【四日目】 疑問
お風呂と、娯楽室はすぐ向かいにある。先程は一度部屋に戻ったので、直接は来ていなかった。
今度は、着替えを持ったまま、私とミランダさんは、娯楽室に入った。
「さー、んじゃー! さくさくっと、セリカさんを追い抜いちゃおー!」
(そう言われましても…………いや、あれ…………とっても、難しいですけど。…………と言うか、セリカさん、いつの間に…………?)
さっきは皆で居たこの娯楽室。今は、誰も居ない。
そして、ミランダさんはあのゲームの所へ向かう。
私もミランダさんについていった。
やっぱりここの部屋は、何回来ても、違う空間のように思う。
そう感じなながら、あのゲームの所に着いた。
ミランダさんが、そのゲームを起動しながら言う。
「アカリちゃんさー、さっき私見てたっしょー?」
お風呂場での事だと思われる。
そう、確かに見ていた。
ミランダさんの綺麗な瞳。
「分かるんだよねー。これがまたねー」
明るい声でそう言われる。
「なーにー? 今ならいいよー。聞きたい事あるんでしょー?」
多分、モニターを見えるようにする、何か。それを付けながら、聞かれる。
そう、確かに聞きたいと思った。
「あ、あの、さっき……なんで……分かったんですか?」
私がミランダさんを見ていたこと。
「んー、そうだねー……詳しくはねー、多分明日教えてもらうと思うけどー。私ねー、見えなくなった代わりにねー、なんか、こうさー、分かるようになったんだよねー」
ミランダさんがゲームの前の椅子に座りながら言う。
「なんて言えばいいかねー。視線ー? そういうの。カメラ無くてもねー。分かる時があるんだよねー」
ミランダさんが見ているというカメラ。
お風呂に無いとは聞いている。
ここには沢山あるとも聞いている。
「あ、あの……それって……」
「んー……そだねー……こればっかりはねー。うまく私も言えないなー」
そう言って、ミランダさんはゲームを始める。
明日、教えてもらえると言う。
ここの事、色んな事、一体何故、こうなのだろうか。
今まで私は、ここに来て、こんなに不思議に思わなかった。
そういうものだと思っていた。
けれども、皆と過ごしていくうち、ここが一体何なのか、そして、どうして、そうなってしまうのか、”ひずみ”とは、一体何なのか。
そしてこの、”ブルー”とは…………。
今日は本当に楽しい日。
歓迎会。初めてそんな事をやってもらった。
とっても嬉しかった。
とっても楽しかった。
皆で映画を見て。
皆で一緒に、ご飯を食べて。
皆で一緒に、ゲームをやって。
全員じゃなかったけれど、 一緒にお風呂に入って。
ミランダさんは、このゲームに熱中し始めている。
ここではみんな、楽しく日々を過ごしているように見える。
しかし、ここは。
”何かを失う”。
それも、適正がある人のみ。
そしてそれが本当ならば、適正が無い人は、おそらく……。
そんな事を今更、考えてしまう。
ここに来て、最初に教えられた。
その次の日に、告げられた。
そんな事が、今更になって、私の中で木霊している。
それから、何度かミランダさんと交代をしつつ、私もそのゲームをやった。
けれども、やっぱりそれは難しくって、一面クリアーも出来なかった。
ミランダさんは白熱していた。
私も、そう、楽しくはあった。
けれども、その前に、考えてしまった事。
それが頭から離れてくれなかった。
ゲームを終えて、ミランダさんは言っていた。
「なーんで、セリカっち、こんなスコアー出せたんだろうねー。…………こりゃー、抜くの難儀だわー」
あの質問以降、ミランダさんは私に何も聞いては来なかった。
私も、どう聞けばいいのか、うまく言葉に出来なかった。
あのへんてこな時計は、もうすぐ十時だよー、っと知らせてくれていた。
「んじゃー、残念無念。…………セリカっちのスコアー抜くのはまた今度だねー」
そう言って、ミランダさんもゲームを終える。
正直、ミランダさんは凄く上手だと思った。
私も、何度かやらせてもらって、ようやくこのゲームのルールも分かってきた。
だから、改めて、その凄さが分かり始めていたところだった。
(…………って、セリカさん………………これより凄いの…………?)
確か、セリカさん、作業してた時も、恐ろしく早いスピードだった。
とてもじゃないけど真似できない。
そんな姿が、想像の中の、セリカさんがこのゲームをしている姿と重なる。
(…………ああ、うん…………なんか………………分かる気がする……………………)
そして、私はミランダさんと共に部屋に戻った。
ミランダさんの部屋は、あの十字路を、左に行った所。
私は真っ直ぐ行った所。
「じゃー、また、明日。…………んー、明日だねー」
そう言って、ミランダさんと別れた。
部屋に戻る。
灯りを点ける。
そして今更ながら、思う。
この灯りは、何で出来ているのだろうか?
灯りは、宝石のような形、それでいて、ぼんやりと光っている。
宝石ならば、キラキラと光る。
しかしそれは、普通の電灯と同じような、ぼんやりとした、灯り。
しかし、その灯りも、見るのは初めてである。
先程着替えた服を、籠に入れて、もう一度、その灯りを見る。
(何で出来ているんだろう……?)
私が今まで見た事の無い物。
どうして、それに今まで気がつかなかったのか。
そして、波音が聞こえる。
ここの空間で、途切れる事の無い音。
その音の中に、カチャカチャとした音が混ざる。
よくよく聞いてみれば、その音は、どうも隣からのようだ。
(……ああ、メイちゃん、そういえばカップのお手入れしてるんだっけ……)
あの大量のカップ。
きっと、大変なのだろう。
(けれど…………普通に考えて、あんなに大量のカップを…………どうして、集める事が出来たのだろうか……?)
いや、ここの城の物は、全てが、そう、高価な物。
昔の私じゃ考えられない。
私の知らない物、知っていても、高価すぎて、ただ、知っていただけの物。
今日はいっぱい楽しんだ。
みんなと一緒に。
いっぱい、楽しませてもらえた。
こんな楽しい毎日なら、私は、出来れば、ずっと。
けれども、そうする事を選んだなら…………。
そうして、外を見る。
真っ暗な外。
今日は何も見えない。
多分、そう、あの時見た、あの光。
あれは、アリスさんと、マイヤさんだったのだろう。
多分、夜間巡回の光。
そう考えて、カーテンを閉める。
今日洗ったシーツを敷く。
メモ帳に書き込もうと思っていたけれど、もう、今日は凄く眠い。
楽しかった。
だから、そのまま眠りたかった。
楽しい気持ちのまま。
ベッドに入り、目を閉じる。
すこしカチャカチャと、まだ音がしている。
(今度、ちゃんと、手伝おう。カップも借りたままだし…………)
そうして、私は眠りについていった。
お読みいただきありがとうございます。
これにて四日目終了です。




