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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
34/135

【三日目】 初日の出来事

 端末の説明が終わる頃に、チュンさんとセリカさんが戻ってきた。

 お昼当番の時は、お昼休みは《13:15》から《14:30》だそうだ。


 二人ずつで、順番にその当番は回るらしいが、アンカ室長だけは、その日その日で違うらしい。


 じゃあ当番の時は大変だな、と思いミランダさんに聞いたが、実はそうでもないらしい。


「んー、忙しくないとねー、ノルマ終わってれば、そこで終わりに出来るんだよねー。だから落ち着いてる時とかはー、逆にそっちのが楽だねー」


 との事だった。


 ただ巡回だけはどうしようもないらしく、《15:00》まではほぼ確実にかかるらしい。


「でー、セリカっちー、結局そっちも巡回待ちになっちゃったんだよねー」

「ええ、そうなのよ。だから3時までは別の事をやっておくわ」


 と言うわけで、しばらくは私はその教えられた端末を練習していた。

 ミランダさんとユウカさんも手が空いているらしく、時間は少なかったが、色々教えてもらえた。

 チュンさんはセリカさんの手伝いをしているとの事で、それはその二人で事足りるとの事であった。

 

 そして《15:00》を過ぎたすぐ頃に、メイちゃんとエレナさんが戻ってきた。


「…………あ、今戻りました」

「なーんにも無かったよー」


 二人がそれぞれそう言う。


「じゃあ巡回で収集してきた物は今プラン達の方で?」

「……あ、はい。すぐに管理室に入れておいてくれるそうです」

「そう。ではそのデータももう来る頃ね」

「…………あ、ではこちらは巡回報告書を作ります」


 セリカさんと、メイちゃんのやり取りの後、巡回待ちだった、セリカさん、ユウカさん、ミランダさんは席に戻り、端末に集中する。


 戻ってきた、メイちゃんと、エレナさんも端末で先程言っていた、巡回報告書なるものを作るのか、作業を始めた。が、すぐにミランダさんが言う。


「あー…………こりゃ駄目だわー。なーんも変わらんよー。資料化も無駄やねー」

「そうですね…………これでは調べようも…………」


 ユウカさんも同意のようだ。

 セリカさんだけ、何やら色々やっている。私は内容がまだ分からない。けれどふと思い出す。


 私は、私が何を分からないのかを、ミランダさんに説明して、ちゃんと聞いていない。


「…………あ、あのミランダさん」

「んー、なーに? アカリちゃん」

「あの、今ここではどのような状況なのですか? 皆さんが色々調べている事や、私が初めてここに来たときに皆さんが忙しかった事も関係しているのですか? 巡回で、何を、その待っていたのですか? えと、私まだ分からない事だらけで……」


 まずは、それが多少なりとも分かってからでないと、そして自分が何が分かっていないのか、何を知りたいのかを伝えないとちゃんと教えてはもらえない。


「あー、一気に来たねー。うんー。まー全部説明し始めると時間かかりそうだけどー。まーこれが結構大変でねー。というかーややこしいというかー。”ブルー”の”ひずみ”の事はもう聞いたでしょ? で、それを調べて研究してその結果を送るのがここの仕事。

んでねー、それがねー。今回ちょっと面倒なんだよねー」


「アカリ、あなたがはじめてここに来たときにね、その午前中にここで大きなひずみが発生したわ。

それなりに大きくて大変ではあったのだけどね。今まででもその大きさ自体は、何度かあったから、そこは今問題になっていることではないんだ。

まぁ、アカリが来た時にあの大きさだったから、その時はみんな忙しかったのは仕方なかったと思うけれど」


 ミランダさんが話し始め、ユウカさんが追加説明をしてくれる。


「そう、今問題はその後の事」


 いつの間にかセリカさんがこちらに来ていた。


「セリカっち、結局そのまま本部に転送する事にしたんだー」

「ええ、残念だけれど、もう後は他の支部にも展開してもらって、本部でまとめ上げた情報待ちになるわね。今アンカが転送しているはずよ。でも本部がちゃんと見てくれればね…………」

「私は本部に正直うまく伝わるか心配だよ」


そう言い、セリカさんを手伝っていたチュンさんも来る。


「資料じゃ、ほぼ全部一緒だもんねー…………」


ミランダさんが嘆き、セリカさんが説明を引き継ぐ。


「それであなたが来たときのひずみは大きさ自体は珍しい物では無かった。

けれど問題はそのひずみが一度治まった後、再度そこに発生した事ね。

ユウカには他の支部の情報にも探りを入れてもらったけれど、そういった情報は無かったわ。近い物ならあったようだけれど、検証結果はまったくの別物だった。

だから、ひずみが治まってそこの区域の情報を得られるだけ、かき集めたのだけれど、結局は現状ここでは結論は出なかったわ。

巡回では、そのひずみが発生した場所の、海水、といっていいのかしら、それを収集してきたのよ。けれど、何故ひずみがまったく同じで再発したのか、そこがわからない……。いえ、でも、あれはそもそも……………………」


「私も、今の情報だけだと、調べれる所は調べつくてしまいました」


 ユウカさんも嘆くように言う。


「私はーその資料化をしようとしてたんだけどねー。こんなの初めてだからねー。どう資料化したもんかとねー…………発生時間が違う事以外、結局なんにもわかってないからねー。

昨日作った資料と同じになりそうだからつくってないわー。で、結局昨日のまま行ったのかねー。セリカっち?」


「…………え、ああ、ええ。それと一応私からも報告書。……ちゃんとトシオまで回ればいいけれど……」

「ただの、時間の間違えの二重ミスって思われなきゃいいんだけどねー……」

「ちゃんとした何かの違いの結果が欲しかったわ。……けれど結局証明できたのは、時刻だけ。でも……あれは……」


 何やらセリカさんは悩んでいる。そして、説明してもらっていたはずが、何やらもうミーティングのようになってきていた。


「……せめて、あの時、私がもっと近くで収集出来ていれば…………」

「駄目よ。あの時だって、あれがぎりぎりだったらしいじゃないの」

「ユウカはもう少し、巡回の際に危機感を持った方がいいぞ」

「……で、ですが――」

「ねー、こっちの巡回報告書終わったんですけどー」


 エレナさんが自分の席からこちらに報告する。


「あ、確認するわ」


 そう答え、セリカさんは席に戻る。


「あー、んー、そうなるよねー…………いや、わかるけどー」


 納得しつつも、残念そうにミランダさんは呟いている。


「……あ、こちらも、今終わりました」

「ちょっと……エレナ。これだけ? ……………………………………と言っても、そうよね…………」


 報告書をみたらしきセリカさんが、少し文句を言いかけるが納得する。


「……あー……メイちゃんも………………似たようなもんかー…………まー、しゃないよねー」

「確かに。書き方は違うけれど……………………要約すると同じ事ね………………」

「…………では、後は本部の連絡待ちですか?」

「そうなるわね」

「じゃー、今日はこれで上がりでいいかなー?」

「そうね。もうこの時間なら問題ないはず。どうせ本部からの情報も2、3日かかるでしょうしね」

「では今日はこれで、後処理をして、終わるか」


 どうやら、みんなこれで今日は上がりのようだ。皆一度席に戻っていく。


「あー、そうだ、アカリちゃん」


 気がついた、というようにミランダさんが言う。


「あ、はい」

「今日の日報、っていうか昨日もだねー。いつも終わるときはそれやってから上がるんだよー」

「え? 日報……ですか?」

「うんー。ま、簡単だけどねー」

「アカリ、さっきちょっと練習したでしょ? あれで今日、何をやったかを書くだけよ」


 ユウカさんが補足する。


「日報の場所はー、あー、これ、ここに書いてけばいいよー」


 その説明を聞いている際にセリカさんが来る。


「私は、アンカの所に行ってくるわ。ミランダ、今何処にいるの?」

「通信室だねー」

「そう、それじゃ」


 そう言って、セリカさんは部屋を出て行った。


「私も終わったから上がちゃいますよー。お先ですぅー」


 そう言いながら、エレナさんも部屋を出て行った。


「私も上がるから」


 ユウカさんも終わったらしい。


「…………あ、私もです」


 メイちゃんも終わったようだ。


「じゃあ、おつかれさま」

「…………あ、お疲れ様です、お先に失礼します」


 そのしばらく後にチュンさんも席を立ちこちらに来る。


「ああ、お疲れ。さて、私も終わった。ミランダ、アカリの日報はどうだ?」

「んー、もうちょっとだねー」

「す、すみません、遅くなってて…………」


 ミランダさんとチュンさんはどうやら今日は私を待っていてくれているようだ。


「んー、まー、でも日報自体は室長が見るからー」

「昨日の分もあるんだろ?まだかかるんじゃないのか?」

「いやー、それがそうでもないんだなー」

「…………あ、えと、これでいいですか?」

「んーどれどれ、んーそうそう。これでいいよー」

「ほう、ずいぶん早いな。私は初めての頃はずいぶんかかったのだが…………日報は誰かさんのように毎日書いていないと、後が大変だし、なにより、正確でなくなる。今後は毎日終わるときに書くようにするんだ」


「…………あー。まー、たいへんなのかなーー…………?」


 他人のように答えているが…………誰かさんとは…………ミランダさんのようだ。


「じゃー、これでみんな上がりだねー」

「そうだな。で、これからどうする?」

「そうだねー…………って……………………あ、あ、あ、ああああああああーーーーーー!!!」

「ぬおっ!?」

「…………っ!? ど、どうしたんですか? ミランダさん」


 突然声を上げるミランダさん。そしてニコーっと笑ってこちらに言ってくる。


「ねーねー。アッカリちゃーん、この後時間あるー? あるよねー、ねー?」

「…………え、あ、はい。……ある……と思いますけれど……」

「いきなり大声だすなよ………………驚くじゃないか…………」

「あの……どうしたんですか?」

「ムフフフフー。お楽しみが残ってたじゃ、あーりませんかー」

「ん? なんだ? 何かあったか?」

「ほらーチュン、あれ、あそこ、あそこだよー。」

「………………あ、あ? ……ん? あー、なるほど、ご――」

「それ以上はらめええええーっ!」

「らぅお! ………………あ、ああ、わかった、分かってるって…………」


(……今、チュンさんが言おうとしたのって…………もしかして、ごら――)


「ほらいくよー! いきますよー! 遂に行くっちゃー! ほらほら、アーカリちゃん、端末消して、準備してー。さあさあ、ほらほらー」


 そうミランダさんに急かされ、私は端末を消し、ポシェットを肩に掛ける。


「私もいくかな。今日は他に予定もないし」

「じゃー三人でー天国へー、れっつらごー!」


 ミランダさんはとても楽しそうだ。多分、あそこ。初日に禁止された所。

 三人でフロアーを出る。


 これで四階フロアーには誰も居なくなった。


 エレベーターで、二階まで降りる。本当なら、階段でもたいした事は無いのだけれど、ミランダさん自身から、その事を説明された。


「いやー、私ねー。階段ぶっちゃけ苦手なんだよねー。いちおー、大丈夫は大丈夫なんだけどー……」

「上りのときはまだいいが、降りは大変だそうだ」

「そーそー。足、踏み外して、落っこちそうになっちゃうんだよねー」


 笑いながらミランダさんは言うが、致し方ない事だろうと思う。誰もそれは責められない。

 初めてここをミランダさんに案内された時も、今日、会議室に降りる時も、階段を降りるときはとても ゆっくりだった事を思い出す。

 やはり、不便なのであろう。


 今の…………私には、その辛さは、分からない。


お読み頂き、有難うございます。



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