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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
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【初日】 初めての掃除

 食堂を出て、チュンさんと、ミランダさんと一緒に、通路を歩きつつ、私は嘆いた。


「……結局、他の方たちは、来られませんでしたね……」


 それを聞いて、チュンさんも少し考え込んで言う。


「ん、そうだな。……少し様子を見てこようか。ミランダ、先に掃除を始めておいてくれ」


 チュンさんは、四階へ行こうとするが、ミランダさんがチュンさんを抑制する。


「うーん、……よしたほうが良さそうだよー。さっき確認したら、手を離せる状態じゃなさそう……」


 ”さっき確認した”とは、いつの間にそんな事をやっていたのだろうか。不思議に思うが、チュンさんは納得したようで先を続ける。


「そうか。……そこまで大きかったか?」

「んー。大きいと言うかー? なーんか、しつこかったみたいだねー。でも、そっちはもう終わってるっぽいねー。後は収集して終わりかなー」


「……そうか。それなら、私たちは掃除に移るとするか」


 何やら、チュンさんも納得したようである。


「……あの、業務がまだ長引いているんですか?」

「まぁ、そのようだ。ただ、もう戻ってくるみたいだ。皆ももう上がれるだろう?」


 チュンさんはそう答えながら、ミランダさんに聞いているようだ。


「んー。そんな感じー」

「あの……、お手伝いすることは、出来ないんですか?」


 私は聞いてみた。私に出来る事があれば、であるが。


「いや、もう後は事後処理だけのようだ。そうなんだろ?」


 チュンさんは、またも、ミランダさんに聞いているようだ。


「うんー。そうだねー。でもー、これじゃ、アカリちゃんに他のメンバーを紹介できるのはー、明日になりそうだねー」


 私は、仕事の事を気にしていたのだが、ミランダさんは、私とメンバーの顔合わせの事を気にしているみたいだった。だが、私には、どちらもやらなければいけない事だ。


「今日は、テラスと、通路だったよな」

「うんー。じゃあ私とアカリちゃんで通路、チュンはテラスでいい?」

「ああ、そうしよう」


 私は、一瞬そのやり取りについていけなかった。後から、あ、掃除の場所か、と気が付く。


「あー、テラスはどっちのだっけー? 書いてないよー?」

「また、か。今日は、確か、小テラスのほうだったはずだ」


(掃除場所の事だろうけれど……テラスが、どっち……?)


 そして、思い出す。確か、アンカ室長が、その日の場所の割り振りをしていると言っていた。


(テラスが、いくつかあるのかな……?)


 メイちゃんは、どこのテラスを言っていたのだろうか。だが、それは、今後の楽しみにしておくことにした。

 とりあえず、今日の私は、この迷路のような通路を掃除することになったようだ。


「通路も、広そうですね……」

「そうなんだよねー。まぁ二階の案内がてらに、ちゃちゃっとやっちゃいますかー」


 そう言いながら、二人が歩いていくほうに私はついていく。先程食堂に来るときに曲がった少し先のドアの前で二人は止まる。


「アカリちゃん、ここは掃除用具室だよー。ここは基本的に、毎日使うところになるから覚えておいてねー」


 そう言われて、はっと思って、メモ帳を取り出して書こうとする。食堂に来るまではメモを取っていた。

 しかし、調理場では、一切メモをしなかった。それに、二階は広すぎて、どう書けば良いか、上手くまとめられない。その為、私は、食堂からの簡単な地図みたいにして、ここの場所をメモした。


(とりあえず、分からなくならなければ、いいかな……)


 それを、チュンさんが見ながら言う。


「ああ、アカリさん、ちゃんとメモ取ってたんだ」

「そうそう、こまめにねー」


 ミランダさんは、掃除用具室に入りながら、チュンさんに説明してくれる。


「……いえ、そうしてないと、忘れちゃったら困っちゃいますし……」


 昔、アルバイトをしていた時、教えられた事を忘れてしまって、凡ミスをした事があった。その時の教訓から、今度の職場では、ちゃんとメモを取ることにしていた。


「……いや、良いことだと思う。とにかく、教えられた事を忘れないようにするのは、どんな手法でもいいから、やっておいて、……損は、ないはず、だ。明日からの仕事でも、続けると、いい……」


 そう言ってチュンさんも部屋に入る。だが、どこか、そう、逡巡してるようにも聞こえなくない。まぁ、続けていいと言われるのなら、続けよう、と考える。


 そして、二人が入っていった掃除用具室に私も入った。そこは広くはない。掃除用具だけの部屋だと思うと、広い部類なのだろうが、他が広すぎて、少し感覚が麻痺してしまっているようだ。

 そこには、必要な道具が、きっちりと納まっている。部屋の隅には、ちょっとした流し場もついていた。

 ミランダさんは、掃除機だと思う物を、二本両手で持ってくる。


「はい、これ」


 そう言って、一つ渡してくれた。それから、チュンさんが、小さな掃除用具をいくつか、私とミランダさんに配ってくれた。

 通路掃除用具は、掃除機と、叩き、小さな袋、後粘着式のゴミ取りテープ。ミランダさんは、それら掃除用具を片手で持って言う。


「じゃあ、先にやってるねー」

「うむ」


 チュンさんは答えながら、自分の掃除用具を用意しているようだ。テラスは、また別の掃除用具を使うのかもしれない。


「じゃあ、こっちからねー」


 そう言って、ミランダさんは先程通ってきた、通路を戻っていき、十字路で止まる。左に行けばメイちゃんの居る食堂だ。


「アカリちゃん、これの使い方とかは、分かる?」


 私が、おそらくこれは掃除機、と考えていた物の事だ。しかし、掃除機自体は使えるが、このような物は見た事がない。


「掃除機、ですよね。えと多分、大丈夫だと思うんですけれど、スイッチは……」

「あ、それは、ここをこうやって」


 説明されると、簡単に使えそうであった。私が思ったとおり、これは掃除機のようで、型式が見た事無いだけであり、用途は同じのようだ。


「で、窓のところとか、プランターの台座とかはー、これで、ホコリを取って、その後、その辺を掃除機かけてってねー。それで、掃除機かけても、取れなかったゴミとかは、こっちでとって、後、あんまり無いけど、大き目のゴミがあったら、袋にいれといてねー。えーと、じゃあ、まずはあっちの通路は、一緒にやってみますかー」


 それは、食堂のほうの通路だった。

 私も、二度通った通路ではある。


(綺麗にされてるなぁ……)


 食堂の前に着てから、掃除を開始する。食堂前のドアの両脇には、プランターが置いてあった。

 まずは、そこの台座を叩きでホコリを取るようにするが、綺麗なものでる。

 ちゃんと、定期的にこうしているだけでも、綺麗なのだろう。


 その後は、掃除機を二人でかけていく。それは、ほとんど音が出ない掃除機だった。

 隅々から、掃除機をかけて、通路を逆戻りしていく。

 特に他の用具を使う事も無く、あっという間に十字路に戻ってきた。

 元が綺麗なものだったから、早いのかもしれない。

 十字路で、ちょっとだけ小さなゴミが、掃除機でも取れていなかったので、粘着式の道具でそれを取る。そしてもう一度掃除機をかける。

 それが終わると、ミランダさんが言う。


「んじゃー、今度はアカリちゃんは、あっちの端っこから、おんなじ要領でお願いねー。私、こっちの通路やってくるからー」


 そして、今とは別の通路を掃除する。まずは端まで行き、窓を軽く叩いてから、掃除機をかけていく。


(ここは、何の部屋だろう……?)


 ふと、そう思い、ドアを見るが、何も書いて無いので、どんな部屋なのか分からなかった。

 私は、そのまま掃除機をかけて、十字路に戻ってくると、ミランダさんも、もうそこまで来ていた。

 その後は、ミランダさんと二人で通路を掃除していく。そこで、作業をしながらミランダさんに聞く。


「あの、……先程の通路のところは、何があったんですか?」

「あー、うん。アカリちゃんがやってくれてた所はねー、まぁ普段使わない部屋があるだけだよー。私がやってた通路のところは、奥に大テラスがあってねー。あ、あとお風呂とかもそこだからー。後で一緒に行こうねー。むふふー」


(ふむ、テラスやお風呂などは、先程のところにあるんだ。……”むふふ”の意味は分からないけど)


 私は返事をした後、作業を続けながら進む。そして道順を少し思い出す。


(…確か、私の部屋は、もっとエレベーターの近くにあったはず……)


 先程の掃除用具室を過ぎ、角をまがって少し進むと、また十字路がある。途中、モニター室、と書かれていた部屋を見た。ここに来た時に、チュンさんがそんな部屋もある、と言っていたのを思い出す。中も見てみたかったが、とりあえず、今は掃除に集中する。


 掃除をしながら、進んだ先の十字路に着いた。確か、記憶通りなら、ここを左に進むと、エレベーターと階段がある所のはずだ。そして私の部屋は、確か入ってきた時に、左に曲がったから、多分ここの先のはずだ。

 そして、ミランダさんが言う。


「じゃあ、ここの右側からは、私がやってくからー。あ、アカリちゃん、自分の部屋は、教えて貰ってるんだよねー。12番だったけ?」

「あ、はい。鍵に”12”って、書いてありました」

「えっとー、こっちの奥は、空き部屋とか、あと皆で使える部屋があるんだけどー。こっちは最近は、あんまり使わないからなー。あ、アカリちゃんの部屋は、この通路の右側で、奥から二番目だよー」


 私は、自分の部屋を教えてもらえて、ほっとする。そして、ミランダさんは説明を続ける。


「それでねー。この先は、皆の部屋がほとんどだねー。で、一番奥はテラスになってるよー。あ、さっき言ってた、小っちゃいほうのテラスねー。多分、まだチュンが掃除してるよー」


(ああ、なるほど……)


 先程掃除用具を取りに行った後は、チュンさんを見ていない。こちら側に来たからなのか、と納得する。


「じゃあー、テラスの所から、よろしくねー」


 ミランダさんはそう言って、十字路を右に行く。私も、掃除をするために直進する。

 奥につくと、確かに、そこにテラスに出れると思われる、ガラス張りのドアがあるのが見えた。

 そして、そこからテラスが見える。

 初めに来た時も、少し見えてはいたのだが、その時は緊張していた事や、自分の部屋に感嘆していた事もあって、こちら側は、しっかりとは見ていなかった。


 見ると、暗くてよくは見えないが、小さいと言われてたわりに、それなりに広そうにも見える。そして、人影がこちらに来ているようだ。

 それは、掃除を終えたのであろう、チュンさんが、こちらに来ていた影だった。

 ドアを開けて入ってきて、チュンさんが言う。


「ああ、アカリさん。今、ここか。こちらは終わったよ」

「はい、こちらは、後、ここの通路と、……後、多分、エレベーター付近で終わりだと思います。……あの、ここが、小テラスなんですね」


 まだ、通路もよく覚えていないので、多分、と付ける。


「うん、そうだよ。大テラスに比べると狭いんだけど、どちらかと言うと、こちらのほうがよく使われるしな。ま、部屋が近い為だろう。メイは、よくここに居るな。私も、時々ここにいるよ」

「いえ、でも、これでも、結構広そうですけど……」


 暗くて、よくは見えないが、先もあまり見えない。しかし、狭そうにも見えない。


「うん、まぁ確かにな。小テラスは、個人個人でお茶をしたりするのに使っているな。アカリさんも、自由に使って良いよ。あと、大テラスは、皆で外で食事をする時なんかに使うんだ。そこも自由に使って良いんだが、そっちはまだ見ていないのか?」

「はい。そちら側の通路は、ミランダさんがやってくれていましたし」

「ああ、なるほど。あー、確かに。そうかもな」


 チュンさんは納得している。


「おっと、引き止めて悪かった。まだ、掃除の途中だったな。私は、掃除用具を戻したら、一旦他のメンバーを見てくるよ。やはり気になるし……」


 まだ、他のメンバーは仕事中なのだろうか。私は、掃除中、誰も見ていない。

 チュンさんは、「じゃあ後は頼む。」と言い、行ってしまった。


 テラスをもう一度見る。やはり、暗くてよく見えない。

 そこには、ガラスに反射した自分が見える。だが、少しだけ、海が見えたような気がした。

 明るくなったら、もう一度ここに来よう。そんなことを思いながら、掃除に戻る。


 私達の部屋だという、扉の前の通路を掃除していく。

 ここには、プランター等は無かったので、スムーズに作業は進んだ。

 十字路の所まで掃除をし終えると、ミランダさんが、エレベーター付近で掃除をしているのが見えた。

 ミランダさんが、掃除していた通路は、先に扉が見えて、私がやっていた通路よりは、短いようである。

 私は、チュンさんと話をしたり、テラスに見とれていたりしたので、少し遅くなってしまったようだった。

 私は、急いでミランダさんの所へ行く。


「すみません、こちら終わりました」


 ミランダさんは、掃除をしながら答える。


「あー、うん、こっちももう少しで終わるよー。あ、エレベーター周りのほうお願いねー」

「はい!」


 そして掃除に移る。

 エレベーターと、階段付近は、少し空間が広がっているので、ちょっと掃除に時間がかかる。

 掃除をしながら、ミランダさんが言う。


「ああー、そうだ、さっき、他のメンバーと会ったよー」

「……え?」


 いつの間に、と思ったが、その時間はあるくらいは、私はテラス入り口付近で時間を食っていた。


「ようやく終わったってさー。チュンは皆についてったよー。いやー、今日はしつこかったねー。困ったもんだねー」


 何という間の悪さだろうか。またもや、私は他のメンバーと会えないでいた。


(で、しつこいって何がだろう?)


「いやー、でも、まー、ちゃんと終われそうで良かったよー。っと、こっち終わったよー」

「あ、はい! こちらももう終わります」


 掃除のほうも、これで終わりのようだ。

 掃除を終え、私とミランダさんは、掃除用具を片付けに行く。私も、少しここの間取りも分かってきた。


(十字路を右に曲がって、その先の角を左に曲がって、その奥の方に掃除用具室、……と)


 どうやら、ここは、この城の、ちょうど真ん中辺りにあるようだ。

 先程、私が書いたメモの方が、見ると分からなくなりそうだ。


 場所などは、こうして、何度か行き来して覚えるのが、一番かもしれない、と私は思った。



お読みいただき有難うございますm(__)m


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