【四日目】 巡回業務
ようやく髪をセットし、準備をした頃には、もう行かないと、という時間になっていた。
四階フロアーに着くと、既にほぼ揃っている。ユウカさんとミランダさん以外は。
なんとなく気付いてきたのだが、ユウカさんは結構時間ぴったりに行動する様子である。
だから、ユウカさんが来ていない=まだ遅刻じゃない。と考える。
そしてミランダさんが、先に居たのなら。
(ああ…………遅刻した…………と………………思っちゃう………………多分)
私は席に着き、端末をつける。昨日色々教えてもらえた端末。私の知らない事はまだまだある。
(……でも、まずはここのお仕事から。なんだけれど………………)
朝、食事の後にミランダさんに聞いたのだが、今日も”ひずみ”が出ない限りは、そこまでやる事が無いとの事だった。
だから、今日も何かが無い限りは、端末の練習をしていて良い言われている。
そして、ふと考える。
(そう言えば、”ブルー”の事も、”カエルレウムカンパニー”の事も、”ひずみ”の事も、ちゃんと理解仕切れて無いなぁ…………)
私はまだ、正式にここに入社、と言う訳ではないのであるが、知らない事も多い。
今は”試験期間”。
そして、それは、私がここで働き続けるか、否かを決める時間でもある。
(だけれど、私は…………もう………………)
「おつかれさま」
そう言ってユウカさんが入って来た。ならば、もう始まる時間だ、と考える。
-ボーン……ボーン……ボーン……-
鐘が鳴った。
そしてお隣のお方は未だ見えず。
私が隣を見ていた少し後、ようやく現れる。
「ふひー、ぎり? ………………アウト…………かなー?」
「お・ま・え・は!! 昨日も! そして今日もか!?」
昨日の朝と同じような光景が繰り広げられていた。
私はその間、今日やる事をまとめていた。だが、そうは言っても、この端末の練習なのだけれど…………。
それから、アンカ室長も入って来て、それを見てから言う。
「お疲れ様。…………あら………………また?」
「ま・た!」
「またまたー。ねー………………」
「「……………………」」
「滑った?」
(はい、その様子です………………)
「では、セリカさん、後チュン、巡回のミーティングを」
「…………了解」
遠くに座っていたセリカさんもアンカ室長の元へ行く。そして逃げ出すように、ミランダさんが隣に座る。
「いやー、階段多いよねー、ここ」
そう言うミランダさんに、ユウカさんが突っ込む。
「階段で来たんですか?」
「…………え、えーっとー………………」
エレベーターで来た模様。
私は、とりあえず、メモ帳に今日やる事を簡潔に書いて、端末を操作し始める。
そこに私の名前が呼ばれる。
いや、呼ばれた、と言うよりは、名前を言われたようだ。
「え? アカリを? いや、でも」
「もういいと思うの。それくらい。それに今日は」
「私も、そう先にセリカさんに言われまして……」
「は、はい…………」
「だから………………」
「ああ、じゃあ…………」
アンカ室長と、チュンさんと、セリカさんが、そんなミーティングしているのが聞こえた。
そして、本格的にアンカ室長に呼ばれる。
「アカリさん、こちらに。あ、ミランダもね」
「んー? どしたんだろー? はーい!」
「あ、はい!」
ミランダさんも分かって無い様子だ。二人で、アンカ室長のもとへ行く。
「どしたのー? 室長、なんかあったっけー?」
「いえ、何かあった訳でなくてですね……」
「アカリ、あなた、巡回がどんな物かは知らないわよね?」
「……え、あ、はい」
巡回業務は、試験期間中は無い、と言われていたはずだ。
「本部からの連絡はまだだし、あれ以来、”ひずみ”も出てない。それに、今日は、多分、出ないと思うのよ」
(………………どういうことだろう?)
「だから、折角だし、巡回が、どういうものか、ぐらいは教えて良いんじゃないかと思ってね」
「あれー? でも試験期間中はやらないんじゃないのー?」
どうやら、ミランダさんも不思議そうだ。
「私もそう言ったんだが…………」
「いえね、巡回作業に出てもらう訳じゃないんですよ? ただ、この二人が出発する所までは、見ておいた方が良い、と……セリカさんが…………」
「そう言う事」
(………………あれ? …………という事は………………)
今日の業務が頭の中で書き換えられる。
「巡回の勉強よ」
そう言う事だ。
「は、はい!」
「と言ってもだ、私達が出る所まで、だけどな」
「ミランダもそれに付き添ってあげて下さい」
「あー、そーゆーことー? ふーん。へー」
何やら納得しているのか、していないのか、ミランダさんが答える。
「ま、とりあえず、よ」
それにセリカさんが答える。
「では、アカリさん、せっかくですので、ミーティングから入ってください」
「はい!」
と言う訳で、今日は巡回作業の勉強になった。
だが、周りの人たちは、少し驚いたような、納得したような感じだった。
「では、まず巡回作業の事ですね。簡単に説明しますと、巡回作業は、この”ブルー空間”内、”アスール”を巡回艇で見回る、と言う業務です。そして、その際に仮に”ひずみ”が発生したのなら、出来るだけ近くに行き、その”ひずみ”を観測、それから、その”ひずみ”の周辺の海水を採取します。
そして”ひずみ”が肥大化するのなら、それを抑える事も行います。
ここでの仕事では、この巡回作業、特に”ひずみ”が発生した際は、最も危険な業務になってきます。」
(…………メモメモ…………って、え? 危険…………?)
「危険って…………”ひずみ”って危険なんですか?」
「ええ、危険よ」
セリカさんにもさらっと怖い事を言われる。
「室長、巡回の時間が……」
「……あ、そ、そうですね。巡回の場所はその時々で変わります。それを朝ミーティングしているんですよ。それで、今日は”X-265Y23Z-102”その場所周辺が主です」
「あそこも調べておきたいわ。”X356Y21Z226”ポイント」
「少し遠いな……」
「仕方ないわ。あそこはまだ解明されていないし。それまでは続けた方が良いと思うの」
(……………………途中から……………………分からなくなった。…………え、と、…………そういえば、資料を作ったり、探したりした時に、そんなのを使ったような…………?)
「では、本日はその二ポイントで、少し大変ですが」
「了解」
「ええ」
「あのー、ミランダさん、あの”XYZ”って…………」
「んー、それねー。って事は良いんだよねー、セリカっちー」
「ええ」
ミランダさんは、何やらセリカさんに承認を取る。
「おっけー、んじゃーアカリちゃん、今のねー。この”ブルー空間”のー……………………あー、こりゃ長くなるねー………………。とりあえずー場所の事。”XYZ”と数値でその場所を指すんだよねー。で、後で細かい所はゆっくり説明したげるよー」
「では、準備を始めてください」
「まずー、準備の方見てからだねー」
そう言って、チュンさんについていく。
チュンさんは一度席に戻り、あの、透明な板、そう、印刷した透明版をかばんを取り出して入れている。
「あのかばんにねー、巡回の時に必要な物入れるんだよねー。アカリちゃんもー、必要になる頃には配布されるからー」
なるほど、ミーティングをした後に、一度席に戻っていたのは、こういうことだったのか。
「じゃあ、行くか」
準備が終えたのであろう、チュンさんが、セリカさんと、ミランダさん、そして私を促す。
「ええ」
「行きますかー」
「はい!」
そして四人で四階フロアーを後にした。
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