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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
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【三日目】 小さな文字 大きな意味


 これまでのように、食事が終わった人から、食器を洗って、食堂を出て行く。私も食器を洗い終え、食堂を出ようとしたら、ミランダさんが待っていた。


「あ、アカリちゃーん。ちょっと手伝ってー」

「あ、はい。どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもー……んー、とりあえず、こっちー」


 と、ミランダさんに連れて行かれたのは、先程の洗濯場。


 そこには……てんこ盛りのシーツ、カーテン、タオル、シーツ、タオル……。それが、多分チュンさんが言っていた自動の籠らしき物に乗っかっていた。


「いやー……ちょっと入りきれなくてさー……アカリちゃんー、あっちの洗濯機使うから手伝ってくんないー?」


 つまりは、この大きい洗濯機に、それでも入りきれない、と言うわけだ……。

 それで、あのどでかい洗濯機を使うようだった。


(ミランダさん……………………………………溜めすぎ………………………………………………!)


 私はミランダさんの洗濯、そこに入れるだけなのだが、それを手伝っていた。そこにシーツを入れながらミランダさんが話してくる。


「アカリちゃんさー」

「あ、はい」

「とりあえず試験期間はここに居てくれるんだってねー」

「え……あ、はい」


 その事はまだミランダさんに話せていなかった。誰に聞いたのかは分からない。ただ、ミランダさんはもう知っていた。


(そういえば……今日の朝食の時は、他の人達は……)


「んー、まー、しっかり悩んで、しっかり決めてねー。私には、今はそれしか言えないけどさー」

「は、はい!」


 私も、今はまだ、それしか言えない。


「ただー、その間は、しっかり仕事もしてもらうからねー」


(う! そうだった……あの作業を、もっと上手くやれるようにならないと……)


「っとー、んー、持ってくのは今度でいいやー」


(……今度って……いつ……?)


 どうも、あのどでかい洗濯機は、操作が少し複雑そうであった。

 ミランダさんは慣れているのか、簡単に操作していたけれど、少なくとも、入れてポンッでは終わらないようだった。

 少し色々操作した後にミランダさんが言う。


「ありがとー、アカリちゃん。助かったわー。なーんでこんなに溜まるんだろうねー……」


(……いや、あなたが毎日洗濯していただければ…………とは言えない……………………)


「んー、まーいいやー。んじゃー、準備して仕事しよー」


 洗濯の手伝いをしていたら、仕事の時間が迫ってきていた。

 私も今日は、昨日持っていたメモ帳と、それを入れてたポシェットは、部屋に置いてきていたので、取りに行かないといけない。


 ちなみに、メモ帳は昨日チュンさんが預かってから、そのまま返すのを忘れていたらしく、先程部屋に来た時に、机の上においていてくれたらしい。

 私は、食事の後にそれを聞かされていた。

 食後、食器を洗おうと調理室に向かっている途中にチュンさんに言われた。


「あ、言うのを忘れていた。アカリ、あのメモ帳は二冊とも、アカリの部屋の机に置いてあるから。シーツを持っていたから、気がつかなかったろう? 悪い悪い。つい私がそのまま持ってしまっていた」


 私は、メモ帳を渡してそのまま返してもらってなかったことに、その時に気がついた。

 私も忘れていたので、まぁ、おあいこ、と言う感じだ。


 それから私はミランダさんと部屋に向かった。少しチラッとミランダさんを見てしまう。昨日のあれを聞いていたからだ。


(……やっぱり、……まだ信じられない)


 ミランダさんからは、目が見えないような素振りはまったく見えない。

 私がまったく気がつかなかった時と同じだ。


 その後、十字路で、「じゃーあとでねー」とミランダさんと別れてから、私は仕事の準備、と言ってもメモ帳を取りに行くだけなのだけれど、をするために、部屋に戻った。


 机を見ると、確かに言われたとおり、メモ帳が重ねておいてあった。

 二つのメモ帳は外装が違うので、どちらが自前ので、どちらが貰った物かはすぐに分かる。

 上のほうには、私の自前のメモ帳がそっと置かれていた。もう少し、始業までは時間がある。

 ふと、メモ帳を手に取り、最初のページを開く。


 ――明日、私は初めての正社員になります。

 この就職氷河期、正社員になれるなんて夢のよう!――


 私が、前に書いたその文章はそのまま残っていた。

 少し、ほっとした。

 もしかしたら既に消されているかもしれないと、疑ってしまったからだ。

 メモ帳を閉じようとして、ふと、見慣れない箇所があるのに気がつく。

 私の文字じゃない。もっと綺麗な文字。

 そして私が書いたその文章の下に、小さく書かれている。



 『後悔の無い決断を、ね』



 そう、書かれていた。


(……これは、多分、チュンさん、だと思う……)


 小さく添えられたその一文に、大きな意味があるように感じられた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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