【五日目】 決断
そのまま、私とミランダさんは食堂へ向かった。
食堂には、プランさんとメイちゃんが居た。
「……あ、お疲れ様ですー」
二人とも、待ってくれていたのだろうか。
「おつかれー。みんなはー?」
「……あ、すみません、もう先に」
「んー、じゃーこっちも食べようかー。あー、プランさんはー?」
プランさんはコクコクと頷いて、5人分の食事を用意してくれていた。
(あれ? 5人分。……あと、……誰だろ?)
どうやら、プランさんも私達と一緒に食事を取るみたいだ。
(で、メイちゃん、私、ミランダさんなので…………)
私が、そう考えていた所に、真後ろから声がかかる。
「お疲れ様」
「きゃっ!」
見ると、アンカ室長だった。
「…………あ、……アンカ室長、………………あ……あ、……お、お疲れ様です」
前に、同じような目に、チュンさんが遭っていたはずだ。
「お疲れさまー、室長ー。真後ろで、いきなり、声かけんほうがいいよー?」
(…………うん。…………ちょっとびっくりした)
メイちゃんは、プランさんの食事の準備を、手伝っていた。ミランダさんは、気付いていたようなのだが。
「あ、あら。ごめんなさい、アカリさん」
「…………いえ」
前に、チュンさんが、驚いていた時の事を思い出す。今の私と、同じ思いをしたのだろうか。
「さ、食事にしましょうか」
準備も整い、アンカ室長の挨拶で、食事が始まる。残念だが、今日の晩御飯は、この5人だけだった。
(”ひずみ”が起きると、こうなっちゃうんだなぁ…………)
そんな事を思いながら、食事をしていた。そして、ふと気がつく。
(あれ? じゃあ今日は、…………朝は、お手伝いしたけれど、………昼も、……うーん分からないけれど、夜も…………?)
ちょっと疑問に思ったので、食後に、プランさんに聞いてみた。聞いてみたら、夜、食事のお手伝いをしてくれたのは、セリカさんだと答えてくれた。
(あれ? ……セリカさん。……大丈夫だったのかな……)
セリカさんは、とても辛そうだったので、あれ以降、まだ、寝ているものだと考えていた。
[アカリちゃん、気付いたと思うけれど]
「はい……?」
[リさんは、几帳面だから、どうしても時間がかかるの]
(確かに……)
[だから、手伝ってもらえる時だけで、良いの]
(ふむ……?)
つまり、手が開いていれば、出来れば手伝ってくれればいいな、程度、という事なのだろう。
そうすれば、単純に準備が早くなる、という所か。
(でも、……もう少し、……ざくっとでも、ちゃんと出来ると思うけれど。まぁ、リーゼさんの性格かな)
そして、もう一つ教えてくれた。
[掃除は、もう終わっているから。アカリちゃんは今日は大丈夫よ。]
そう答えてくれた。
食後の整理も終え、一度部屋に戻り、お風呂に向かう。今日はそのまま、その五人で、お風呂に向かう事になった。
他のみんなとは、何度か既に一緒に行っていた。だが、アンカ室長とは初めてだった。
部屋を出る時に、見た時間は、もう、《21:00》になろうとしていた。
脱衣所では、アンカ室長は、手馴れた感じで、ミランダさんに言っていた。
「ほら、ミランダ、服は畳んでおきない」
そんな事を言う、アンカ室長が、持っていた。
(…………お風呂セット、の中に、………………あ、アヒルさん。………………あ、あれで遊ぶのかな。……ここで、……みんな居るのに…………)
浴室に入り、見ると、アンカ室長の側には、ぷかぷかと、アヒルさんが浮いている。
「今日はみんな、お疲れ様でした」
ぷかぷか。
「んー、まーしゃーないよー。あー、そういやさー室長ー。夜間はもう出てるんだよねー」
「ええ、もう出ていますよ」
ぷかぷか。
「今日も、マイヤちゃんなわけー?」
「ええ、そうですけれど。あら? 言いませんでしたか?」
「……アンカ室長。…………何の事ですか?」
見ると、みんなゆったりしているが、プランさんが、そのアヒルさんを、ぷかぷか、ゆらゆらさせて遊んでいた。
(い、意外!)
「あ、あら? マイヤさんから、直々に、夜間専属になるって。……言いませんでしたっけ?」
「……………………はい?」
「……………………………………え?」
プランさんは、アヒルさんで遊びながら、コクコクと頷いている。
「あ、あら? 言ったと、思ったんですけれど……」
「しつちょぉーー。聞いてない! 言っていないー!」
「…………わ、私も、………………聞いてないです」
これまで、私が来てから、ずっとそうだったので、私は、そうなのだろうと、思っていた。
「ご、ごめんなさい。伝え忘れてたかしら。……今後は、夜間は、基本、アリスさんと、マイヤさんになりますよ?」
「しつちょー、……上のみんなは、知らんのじゃない? それー」
「じゃ、じゃあまた、明日の朝にでも再度みんなに伝えますからっ!」
(………………聞いていない、という事は、言っていない。それは……再度、になるのだろうか……)
「…………まー、でもー。そっかー。マイヤちゃん、そうかもー、って思ってたけどー」
「……い、いつ決まったんですか?」
「確か、……五日前に言われてました。決まったのは、そのすぐ後、ですよ?」
私が来た日。その日なのだろうか。
「あー、まー、それくらいの時はー、バタバタしてたしねー…………」
コクコクと、アヒルさんを手放して、プランさんが頷く。そのアヒルさんを、受け取りつつ、アンカ室長が続ける。
「ええ、なので、今後は夜間は、基本的に当番制は、無くなりますので……」
アヒルさんをぷかぷかしながら、アンカ室長が答える。
内容は、大事な事なのであるはず。
それを、伝え忘れていたらしき、アンカ室長。
そして、アヒルさんを、プカプカしているので、緊張感の欠片も無い。
「ええ、ま、また、ちゃんと伝えますので」
「今度はー、忘れんといてー……」
「お、お願いしますぅー……」
ミランダさんは、アンカ室長を攻めているようで、いつもの事、と言う感じ。この二人、いや、みんな慣れているのだろうか。意外ではあるが、アンカ室長は、結構、こう言った事が、多いのだろうか。
(だ、大丈夫、…………なのかな………………)
それから、みんなでシャワー室に行き、そこでまた、ミランダさんが、アンカ室長に聞いていた。
「室長ー、この時間に入ってもー、やっぱ、また入るんー?」
「ええ、寝る前に」
アンカ室長は、お風呂好き。私の頭の中に、メモをされていた事。しかし、寝る前、とは、何時くらいの事なのか。
「あのー、アンカ室長は、何時くらいに就寝されるんですか?」
「ええ、今日は、そうですね。……少し遅くなるかもしれません。1時くらいには寝れると良いんですけれど」
その前に入る、という事。私の頭の中のメモに、二重丸で囲われる。
”アンカ室長は、大の、お風呂好き”
お風呂を出て、脱衣所で、髪を乾かしたり、支度をする。寝る準備。
やはり、ここでも、ミランダさん、メイちゃんは、ちょっと時間がかかる。そんなミランダさんに言われた。
「アカリちゃーん、もう疲れたっしょー? 先、戻ってていいよー」
先に、支度を終えた、プランさんと、アンカ室長と、一緒に脱衣所を出た。
「……じゃあ、お休みなさい」
「お休みなさい」
「おやすみー」
「お休みなさい……」
まだ、時間的には、そこまで遅くは無い。だが、今日は色々あったおかげで、私ももうお風呂に入ったら、寝てしまいそうだった。
部屋に向かう途中、ちょっとフラっとした。そんな私を、プランさんがそっと背中を押して笑いかけてくれる。
言葉は無いが、多分、こう言っている。
[お部屋まで、少し我慢してね。]
そう、表情から読み取れる。アンカ室長も分かれ間際に言ってくれる。
「アカリさん、今日は色々大変でしたでしょう? 今日は、もう、ゆっくり休んでください」
表情は無いが、声色で、気遣ってくれているのがよく分かる。
「はい、では、お疲れ様でした。お休みなさい……」
「お休み、アカリさん」
優しげな、アンカ室長の声色。そして、コクコク、ニコニコ、とプランさん。
部屋に戻る。
灯りを点けずに、そのままベッドへ直行する。
今日は、色々と疲れた。
そして、色々と聞かされた。
けれど、私は、もう、決めている。
マイヤさんは、直々にアンカ室長に、伝えたのか。
どう言ったのか分からないけれど、自分で、夜間の専属になりたい、と。
(ならば、……私も、……伝えなければ。……話す事は決まっている。宣言する事も決まっている。そして、もう、変わらないだろう。……なら、早いうちに……………………)
大変な日だった。
そんな日でも、変わらなかった。
それならば。
そうして、私は深い眠りに落ちていった。




