【十日目】 〝ブルー〟の生活
今日は、ずいぶんと早起きしてしまった。
昨日、メイちゃんと、あんな話をしたせいなのか。
朝御飯まで、まだまだ時間がある。
けれども、再度寝ようという気にはならなかった。
少しだけ、後悔していた。
やはり、メイちゃんに話をするには、早すぎたかもしれないと。
また、ユウカさんの朝のティータイムにでも、顔を出そうかと思い、朝の支度をし、部屋を出た。
しかし、それにもまだ早かったようで、小テラスには誰も居ないようである。
そして、一度部屋に戻ろうとした所に、私の部屋の、隣のドアが開いた。
もちろん、隣はメイちゃんの部屋だ。
「……あ、お、おはよう、メイちゃん」
「おはよう、アカリちゃん」
メイちゃんは、もう起きていた。とても朝早くのはずなのだが、既に準備も終わっているようである。
「あ、あの……」
昨日、あんな事を話してしまった後なのだ。少し、話しづらい。そう思っていたのだが、メイちゃんは明るく声を出してくれる。
「早いんだね、アカリちゃん。いつもこれくらいに起きてるの?」
「え? ううん、今日は、その、なんだか早く目が覚めちゃって」
「そうなんだ……。あ、もしかして、ユウカさんとお茶するのかな?」
「えと、そう思ったんだけど、まだ居ないみたい……」
実際に、まだまだ早い。外は暗い。まだ四時を過ぎた頃である。
「もうそろそろ、ユウカさんは起きてきて準備し始めるみたいだよ」
「そっか……」
確か、ユウカさんは四時くらいに起きていると言っていた。
すると今くらいに起きて、朝の準備を始めるのだろう。
「……あっ、そうだ、アカリちゃん。これからお風呂に行かない?」
「…………え?」
少し、唐突にそう言われたが、確かに、そのような事をする時間もある。
それに、朝のお風呂は気持ちが良いとも聞いていた。
「……うん」
「うん! じゃあ、私、準備してくるね。あ、アカリちゃんも準備しててね。アカリちゃんのお部屋に行くから」
そう言って、メイちゃんは再度部屋に戻った。
私も、部屋に戻って、準備をする。そして、控えめなノックの音が聞こえた。
「あ、準備終わったよ、メイちゃん」
「うん、じゃあ、いこ」
部屋を出て、一緒にお風呂へ向かう。
やはり、気を使わせてしまったかもしれないと思い、皆の部屋を透り過ぎた頃に、メイちゃんに話をした。
「あ、その……ごめんね、メイちゃん。私……」
「……ん。でも、私、他の人みたいに上手く言えないけど、その、私、アカリちゃんの先輩だし」
私のせいで、昨日は眠れなかったのではないだろうか。こんなに朝早くに起きているのだから。そんな事を考えるが、メイちゃんは話し続けてくれる。
「その、私は、アカリちゃんの事を聞いて、何も言えないけれど……ここの事なら、沢山教えてあげられるし。私が出来るのは、これくらいだけど」
「……うん。その……ありがとう。メイちゃん」
やはり、私に対して、悩んでいるのだろうか。少し、空元気のようにも感じる。
それでも、避ける訳でもなく、むしろ話しかけてくれる。
「本当は……その……お仕事も教えてあげれると、良いんだけれど……」
「でも、教えてもらってるよ? 昨日とか、資料探しとか」
「うん。……でも、やっぱりそっちだと、ミランダさんやチュンさんの方が、よく知ってるし……。でも、ここの生活の事は、皆が知らない事も、教えてあげられるから」
そして、脱衣所に入り、オンセンに入る。
こうして、毎日、それも好きな時に、お風呂に入れるのも、今でこそである。
「私ね、たまに、朝、こうして入りに来るんだ」
「え? メイちゃんも?」
「うん。でも、この時間だと、ほとんど誰も来ないから、あんまり知ってる人は居ないかも……」
「あれ? でも確か、アンカ室長も……」
「うん。だから知ってるのは、アンカ室長くらいかも。……えっとね、もう少ししたら……あ、ほら、着たみたい」
メイちゃんに言われ、湯煙の向こうを見ると、人影がこちらに来ていた。
「あら、本当に二人居たんですね。おはよう」
「「おはようございます」」
挨拶をして、アンカ室長が浴槽に入ってくる。
「……あのー、本当に……って?」
「ええ、てっきり、ミランダが服を置忘れでもしてるのかとでも……でも、さすがにそれは無い思って、もしかして、メイさんの他に、誰かいるのかしらと思ったの」
どうやら、脱衣所の服を見てからなのだろう。まさか、二人居るとは、最初は思わなかったようである。
「この時間だと、私か、アンカ室長しか、居たことは無いんだよ」
「ええ。……あら、でも……確か前に一度、誰か二人居たことが……」
「あ、それは……多分、私が入る前じゃないでしょうか?」
「…………ああ、そうそう。そうでした。メイさんが来るより前の事ですね。確か……チュンと、……ああ、思い出しました。ワタリ部長。その二人が居たんですよ」
「……え? ミカさん……ですか?」
「ええ。……懐かしいです。まだチュンが、あなた達くらいの頃の事でした」
チュンさんは、私よりも年上なのは、なんとなく分かるが、何歳かは聞いていない。
「あのー、それって、どれぐらいの前の事ですか?」
「そうですね。もうあれから三年は経つんでしょうか」
「……あ、私は、前に聞きましたけど、アカリちゃんは、ミカさんの事、初めて聞くんじゃないですか?」
「……あら? そうだったかしら……。そ、そうかもしれないですね」
ミカさんは、ここの会社の部長だと言っていた事を、思い出す。
「あのね、アカリちゃん。ミカさん、昔はここの室長だったんだって」
「……え!?」
「ええ、その頃、私は主任でしたね。その時の室長が、今のワタリ部長。私も、その頃は”ミカ室長”って呼んでいたんですよ」
初めて聞く事だった。まさか、昔ここで、ミカさんも暮らしていたとは思わなかった。そして、アンカ室長は昔を懐かしんでいるようである。
「そうそう、思い出しました。その後チュンは、寝ちゃったんです。それで私が部屋まで連れて行ったんですよ。少しだけ、と思ったんですけれど。私もすっかり忘れちゃってて……仕事が始まってから、ミランダに言われて気がついたんですよ」
「え……じゃ、じゃあチュンさんはその時……」
「ええ、お部屋でぐっすり寝てました」
食事も終わって、仕事が始まってから気がつかれて、それでもまだ寝ていたという、盛大な寝坊をしてしまったようである。
今の、しっかりとしたチュンさんからは、考えられない。
しかし、こうして、オンセンに居ると、その気持ちは分からなくも無いが、さすがに、そこまではならないと思う。おそらく、だが。
「アカリさんも、チュンみたいな寝坊しないようにしてくださいね」
チュンさんを反面教師にされてしまった。
(大丈夫……たぶん!)
そして、三人でお風呂を出て、一度部屋に戻る。
この時間になると、他にも人が起きてくるようである。
通路で、これから朝御飯の準備であろう、リーゼさんと、プランさんに会った。
リーゼさんは朝から元気が良く、プランさんは少し眠そうだった。
その後に、セリカさんに会った。セリカさんは、これから少し娯楽室に行くと言う。どうやら、ゲームのスコアーは、この時間に越していたりするみたいである。
そして、ユウカさんにも会った。今から、リーゼさんの手伝いをすると言う。
次は、ユウカさんの朝のティータイムにも一緒が出来ると良いな、と思う。
更にその後、夜間巡回の帰りだろう、アリスさんと、マイヤさんにも会った。
少し部屋で休んでから、食事に行き、洗濯等をして、そしてお風呂に入って、就寝するのだろう。そんなアリスさんは既に眠そうで、それをゆさゆさと、マイヤさんが起こしていた。
そうして、私は部屋に戻ってきた。
お風呂ですっきりしたせいなのか、気持ちの良い朝だった。
このまま寝たらさぞ気持ちが良いだろうが、それだと、チュンさんの二の舞になる。
けれども、とても気持ちが良い。きっと今日のこれは、メイちゃんのおかげだと思う。
部屋のシーツとカーテンを取って、籠に入れ、それを持って部屋を出る。
メイちゃんも同じくらいに籠を持って出てきた。
一緒に洗濯室へ行くと、チュンさんが居た。これから、皆のシーツやカーテンやタオル等を、洗ってくれるのだろう。どうやら、お風呂に入らなければ、朝の寝起きは良い様である。
食堂に行くと、既にエレナさんが、ご飯の歌を歌いながら、食事を待ってた。
そうして、皆が食堂に集まってくる。
エレナさんではないが、美味しそうな香りで、朝食が楽しみになる。
そして、皆が集まって、やはり最後にミランダさんがドタバタとやって来る。
ミランダさんの「ぎり?」と言う声で、誰かが「セーフ」と言う。
そうして、ミランダさんが席につくと、この部屋に全員が集まった。
みんなで集まるこの時間。
みんなの顔が見れるこの時間。
それを見渡してから、心の中で、呟く。
(改めて……これから……よろしくお願いします!)
これから、ここで、どんな生活が待っているのか。
私の、この”ブルー”の空間での生活は、まだまだ始まったばかりである。
お読みいただきありがとうございます!
ようやく、これでスタートラインを書き終わった感じです。
この空間と、このメンバーでの日常が、本当の書きたい事なのです。
そしてそれは二部で、また!




