましょうー。いただきますー」
「「「「いただきまーす」」」」
「んー、これ良い香りしてるよー」
「…………あ…………ん……」
「………………ハァム、フン、ホレハ……ゴクン、うんこれ美味しいや!」
「おおー、美味いねー、ねーエレナちん、これなにー?」
「んー? ハヘー、フーフ、ゴクン、カレースープだよぉ」
「……………………ん?」
皆、美味しくは食べていた。
が、カレー?
ソレは味は、全然別の何かだった。
適当に調味料やら、具を入れて、奇跡で出来た、スープ。
「んー? んー、まーおいしーし、まいっか」
そして、食事は進んでいった。
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「ああ、アンカ、今から食事?」
「ええ、セリカさん、……大丈夫ですか?」
「ええ、もう良いわ。…………ところで」
「……はい?」
「今日の食事当番………………」
「あら? だ、誰だったかしら?」
「…………………………ユウカと……エレナ……なんだけど……」
「……………………………………………………………………………………え!」
かつて、ユウカとエレナが入ってきて、初めて二人だけで、食事当番を、した時であった。
朝は、簡単な物で問題なかった。
昼も教えた物だったので上手に出来ていた。
そして、夜も問題ないようだった。見た目は。
だが…………それには、大量のある調味料が入っていた……
それは……調味料として置いていた、酒だった。
「ま、また…………あんな風になってなきゃ良いけれど……」
「ぷ、プランさん、お酒……すぐ潰れちゃいましたよね……」
「ええ、そのおかげで、その時の記憶が無いわ……」
しかし……
その日、アンカとセリカが見た光景は…………
それ以上の物であった…………
食堂は、
カオスになっていた…………
(また……やった!? で、でも皆……酔っているようで……いや違う。…………幻覚…………見てる?)
みんなで……何故か手を繋いで、テーブルに鍋を真ん中に置き、それを囲っていた。
そして、それに祈りを捧げている。
「「「「「ホンジャマカー、エッサイホー」」」」」
目が虚ろ。
(………………何故……………………?
何故………………鍋に向かって祈っているの………………?
しかも……………………何、その祈りは!?
………………どこで………………覚えたのよ………………??
……で、その言葉は何!?)
アンカとセリカで皆を戻そうとするが、すぐに鍋の近くに行って、また、祈り始める。
土下座をし、手を上げて、深く部面につく。
(……………………………………………………何を……………………作った…………………………の………………?)
アンカとセリカが見た、なにやら、スープなのかカレーなのか。
”ソレ”は、プシューッっと、煙になり消えていった…………
しばらくし、鍋の中の物も煙になり、そして……皆一度倒れ、すぐに気がついた。
「……………………はれー? 寝てたー?」
「………………あれ? …………確かお食事をしてたはずなのに………………」
「……………………………………………………ねちゃってた………………………………」
(先程の………………記憶は無いよう………………だが……酔っていたのなら………………
それならば……まだ分かる………………けれど………………………………さっきのあの光景は………………………………
何だったの………………………………………………??)
アンカと、セリカには、全く分からなかった…………
次の日、緊急で、ミカが定期健診に来た。
理由は、昨日のアレ。
だが、皆問題ない。何も異常は無かった。
……いや、一つ、不思議な事が起こっていた。
その何かを作った鍋は、本来の色から、何故か、金色に変わっていた。
セリカは、その鍋を、城の地下に封印した………………
そして、アンカとセリカは、
ユウカとエレナでの食事当番では二度と組ませないと、お互いに誓った。
お読みいただきありがとうございます。




