【四日目】 巡回艇
巡回艇、そう呼ばれているそのボートは、どうやら一人乗りのようだ。
そして、その外観。
(…………宇宙船?……潜水艇?……小さめの車?)
形はスタイリッシュな形状。
ガラスなのか、上半分は透明な物で出来ている。そして下半分は、水に浸かっている所から、いくつか何かが生えている。
一つ一つにそのまま乗り込めるよう、通路が伸びていて、そこから乗り込むようだ。
セリカさんが手前の方で、チュンさんがその向こう側に乗るのか、そちらに向かっている。
私は、こちら側の、セリカさんが乗り込むところを、見学する。
「これねー、操作は簡単なんだけどねー。わたしちょっと苦手ー」
そうミランダさんはセリカさんが乗り始めるのを見ながら言う。
「あなたは酔うだけよね。」
そう言いながらセリカさんは上の透明の所を開ける。
(ああ、そこが、そう開くんだ…………)
上半分の透明な所の一部が開いた。そこに人が入れる十分な入り口が出来る。透明な箇所が開き、中が良く見える。
先程から中も見えてはいたが、そもそも初めて見る物なので、外観からして珍しく、そちらを見ていた。
「これがー、巡回艇ねー。これの動かし方とかー、中の操作の仕方とかはー、まー、マニュアル見てやればできるよー」
(ひ、非常にアバウトな……………………)
「…………それ、ミランダさんだけかと……」
リーゼさんがそれに突っ込む。
私も、ミランダさんは、見えさえすれば、操作の類は簡単なんだろう、と考える。だが、ふと疑問に思った。
「…………あれ? ミランダさんは、……えと、そのー……ここの中とかは、ちゃんと分かるんですか?」
見えるのか? とは少し聞き辛い。
「んー、今セリカっちが乗ったやつだけなんだけどー。それには中にカメラとー、あと周りを確認する用のカメラついてるよー」
(……なるほど)
ならば、ミランダさんは今セリカさんが搭乗している、この巡回艇にしか、乗れないのかもしれない。それから、もう一つ。
「えと、ミランダさん、これ、酔うんですか…………?」
「外のカメラ見てるとー…………スピード速くて、…………気持ち悪くなっちゃう………………」
(………………た、多分それは、ミランダさんにしか分からない苦労なのだろうな……………………)
「カメラを、もう少し、上のほうに取り付けられれば良いんですが……」
「ズームしすぎなんじゃない?」
リーゼさんは、その言葉に申し訳なさそうに言うが、セリカさんは、さらっとその理由に突っ込む。
「それじゃ、出発ね。チュン、いい?」
「準備終わってるよ」
そしてセリカさんとチュンさんは巡回艇の入り口を閉める。
入り口を閉めると、すっぽりと中の人は覆われるようだ。
上だけ見ると、長細いシャボン玉の中に、人が入っているようにも見える。
「こ、これで出発するんですね」
「んー、そうなんだけどー、まだ海に出るまでは見てないとねー」
-ボコン-
と音がして、巡回艇がゆっくりと前に進み出す。
進む真っ直ぐ先には、少し、あの船着場が見える。
最初にこの城に来た時、この風景が見えたのか。
(いや、でもあの時は…………)
私は、思い出しつつ、巡回艇の出発を見学する。
「アカリちゃんさー、ここの島の形知ってる?」
見学をしていた私に、ミランダさんがそう、聞いてきた。
「い、いえ、そういのは全く…………」
「ここの島ねー、この城の中心…………んー、というか、中心があるんだけどねー。そこを中心に真円になってるんだよねー」
「は、はあ……」
ミランダさんが、何を言いたいのか、まだ分からない。
「で、あの船着場もねー、その真円の中に入ってるんだよねー。もちろんここもねー。で、その真円のところは、”ひずみ”が起きない場所なんだよー。巡回艇が出れるようにねー、ここらへん削ってあるんだよねー」
「……は、はい……?」
「だからー、その真円を出るまでは、ああやって、ほらー、プランさん達を見ててー」
ミランダさんが、言いたい事はまだ飲み込めないが、プランさん達を見ると、どうも巡回艇について行っている。
もちろん、その着いて行く所には、足場がある。
ほとんど見たことは無いが、飛行機の滑走路、もしくは、自分の良く知っている、畑の作物の並びのような感じに真っ直ぐに、足場が伸びている。
その足場は、城を出た少し先までそれは伸びていた。
「ああやってー、海に出るまでは、見ててもらわないとねー、本格的なエンジンは掛けられないんだよねー。でー、そのエンジンが掛けれるのが、その真円を出た所からなんだわー。で、エンジンをちゃんと掛けるまではねー、イマイチ安定しないんだよー」
「え? じゃ、じゃあ、もうそこからエンジンを掛けたら駄目なんですか?」
足場が無くなる辺りの、先のほうを指して聞く。
「んー、それは駄目ー。…………なーんかねー。その下に地面があるとー、駄目な仕様になってるらしいよー。もしやっちゃったらー、暴走しちゃうからねー。気をつけてねー」
(………………は? ぼ、暴走?)
地面があると、駄目な仕様とは、どういう事なのか分からないが、ともかく、今分かった事を頭でまとめる。
そして、そのまとめた事を、メモ帳に記載する。
”ここの島は本来は、真円の形をしており、巡回艇を出す為に、その一部。
おそらく今見えている、海の部分は、その地面がかつてはあり、今は削っている。
その真円の中であれば、”ひずみ”は発生しない。
その地面がある場所では、巡回艇はエンジンを掛けてはいけない。
仮にやってしまうと、巡回艇が暴走するので危険”
そして、ゆっくりと進んでいた巡回艇を見ていると、確かにプランさんとリーゼさんが所々で、押したり引いたりして、サポートをしているようだ。
足場が無くなる先に、巡回艇が進む。
「アカリちゃん、リーゼちゃんの所に見に行っていいよー」
「あ、はい。って、ミランダさんは?」
「あー私、駄目ー。あそこらへんから見えないしー」
ああ、そう言う事なのか、と納得する。
確かに今リーゼさんやプランさんが居る所は、細く伸びていた先であり、周りは海。
見えないと危険である。
「そ、それじゃ、少し行って来ます」
「んー、見ておいでー」
そう言ってミランダさんは私を送り出し、私はリーゼさんの元へ行く。
その足場は細く、見えていても、気をつけないと、海へ落ちる。リーゼさんは、セリカさんの乗っている巡回艇を、見ている。
「リーゼさん、これでお二人とも出発ですか?」
「ああ、アカリさん、うん。けど、とりあえず、あそこを出るまでは確認しておかないと」
あそこ、と呼ばれた先は、ちょうど、私が初めてここに足を着けた、あの船着場。その少し先のようだと思われる。
よく見ると、確かに地面が水越しにうっすら見える。おそらく、あの辺りまでは地面があるのだろう。
(……………………ん? じゃあそれ以降の所は……………………)
「もっと高出力のサブエンジンでもつけれれば良いんだけど、いや、でも、それじゃあ………………い、いや……………………ああやれば………………いや………………あれが……………………くっ………………駄目か」
リーゼさんがそう呟いている。そして何かを考えている。
そして、その巡回艇は、のろのろと進んでいる。
(見た目からすると、もっとスピードが出ても良さそうなのに…………ちょっと………………かっこ悪い……………………じゃない!)
「あ、あのリーゼさん」
「…………それじゃ駄目だし………………あれでも…………いや……………………え?」
何かしら考え込んでしまっていたリーゼさんは、一テンポ遅れて、私の声に気付く。
「あ、わ、悪い、なんだっけ?」
「あの、巡回艇なんですけど……」
「ん、あれ?」
「……その、どこまであの速度で行くんですか?」
詳しくは聞いていない。どこか、その辺とだけである。多分あの船着場の所の辺りだとは思う。
「あ、そっちか。それは、ほらよく見て。あそこ、あの水の中」
そう言われて、もう一度指を指された先を、よく確認してみる。
よくよく見ると、あの船着場の少し先の、水の中がチカチカと光っているようだ。
「見える? あの光が点滅している所を過ぎれば、本エンジンが掛けられる」
(なるほど……)
あれでそのエンジンが掛けらる場所を確認するのか。
(………………あのスピードだと、もう少し時間がかかりそう………………)
「じゃあ、あそこまでは、あの…………速度、………………で?」
「……………………うん。………………残念だけど………………」
本当に残念そうに言う。ならば、先程言ってた、ブースターとやらも、見れないのだろうか。
あの格好良い巡回艇は、のろのろ、ゆらゆら、とそこへ向かって進んでいる。
<本当、これって遅いわね、まったく>
そんなセリカさんの声が聞こえそうだ。
(いや、実際言ってるかも………………)
しばらく後、ようやくその巡回艇は、あの光の場所を通り過ぎようとする。
「あの後は早いから、よく見てて」
そうリーゼさんに言われる。そして、巡回艇は、その場所を通り過ぎた。
(じゃあ、もうそろそろ)
そう思った瞬間、ものすごいスピードで巡回艇は動き始めた。
いや、もう既に、見える巡回艇はかなり小さくなっている。
(え!? な、何? あの速度! あ…………も、もう見えなくなりそう…………)
「うん、スターターは調子良さそうだ」
そうリーゼさんは言いながら、巡回艇を見送っている。もうほとんど見えないのだが。
(……………………って、あれに、私………………乗れるのかな………………………………………………ふ、不安………………………………)
巡回艇を見送ってから、リーゼさんとプランさんは、その場から戻り始める。
私も、リーゼさんについて、ミランダさんの元へ戻る。
「どだったー?」
「………………………………あ、あれ…………………………私………………上手く操作できるんでしょうか………………?」
「んー、大丈夫、大丈夫。簡単だからー」
(そう言われても………………あれ、早すぎる…………………………ふ、不安…………………………………………)
お読みいただき、有難うございます。
暴走するとどうなるか、は、また書こうと思ってます。




