【四日目】 疑問
その後、部屋に戻り時間を確認する。もうしばらくでお昼休みも終わる頃。
もう一度だけ、髪を確認してみた。やはり、ちょっとだけ跳ねている。
(もうちょっと、ちゃんとお手入れしよう…………)
プランさんの髪を見て、そう感じていた。とっても綺麗なさらさらの髪。
髪にかわいい髪留めがついていて、とても綺麗だった。
(私も…………、ああいう人みたいになりたいな………………)
そんな事を考えていると、時間は過ぎていった。そろそろ四階フロアーに戻った方がいいかな、そう考えて、部屋を出る。
ちなみに、プランさんの部屋は、エレベーターに近い所のようだった。ティーセットを持ったまま、十字路を曲がって去っていった。
別れ間際に、こちらを向いて、ニコっと笑った顔は、とても、魅力的だった。
部屋は、多分、ミランダさんのすぐ近くなのだろう。
階段に向かう途中、そのドアを見る。
(確か、ミランダさんはこの右から二番目…………)
その先には二つドアがある。そこを過ぎると、もう階段とエレベーターの所。
(プランさんの部屋は、その隣なのかな?)
そう思いつつ、階段を上り、四階フロアーへ戻った。
中に入って、周りを見渡すが、フロアーにはまだ誰も居ないようだ。時間はもう少しだけある。
とりあえず、席に戻り、あ、お茶でも入れてこようかな、と考えていると、エレナさんが戻ってきた。続いて、メイちゃんが戻ってくる。意外に、エレナさんは時間は早めに動くのか、余裕を持った時間でいつも来ているように思う。
メイちゃんは、まぁ、想像通り。
そして、ユウカさんが入ってくる。
(という事は…………もう、そろそろ…………)
バタバタと音がして、ミランダさんが入ってきた。今回は間に合ったようだ。
「ふぃー。ぎり?」
「まだ、時間前よ。」
そうユウカさん返す。
(うーん、それでもほぼ時間ぴったりだと思うけど…………)
そして鐘が鳴る。
今日はここのフロアーから、今からお昼ご飯の人は居ない様子。そして、あれ? と思う。
(確か…………お昼って二人………………………………)
席に戻ってきたミランダさんにそれを聞いてみた。
「あー、今日はさー。セリカっちが、”ひずみ”は出ないと思うってー、言ってたっしょー。」
(確かに聞いた。そんな事を言っていたような………………はて?)
「んだからー、まー、お昼当番は室長だけでもー、そんな問題は無いんだよねー。」
また分からなくなった。
リーゼさんは確か技師。
(多分一階でお仕事してるんだよね。…………今日だって…………)
午前に、巡回艇準備室、で作業をやっていた。
(というか、今更だけど…………お昼当番って…………何をやっているのかな…………?)
「んー、そう言えばさー」
「……え、あ、はい」
考えていた私にミランダさんが言う。
「今朝のさー、”Y、X、Z”の事なんだけどー」
あ、そうそう、それもまだちゃんと聞いていない。確か、場所を指しているとかなんとか言っていた。
「あ、確か、時間がかかるって……」
「そーそー。じゃー、そこ説明するからー。メモってー」
そう言われて、私はメモ帳を準備をした。
「じゃー、座標の講座ねー。アカリちゃんはー、この”アスール”がどういう形かはー、もう大体分かってるよねー?」
「…………う、すみません。………………そこから、お願いします」
ちゃんと聞いたことは無い。
「…………あー、じゃー、やっぱりそこからだねー」
ミランダさんは、私が分かっていると思って聞いたのか、分かっていないと思って聞いたのか。
「んじゃー、そこから説明するねー。ちょっと長くなるかもー」
「は、はい! よろしくお願いします!」
そうしてミランダさん講座が始まる。
「まずねー。”ブルー空間”。まーいくつかあるけど、ここはその内の”アスール”ねー。でー、この”アスール”はねー。ちょっと長細い球体状をしてるんだよねー。なんかー、他の”ブルー空間”も形は同じらしいけどー、それは私も行った事ないからー。詳しくは知らないー。まー、ここもそういう形って事でー」
(………………うん、多少、アバウトだけれど、理解は出来る。ここは球体状の中。っと)
「でー、その球体状の中がー、まー今居るここもそうなんだけどー、ここって基本ー、全部が海じゃん。だからねー、高さも必要なんだよねー。でー、今の”X、Y、Z”ねー。これでー、そこの場所を示すんだけどー。まー、簡単に言えば、Xがー、横。Yがー、上とか下。高さだねー。Zがー、ここを中心に真っ直ぐ行った所だねー」
(…………うん…………………………よく………………分からない………………)
「……ごめんなさい。……まだ……いまいち」
「んー、そだねー。……ちょっとー、例えるとねー。ここの真下ー。確かー、ここらへんの真下って大会議室だよねー?」
「……あ、はい」
そうかもしれない。確か、そう、ここって多分、下はあの大会議室のはず。
「だとするとー。今ねー、アカリちゃんが居る所をねー、”X0、Y0、Z0”としたらねー。真下はー、高さだからー、まー、じゃー、5メートルくらいあるとしたらー。大会議室はー、”X0、Y-5、Z0”って事ねー」
(…………ええっと…………確か、Yが高さだから、………………ああ、だからマイナス5。じゃあ……数値はメートル?)
「あー、でもねー。実際は数値はメートルじゃないからねー」
(心を読み取られた…………じゃない! ……………………じゃあ………………何?)
「でもねー、そこらへんはー、ま、気にしなくって良いよー」
「…………え?」
「いやー、あの数値ってどっから来たんだろーねー。メートルにすると小数点大量でよく分かんないわー」
「……あのー、一応参考までに……実際の1だと、…………どのくらいなんですか? 大体でいいので」
「んー、…………………………確かー……………………ざっくり200メートルくらい?」
(えーっと、今日言ってた数値で………………一番大きかったのは…………確か200…………いくつか…………で、200メートル。………………へ? 40000メートル!? 40キロメートル!!?…………………………………………ふ、不安………………………………)
「……あ、あのー」
「んー?」
「ちなみに一番遠い数値だとー、どれぐらいですか……?」
「んー……X700くらいのー、Y400くらいのー、Z700くらい?」
(………………じゃ、じゃあ…………700かける、200で…………………………ひ、百四十キロメートル!!?)
「ここねー、二番目に広い”ブルー”なんだってさー」
(じゃ、じゃあ…………一番って……………………か、考えないでおこう。……………………巡回して、ちゃんと辿り着けるのかしら。………………………………ふ、不安………………………………)
「……え、えっと……じゃあ、実際には……ここ、えと、このお城はどういう数値の所なんですか?」
「ここー? なんかねー、ここらへんがさっき言った”X0、Y0、Z0”になるんだってさー。おかしいよねー。球状なんだから真ん中を0にすればいいのにねー」
(…………………………何故………………?)
「あのー、それって何故なんですか…………?」
「んー、理由は知らないやー。なんかねー、最初にそう決めたらしいよー」
(………………わ、分からない…………)
だが、ここが”X0、Y0、Z0”なら逆に分かりやすいのかもしれない。
「そんな訳だからねー、実際には”Y”に関してはマイナスは無いんだよねー」
「は、はい……」
……ということは、ここの一番高い所、そこがYの400。
つまりは、…………800000メートル。80キロメートル。
空、と言うには少し低いのか……?
しかし、そこへ行く、というと遠い。
そういう距離。
(で、でも実際は……空飛ぶ訳じゃないし………………も、もっと………………)
「まんまるだったらもっと分かりやすいのにねー」
それを聞いて思う。
(いや! それでも遠いですよ!)
「じ、じゃあ、巡回ではそれ全部見るんですか……?」
「いちおーねー。でも、まー、実際はその海の所だけだしー。”ひずみ”も海んとこしか出ないしー。行くにはちと遠いけどー。あれ走り出すと早いからー。一周しても、3時間くらいかなー?」
(………………どれだけのスピード出るんですか………………あの巡回艇………………)
「まー、私達はー、そのポイントの座標打ち込めばいいだけだしー。まー、そういうものって事でー」
(分かったような、分かりたくないような……………………………………ふ、不安…………………………あれ? でも………………それだったら……………………)
「あのー、その”ひずみ”は海のところしか出ないんですよね?」
「うんー、今分かってる範囲だとそうらしいねー。」
「……じゃ、じゃあ、その……空中……とかは?」
「あー、うんー……それは……どうなんだろー? まー、ここじゃ出たこと無いねー」
(…………うーん………………”ひずみ”や”ブルー”の事、全然解って無いから………………まずそっちを聞かないと、イマイチ理解が出来ないや)
いや、そもそも、何故私は、その事を知らないのか……。いや、…………そもそも、その、ここ、”ブルー”とは何なのか……)
詳しくは聞いていない。
分からない。
海底にある、変わった空間。
他の”スキア”だとか、”バアチ”も、実際変わった所、としか知らない。
そこはどんな所なのか。
私にはそういう情報が、圧倒的に足りていない。
「あ、あの!」
「んー?”X、Y、Z”の座標はそんなとこだけどー」
「い、いえ…………その………………その、そもそも………………この、”ブルー空間”って何なんですか?他にも、”スキア”とか”バアチ”とか、聞いたことは、あるんですけれど………………」
「……………………………………………………………………あー………………………………んー………………………………………………」
ミランダさんはそれを聞いて逡巡し始める。悩んでいる。
「………………………………んーーーー……………………」
「…………………………」
しばらくミランダさんが悩んでいる所に、ユウカさんが声をかけてきた。
「……アカリ、それは、セリカさんと室長に聞いたほうが良いよ」
「………………んーーーーー…………そうだねー。…………そこらへんまで行くとー………………色々長いしねー……………………難しいねー…………………………」
(………………今まで、ここは、そういうものだと思っていた。……………………けれど………………ここで働き続けるのなら………………)
この空間は、一体、何なのだろうか。今更、それが、気になり始めた。
「んーー………………セリカっちは今日は巡回だしー………………そだねー………………じゃあ、ちょっとさー、室長に言ってみるわー………………」
そう言って、ミランダさんは席を離れた。
「……………………あ………………」
私は、まだ知らないことだらけ。
けれども、知らないといけない。そんな、気がする。
「…………アカリ、あなたは、明日も、居るよね?」
「………………え?」
ユウカさんから、そう、聞かれる。
質問の意味は、分かるようで、分からない。
(けれど、私は…………………………)
お読みいただき、ありがとうございます。




