【九日目】 メイの作業
朝食。
ユウカさんが手伝いをしてくれたからなのか、プランさんが、居たからなのか。
しっかりとした、朝食を食べる。ボリュームは、少し多かった。
朝食を食べながら、少し思う。朝、鏡を見てから、少し、気になっていた。
(私は、普通、なのかな……?)
周りを見ると、いつものメンバーが、賑やかに、食事をしている。
だが、私の事を話した時、その時の人達は、驚いていたように思える。
そして、ユウカさんと、同じ経験をしているとも、言われたはずだ。
朝食が終わり、一度部屋に戻ってから、四階フロアーへ向かう。
仕事の時間。
それが、私がここに居る理由。それは、分かっている、のだが……。
「アカリちゃーん。じゃー次は、メイちゃんとー、この資料持ってってー」
「は、はいぃぃー」
まだ、仕事に慣れていない私は、業務に追われていた。そんな事を、考える余裕は無い。
「じゃあ、これだけですね」
印刷した資料を見ながら、メイちゃんが答えている。
「アカリちゃん、行こ」
「うん」
資料室に向かいながら、まだ、自分が分からない事を、メイちゃんに聞いてみる。
「ねえ、メイちゃん。その資料なんだけど」
「うん、ミランダさんが渡してくれた情報を、印刷したんだよ」
「うん。……で、それって、どういう仕組みなの?」
印刷物は、紙では無い。昔は紙だったと聞いた事はある。
だが、ここでは、この透明な板に印刷される。
「あ、これ? アカリちゃん、これの事、まだちゃんと聞いて無いんだっけ?」「うん。紙じゃないし、それだと、確かに沢山の情報でも、一枚で済むけれど……」
これは透明な板。そこに、文字や画像が印刷される。そして、それがモニターのように見える代物である。そして、拡大や縮小、スライドも可能である。
だから、大量の情報等であれば、何枚も持つ必要は無い。
それは分かる。だが、何回も印刷をしている所を見ているので、今度は、その透明板が、どんどん溜まっていくのではないかと思った。
「どんどん印刷しちゃうと、かさばらないの?」
「え? ううん? これ、使い終わったら、元の場所に戻すんだよ。そうしたらまた、ちゃんと同じように使えるんだ」
「あ、じゃあこれ、何回でも使えるんだ」
「うん。えっと、仕組みは良く分からないんだけど、確か名前は……ええっと、ルミト……印刷…………あ、ごめんなさい。そんな名前だったと思うんだけど……」
正式な名前は忘れたらしい。
だが、ここでは、印刷と言えば、これしか無いようなので、 名前をしっかり覚える、と言う必要は無い模様である。
そして、メイちゃんと資料室に入って、作業を始める。
資料室。まだ、私が慣れていない事に、思い知らされる。
「次は、『アの2058-10-12』だよ」
「……え、えっと、『ア』、は……、えーっと……」
「……アカリちゃん、『ア』は、そっちじゃなくって、えっと、逆の……」
メイちゃんは先輩だった。
まだまだ、慣れていない私に、色々教えてくれつつ、仕事をしている。
「……あった。ご、ごめん、メイちゃん。えと、次は……」
そのような感じで、進んでいく。だから、時間がかかっている事が、分かってくる。だが、それでも、メイちゃんは、しっかりと教えてくれる。
「えと、次は『ニの2047-8-20』」
「ええっと…………あれ? 『ニ』って……」
「あ、『ニ』の所は、こっちの……」
場所が違った。簡単な事は、表記はあるが、詳しい事は、まだ分からない。
(いや、出来れば、そこも表記して欲しいけど……)
そうして、ようやく資料を探し終える頃には、もうすぐお昼を迎えようとしていた。
探した資料を、アンカ室長に渡して、戻りながら、メイちゃんに言う。
「ごめんね……、もうちょっと、私が分かってれば……」
「そんな事は無いよ。私は、初め、もっと分からなかったから。でも、あそこ、やっぱり分かり辛いよね……」
「でも、メイちゃん、ちゃんと分かってるんだよね」
「うーん、今はそうかもしれないけれど……。初めは全然分からなくって、色々迷惑かけちゃったのかも……」
「私も、覚えられるかな……」
「うん、きっと大丈夫だよ。私でも覚えられたんだし」
そう言ってくれるのは、有難いが、まだ、覚えきれる自信は無い。
そして、朝から思っていた事を、少し漏らした。
「ねえ……メイちゃん……」
「なぁに?」
「私って、……普通……なの、かな……?」
「……え?」
ここで、皆もそうだったのか、私も、皆と同じなのか。ただ、それだけだった。
そう、聞くまでは。
「……うーん。アカリちゃんは、うん」
「……?」
「きっと、すごく物覚えが良いほうだと思うよ。……私は、そうでも無かったし……」
「でも、皆に迷惑かけちゃってるし……」
「そんな事、無いよ。……私は、もっと……」
メイちゃんは、控えめな子だと思う。そして、ここのメンバーの中でも、まだ、皆よりは、年月が浅いのかもしれない。だから、そう言うのだろうと、私は、思っていた。
お昼を終え、仕事に戻り、今日の業務がようやく終わる頃、私は、またもヘトヘトになっていた。
「お、お疲れ様ですぅー……」
「んー、お疲れー。うんー、問題ないかなー? どー? セリカっちー?」
「ええ、問題ないわ。アンカに送っておくわ。でも、アカリ、まだまだね」
資料を確認しながら、セリカさんに叱咤される。
「ま、時間がかかるのは、まだ、しょうがないわね」
「そうかねー? 早いと思うけどねー」
「ええ。でも、まだまだよ」
「はぅー、がんばりますぅー……」
ものすごいスピードで、作業をする、この二人から見ると、まだまだ遅い、と言う事だろう。
そんな所に、メイちゃんも、作業が終わったのであろう、ミランダさんに報告する。
「……あ、あの。こちらも、入れました」
「んー。……ありゃー。メイちゃん、ちょっと、間違ってるわー」
「……え? ど、どこですか?」
「んー、最後の方だねー」
「す、すみません。な、直します……」
どうやら、メイちゃんの作業は、ミスがあったようだ。
そして、メイちゃんは、修正の作業だろう、端末に、再度、向かって作業する。
「メイも……そうね。残念だけど、……まだまだ、ね」
セリカさんが、そんなメイちゃんを見ながら小声で言う。
メイちゃんは、自分でも、まだまだ、だと言っていた。
私は、そんなメイちゃんを見ながら、日報に移る。
ミランダさんとセリカさんは、そちらの作業待ちのようだった。
「あー、アカリちゃん、日報終わったねー」
「あ、はい」
「んじゃー、お疲れー」
「お疲れ。アカリ」
二人は、メイちゃんの、今行っている作業だろう、それを待っている。
ユウカさんや、エレナさんは既は、既に終わった様子で、先に部屋を出て行っていた。
そして、私も部屋を挨拶をしつつ、部屋を出て行く。
出て行く時に、メイちゃんを見ると、挨拶を返してくれつつも、作業を続けていた。
部屋に戻ってから、今日の作業を振り返る。
セリカさんからは、まだまだと言われた。実際その通りだろう。
今日は、ミスこそ無かったが、まだ遅いのも事実である。
そして、メイちゃんの事を思う。
(メイちゃんは、ここに入って、一年くらい、だったっけ)
私はまだ、一ヶ月も経っていない。今日の資料探しでも、メイちゃんに教えてもらえなければ、どんなに、時間がかかったのか分からない。
そんな事を考えていると、時間が過ぎていった。
気がついた時は、《16:30》を過ぎた頃だった。
(……あ、お掃除しないと)
そう考えて、私は部屋を出た。




