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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
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【五日目】〝ひずみ〟


 セリカさんが、頭を抑えながら言う。


「……アンカ、二人に連絡…………あと、下にも……」

「ええ! 直ぐに!」

「…………私は、…………上、ね。…………アカリ、……悪いけど、……ちょっと、……手、……貸して……」

「え、あ、は、はい!」


 室長室が、また別の緊張感で包まれ始める。


「あ! で、ですがセリカさん、大丈夫なのですか?」


 連絡をしようとしたのか、席に戻りつつ、アンカ室長が聞く。


「……ええ、多分。……まだ」

「アカリさん、話の途中で済みませんが!」

「は、はい!」


 私も答えて、セリカさんの方へ向かう。


「……上、……フロアーに」

「え、……は、はい!」


 四階フロアーに連れて行くように。そう言っているようだ。


「あ、で、でも、大丈夫なんですか!?」

「……まだ、……直ぐに、……戻る、……から、……早く」


 セリカさんは、まだ、頭を抑えつつ、出口に向かおうとする。私はそのセリカさんの手を担ぐ。


「四階フロアーに行くんですよね」

「……そう、……皆に」


 そして、セリカさんを連れ、室長室を出る。通路を歩きながら聞く。


「今、”ひずみ”が、起きてるんですか!?」

「……いえ、……まだ、……はぁ、少し、治まってきた……」


 頭を抑えていた、手を離して、自分で歩き出そうとする。


「あ、ま、まだ、上まで、支えますから!」

「……悪いわね」

「いえ!」

「……まさか、今、来るなんてね」

「……え?」

「……今日は、もしかしたら、……とは、…………感じて、いたけれど」


 階段を上り始める。

 あ、エレベーター! と思ったが、もうセリカさんは、自分で歩き始めていた。


「……予想より、早かったわね」


 少しずつ、調子が戻っていく。

「はぁ、大分、落ち着いたわ。……急ぎましょう」

「あ、はい!」


 まだ、少しよろめいていたので、私はセリカさんの手を引き、四階フロアーへ入った。

 そして、入るや否や、セリカさんが言う。


「……みんな! 来るわ!」

「え!」

「今!?」

「ん!」


 フロアー内には、チュンさん、エレナさん、ユウカさんが居る。


「どれくらいで来る?」


 チュンさんが先に聞いてくる。


「もう……少し、……かしら」


 もう少し、それが、どれくらいかは分からない。だが、その声で、皆、端末を操作し始めた。


「私も、席に。……あ、アカリ! ……あなた、ついてきて!」


 セリカさんは、自分の席に急ぐ。

 私も、そのまま、セリカさんに付き添う。

 セリカさんは言葉どおり、多少良くなったのか、ちゃんと自分で歩き始めていた。


 途中で、セリカさんが言う。


「エレナ、規模押さえといて」

「うん!」

「チュン、場所! ユウカ、時間お願い!」

「「了解!」」


 そして、セリカさんの机に行く。

 席に座りつつセリカさんが言う。


「アカリ、もうすぐ、……来る。……皆を、ちゃんと見ておきなさい」

「え? あ、はい!」


 セリカさんはそのまま、端末を操作し始める。先程、よろめいていた時は、大丈夫だろうかと思ったが、これまで見たような、いや、それ以上か、凄まじいスピードで、操作をしている。


 セリカさんの席は、ドアより一番奥。一番後ろ側。私の反対側。

 だから、ここからだと、皆の席もよく見える。

 しばらく、皆黙々と端末と向き合っていた。


 そして、次の瞬間、皆が一斉に、声を出した。


「あ!」

「む!」

「来た!」


 そして、ぞわっと、体中に、何かが。

 体中が、ざわざわとしている。


(何か、むず痒い、……いや、寒気?)


「今、発生したわ!」

「……あ! ……は、はい!」


 今、”ひずみ”が発生している。

 この”ブルー”、この”アスール”の中で。


「エレナ! 規模は?」

「うん! ……うーん、そんなに大きくないよ!」

「具体的に分かる?」

「うーん、あっ! ちょっとおっきくなった!」

「ポイントは、……”XプラスZマイナス”」

「発生して、20、21、22・……」

「今日のポイントは、……良かった、そっちに居る!」


 ここに来て、今までに無い光景。

 このフロアーが、別の場所に思える、

 そんな緊張感を感じる。

 いや、それだけでは無い。


(……自分に、……感じる、……これは)


 時間が、止まって感じる。

 時間が早く感じる。

 鼓動が早い。

 みんなが早くも遅くも感じる。


「あ、止まった! えーっと! うん! 6メートルくらい!」

「中の下ってところね。二人とも、大丈夫かしら……」


 セリカさんは、話を聞きつつ、話しながら、端末を猛スピードで操作し続けている。


「来た。ミランダからだわ。ユウカ! 入れておいたわ!」

「はい! 今……」


 緊急の業務。

 初日、私がここに初めて来た時に、皆が、やっていたと言う。

 それが、今目の前で行われている。

 私は、今、それを目にしている。


 ”ひずみ”が、発生している。


「近くで、助かったわ」

「あ! ちっちゃくなってく!」

「収め始めれたみたいだな」

「今、20分!」

「じゃあ、もう少しかかるわね」


 セリカさんの机にモニターが見える。

 沢山のモニター。

 その中の一つに、静止画、多分、写真。

 それが映し出されていた。


 海に、白い丸が出来ている。


「26分28秒」

「収まったみたいね……」

「うん! なくなった!」

「ああ、もう感じ取れないな」


しばらくし、皆がそう言っているのが聞こえる。


「とりあえず、切りの良い所まで進めるか?」

「……あ、お昼過ぎましたね」

「……発生時刻は?」

「ええ、11時53分17秒」


 そして、時刻を見る。

 もう、12時を過ぎている。

 何時ごろ、室長室を出ただろうか。

 ちゃんと時間を見ていなかった。

 ようやく、自分の時間の感覚が戻ってくる。

 周りの状況が分かってくる。


「少し様子を見て、問題ないようだったら、そうして。……私、……ちょっと、……休んでくるわ」


 よろっとしながら、セリカさんが立ち上がる。


「あ、だ、大丈夫ですか……?」


 気がついて、私は声をかけた。


「……そうね。……大丈夫、とは言い切れないかもね。ま、いつもの事よ」


 いつもの事、そうは言われるが。


「あ、あの、よければ……」


 手を差し出す。


「……そうね。じゃあ、お願い」


 そう言われて、セリカさんから手を握られる。

 そのまま、肩を担ぐようにする。セリカさんは、私よりも背丈が低く、体も小さい。

 私でも、そうできるくらいに。


「……じゃあ、悪いけれど、……みんな後、頼むわ。……ああ、無いとは思うけれど、……この間のようになったら、呼んで」

「ああ。……アカリ、セリカさんを頼む」

「あ、はい」


 そうして、セリカさんとフロアーを出た。

 セリカさんの足元はおぼつかない。


「……あ、セリカさんのお部屋で?」

「そうね、……今日はそうしようかしら……」


 エレベーターを使う。

 この感じだと階段は辛いだろう。ポンっと鳴ってドアが開く。

 エレベーターに入り、二階へ降りる。

 その間、セリカさんを見ると、やはり、辛いような、それでいて疲れているように見える。


「……あの……」

「……ん?」

「あ……、お、お部屋は……」

「……ああ、……一番近くの所よ。……右側の」


 セリカさんに何が起こって、今何故そうなっているのか。聞き辛かった。


 ポン、と音が鳴り、二階に着く。一番近く。その右側。そこが、セリカさんのお部屋。


(ミランダさんは、その向かい側の、確か……)


 いや、今は、それは考える事ではない。


 そこに着くと、セリカさんが、ドアを開けようとする。


 -ガチャ-


 だが、開かない。


「…………ああ、……鍵。……えっと……」


 だんだんと、更に辛くなってきているのか、鍵をかけた事すら、忘れていたようである。


「あ、どこに入れてますか?」

「……あ、……ん、……あったわ……開けてもらって良い?」

「あ、はい」


 鍵を受け取り、それで鍵を開け、ドアを開ける。そして、部屋に入る。

 中は、私の部屋とほとんど変わらない。

 つまり、ほとんど、物がない。


 ただ、大きく違う所。ベッドが、とても大きい。その位置も違った。

 ドアを開けて、直ぐにベッドに直行できる。そういうような配置。

 そこに、セリカさんを連れて行き、そっと座らせる。


「……ああ、……話の……途中だったわね……」


 座って、そして、そのままベッドに横たわりながら、セリカさんが言う。


「あ、いえ、まだ、時間は大丈夫なので」


 とても辛そうだ。確かに、今日、ここの事や、色んな事、それを教えてもらっている途中に、これが起きた。


(……でも、これじゃ…………)


「…………そう、……悪いわね……」

「いえ」

「これ、ね、……ここでも、私だけなの……」


 これ。それは、今、ここで、こうなっているセリカさんの事。


「……そこだけ、言っておくけれど」

「……はい」

「……”ひずみ”を、……ここでは、……みんな感じるって、……言ったわよね」

「……はい、そう、聞きました」

「けれどね、……厳密には、……みんな、……少しずつ違うわ……」

「……え?」

「位置だったり、……大きさだったり。……そして、……私は、……予測が出来る……」

「……予測?」

「……感じる、……だけ、だけどね…………」

「…………」

「……あれが、……発生すると、……こう、なっちゃうのよ。…………私だけ、…………ね」

「…………セリカさん、だけ、…………ですか?」

「……そう」

「…………」


(……この中でも、セリカさんだけ。そして、だから、私の、初日も……)


 分からない事が、まだ、多い。だが、理解する。私がここに来た、初日、”ひずみ”が起きた。そして、それが起こると、セリカさんは、こうなってしまう。だから、初日も、こうして。


「詳しくは、…………また、今度ね……」

「……はい」

「……でも」

「はい」

「こんな事、話しても……、あなたは…………もう」


 何度か、セリカさんが言っている事。もう、分かっている。

 決めている。


「……はい。……私はもう、決めています。」

「……ふふ。……いいの?」

「はい」

「……今日の、……あれを聞いても?」


 ――もう、決めた事。


「決めました。……私は――」


――私は、ここに


「ここで――」


――みんなと


「一緒に――」


――これからも


「働きたいです」


「……まだ、……期間は、あるわよ?」

「……多分、もう、変わらないです」

「…………そう……」

「…………はい……」

「………………覚悟がいるわよ…………?」

「………………そうかもしれません…………」

「………………後悔するかも…………」

「………………そうかもしれません…………」

「………………それでも、変わらない?」

「………………多分、変わりません」

「………………そう」

「………………はい」

「………………じゃあ、その為にも」

「………………はい」

「………………私、寝るわ」

「………………え?」


「……疲れたし。……明日ちゃんと出れないとね」


 確かに、セリカさんが居ないと、進めれない事も、あるのかもしれない。


「じゃ、……お休み。……あ、アンカには、伝えといて。……私、……部屋で休んでるって……」

「分かりました。伝えておきます」


 そう言って、出口に行こうとして、あ、と気がついて言う。


「お休みなさい。セリカさん」

「……ええ、助かったわ。お休み」


 そして、そっと、その部屋を出た。



お読みいただき、ありがとうございます。



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