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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
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【初日】 四階の案内

 アンカ室長からの説明は、先に続いた。


 質問したい事が、また山ほど出来たのに、分からない事が多すぎて、逆に何を質問したらいいのかすら、分からなくなっていた。


 それに、その前に説明された事も、まだ、全然頭が追いついていない。

 けれども、ほとんどそれらが理解できなかったせいなのか、逆に、その後の説明はすぐに理解できた。


 まず、これから二週間の試験期間中は、ここでの、観測資料の作成のお手伝いや、資料整理のお手伝い、それが通常業務。正式入社後は、それを一人でもやれるようになって欲しい、と言われた。


(出来るかな……)


 それから、この二週間で、私が一番やらないといけない事は、『ここの人たちと、交流をする事』だと言う。


 そして、それでもやはり、ここで働くのを辞退する、と言う事であれば、それを申し出た時点で、荷物をまとめて、ここから出ないといけない、と言う事。

 要するに、二週間までは、事務作業のお手伝いをしながら、ここの人たちと交流を持って、どうするかを決めなさい、と言う事だった。


(……だと思う……)


 その後は、色々な書類にサインを書かされた。ただ、その書類も、まずはその二週間の期間だけの物、という事らしい。だから、正式にここで働く事になれば、また別途に、書類が必要だそうだ。

 私が書類を書いている間に、ミカさんは言葉を残し、出て行った。


〈――じゃあ、悪いけれど、私は本部へ戻るから。後は頼んだわ〉


 部屋を去る時に、何故だか、私をじっと見ていた気がする。


 どうやら、ミカさんの職場は、ここでは無いそうだ。ミカさんは、私に優しく接してくれたから、少し残念だった。しかし、この〝アンカ室長〟も厳しそうだけど、丁寧に説明はしてくれる。

 なのだけれども、ここで何を、どのように観測調査をして、どんな資料を作るか等は、実際に仕事を通して、学んで言って欲しいとの事だった。


(……じゃあ、結局はやって覚えろ、と言う事なのかな)


 そうは思ったが、今、そんな事を色々説明されても、確かに分かり辛いかもしれない。そう思って、納得する。


 それから、研究に関しては、正式入社後に、私がその仕事に従事したい、と思えば、志願した後ちに、しかるべき研修などを受けて、そちらに移行する事も可能である、と言う事であった。

 まぁ、そちらは何となくだが、向いてないように思えるけれど。


(研究って言われても、良く分からない……)


 とにかく、分かった事を整理すると、ここでは何かを観測調する事。そして、それを資料化する事。巡回作業になると、またやることが別みたいだけど。


(って、ここの見回りじゃ無いのかな……?)


 それは、私がここで働く決意をしてから、正式に入社した後に、覚えれば良い、という事だった。

 なので、それについてはとりあえず、考えるのをやめておいた。


(私の頭が、追い付かないし……)


 そして、今日は仕事には入らずに、ここのメンバーと、顔合わせをするそうだ。

 今、私はアンカ室長に連れられて、明日から私が働くフロアーへ、案内されている。

 私が働くフロアーは、四階にあるらしい。


 一階は、荷物の運搬や、他色々な設備等が入っている、との事。

 二階は、メンバーの部屋や、食堂があるとの事だった。


 会社の建物と言うのは、上の方に、お偉い人の部屋があって、その下が作業フロアーだ、と聞いた事があった気もするが、ここは、そういう階の割り振りに、なっているみたいだった。

 私は、こういう所は初めてだったから、会社によって違うんだろう、と思った。


 三階は、室長室や、会議室なんかがあるそうだ。


 そして、説明を終えた私は、まず、二階にある自分の部屋に案内された。


「その荷物を、置いてこないとね」


 そう、アンカ室長に言われて、連れて行かれた。


 住み込み、という事だったから、部屋は最低限の大きさで……もしかしたら、誰かとルームシェア等になるのではないだろうか、と思っていたのだけれど……。

 案内された部屋は、とても広く、ベッドやクローゼットも既にあり、おまけに、小さいながらも、テラスまであるようだった。しかも、驚いた事に、その部屋には、私一人らしい。

 まるで、豪華ホテルの一室、そう思える部屋だった。

 行った事は、無いけれど。


 何かの間違いや、実はここと言うのは嘘で、等と疑ってしまったが、アンカ室長には真顔で、


「ここが、あなたのお部屋ですよ。……どうかしましたか?」


 などと言われた。まぁ、この室長が、実は嘘ですよー、なんて言うはずもなく。


「今は、必要なもの意外は何も無いけれど、他に必要そうなものがあったら、言って下さい。もし、他に必要な物や、欲しい物があれば、自分の給料からなら、自由に購入して良いですよ」


 そんな事まで言われてしまう。

 

(ここは、そんなにもお金がある会社なのか、……それとも、正社員とは、そういうものなのか……)


 私には、分からなかった。そもそも、これで他に必要な物って何、とも思うが。


 ただ何かを購入するにも、ここにはお店は無いので、通信で発注するから、少し時間がかかる、と言われた。


 ちなみに、お給料は1ヵ月ごとらしいが、発注した品物の代金は、お給料からの天引きらしい。

 なので、とりあえず、今日の分のお給料が出来れば、その金額分は、発注して良いそうだ。


 これまで、そんな欲しいものすらほとんど買えなかった事を考えると、待遇は物凄く良いのだろう、と思う。

 食事は朝昼晩と、自分たちで作るらしいが、それくらいは全く問題なかった。

 自分の部屋が、こんなにも贅沢そうな部屋で、本当にいいのか分からなかったので、恐る恐る、アンカ室長に聞いてみたが、他のメンバーも同じような部屋、だと言う事だった。


 荷物を、と言っても、自分の荷物はキャリーバックと、肩掛けの小さなポシェットのみだったが、私はそのキャリーバックを置いて、その自分の部屋がある二階から、業務フロアーがあると言われた、四階へ移動している。


 ちなみに余談だが、自分の部屋は、普通の鍵だった。

 予備の鍵と、メインキーと言われた、二つの鍵を渡された。

 番号は”12番”と、刻印されていた。


 業務フロアーに向かう途中に、アンカ室長にメンバーの説明を受ける。


「現メンバーは、ここには私を含めて11人、あなたを入れると、12人になります」


(え!? こんな広いお城の建物に、……たった12人だなんて。……ここなら、もっともっと、そう、百人くらい人が居ても、おかしくないのに――)


「そ、それだと、お掃除とか、……大変、ですね」


 そう答える。驚きの連続ではあるけれど、そんな中、少しは私の緊張も解れてきたみたいだ。

 ようやく、少しは、まともに会話が出来始めてきたかな、と感じる。


「ええ、それはありますね。だから掃除などは、皆で時間を決めて、毎日行っています。場所は、一日に全部は無理なので、私がその週の割り振りと場所を決めて、一週間で、ある程度、全部の所を掃除できるようにしています。これは、試験期間中でも行ってもらいますので」


「は、はい、それは、最初に聞いていたので。……でも、本当に、……広いですね」


 毎日掃除する事くらい、全く何も問題ない。ただ、ここが広すぎる事、以外は……。


「……ええ、本当は、もう少し狭いほうが良いのでしょうが。色々と、事情がありまして、現在、この規模になっています」


 そう話されるが、事情とは何だろうか。

 説明は続く。


「それから、自分の部屋は、自己責任で清掃を行ってくださいね」


 それは当然だ、と思う。それに、ただも同然でお世話になる部屋なのだ。

 出来るだけ、綺麗にはしておこう、と考える。


「これから会うメンバーは、現メンバーの4名になります」


 これから会うのであろう、メンバーの話題に移る。


「……4人。……全員、ではないんですね」


 先程の、私を含めて全員で12人、と言う事を思い出しながら聞く。


「二名は現在、巡回業務中です。そして他二名が、巡回艇のメンテナンス作業中です。残りの二名は、まだ就寝中です」


(うん……? 今何か変な単語が無かっただろうか……?)


 いや、だが、それよりも、また緊張してきた。


 これから、ここのメンバーの人達と会う。

 メンバーの人達は、どんな人達なのだろうか。

 何故か、少し歩きをゆっくりにしながら、アンカ室長が私に言う。


「先に、言っておきますが。……ここに居るメンバーは少し、……何と、言ったら良いでしょうね。……そう、クセの強い人と言えばいいでしょうか。そういった人が多いです。悪い子達ではないですが……。それには、ある意味、仕方の無い事情もあります。それは、出来れば各々のメンバーから、あなたが直接聞いて下さい」


 また、よく分からない事が、一つ出来た。

 それは、一体どういう事なのだろうか。


 そして、私は既に四階に来ている。

 四階に行くと、さすがに見晴らしが良い。

 外は、青から少し暗くなりかけていているのか、窓からの光は、少し弱くなってきているように思える。


 この建物は、元がお城の為か、上に行くほど狭くなっているようだ。

 だからなのか、四階は、ほぼ全てが、業務フロアーになるらしい。

 階段を上った先は、少しだけ通路があり、その先には、すぐに扉がある。


 扉は、どうやら金属製のようだ。

 重そうな扉だなと、思ったが、アンカ室長手をかざすと、ドアが勝手に開く。


 どうやら、ここは自動ドアのようだった。

 その重そうな扉を、手で開ける必要はなさそうだ。


「ここが、あなたが通常働く場所になります」


 そう言われ、部屋に入ると、中は結構な広さで、机がいくつか並んでいる。

 そして、そこに何人かのメンバーが居るのが、見て取れた。

 その中の一人が、こちらを見て明るい声で「あっ」と声を出す。


「お疲れ様でーす。室長ー。あー、その子がー?」


 その声で、他のメンバーもこちらを見る。


 見渡すと、今居るのは、全員が女性のようである。

 しかも、まだ若い人が多い。

 そう言えば、アンカ室長もそうだが、ミカさんも若かった。


(多分、まだ20代、……だと思う)


 だがメンバーは、ぱっと見た限り、更にそれよりも若い。

 私も、年齢だけで言えば、まだ若い方、……だと思うけれど、私よりも年下のように見える子も居る。


「皆さん、少し作業の手を止めて、こちらに来てください」


 アンカ室長のその声で、一人、こちらに来る。


 先に来たのは、最初に声を上げた女性だった。

 髪がとても長いのが印象的で、その髪のボリュームも多い。

 その為か、片目は髪で隠れて見えない。

 隠れていないもう一つの目で、こちらを見ているようだ。


 それから、残りの人も、多分切の良い所で手を止めて、来ているのだろうか。アンカ室長の呼び声を聞いた、少し後に、席を立ってこちらに集まってきた。


(1、2、3、……あれ?)


 聞いていたのは4人。一人、居ないようだ。


「セリカさんは?」


 アンカ室長がメンバーに問う。


「……あ、そういえば。……さっきまでは、居ましたけど……」


 来ていたメンバーの一人が、答える。


「では、もう上がったのですか?」

「んー、それは違うっぽいねー」


 と、先程の髪の長い女性。


「だとすると……」

「……多分、先程ので……」

「……それほどの物とは、思えませんでしたが。まぁ、分かりました」

「……はい」


 アンカ室長と受け答えをしているのは、私よりも年下に見える女性だ。

 彼女も髪が長めだ。ただ、後ろでゆったりと束ねているのか、先ほどの女性のように、顔が隠れていると言う訳では無い。


「……あの、……呼んできます……?」


 その女性が言うが、アンカ室長がすぐに答える。


「いえ、構いません。もし、そうなら、仕方ありませんから」

「……はい……」


 受け答えをしている女性は、少し、か弱そうだ。


「待たせても悪いので、進めましょう」


 もう一人の女性が答える。

 それにしても、人数は少数とはいえ、こんな風に人前に出るのは緊張する。


「そうですね。それでは紹介します。今朝にもお話ししましたが、今日より新しい仲間が増えることになりました。アカリ・アオノさんです。これより二週間、試験期間受ける事になる予定です」


 アンカ室長から紹介される。

 私は背筋を伸ばした。

 けれど、あまり皆の反応は無い。


(あまり、歓迎されていないのだろうか……)


 不安に思っていると、アンカ室長から言われる。


「ではアカリさん、自己紹介をして下さい」

(……あ、自己紹介! そっか)


 私は、アンカ室長に促され、前に出る。

 心臓がドキドキしている。


「あ、アカリ・アオノです! えっと、……よ、よく分からない事も、……そ、その、お、多くて、ご、ご迷惑をおかけするかもですが、えっと、これから、よろしくお願いします!」


 ペコリと、深くお辞儀をする。

 お辞儀をしていた時間は、長く感じた。

 しかし、その時に、パチパチと手を叩く音が聞こえ始める。

 少しずつ、顔を上げると、先ほどの髪の長い女性と目が合った。

 彼女は、笑った顔で拍手をしてくれていた。

 そしてよく見ていくと、その隣で、先ほど受け答えをしていた女性が、その少し後ろでは先を促してくれた女性が拍手してくれている。


 私は、それだけで涙が出そうになった。

 もう一度お辞儀し、少しだけほっとする。


 次に顔を上げると、その髪の長い女性が目の前に居た。


「いやー、私より若いよー、かわいいよー。いいねー。よろしくねー」


 その言葉は、嬉しいが、ちょっと恥ずかしい。


 容姿のわりに、とても気さくな人のようだった。

 皆の拍手が終わると、アンカ室長が言った。


「では皆さん、アカリさんに、これからここの事を教えてあげて下さいね。本格的な業務は、明日からの予定ですので。それでは、皆さんは仕事に戻ってください。あ、ミランダ。あなたはもういいかしら?」

「もちろんですよー」


 どうやらこの髪の長い女性のことらしい。


 ミランダさん、という人と、アンカ室長を残して、皆席に戻っていく。そして、アンカ室長がその人を紹介してくれる。


「先に紹介します。彼女はここの主任で、これから、あなたの指導をしていく指導員になります」


 ああ、なるほど、と思うと同時に少し嬉しくも思った。

 そして、遅れて私は言う。


「……あ、よ、よろしくお願いします!」

「んー、んー。よろしくねー」


 明るい声で、返事をされる。


 アンカ室長も悪い人ではない。いや、良い人なのだろうな、とは思うけれど、表情が見て取れないので、どうしても、少し緊張してしまう。

 だが、その点、このミランダさんなら、もっと気軽に話しが出来そうな気がした。


「わたしが指導員かー。いやー、久しぶりだっけかなー? ねー、室長ー?」


 そう言う、ミランダさんの事には答えず、アンカ室長が聞く。


「ミランダ、あなたの今日のノルマは、終わっていますか?」

「今日は奮発しましたよー。もちろん終わってますよー」


(奮発って、……どういう)


 私はつい、言いそうになってしまった。


「いつも、そうなら良いのですけど。……あと、先程のあれは?」

「んー、一応はねー、さっきでー、終わったと思ってるんですけどねー」

「展開は?」

「それはー、終わってますよー」


 何か、先程あったのあろうか。私には分からない。


「わかりました。確認します。後はこちらで行いますから。では、ちゃんと指導してあげて下さいね」

「もちろんですってー。久しぶりの新人さんだしー、しっかり教えてあげますってー」


 どうやら、このミランダ主任は、私が先程感じた通ように、ちょっとノリが軽い人のようである。


「では、この後の事も、頼んでいいかしら?」

「はいはいー。ちゃーんと教えますよー」


 ミランダさんはとても軽そうに答えるが、アンカ室長はそれに頷く。


「はい。では、よろしくお願いします。アカリさん。それでは、今後は、このミランダ主任から、ここの事を教えてもらってください。試験期間中、分からない事があれば、ミランダ主任に相談するように。また、何かあれば”ホウレンソウ”は必ずして下さい。今日は業務は行わず、このミランダ主任に、ここを案内してもらって下さい。」

「しつちょー、それー、言わんといてー」


(ホウレンソウ? どこかで聞いたことがあるような。……確かそういう食材が。……じゃない!)


 どうやら、ここからは本格的に、このミランダ主任に、ついていく事になるようだ。


(というか、何を、言わんといて……?)


「では、アカリさん、私はまだ、業務が残っているので、室長室に戻りますね。……あ、ミランダ」


 少し、アンカ室長が神妙な声色になり、言う。


「……あれは、出来るだけ抑えて下さい」

「……そですねー」


 何の事だろうか。何かとんでもない事でも、やらされるのだろうか、と不安になる。

 少し間をおいて、アンカ室長が、また普通の声色で言う。


「では、ミランダ、後はよろしくね」

「了解でーす」


 「では」と言って、アンカ室長は部屋から出て行ってしまった。

 そして改めて、ミランダ主任が言う。


「んじゃー、改めて、宜しくねー、アカリちゃんー」

「は、はい! 宜しくお願いします! ミランダ主任!」


 少し緊張は解れてきて、私は元気良く答える。


「あー、……その前にさー、その主任って言うのはー、ちょっと止めて欲しいんだー。ミランダ、でいいからー」


 いや、でも、そう言われても……

 主任と紹介された以上、呼び捨てには出来ないし……

 ……じゃあ、と、私は答える。


「……えっと、では、ミランダさん、で、良い、でしょうか……?」

「うんー。その方が良いかなー。ホントはー、”さん”もなくても良いけどー。まぁ、それでも良いかなー。まー、他にもー、そう呼んでる人も居るしねー。さんー、てねー。でも、しー、は駄目だからねー。いや、駄目じゃないけどー。ミランダ氏ーて。いや、それ違うしーって。でもさー、しゅにんーって呼ばれてもー、私は反応できないよー? いやー、参るねー。そんなの付けないで欲しいよねー。って、あー、そういえばー」


 少し間延びしたような口調に、マシンガンのように、発言が連打される。

 そして思い出したように、ミランダ主任、いや、ミランダさんが言う。


「ちゃんと自己紹介してなかったねー。私、〝ミランダ・クエイサー〟。一応、私、主任って言われてるんだけどさー、出来ればそんなの嫌だったんだけどさー。だからー、しゅんにんー、とか呼ばれてもー、私、反応できないよー?」

「はぁ……」


 自己紹介してくれたのは嬉しいが、その後の発言で、正直何と言って良いか分からない。

 ともあれ、主任と呼ばれるのは、嫌がっている事だけは理解する。


「まぁ給料は上がるからー。それだけは良いけどねー。アカリちゃんがー、早く私を追い抜いてってくれれば良いかなー。あー、でもー、人に物を教えるのは嫌いじゃないからー、安心してねー」


 入ったばかり、しかもまだ試験期間が始まったばかりで、追い抜いて、と言われても困るが、それぐらいの気概は必要なのかもしれない。

 そう思いつつ、私は答える。


「は、はぁ。……あの、それで、これから何を行うんでしょうか?」


 聞いた後に、思い出す。


(あ、確かさっき、アンカ室長が――)


「んー、とりあえずはここの案内だねー。まずは、ここの城の中を覚えてもらわないといけないからねー。迷ったりしても困るでしょー?」


 私が、アンカ室長が言っていた事を忘れていた事は、何も触れずに、ミランダさんは説明してくれる。そしてやはりと、思う。


(……あ、やっぱり〝お城〟なんだ)


 それにしても、迷うほど広いとは。しっかりと覚えなければ、と気を引き締める。


「はい! 宜しくお願いします!」


 なんだか、そればかり言っているような気もしたが、今は、それしか言えることは無い。


「よーし、じゃー、まずー、ここのフロアーからだねー」


 そう言って、ミランダさんは後ろを見る。


「ここが普段ねー、皆が仕事をするフロアーねー。四階にあるからー、〝四階フロアー〟とか、一番大きいフロアーだから、〝大フロアー〟とか皆呼んでるんだけど、それがここ。出勤して初めに来るのもここになるからねー。だから明日も迷わないようにここに来てねー」

「は、はい!」


 とは答えるが、ここに来るまでを思い出しても――


 このフロアーは、四階に来れば目の前だ。

 四階に、ちゃんと来る事ができれば、迷う事は無いはずだ、と思う。


「んじゃー、こっちに来てー」


 ミランダさんが、フロアーの奥へ歩いていく。

 まだ他のメンバーは、仕事をしているようだ。

 ミランダさんは、他のメンバーの机の横の通路を、歩いていく。

 私は、ミランダさんの後をついていきながら、作業をしているメンバーをチラッと見る。


 皆、と言っても二人だけだが、モニターを見ながら、端末を動かしている。そのうちの一人が私のほうを少し見た。

 作業の邪魔になったのだろうか、と心配するが、その女性がこちらを見てニコッと笑う。

 先ほど、アンカ室長と話をしていた女性だ。

 私もつられて、少し笑って、軽くお辞儀する。

 女性もそれを見て、少しお辞儀をしてくれて、また作業に戻った。


 前を向くと、ミランダさんがこっちこっちと言うように、私を見ていた。

 少し早歩きして、ミランダさんの所へ行くと、手を机の方へ向けて私に言う。


「ここがー、アカリちゃんの机、ね」


 周りに気を使ってか、少し声のトーンを落として、ミランダさんが説明する。


「私の机は、隣のここね。アカリちゃんは、私の隣だから」


 見ると、綺麗に整理された、少し大きめの机がある。


(大きめ……? いや、明らかにでかい……)


 机の上には電子端末と、未開封のメモ帳や筆記用具、あと、いくつかの仕事で使うのであろう物が、綺麗に並べておいてあった。

 それによく見ると、私の名前のシールが、机の隅に貼ってある。


〝アカリ・アオノ〟


(……ああ、私はこれから、ここで働くんだ)


 実感が湧いてくる。


 机は皆、入ってきた入り口の方を向いており、一様に、私の机と言われた所に置かれている物と同じ、電子端末が置いてある。


 隣の机、つまりは、ミランダさんの席となる所は、物が少し、雑多に積んであるようだ。

 ちょっと、いや大分、散らかっている、と言っていい。

 おまけに、ぬいぐるみや、よく分からない物も置いてある。


 私はもう一度、私の机と言われた、目の前の場所を見る。

 私の机は、扉からは一番奥辺り、つまりは一番後ろ、と言う事になる場所にある。そこは、端の席でその横は窓から、外が良く見える。

 だが、一番後ろと言っても、そこまでしか机が無いだけで、まだ、後ろにも、空間の余地は十分にあるようだ。


 窓際は、おそらく業務で使う物でも、入れているのであろう、棚が、並べられていた。

 感嘆するように、回りを見ていた私に、ミランダさんが言う。


「明日は時間になったらここに着てね。あとー、これはもう、アカリちゃんの物だから、好きに使ってね」


 未開封の筆記用具や新品のメモ帳、そして電子端末から、他にもろもろ。


(こんなに用意してくれてるんだ……)


 そう感じながら、小さな声で答える。


「はい。でも、もう、こんなに用意して頂いてるんですね……」

「まーね。こういう所はちゃんとしてるんだ。ここ」


 その辺は、ミランダさんもまんざらでは無いようだ。


「まぁ、今日は、場所だけ覚えといて。明日、この辺どう使うかとかも、教えるから。皆、まだ仕事してるから。悪いけどここは、ここまででー、次の場所を案内するから、着いてきて」


 そう言って、小声でミランダさんは次に促す。

 来た通路を戻り、フロアーから出る。

 私は、フロアーから出る時に、もう一度中を少し見渡す。二人が黙々と業務をしているのが、遠目で見えていた。


 部屋を出て、ドアが閉まると、ミランダさんが背伸びしながら言う。


「んー。今日はー、折角アカリちゃんが来てくれた日だって、言うのにさー。急な業務でー、皆、急いでいてねー。普段は、もう少し皆、話したりするんだけどねー」


 と言う事は、忙しい中、皆私の為に集まってくれたり、ミランダさんに至っては、私の指導(まぁ、ここの案内なのだが)をしてくれている、と言う事になる。

 そう考えると、申し訳無いように思えてしまい、ミランダさんに言う。


「……そうなんですね。……じゃあ、ミランダさんも忙しいんじゃ……」

「いやー、私は一応、今日のノルマは終わってるからねー。まー、多分、大丈夫だよー。それにー、これも大事な仕事だよー。ちゃーんと、アカリちゃんが、ここを覚えてくれないとねー。それも指導員って言われたー、私の仕事でも、あるわけだしねー」


 その言葉で、私は少しほっとする。


「そんな訳だからー、他の人の紹介とか、今はちょっと無理だけどー、後でちゃんと紹介するからねー」


 ミランダさんは、少し辺りを見る素振りをする。


「あと、ここの階にあるのはー、小会議室とお手洗いねー。えーと、まずあそこがねー、小会議室で、あの奥がお手洗いだよー」


 そう言われて、見た先は、確かにそれらしき入り口や、ドアがある。

 ただ、もう一つ、ドアがあるのも見える。


「……あの、もう一つのあそこは……?」


 そう聞くと、ミランダさんが苦笑しながら言う。


「なははー、そうだった、そうだったー。あそこは物置ねー。まー、あんまり使わないからさー。特に私は、あんまり行かないしねー。まー、仕事中にー、物置って言われたら、大体あそこだからー」


 どうやら、四階はこれで全部のようだ。

 ここに来る時に乗った、エレベーターが通路の奥にあり、その横に階段が見える。

 先程は、その階段を上ってきた。

 そして、この大きい扉が、仕事をするフロアーで、その先に小会議室、物置、お手洗いだ。

 途中から、メモ帳を手にしたのだが、ここまで、メモしないと覚えれなさそうな事は無かったので、特に何も書いていない。

 ただ、手にして、何も書かないのもあまり良い気がしなかったので、メモ帳に〝四階、四階フロアー、小会議室、物置、手洗い〟とメモをする。

 あまり、意味がないようなメモに、なってしまったかもしれない。私がメモをするのを終えたすぐに後に、ミランダさんが言う。


「じゃあ次行こうかー」


「はい」


 そして、階段のほうへ歩いていく。

 ふと外を見ると、青い景色が広がっている。



 少し、暗くなりかけていた海が、綺麗だった。



お読みいただき有難うございますm(__)m

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