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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
61/135

【五日目】 〝ひずみ〟の後


 部屋を出て、室長室に向かった。


 お昼を大分、過ぎていたが、アンカ室長は、まだ仕事をしていた。そして、セリカさんの事を伝える。


「分かりました。では、セリカさんは、今日は、もう、お休みですね……」

「はい。そうだと思います」

「ええ、では、アカリさんも、お疲れ様。お昼、大分過ぎちゃったでしょう?」

「……あ」


 そう言われて、時計を見る。《13:00》は既に過ぎ、もう、《14:00》になろうとしている。

 今までなら、お昼を食べて、休憩して、午後の仕事をしている頃のはず。


「今日は、こんな事になってしまったから、もう、今日は、お話の続きが、出来ないけれど……」

「いえ、まだ、大丈夫ですし」

「…………そう? …………ごめんなさい」


 アンカ室長が、謝る事では無い。


「皆も、もう、区切りがつくと思うから、一度フロアーに戻って下さい。その後に、ちょっと遅くなったけれど、一緒にお昼を」

「あ、分かりました。…………あ、アンカ室長は……?」

「私? そうですね、……今日は、巡回が戻ってくるまでは、無理かもね……」


 今日は、お昼休みは取れない、という事なのだろう。


「あ、じゃあ、お昼は……」

「ええ、先程、プランさんが、携帯食料を持ってきてくれました。彼女達も、昼食を準備している途中だったみたいなので、途中で、簡単な物に切り替えたみたいですよ」


(……ああ、こんな所でも、あの携帯食料が、使われていた……)


「それに、今日はこれが起こってしまったので、少し遅くなるでしょうね。ただ、巡回は、割とスムーズに出来たので、晩御飯は、…………まぁ、ちょっと、遅くなるかもしれませんが……」

「仕方ない、……ですね」


 皆で一緒に取る食事時間。

 ここで、私が、とても好きになっていた、時間でもある。だが、今日は、もしかしたら、初日みたいに、バラバラになってしまうかもしれない、という事だろう。


「では、私は、業務を行いますので……」

「……はい、では、失礼いたします」


 出来る事なら、お昼も取れない、アンカ室長を手伝ってあげたいのだが、多分、まだ出来ない。

 やったとしても、足を引っ張る可能性のほうが高い。そう思いつつ、部屋を出た。


 四階フロアーに戻ると、皆、まだ、作業をしていた。私も、席に戻ろうとするが、今、私が何が出来るのか。


 本来、私の指導員のミランダさんも居ないので、チュンさんに聞いてみた。


「……あの、何か、私がお手伝いできる事はありますか?」

「ん。ああ、うん。そうだな。まあ、もう一旦、区切りがつくから、遅くなったが、昼食後にしよう」

「あぅー、おなかすいたよぉー」

「ええ、もう、休憩したいわね……」


 皆、作業を続けながら、口々に言う。少し、疲れているようだ。


「ん、こっちはいいぞ」


 少し後に、チュンさんが言う。


「私は、残りますから、チュンさんとエレナ、アカリは食事してきて」

「んーっと、もぅ少しー……」


 ユウカさんは、休憩したいと言いつつも、作業を続けるようである。エレナさんも、お腹空いたとは言いつつも、切りのいい所まで、進めているのだろう。


「じゃあ、私とアカリは、先に行って準備しておくよ。多分、あの時間だったから、準備できてないかもしれんし」

「んー、おねがぃー」


(……ああ、それなら、手伝える。食事の準備、くらいなら……)


「あ、私の分、もういいので」

「ん、そうか」


 ユウカさんが言った事に、チュンさんが答える。もう、昼食はいい、と言う事なのか。


「えと……」

「この後だと、もう遅いでしょ? 晩御飯、食べれなくなっちゃうわ」


(なるほど。……確かに。……でも、お昼ご飯も、抜きだなんて……)


「じゃあ、行くか。アカリ。」

「あ、はい。」


 残った二人は、また黙々と作業を続けていた。食堂に向かう途中に、チュンさんに聞いてみる。


「あの、”ひずみ”が起きると……いつもこうなんですか?」

「んー。時間によるが……そうだな。……大体こうなるかな」


 ”ひずみ”

 今日聞いたばかりの事。私が来た、初日で起こっていた事。


(なら……それは……)


「……”ひずみ”って、どれくらいの頻度で、起きるんですか?」

「んー、多い時なら、……月に6、7回くらいか。……無い時は、月に一度も無い時も、あるな。」

「多いと、そんなに……」


 昨日は、とても楽しかった。皆、のんびりしていた。しかし、この”ひずみ”が起きると、この状態になってしまうのか。

 私は、初めて来た、5日前の事を思い出す。


(あの時も、…………いや、あの時は、もしかしたら、もっと……)


 そして、食堂に着く。

 誰も居ない。調理室に行くと、準備は、されていた。初めは、何を作ろうとしていたのか分からないけれど、どうやら、スープと、パン、それだけのようだった。


「今日は、二人も駄目かな……」


 チュンさんの言葉で、気付く。多分、今日、これを準備してくれていた、プランさんと、リーゼさん。

その二人、の事だと思う。


「いや、そうでもないか……」


 食器を確認してから、チュンさんが言う。


「え?」

「多分、自分の分は、持って行ったのかもな。リーゼが」


 私には、何を、どう、確認して、チュンさんがそれが分かったのか、分からない。


「さ、準備するか。エレナも、もう来るだろ」


 そう言われて、食事の準備を始める。そして、それは直ぐに終わる。

 3人分。何かのスープ、あとはパン。


「ああ、メイ、これ作ってくれていたな」


 それから、メイちゃんのジャム。

 そして、エレナさんも来た。


「お腹空いたよぅー……」


 お疲れのようだ。


「そうだな。しかし、食事を取ったら戻らないとな」

「そうだねぇ……」


 チュンさんの挨拶で、三人で食事を始める。昨日とは、打って変わって、違う食事。普段、話をする、エレナさんも、今日は黙々と食事をしていた。パンは、何枚か食べていた。


 食事が済んで、片付けが終わってから、そのまま三人で四階フロアーへ戻った。


「じゃあ、アカリ、これから情報送るから、それやって」


 席に着くと、まだ作業をしていたユウカさんに言われる。


「あ、はい」


 送られた、情報データを見る。前に、やらせてもらった、あの作業。

 作業のやり方は、分かる。練習も、少し出来ていた。しかし、量が多い。前とは、全く違う、多さだった。


「ミランダさんが戻ってきたら、そうね、……見てもらえるとは思うけれど。……今日は、巡回後になるし、何より、”ひずみ”の発生後だし……」

「は、はい」


 そうして、私も作業を始める。ユウカさんは、きっと休憩も、ろくに取れていない。チュンさんや、エレナさんも、自分の作業を行っている。ミランダさんも、メイちゃんも、まだ戻ってこない。

 セリカさんも、今日は、あの様子では、と考える。


 今、ユウカさんに頼まれた、これは、今の私でも何とか作業は出来る。分からない所も、教えてもらえていた。メモ帳にも、ちゃんとメモしてある。そうして、私も、作業に没頭していった。


 皆も黙々と作業をし、私も必死で、作業をしていると、ミランダさんと、メイちゃんが、ようやく戻ってきた。


「…………ふっはぁー、……………………疲れたー」

「…………お、お疲れ様ですー………………」


その二人も、疲れているようだった。時間を見ると、もう、いつの間にか、もうすぐ《17:00》になる。


「お疲れ様。大変だったな」

「おつかれぇー。…………こっちもまだあるよぅー」

「お疲れ様です。あ、資料作成は今アカリが――」


皆も、挨拶しつつ、ユウカさんが、私の事も報告してくれる。


「あー、うん。ちょっと見たよー。済まんねー……」

「あ、いえ、お疲れ様です」


 いつの間に確認したのか、ミランダさんは、席に座りながら言う。アンカ室長にも言われたが、ミランダさんも言う。しかし、ミランダさんも、何も謝る必要など無い。


「あー、助かるわー……」

「……うん、ありがとう、アカリちゃん」


 私は、ユウカさんに言われた通りに、やっていただけだ。皆、大変そうだった。皆、疲れている。


「いや、ねー…………これまでだとねー…………」

「ミランダ、先に報告書」


チュンさんに言われる。


「…………あー、やらんとねー。…………しっかし、…………今日、出なくてもさー…………」

「…………し、仕方ないですよ。そういう事もありますし…………」

「ええ、あ、アカリ、どう? 作業終わりそう?」

「え、あ、すみません! も、もう少し……」


 ミランダさんと、メイちゃんも、席に座って、少し休んでから、作業を始めた。

 私も、ユウカさんに渡された、作業は終わるまで、もう少し、かかりそうだ。皆が黙々と作業を行う。

 おそらく、昼前の”ひずみ”の色々な作業。私の作業も、多分それの一環。

 しばらくして、ようやく、私は言われていた作業を終える。


「あー、アカリちゃん、最初の方、ちょっと間違ってるー……」


 え!? と、一息つこう、とした所に、ミランダさんに言われる。


「え……あれ? えっと……」

「あ、もっと前ー。あー、そこそこー」


 あたふたとしながら、言われた所を見る。


(……あ! こ、これ違う!)


「す、すみません、直ぐ!」

「うんー、よろしくー……」


やはり、ミランダさんも疲れているようだ。いつもより覇気が無い。私も言われた所を修正する。


(……えっと、あ、これ変えると、……あ、こっちも!)


 言われた所を修正すると、他の所も変わってくる。


(こ、こんな時に間違うなんて……)


 そうは思うが、他のみんなも、まだ作業中だ。それに、きっと私より、もっといっぱいやっている。私には、まだ出来ないような事を。

 そして、作業をし直していると、前の席の、ユウカさんが言った。


「……あーっ、やっと終わりましたよー、……ミランダさんー」

「あー、うんー。これってー、やっぱ前にあったのと同じっぽいねー……」

「……ええ、その記録も入れときましたー……」


 お昼も取らずに、頑張っていた、ユウカさん。ようやく、終わったようである。


「ユウカ、……後、報告書と、日報……」

「………………………………………………日報、………………まだでした」


 チュンさんに指摘されていた。報告書とやらは、終わっているのだろう。だが、日報。

 そちらは、私も入ってから、やっていた。あれが、まだ、だったようだ。私もやって思ったけれど、確かに、それ自体は、そんなに難しい事ではない。だが、こんな後だと、忘れてしまう、それも、分かる気もする。


 ユウカさんが、こんな風に、疲れた状態になるのを見るのは、初めてだ。いや、それは、他の皆に対しても。

 ユウカさんは、もう一度モニターを見直し、日報を書いているのだろう。その後姿を、見せてくれている。

 日報を終えたのか、ユウカさんが、立ち上がりながら言う。


「…………ああ、疲れたわ。…………すみませんけど、先、上がりますね…………」

「ああ、お疲れ」

「おつかれぇー」

「……お疲れ様です、ユウカさん」

「んー。おつかれー」

「あ、お疲れ様です」


 そして、ユウカさんは、疲れた表情で、フロアーを出て行った。それもそうだ。私はまだ、お昼ご飯を食べさせて貰えている。だが、ユウカさんは、その間も、ずっと作業をしていたのだ。

 私も、自分の作業に戻る。

 その後、チュンさんが言う。


「さて、と、……私は、アンカ室長に、確認を取ってくる。ミランダ、メイ、展開は?」 

「もちっと、待ってー」

「す、すみません、こちらも、まだ……」

「そうか。エレナ、どうだ?」

「うぅー、もぅ、ちょっとー」

「ん、アカリ、どうだ?」


 順々に確認しているのか、最後に私に、今の作業の事だろう、その事を聞いてくる。


「あ……えと、もう少しで……」

「じゃあ、アカリ、それ終わったら、ミランダに。ミランダ、確認してくれ」

「んー、おっけー」


 ミランダさんが、そう言った後に、エレナさんが報告する。


「あぅー、チュンさーん。終わったよぅー」

「ん? そうか。じゃあ一緒に室長へ渡すか。他は?」

「終わってるよぅー。お腹空いたぁー……」

「そうか。じゃあ、行くか。ミランダ、メイ、アカリ、お先」

「おさきぃー。おつかれぇー」


 そう言って、チュンさんと、エレナさんが出て行く。


「んー、おつかれー」

「「……お疲れ様です」」


 私とメイちゃんは、まだ、作業。

 そして、ミランダさんは、多分、それの確認待ちのようだ。


(けど、やっぱり、作業になると、この人は、早いのだろうか。…………ああ、私、まだ修正終わってないや。…………ううー、………………多いよぉー)


 しばらくして、メイちゃんも終わったようだ。


「……あ、終わりました」

「んー、おっけー。巡回報告書はまとめて渡しとくからー、入れといてー」

「……あ、はい」

「んー、そだよねー。こうなるよねー。……じゃあ、お疲れー」

「……あ、じゃあ、お先に失礼します」

「お疲れ様」


 メイちゃんも、出て行った。


(……も、もう少し、あと少し、…………こ、これで、……う、うん。……今度こそ、……大丈夫……)


「み、ミランダさん」

「んー、おっけー。アカリちゃーん、あと、日報ねー」


(……………………さっき、…………ユウカさんが、忘れていた日報。……………………私も、…………まだ、それがあった。………………ううー…………)


 そして、しばらくし、ようやく私も終わった。


「はぁー、……すみませんー、……遅くなって」

「んー、まー、最初はそんなもんだってー。……まー、でも、今日は、私も疲れたわー……」


 ミランダさんも、やはり、疲れた中、私を待ってくれていたのだろう。申し訳なく思う。


「もー、こんな時間だしねー……」


 ふと、時間を確認する。


(………………え。…………………………もう、7時過ぎてる………………)


「まー、昔に比べりゃー、全然マシだけどねー……」


(昔……?)


「でもー、やっぱ、自分が、巡回の時はー、……やめて欲しいわー……」


 ”ひずみ”の事だろう。


「あのー……」

「んー?」

「ミランダさん、ちょっと聞いたんですけれど……」

「んー」

「ミランダさんも、”ひずみ”が出ると分かるんですか? ……その、なんとなく、と言うか……」

「あー、それ聞いたんだねー。んー、分かるよー。こう、なんか、ざわざわーって感じでねー」

「……その後、…………こう、………………疲れたり、するんですか…………?」

「……あー、そっかー。……セリカっちみたいにって事ねー」


 そう、気になっていた。セリカさんは、そう、疲れるというか、辛くなるというか、あの後、すごくきつそうだった。セリカさんは、ここでは自分だけ、と言ってはいた。


「んー、私はそれは無いねー。ただねー」

「ただ……?」

「私の場合はー、なんかー、その後、こう、感覚が研ぎ澄まされるっていうかー。まー、すぐ収まるけどねー。そういうのは、感じるかなー。」


(感覚が、…………研ぎ澄まされる?)


「まー、他の人も、それっぽい感じは、あるみただけどねー」

「…………それは、…………今も、…………ですか?」

「いやー? すぐ収まるよー。”ひずみ”が収まった少し後にねー」


 よく分かったような、分からないような。しかし、少なくとも、セリカさんのように、辛いと言う訳ではなさそうだ。


(じゃあ、先程、言っていた、……今日……)


「……でも、……お疲れ、なんですよね」

「んー、そだねー。疲れちったー……」


まだ、短い付き合いであるが、こうこう事で、嘘を言う人ではない。それは、なんとなく、分かってきている。


「”ひずみ”が、起きたから、……なんですよね?」

「んー、まー、それもあるねー。だってさー、ほら、アカリちゃんも、少し聞いたっしょー?」

「……え?」

「巡回艇。”ひずみ”が出たらさー、あれ、……自分で操作、せにゃいかんじゃんー……」


(あ、そうだ、確か、リーゼさんにそう聞いた。なんか、車のような感じで。……う、どういう感じなんだろ。け、けれど、意外。そういう操作系は、ミランダさんは確か……)


「……ミランダさん、もしかして、…………巡回艇の操作、…………苦手、なんですか?」

「うんにゃー? そっちは平気ー。…………でもさー、それやる為にはさー、常に見とかにゃいかんじゃんー。………………カメラ」

「……………………あ……」


 その言葉で、私は思い出した。


(確か、ミランダさん、……巡回艇は、……酔っちゃう。………………な、なるほど)


「……んじゃー、上がろっかー」

「……あ、はい」

「おつかれー」

「お疲れ様です。ありがとうございました」



もう、時間は《20:00》になろうとしていた。



お読みいただき、ありがとうございます!


お疲れモードの、みんなです。

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