【三日目】 ユウカ
目が覚める。
少し頭がぼーっとする。
今日は変な夢は見なかったようだ。
その代わり、少し昔の夢を見た気がする。
枕元に置いていた目覚まし時計を見る。
まだ私は鳴ってないよ? と言う感じで、目覚まし時計は今の時間を教えてくれる。
時刻は《5:00》。外はまだ少し暗いようだ。
セットしていた時間は、昨日と同じ《5:45》。大分早く起きてしまったようだ。
昨日色々重要な事を聞かされて、色々悩んでいたあげく、寝てしまっていたからなのかもしれない。
どうしようかと思ったが、とりあえず、ベッドからのそりと這い出る。
「…………ふわ…………」
少し背伸びをする。だんだん、頭がはっきりとしてきた。
(こんなに早く起きたんだけれど…………)
あまり眠く感じなかった。窓のほうへ歩いて、カーテンを開ける。
食堂を見るが、さすがにまだメイちゃんも居ないみたいだった。音は波音しか聞こえない。
海に囲まれた空間”ブルー”。
それ自体は、正直私は驚かなかった。
(だって、他にも…………)
そう考えながら、少し昔に聞いた話を思い出そうとする。
-パタン-
(あれ? 今ドアが閉まる音がしたような…………)
私は、昔を思い出そうとしていたが、その音の方が気になった。
(……メイちゃんかな?……食事の準備に取り掛かるのかな?)
そう思ってドアのほうに歩くが、昨日の事を思い出す。
〈皆が”何かを失って”います〉
アンカ室長の言葉だった。
ここで、働く人達は、皆”何かを失って”いる。
(…………だから………………メイちゃんも…………………………)
それを聞いてから、まだメイちゃんとは話をしていない。いや、会ってすらいない。
そう考えていると、静かな足音が聞き取れた。
その足音は、どうも、メイちゃんの部屋の方からではないようだった。
足音は、私の部屋を通り過ぎ、どうもテラスに行っているようだ。
静かに、カチャっとテラスの扉を開ける音が聞こえた。
(誰…………だろう…………?)
ドアが開く音と、足音、テラスの開く音の順番から、メイちゃんでは無いとは思う。
少し、逡巡するが、思い直す。
(どちらにしても…………朝、皆と会うんだし………………)
私は、昨日アンカ室長に発言していた。
この二週間で、しっかりと決めて行きたいと。
だから、今日もちゃんと仕事に出ないといけない。
決断するために、私に残されている時間は限られている。
〈…………あなたが、ここで、”何かを失って”も…………〉
その言葉が頭を過ぎる。
(それでも…………)
そう考えてから、私は簡単に朝の準備を始める。
多分、昨日の感じでならば、セリカさんもちゃんと食事当番に出てくるだろう。なら、朝ごはんまではまだ時間がある。
そして、今まではこういう風に朝の準備は簡潔に済ませていた。
昨日は、どちらかというと特別だった。
(小さい頃は、そうでもなかったんだけれど…………)
準備を終え、ゆっくりと部屋を出る。
少し恐る恐る、と言う感じでもあった。
テラスを見る。
やはり人が居た。
(あれは………………ユウカさんだ……)
ユウカさんには、昨日少しだけ端末のやり方を教わった。
怖い人ではない、とは感じていた。
ゆっくりと、テラスに向かう。
メイちゃんの部屋を通り過ぎ、テラスを扉を開ける。
「………………あれ? …………アカリ…………?」
ユウカさんがこちらに気がつく。
「……あ、おはようございます」
まだ早いので、少し小声でそう挨拶する。
「おはよう。…………早いんだね」
苦笑いしてしまう。昨日寝てしまっていたせいだからだ。
テラスにゆっくり入りながら私は答える。
「……ユウカさんも、こんなに朝早くに……?」
「私は、いつもこの時間だよ」
そう答えながら、カップを口に付ける。
テラスに出ると、気持ちがいい風が吹く。
とはいえ、つい、来てしまったが、何か目的があって来た訳でもない。
だから、何を話そうか、と迷ってしまう。
「アカリ、昨日の晩御飯の時いなかったけど…………」
ユウカさんから話しかけられる。
「………………あ、あれは…………その…………」
「…………昨日、聞いたんだよね」
「…………はい」
少しの静寂。
「…………昨日、晩の時には居なかったから…………辞退したと思ってた」
そう告げられる。
「…………その…………もう少し、考えたいなって…………」
「そう。じゃあ、試験期間はずっと居る気?」
「…………え…………あ…………まだ……そこも……」
「そう」
「………………」
またも静寂。
波音だけが聞こえる。
「…………あの、ユウカさんに聞きたいことが…………あるんですけれど…………」
「…………何?」
「………………えっと…………すみません、ユウカさんは…………ここに来て、後悔とか、その…………してないですか?」
「…………それで?」
そう、返される。
「…………え? あ、あのユウカさんは――」
「悪いけれど…………」
私が言う前に言葉を被せられる。
「…………それじゃあ、私、答えれないわ」
そう告げられ、私は戸惑ってしまう。
「……気がついてないようだけど、…………私から………………言う気は、無いから」
なんの事なのか、分からない。だが、ユウカさんは私の質問に答える気はないようだった。
「……で、それだけ?」
何かを促される。しかし何を促されているのか分からない。
「………………え、えっと…………」
私が何なのかよく分からないまま、考えているが、それを気にせずなのか、ユウカさんはお茶を続けていた。
「………………こういう、時は、もう少し………………やり方があるはず」
それだけ告げられる。
そして、ユウカさんはカップのお茶を飲みほし、戻る準備をし始める。
「じゃあ、私は、次があるから」
そう言って、ティーセットを持って立ち去ろうとする。
「アカリ、あなたは私と同じなんだと思う。…………だから……………………いえ、そうね……。……アカリがどう決断するかはあなた自身で決める事だけれど、アカリが、ここで働き続けるのであれば………………………………」
チラッとこちらを見て言う。
「……私は…………まだ、あなたから何も聞けていない」
少しドキッとする。
「じゃないと、結局苦しむのは、あなた、自身よ……」
そう言って、ユウカさんは立ち去ってしまった。
私は立ち尽くしていた。
ユウカさんが通り過ぎるとき、あのお香の香りがした。
お読みいただき有難うございます。
難しいです……本当……どう示せばいいのやら。




