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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
33/135

【三日目】 〝電子端末〟


 その後、私は急いで、四階フロアーに向かった。フロアーに入ると、既にもう皆居た。


(もしかして……遅刻した?)


 -ボーン……ボーン……ボーン-


 午後の始業の時間を知らせているのであろう、鐘が鳴る。


(…………あ、よかった、間に合った)


 危なかった、と思いつつ、まだ午後に何をやるのか教えてもらった事に気付く。そして、その鐘が鳴った後、セリカさんとチュンさんは席を立った。


「じゃあ、あとよろしくな。あ、アカリ、ぎりぎりだぞ?」

「……はい、気をつけます」

「行くわよ、チュン」


 そして二人はこれから食事だろう、部屋を出て行った。じゃあ、仕事を、と思ったが、何をやるのかと思い直す。同時に、午前にアンカ室長に教わった事を思い出す。


〈アカリはさ、その相談がちゃんとできてないんだよ。だから、計画もちゃんと立てれない〉


 そうユウカさんにも教えてもらったはずだ。私にはまだ、ここで次に何をやるべきか、その予測は立てれない。そんな経験は無い。だから、相談しないといけない。指導員である、ミランダさんに、相談しようと思い、ミランダさんを見る。


(……その日の計画を立てて……それをメモ帳に書いて……)


 そう答えたのを思い出す。メモ帳には、今日の予定は書いていない。そして、ミランダさんに、相談しようとミランダさんの側に寄る。

 ミランダさんは、真面目な顔をしているが、モニターを見ているのか、それとも考え事でもしているのか。しかし体は動いていない。


 ミランダさんだけ時が止まっているように見える。


 しかし、私も、相談しないと始まらない。


「……あの、ミランダさん」


 そう聞くと、今気がついた、と言う風にミランダさんがこちらを向き答える。


「ああー、アカリちゃんー。ああーそうだねー。午後の仕事だねー。って言ってもねー…………んー」

「あの……? どうかしたんですか……?」

「んー……結局さー、セリカっちも巡回結果待ちになっちゃったっぽくてねー。メイちゃん達が帰って来るまでは、正直あんま無いんだよねー」

「私も、今の状態では、正直先に進めれません」


 前からユウカさんがミランダさんに言う。


「よーし、じゃーもー今日はこれでお開きにー――」

「まだ、食事中の方たちも居ますが……」

「う………うー、そうだわねー。ってもねー、これじゃーねー」

「では、その間はアカリにこの端末のことでも教えてやってはどうですか?」

「んー? あれー? でも昨日一応、資料はちゃんと出来てたしー……」

「ですが、アカリはこの端末は初めてですよ?」

「んー? えー? そうだっけー? でもー、似たようなのあるじゃんー」

「……え……あ……はい…………そうです…………初めてで……」


 私は答える。


「ありゃー? そうだったのー? それにしちゃー、出来てたっぽいけどー…………」

「ミランダさん……昨日、私が、アカリに、キーワードを私が教えてた所、見てませんね…………」

「んー、ちゃんと出来てたよー?」

「…………最終の資料しか見てませんね……」

「…………えー? っとー……んー……そう、かなー? で、でもそれまではちゃんと見てたよー? ちゃんと操作は出来てたしー……」

「アカリの操作の仕方は古い端末の物でした。はぁ……それを教えたつもりだったんですが……」

「あ…………あー、な、なるほどねー。なんだ、そういうことだったんだー」

「はぁ…………だからキーワードを入れるのにあれだけ時間がかかったんですよ…………」


 確かに、ユウカさんに教えてもらったやり方は初めてだった。いやそれどころか、この端末自体ここに来て初めて触る。

 私が知っているのは、もっと古い端末だ。だから資料室の古い端末は操作がなんとか出来た。

 最初の作業自体は、古い端末と操作の仕方がそこまでの違いが無かった。だから、なんとかやれていた。

 だが、キーワードを入れる所は、まったく違う感じだった。ユウカさんに違うやり方を教えてもらって、なんとか出来るには出来たけのだが……。


「……えーっと、も、もしかしてー、アカリちゃん、この端末は初めてだった…………?」


……改めまして、……と言う風にミランダさんが聞いてくる。


「……は、はい。私が知っている端末は……もっとこう…………あ、資料室の所にあった端末が……近いような…………?」

「アカリ。そういう事は、先にもっとちゃんと言わないと。特に、ミランダさんは、こう言う事は勝手に…………なんでか……出来てしまう人だから」

「えー、使えば勝手に覚えるしー。なんとなくわからないかなー?」

「……普通は出来ませんよ……」


 そう、ユウカさんに言われる。


(……そしてミランダさんは……使えば……え? ……どゆこと?)


「ミランダさんは……特にこういう機械系の操作なんかは、何故かすぐに理解しちゃうんだよ。……大体、あの洗濯機だって、最初はミランダさんしか分からなかったじゃないですか……」

「……んー? …………そうだったけー?」

「それに娯楽室のあれも――」

「わーーーっ! ユウカちんそっちは禁止ーー!」

「………………まぁ、そういうのはここの誰より一番に理解するんだよ。…………室長よりも、セリカさんよりも、普段機械を扱ってる、プランさんやリさんよりも…………」


 多分ミランダさんは、こういう機械類は、自分で勝手に分かってしまう、ということらしい。所謂、機械類の操作は、天才肌、とでも言えばいいのか。


「で、でもさー、それだったらー、資料室の端末はわかるんでしょー? じゃーこっちの端末も簡単じゃー……」

「…………それ、ミランダさんだけです……多分」


(………………はい。…………私、資料室のも詳しくはわかりません…………)


「だから、アカリ、そういう事はちゃんと説明しないと。……そうしないとちゃんと教えてもらえないよ?」


 心を読み透かされたかのようにユウカさんから言われる。


「じゃーアカリちゃんって、知ってる端末はなんだったのー?」

「え、あ、えと……ここにはあるような物じゃなくて…………あ、そうだ、そう言えば…………確か…………ホログラ…………なんとか…………えと、確か…………ホログリ? …………そ、それが出た時の、その最初の物だって、聞きました」

「「……………………え…………?」」

(あ、あれ? …………何か変な事を言ってしまったのだろうか…………)


 ミランダさんとユウカさんが揃って、声を上げる。


「い、いや…………た、確かに、操作の感じは…………その古い…………う、うん、そう言われれば……そうだったかも。…………………………え? …………なのに…………?」

「あ、あー……うんー。あー、なるほどねー……」


 ユウカさんは信じられない、と言った感じで、ミランダさんはちょっと納得、と言った感じで言ってくる。


「あ、アカリ、ちゃんと教えて欲しいんだけど……アカリが使った事がある端末って、…………それだけ…………なんだよね?」

「………………え、あ、はい。……そのアルバイトをしていた所で…………えと、半年くらい…………あ、でも、実際に触らせてもらえたのは、…………その……何回か…………」

「は、半年ー!? す、すうかい!!? …………み、ミランダさん並…………かも…………」


 ユウカさんが驚きの声を上げている。


「んー、まー、でも、それなら分かるかもねー……」


 ユウカさんは唖然とし、ミランダさんは、うん、納得。といった感じである。

 私も実際、そう、……それくらい……だった、と思い出す。


「………………じゃ、じゃあ、ちゃんと教えればもっと……」


 まだ、ユウカさんは驚いた感じだ。


(でもじゃあ……ちゃんと教えてくれる…………のかな…………?)


「……と、とにかく、ミランダさん、アカリがここの端末……い、いや資料室の端末すら初めてだって分かりましたよね…………?」

「んー。そうだわねー。ならー、すぐ出来るようになるねー。あ、それならー、私も楽になるかーー」


 と、ユウカさんとミランダさん。


「んじゃー、そうだねー。時間もあるしー、最初から説明しよっかー」


 どうやら、この端末の事を教えてもらえるようだ。


「い、いやその前に…………コホン…………アカリはさ、何を、どれぐらい、知ってるの?」


(……え? 何を……? あ、この端末……かな……?)


「あ、えと……昔……沢山の人達が持っていた、その、今のこの端末のような物は、何故か使えなくなって……えと、それでこの新しいのが開発されて……えと……それから、この端末が……あ、でもとても高かったから、ほとんどの人達が買えなかったって。それでも、良くなってるのはもっと高性能になってるらしい…………って聞いたかも…………しれません」

「で、アカリが使った事があるって言ってるのは、”ホログリン”の初期型、って事……?」

「あ、そういえば、その”ホログリン”って言ってたような……あれ? でもホログラ……なんとかって言うのも聞いた気が…………」

「んー大体分かったよー。で、アカリちゃんは、ホログリンの初期型しか触った事がない、とー」

「……えと、確か……そう、だったと……それ以外の端末は……見た事があるだけで触った事は無くって……」

「んーんー、わかってきたよー。なーるほど」


 なにかしら満足そうに答えるミランダさん。


「……アカリ、そういう事は、最初に説明してね……」


 少し神妙そうにユウカさんが言う。そしてその後にミランダさんが説明を始めた。


「よーし、じゃあいくよー? まー、昔のはー、ん、おいとこー。そっちは長くなるしねー。アカリちゃんが使ってたってやつがねー。その昔のやつに代わる、初めての物でねー。”ホログラフィートゥイグリンジンノー”ってやつだねー。まー、今はもー、”ホログリン”で呼ぶ人しか居ないけどねー。まーでも、周りにゃあんま無いからねー。その上、別の物までいっぱい出来てきたから、まとめて”電子端末”って呼ぶ人が多いんかねー? 私んとこはそうだったけどー……」

「私のとこも似たような物です」


 ユウカさんは同意する。


「……あ、私もそのホロ…………グリン? ですか。アルバイトの所で聞いただけで、他の人は電子端末と言ってました。あと……あれ……? なんだっけ…………?」

「んー、まー地域によっても呼び方違うっぽいねー。まー、それもおいとこー。んでー、ここにあるのは、”ホログリン”だけど”ホログリン”じゃないんだなー。これが」

「え? ど、どゆことですか…………?」

「んー。一応ねー、”ホログリン”を基にしてあるらしいんだけどねー。ここの会社で開発したんだってさー。んだからー、正式名称は…………えーっと…………あー、そうそうー。

”ホログラフィートウイシキミチコエフ…………グリンジンノーサンシキ”

…………とかいう長ったらしいー名前なんだよねー。呼びにくいっしょー?」


(…………確かに………………長い…………なんでそんな名前に…………?)


「で、さっき言ったみたいにさー、皆呼び方も違ってねー。んだから、ここじゃもう皆、”端末”ーって呼んでるねー。あ、ちなみにねー資料室のは、その”ベータバン”ってやつらしいねー。ここにあるのより、大分前に作ったやつらしいんだわー。使い勝手は割と”ホログリン”に似てる感じだねー。まー、それも面倒だし、どうせ資料室にしかないからねー。”資料室の端末”ーって言ってるねー、皆。

あと、ここの端末はー、なんかちょっと前、出回ったやつに操作性が近いらしいよー。だからー、アカリちゃんそっちを知ってると思ってたよー」

「…………す、すみません、そちらも…………わかりません……」

「アカリは、そのホログリンの初期型以外は…………どんなのを見た事あるんだ?」


 そうユウカさんが聞いてくる。


「え、どんなのを…………ですか…………? えと、一度……こう、持ち歩いて使ってるのを…………あれも……なのかな……? …………あ、そういえば病院で、もっとこれより大きな、モニターの……何か板がある物を……」

「あー、なるほどねー。持ち歩いてたってのはー、……え!? それー、よほどの金持ちなんかね……? それ最新の上に超がつく、高価な持ち歩き型のホログリンエスフォーだろーねー。あれって去年外国で出たんじゃなかったっけー…………?」

「え……と、多分そうなんだと思います…………? ……あ、持ってた人は……多分……あの、ここの社長さんです」


 一度、会ったときに確かそういうのを持っていたと、記憶している。


「げ、ミカさん、なーんも言って無いしー! 聞いて無いシーーー! 私もほしーーーのにーーーー」

「……いや、ミランダさんの方の物が高いですよ…………多分…………」


ミランダさんの発言に、ユウカさんが突っ込む。多分、ミランダさんが見えるようにしてもらってる機械のことだろう。


「……うーー、そーかもーだけどー。…………あー、あとアカリちゃんが病院で見たってやつは別のやつねー。”ホログリン”じゃないやつ。まー、”イルミーシキ”系のやつは”ホログリン”より安いしー、種類もいっぱいあるから、どれかはわからないけどー。まー病院って事はー、業務用だろうねー」

「あ、はい。ずいぶんわかりました」


(…………メモメモ…………)


「……あ、あのミランダさん、操作の仕方とかってそれぞれ違うんですか?」

「んー、違うものもあるみたいねー。まーここのやつは基本操作は大体”ホログリン”系だからー。あー、……セリカっちのだけ違うねー」


 ミランダさんにそう言われ、私はセリカさんの席を見る。

 確かに、セリカさんの机の物だけ皆とは違うようだ。というか、同じ物も何個もある上に、違うものもいっぱいある。だからあの広さでも…………。ちなみに今もモニターはつけっぱなし。


「あそこだけー、昔のからー、今の”イルミーシキ”系の最新のやつとかー、あとここの端末とおんなじのとかー。全部で12台あるねー」

「…………え…………………………12台………………?」

「…………あの人は、………………というかあの人も特別なのよ…………」


 諦めたような素振りでユウカさんが言う。

 

(……へ? じゃ、それを、……あの恐ろしい速さで操作している……の…………? い、いや、じゃあ12個もモニターも見てるの!!?? ………………ど、どういう頭してるんだろー…………ど、どうやって操作してるんだろー………………)


「まーアカリちゃんはまずはこっちねー。じゃあー”ホログリン”の初期型との違いなんだけどねー。まー、見た目からして違うっしょー?」

「は、はい、私が知ってるのは、こう、もっと大きな端末が横に置いてありました。そっちで端末の立ち上げとかはやってました。」


 私はそう説明しながら、自分の机の端末を見る。机のその端末は、長細い黒い板の機械、半透明の板状の物、横に小さな箱型の物。

 昨日と今日は、そちらの小さな箱の方のボタンを押して、この文字を打つ物のボタンを押す、それで立ち上がった。

 だがぞれは、ミランダさんがそうしていたので、真似してみたら、立ち上げただけだった。


「最近の”ホログリン”でねー、こういう形になったみたいなんだよねー。まー初期型はねー、今みたいに小っさくなかったみたいだからねー」

「……アカリ、多分こういう物の、名前も知らないんでしょ?」


 その端末の機械類のことだろう。


「……え、あ、すみません……」

「別にー、謝る必要はないってー。わからなきゃー、これこれしかじかなもんでー、名前わかんないからおしえてーって言ってくれればねー。ついでになんでそんな名前なのーとかねー。ってそれは私もわからんわー。なはははー」


(………………え………………?)


 なぜか、今一瞬ドキッとした。


(なんだろう…………何か…………言わないと…………)


ミランダさんは続ける。


「んー、まずこっちねー。これはねー、”ホログラフィー内蔵型タブレット”ねー

まー、”タブレット”って言ってるよー。こっからモニターも出てるからー。立ち上げないとただの黒い板だしねー。んでー、こっちは”認証式マスサウサー”ねー。”サウサー”って言えば分かるからー。んでこっちのが皆とやり取りする為の”デサスバイアスレウム”ねーまー”デバレ”って呼んでるけどー、あんま言わないねー。

なんせ”タブレット”と”デバレ”はセットで”端末”だしねー。”サウサー”だけは替えがきくからー。…………これさー、なんでこれだけよく壊れるんだろうねー?」

「…………私は、セリカさんか、ミランダさんが壊した所しか見た事ありませんが」


ミランダさんの説明と、ユウカさんの発言を聞きつつ、メモだけはとる。


しかし……何かが、頭に引っかかって、そこの説明は、あまり頭に入らなかった。


お読みいただきありがとうございます。

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