【三日目】 ミランダのお昼休み
食堂に行くと、既にセリカさんが一人で食事を準備していた。
いつの間にか作業は終えたのであろうか。
「お疲れー、セリカっち」
「あ、お、お疲れ様です」
「あら、お疲れ様」
「……あ、私、お手伝いを……」
「大丈夫よ。もう出来上がるから」
「さーすが、セリカっち、早いねー」
(……一人で、何かしらの作業もして、食事の準備ももう終わると……すごいなー……私より、まだ年も低そうなのに……)
今日はメイちゃんは巡回に出て行ってしまっている事を思い出す。
そこでふと気がつく。
「あの、ミランダさん」
「んーなーにー?」
「その、巡回に行っている人達は、お昼ご飯はどうしてるんですか?」
「あー、巡回の人達ねー。行くときに、携帯の食事をもってってるよー。そればっかりは、市販のものだけどねー」
(なるほど。巡回の人達は市販の携帯食料を持っていっているのか……)
だとしたら、今私達が食べている物とは違うものを食べているのかもしれない。
「正直、携帯食料はねー……悪くは無いんだけどねー……なんというかー、味気ないというかー、だから正直私は好きじゃないなー」
「そうね私は、カレー味がないから嫌いよ」
(………………………………そこまで……カレー……?)
薄々、分かっていたけれど、カレーはセリカさんの大好物なんだろう。
(……って、じゃあ今日のお昼も、もしかして!)
匂いからは、分からない。蓋がされた鍋がぐつぐつと煮えている。
「今日もカレーですか?」
聞こうか、聞くまいかと思っていたところに、少し遅れてやって来たユウカさんが単刀直入に聞く。
(って、今日”も”って…………セリカさん一人のときは、カレー決定なのだろうか……?)
「……いえ…………本当に……本当に残念なのだけれど、昨日ので使い終わってしまったわ……なんで……こうすぐ無くなるのかしら……?」
(……どうやら、違うよう……)
そして、本当に残念そうだ。ただ、エレナさんならカレーでも喜びそうだが。
「でもー、昨日はカレーフルコースだったしー……朝もー……」
「でも、もっと沢山買っておかないと……」
(セリカさんが怖い事を呟いている……いや、私も嫌いじゃないですよ? カレー)
だが、毎日、朝昼晩全部カレー味っというのは、多分……慣れない。贅沢は言えないが。
「……いえ……これぐらいで……ちょうどいいと思いますけれど……」
ユウカさんも思いは同じのようである。
そこにプランさんとリーゼさんが一緒にやって来た。
「それじゃ、準備するから、手伝って」
それは私に向けられた言葉だった。
「あ、は、はい!」
昼食の準備を始める。どうやら、パンと、後、私には何か分からない、色んな物が入った、
初めてみる色のスープだった。準備をしている間に、時計が鳴る。
準備が終える頃には、時計は鳴り止んでいた。
そして、ミランダさんが食前の挨拶をし、食事が始まる。ちなみに、セリカさんは準備が終わると、また部屋を出て行った。アンカ室長、チュンさんも居ない。あの講義の後はそれぞれ仕事に戻ったみたいだ。多分、昨日聞いたお昼の当番なのだろう。
スープを見る。
初めて見る色のスープだった。
見た目は少し、カレーにも見えなくない。
(沢山お水を入れた、カレーのような……)
用意された大き目のスプーンで少しすくって、少しずつそのスープを口に入れる。
(…………うん……味は………………カレーじゃない)
そう思った後に、少しピリッと来た。それは辛口のスープだった。
(……でも、少し辛いけれど、うん、美味しい……………………って、じゃあ………………プランさんは……?)
カレーは甘口仕様だったプランさん。見てみると、何やらプランさん前には白い液体が入ったビンが置かれていた。
プランさんは長めの祈りを終えてから、そのビン白い液体ををスープにどぼどぼ入れている。
(……あれは、ミルク……なのかな……?)
プランさんの所の食事は、セリカさんが用意していた。よくよく思い出すと、ずいぶんスープを少なく入れてたお皿があったのを思い出した。
多分それがプランさんの分だったようだ。
(セリカさん、やはり、プランさんは辛い物は駄目のようです……)
だが、この味なら、ミルクもよく合いそうだ。
プランさんはそれをよくかき混ぜてから、スープを口に入れる。
そして少しきゅっと目を閉じて、そして、またミルク追加。
(……………………あ………………足りなかったご様子で……………………)
私は、そんなに辛い物自体は、苦手でも無いので、美味しく食べれた。少し後に残るような辛さだったので、食べ終わる頃には、ちょっと体がポカポカしていた。
初めて食べる味だったので、いつもより、少し遅めに食事が終わる。
後片付けを手伝おうとしたのだけれど、考える事は同じなのか、リーゼさんとユウカさんでほぼそれも終えていた。
そして、その頃には、あのミルク大量投入のスープの食事を終えた、プランさんも食事を終える。
自分の食器と、ミランダさんの食器も洗い終えると、もう食堂の後片付けはなくなっていた。
鍋にはまだスープが残っているけれど、これは今お仕事をしている人達の分。じゃあ、と出口を出ようとした時にふと気がつく。
(…………あれ? そういえば…………次は……何時に四階フロアーに戻ればいいんだっけ………………?)
先に出て行った、ユウカさん、今出て行った、プランさん、リーゼさん、残るは席で満足そうな顔をして、目を閉じていたミランダさんだった。
私はくるりと回って、ミランダさんの方へ歩いていく。ミランダさんは目を閉じて頭を上に向けている。
(寝ているのかな……)
「……あのー、ミランダさん」
「……………………………………………………」
返事が無い、やはり、寝ているのだろうか。
「…………………………あのー……………………すみません……………………」
「……………………………………」
「……………………ミランダさ――」
「…………くっくっくっ……」
寝ていたと思っていたミランダさんが唐突にそう答える。いや答える、と言うのはちょっと違う。
「……………………ぇ…………?」
ミランダさんは、目を閉じて、肩を震わせている。
「…………くっくっくっくっくっ…………うひーっ」
(……うん、笑っている……あ、あれ? 私、何か変な事言ったかな…………? それとも、寝ちゃって変な夢でも見てるのかな…………?)
「…………くっくっく……こ、こりゃないわーーー…………」
可笑しそうに呟いている。
(………………寝言………………?)
そう思ったら、今度は本格的に笑い出した。
「ふひひひひーーっ、えー、ぷふーっ、むはーーーー。ふほーーー。ひひっひぃーー」
(……………………な、何なのだろう………………………………?)
そう思っていると、むせかえるようにして、目を開ける。が、まだ笑っている。
「なにーぃ、これーっ、ふひひひひひひー」
「……………………」
「ひひひ……………………ひ……………………ぁ………………」
こちらに気がついたようだ。
「あー、っくっくっく、あ、アカリちゃん……………………え!? あ、アカリちゃん!? あ、あれ!? 出てったんじゃ…………?」
「あ、その、出て行こうとはしたんですけど……」
「……あ、あー、そ、そうだったっけー? ……ップ、あ、でー……な、なんだっけ?」
「………………あ、え、えっと、お昼からは、何時に四階フロアーに戻れば………………」
「ぷぷっ…………ご、ごめん。ムフッ、で、で、な、なんだっけー。くっくっく……」
驚きながら、笑いながら、ちょっと焦りながら、また笑いながら、同じ質問をまた聞いてくる。
(………………ど、どうしたんだろう………………私変な事……した……?)
「……えと、そのお昼からは…………何時に四階フロアーに戻れば………………?」
「あ、あーー。っふー……っと、それねー。えっとねー……午後は……プフッ……《13:15》からだからー……クク……あー、私はねー、しばらくー、ムフッ、ここにいるからー、好きにしてていいよーーー。ククッ」
まだ何かを笑い続けつつ、一応そう教えてもらえたのだが……。
(………………な、何があったの………………?)
「あ、あと、さ、プフッ、こ、この事は内緒にしててくれるかなー……ムフッ、あ、と、特にチュンとか……室長とかには……ニヒッ……」
「は……はぁ……」
よく分からないが、デリケートな事なのかもしれない。何故ならミランダさんは……。
「……と、とりあえず、1――」
「ムフーッ! ナニコレ! ワケワカンナイーー!!! ウワッハー!!!」
私は確認しようと、言いかけたのだが、また、笑い出した。先程よりも盛大に……
(………………ごめんなさい…………今のミランダさんが……………………ワケワカンナイ………………)
お読みいただきありがとうございます。




