【六日目】 ミランダの本気、アカリの作業
四階フロアーに戻ると、そこには、二人しか居ない。
ユウカさんと、エレナさん。
他二人は巡回、二人は下で、もう二人は、夜のため就寝。だから、通常時、この時間くらいは、普段はみんなで、五人。そのうち、私と、セリカさんと、ミランダさんが、抜けていたので、この広いフロアーに二人しか居ない状況になる。
フロアーに戻ると、二人は黙々と作業をしていたが、私と、ミランダさんが入ってから、エレナさんが聞いてくる。
「ねぇー、なんだったのー?」
「後で、教えてもらえるでしょ。エレナ、あなた作業は?」
「あぅー、まだ………………」
エレナさんは、作業に戻る。
ユウカさんは、既に察しているようだ。こちらを見て、少し笑いかけてくれた。
私も、少し笑い返して、席に戻る。
隣に座った、ミランダさんが言う。
「よーし、じゃー、お仕事しますかー。んでー、…………んー、なるほどねー。ねー、ユウカちんー、過去の情報、出てきたー?」
「はい、何件か。似たようなのは多いですね」
「んー、じゃー、今回は、事後処理は、そこまでなのかねー」
「そうですね。あ、出てきたのは、随時送ってますよ」
「んー、今、見てるー。エレナちーん、サイズの履歴まだー?」
「あぅー、……もうちょっとー……」
「んじゃー、こっちはー、それ以外の資料作成から、やっちゃいますかー」
お仕事の事だろう。けれど、まだ私には、誰が何をやっているのか、具体的には分からない。
「と言うわけでー、アカリちゃんー」
「は、はい!」
「これからー、ばんばん、情報流すからー、前の要領で、ばんばん、書き換えていってー」
「……う、は、はい!」
前の、あの作業が、来るみたいである。
(ど、どれくらい来るんだろう…………)
そして、情報が送られてくる。
(い、……いっぱい。………………ひ、ひえぇーーー!)
宣言通り、ばんばん、情報が流されてくる。四苦八苦しながら私は、それこなしていく。この作業は、ここに来て、今の私が出来る、唯一の作業、なのかもしれない。
(ええっと、番号を日付に合わせて書き換えて、……で、……キーワード、……これをっと……)
終わった、と思ったら、また次が来る。何度か、練習もさせてもらえていたので、前よりは、多少早く、作業ができる。
だが、やはり量が前とは違う。
多い。
しかし、私でも、何とか出来る事であった。
そして、一区切りがついたのか、情報はそこで止まった。
「おー、やるねー。アカリちゃん、それ、キーワード終わったら、休憩していいよー」
作業をし続けながら、ミランダさんが言ってくれる。
私も、言われた所まで、少し後に終了出来た。
出来た資料をミランダさんに渡して、ふーっと一息つく。
「んー、おっけー。間違えも、無いねー」
ユウカさんも、ちょうど一区切り、着いたようである。
カップを持って、私とミランダさんの、後ろに来る。
エレナさんは、まだ、作業中のようだ。
「アカリも、お茶、淹れてきたら? あら、ミランダさん、それ、もう、終わりそうなんですか?」
仕事の話を始めたのか。とりあえず、私も、お茶を淹れてくる。戻ってきた時に、ユウカさんが言っていた。
「……え? …………そ、それ全部、流したんですか…………?」
「んー、そう。お昼くらいまで、かかると思ったんだけどねー」
「あのー、どうしたんですか……?」
「あ、アカリ、あなたこれ、あなたがやったのよね……?」
(え? ま、間違えでもしてたかな…………)
そして、ミランダさんのモニターを見る。先程、私がやった物。
それが、一部分だけれど、何やら、資料の中に入っているようだった。
「んー、そうだよねー。アカリちゃん。間違えも無いよー?」
「え? え? も、もう終わっちゃうじゃないですか。……え? 本当に……?」
何か、ユウカさんは驚いている。
「んー、…………あーそっかー。思い出してきたわー」
少し考えていた、ミランダさんが言い始める。
「確かー、ユウカちん、これ最初ー、苦労してたっけー?」
「え、ええ、…………慣れるまで、ずいぶん、かかりましたよ…………?」
そして、私を見られる。
「………………あなたも、…………………………なの?」
「え?」
「…………あなたも、…………ミランダさんの、…………同類なのね…………本当に」
少し呆れているようで、感心しているようでもある。
「えーっと、……どういう事ですか?」
「私、……これ、出来るようになるまで、……結構、かかったんだけれど……」
「んー、おかげで、今日は、早く済みそうだねー」
つまり、私がやらせてもらった作業、ユウカさんの予想より、ずいぶん、早く終えていたようなのである。
ミランダさんは、それに、後から気がついたようである。
「でもさー、ユウカちんはー、巡回の時とか、早かったじゃんー」
「あ、あれは、…………うーん…………」
今度は巡回業務の事だろう。だが、そちらはまだ、私はやっていない。見ただけである。
「あのー、ユウカさんは、巡回業務、得意なんですか?」
「……そうね、……そうかも……」
「ユウカちん、あれ、早かったねー。覚えるの」
「……私は、車の運転も、出来ていたので……」
「……………………わたしー、………………まだ苦手ー」
ミランダさんは、そちらは、苦手のようだ。
「じゃー、さくさく終わらせちゃおうかねー」
「…………そ、そうですね。………………これなら、早く終われそうだわ」
そうして、また、作業に戻る。作業をしている途中で、セリカさんも戻ってきた。
その後にすぐにお昼の時間になった。
今日のお昼当番は、セリカさんとアンカ室長のようだった。リーゼさんとプランさんが用意してくれていた、お昼ごはんを食べ、お昼の休憩をする。
部屋で少し、メモ帳に書き込んで、それから、少し早めに四階フロアーに戻る。
戻ると、セリカさんが作業をしていた。
そのセリカさんに呼ばれた。
「ねえ、アカリ、ちょっと良い?」
「あ、はい」
そしてセリカさんの席に行く。相変わらず、大量のモニター。その中の一つに、分かる物があった。
午前にやった、あの、私がやった、作業が付いている、資料。
多分、ミランダさんがまとめて、セリカさんに、送ったのだろう。
「ねえ、これ、これって、もしかして、あなたがやったの?」
「え、いえ。資料はミランダさんが、……多分」
だが、その手伝いはやっている。
「そうなの? あら。ずいぶん早いわね……」
「あのー、……間違えとか、……ありましたか?」
「いいえ? 問題ないわ。って、やっぱり、あなたも手伝ったんじゃないの?」
「ええと、お手伝いで、……あ、これです。これは、やらせてもらいましたけど……」
「……これ、……さっき、やったのよね?」
「はい、そうですけど……」
その資料を確認しながら、少し目をパチクリさせてから、セリカさんが言う。
「……………………早いわね……………………」
驚いているのか、褒めてくれているのか。まぁ、悪い気はしない。
「……ま、いいわ。じゃあ私お昼行くわね」
そう言って、セリカさんは席を後にした。
セリカさんのモニターを、もう一度見る。資料自体は、多分、ミランダさんが、作成したのだろう。その資料に、載っている物。私が、やらせてもらった事が、入っている。
そのすぐ後に、エレナさんが戻って来て、なんと、そのエレナさんと一緒に、ミランダさんも戻ってきた。
(これまでだと、……ぎり、で来るんだけれど……)
そのまま、午後の作業に入った。まだ、時間は、午後の仕事の時間では、無い。その時間ぐらいで、ユウカさんが、入ってきながら言う。
「あら、……ミランダさん、早いですね。……もう作業してるんですか?」
「うんーー。今日はーー、奮発ーーー」
そして、言葉を繋げる。
「アッカリちゃーん、送っといたー」
「え、あ、はい!」
そうして、私も作業に移る。
先ほどと同じような作業、なのだが、ちょっと違う。
やる事は似ているが、受け取った情報が、少し違った。
その為、前と同じようにやろうとするが、中々、上手くいかない。
(ええっと…………あれ、………………前は、……ここに、…………あれ? あ、こっちに……)
考えながら、作業を進める。その間、ちょくちょく、ミランダさんは、フォローの声を出してくれる。
「あー、アカリちゃん、これは、そっちじゃないよー。あ、そっちー。うん、そこー。書き方は一緒ねー」
やりながら、ふと思う。今、私がやっているこの作業。これは、あの”ひずみ”に関しての資料。
(では、……昨日のあの資料は…………?)
少し、疑問に思うが、今は目の前のこの作業。それに集中しないといけない。
そう考え、作業に集中する。途中で、セリカさんもお昼を終え、戻って来ていた。
そうして、時間が過ぎ、ミランダさんが言った。
「ふいー。これでー、……んー、アカリちゃんの作業も終わりかねー。でー、エレナちんー。まだかなー?」
ユウカさんは、既に終わっていたようだ。苦手だと言っていたが、やはり今では早いのか。
「ひぃーん、……もうちょっとー。…………まってぇーーー……」
作業をしながら、エレナさんが答える。
その後、ユウカさんがミランダさんを見て言う。
「じゃあ、私の分、問題ないですか?」
「んー、おっけー。あと、まわしとくー」
「それじゃあ、私、上がりますね」
「んー、おつかれー」
「あら、早く終わったわね。お疲れ」
少し離れた席の、セリカさんも、作業を続けながら言う。
「ひぃーーん、おつかれぇーーー!」
(エレナさん、……大変そう……)
そんなエレナさんに、ユウカさんが、去り間際に言っていた。
「……エレナ、ガンバ!」
「ひぇーん、もう少しぃーーー」
恐らく、そこまで作業を進めている、エレナさんの作業は、多分、手伝えなのであろう……。
そういう訳で、ミランダさんはエレナさんの作業待ち、という事になったみたいだ。
私も終わっているようなので、作業自体は終わっている。だが、疑問に思う事もあったので、ミランダさんに質問する。
「あの、ミランダさん、今、みんながやっている作業、なんですけど……」
「んー?」
「どういう割り振りなんですか……?」
「あー、うん。えーっとねー……」
そして、ミランダさんが考え始める。だが、セリカさんも作業に区切りが着いたのか、こちらに来ながらそれに答える。
「ああ、今日やっているのは、ほら、昨日”ひずみ”が起きたでしょう?あれの、事後の報告書。あと資料作成ね」
「んー、そうそう。でー、今ー、私とアカリちゃんでやってたのがー、その資料の一部ねー」
「ええ、報告書は、ミランダと、……あとメイが帰ってきたら、巡回報告書。それから、皆の報告書もあるわ。そちらは、もう、みんな終わっている」
皆の報告書。多分それはあれだ。”ひずみ”が起きたときに、どう、感じたのか、と言う、報告書。
「で、今は、事後の資料作成。昨日の”ひずみ”が、これまでの”ひずみ”と比べて、どうなのか。似た事例があったのか、場所は、規模は、時間は、発生時刻は。”ひずみ”自体に、他に変わった事は無かったか。ま、他にも、色々あるけれど、基本はそういう事ね。」
「でー、アカリちゃんがやってくれてたのがー、これまでの似た事例のー、資料の整理とかだねー」
「ええ、そういう事ね。他に、キーワード。ま、後で簡単に検索できるようにね」
「じゃあ、他のことは……?」
「巡回によって変わるけれど、今日は、過去の事例と、時間に関しては、ユウカが、昨日と今日でやってくれたわ。それから、ミランダが、その資料の作成、まとめ。発生時刻は、みんな分かっているけれど、ま、確認は必要ね。私は、その資料確認や修正をしているわ」
「ええっと、じゃあ、今エレナさんがやっているのが……」
「規模、それと位置ね。これまでの事例の資料と照らし合わせて、似た規模や位置の物を、まとめたり、探したり。ま、ある程度は、先にユウカが、ピックアップしてくれてるのだけど…………」
そう言って、エレナさんを見る。エレナさんは未だ必死にやっている。
「……エレナ、苦手みたいなのよ。………………事務作業」
(なるほど………………)
「巡回は、すごいんだけどねー…………」
私の頭の中でメモされる。
(エレナさんは、事務作業が苦手…………)
ここの作業が分かってきた。ここの作業では、大きく分ければ、巡回作業と事務作業の二つ。
事務作業は、資料作成や、報告書。巡回作業はよくわからないけれど。
「み、みなさん、……その、どちらが得意とか、……あるんですか?」
「そりゃあね。あるわよ、もちろん」
「私はー、資料は得意だけどー、巡回は、苦手ー……」
「私はどちらも出来るけど。……でも、巡回は、問題はあるかしら、ね」
「セリカっちはねー……」
「そういう意味では、今では、ユウカは、どちらもバランスが良いわ」
「ユウカちん、最初は資料苦手だったんだっけー」
「…………………………ええ、……ひどい、……物だったわ」
「い、意外です…………」
「で、エレナは、巡回は上手いんだけどね。特に”ひずみ”の発生時なんて、誰も付いていけないもの。けど、……………………資料に関しては、…………………………あれよ」
ひぃーん、と言いながら、作業をしているエレナさん。
(なんか、…………うん。………………分かる)
「えーっと、ちなみに、……他の方たちは?」
「チュンってー、確か巡回のほうが良いって、言ってたよー?」
「メイは、…………ま、残念ね。まだどちらもまだまだ、って所ね」
今巡回に行っている二人。まだ、戻ってこない。
じゃあ、下の二人は、……と思った所で、エレナさんが声を上げる。
「お、終わったよぉーー! ミランダさーん」
「おー、出来たねー。んー、んー……ん。出来たよー、セリカっちー」
「確認するわ」
そうして、セリカさんも席に戻る。それと同時くらいで、巡回の二人も戻ってきた。
「ん、おつかれ」
「……お、おつかれさまですぅー……」
メイちゃん、ちょっと疲れ気味。チュンさんは、慣れているのか、疲れを感じさせない。
「おつかれー、二人ともー」
「おつかれさまぁー…………」
エレナさんも疲れている様子。
「お疲れ様。ああ、ミランダ、問題ないわ。アンカに送っておくわ」
「おーし! じゃー終わりだー!」
「ん? もう終わったのか?」
「……は、早いですねぇー……」
「んー。今日は奮発したからねー」
「……じゃぁー、私もー、……上がるねぇー……」
お疲れ気味のエレナさん。のそのそと、席を立つ。
「おつかれぇー、お先ー」
「お疲れ様ですー」
「お疲れ。それじゃ、メイ、こっちも報告書だ」
ああ、これからこの二人は報告書の作成なんだ。大変だとは思うが、手伝いたくても手伝えない。
「じゃー、こっちも上がろっかー。アカリちゃん」
「あ、はい」
「んじゃー、おっさきー」
「お、お疲れ様です。お先です」
「「「お疲れ様」」」
残った皆に言われて、ミランダさんと、四階フロアーを後にした。
お読みいただき、ありがとうございます。
だんだん、アカリが、チート能力発揮して言っているようになって来ました……




