【二日目】 セリカとの出会い
「……あ、アカリちゃん」
あちらも一緒に休憩に入ったのだろう、メイちゃんがこちらに来る。
「あのね、あっちに水周りがあるから」
それを聞いて気が付く。借りたマグカップはまだ使っていなかった。
「アカリちゃん、一緒にお茶を入れに行こう」
「あー、いっといでー、あ、メイちゃんついでに私のも頼むわー」
ミランダさんそう言い、自分のカップらしき物ををメイちゃんに渡す。
「はい、じゃあ行こう、アカリちゃん」
メイちゃんはミランダさんからカップを受け取り歩いていく。ミランダさんのそのカップらしき物は取ってはついていないが、蓋がついていた。よく保温も出来そうで、零れることもなさそうだ。
私も借りたマグカップを持ってメイちゃんについていく。
メイちゃんのカップは小さめの陶器のカップだ。
多分部屋にあるあの大量のカップの一つなのだろう。
そして、歩いて行った先には、小スペースの水周りがあった。それと湯沸かし器が置いてあった。
「あ、ここに自由に使っていい、お茶の元があるから」
そう言って、メイちゃんはそこに備え付けられていた、棚を開ける。何種類かあるようだ。
「アカリちゃんは何飲む?」
そう聞かれて棚の中を見る。メイちゃんはどうやら紅茶のようらしい。ミランダさんも同じのようだ。ならば、と私も同じ物にした。
パック式の紅茶を入れてからそれを持って席に戻っていく。そして、ミランダさんはメイちゃんからカップを受け取りながら言う。
「ああー、メイちゃん。さっきの資料ちょっと間違ってたよ?」
「……え、すみません、どこですか?」
「これこれ、ほらここ」
そう言いながらミランダさんは電子端末を操作する。
しかし、ミランダさんは私の物も見ながら、自分のもやりながら、更にメイちゃんの資料までチェックしているのか……。これまでのイメージとはまるで違って、ミランダさんは仕事上手なのかもしれない。私の中でミランダさんのイメージが変わっていく。
(ミランダさんは、そう言えば主任なんだっけ……)
そんな事を考えながら自分の席に戻る。お茶を飲むとちょっと濃かった。
まぁ、眠気覚ましにはちょうど良いのかもしれない。いや、眠いわけではない。
説明を受け終えたメイちゃんは「すぐに直します。」と言い、席に戻った。
ユウカさんは休憩は取らないのだろうか、黙々と作業を続けている。
ミランダさんは受け取ったお茶を飲みながら「ふむー……なるほどねー」と言っている。
私にはまだ何かも分からない事なのだろう。
ただ、先程言われた事は終わってしまった。次に何をやれば良いか、分からなかったのでミランダさんに聞く。
「あの、次は何をすればいいでしょうか?」
だが、ミランダさんの反応が無い。手は動かさず、じっとモニターを見ているように見える。考え事でもしているのだろうか。
私は、間を置いて、もう一度聞いてみる。
「……あのー、ミランダさん」
「……………………ん、あー、ごめんごめん、んーどうしたのー?」
「えと、次は何をやればいいでしょうか」
「あー、そうだねー……」
そう言いつつ、少しミランダさんは考え込む。そこに、ドアが開いてアンカ室長がやって来た。
「お疲れ様」
「あー、お疲れさまー、室長」
「お疲れ様です。」
「………………」
ユウカさんはまだ作業に没頭している様子だ。
「ミランダ、あれはもう見たかしら?」
「あー、見ましたよー。んー、あれねー……どういうことなのかねー」
「今、巡回に言っている二人からも聞いたんですが……」
(誰の事だろう?……あ、そういえばさっき出て行った――)
先程を思い出し、それはおそらく、チュンさんとエレナさんの事だろう、と考える。
(そっか、今、二人は巡回してるんだ)
「んー……多分何も出てないんでしょー?」
「ええ、今の所は」
「やっかいだねー……ユウカっちが今必死に調べてくれてるけどねー……こりゃもう、そのまま本部に送るしかないんじゃないかなー。……あ、セリカっちはどうなんですかねー?」
「ええ、今朝覗いてみたけれど同じみたいで……」
私にはよく分からない会話が続くが、セリカさんは、確か今日はお休み、と聞いていた。
だが、そこで、ユウカさんが口を開く。
「……あった。これ、近いんじゃないです?」
そう言って、ミランダさんとアンカ室長の方を向く。
「あー……んー……あー、確かに」
ミランダさんはお茶を飲みながら言う。「どれ?」とアンカ室長はミランダさんの端末を覗き込む。
「んー、これねー。シーニーのほうのやつだねー」
「……可能性があるのなら調べてみた方がいいでしょうね」
「んー、了解。それじゃー、メイちゃん、後ー、アカリちゃん」
「「は、はい」」
「今端末に資料情報送っといたからさー。その資料を資料室から引っ張ってきてやってー。」
資料室、昨日ミランダさんに教えて貰ったあそこだ。メイちゃんが先に端末を見てそれを操作した後、別の所から何かを持ってくる。
「分かりました。……え? ……ここの辺りの資料全部……ですか……?」
それを見ながら、メイちゃんが聞く。
「ええ、それを私の所にお願いね」
アンカ室長が言う。どうやら探した資料の運び先は室長室のようだ。
「あ、メイちゃん、さっきの資料はオッケーだったからー。アカリちゃん、メイちゃんの言うようにやればいいからー」
アンカ室長は、そう言った、ミランダさんのところに居た。
私は、メイちゃんについてフロアーを後にする。
「えと、メイちゃん、何か分からないけど資料を探すんだよね?」
「……うん。……でも、これ……ちょっと大変かも…………」
メイちゃんは先程持っていた物に目を落としながら答える。
昨日教えてもらった限りでは、確かに資料を探すのは大変そうではあった。
だが、私にも出来る事というのは、現時点では限られている。だから、言われた事を、まずこなさないといけない。
三階に降り、資料室に入る。
(やっぱり、すごい量の資料……)
メイちゃんは先ほどの物をもって、端末の方に歩いていく。私もそれについていくとメイちゃんが聞いてくる。
「アカリちゃん、ここの端末の使い方はわかる?」
「うん、昨日ミランダさんに色々教えて貰ったよ。……昨日は、お仕事の事だとここの事が一番教えて貰ったかも」
「そっか。じゃあアカリちゃんちょっとやってみる?」
「うん!えっと、端末はこれで立ち上げて……」
昨日、教わったようにやっていく。
ここの端末は、四階の物より古いようである。その為なのか、四階で使った物よりも、昔私が使わせてもらった端末に似ていた。
「……うん、じゃあ、これを全部探すんだけれど………………」
そう言って、メイちゃんは先ほどの物を私に見せてくれる。どうやら、ミランダさんが、”送った”と言っていた内容を印刷した物のようだった。
印刷した物、それは透明な板に文字が並んでいる。
文字は、その透明な板から光って見えている。
私はそれは分かるのだが……文字と数字の量が半端なく多い。
「え!?」
「……多い……よね。……しかもこれ、別々の所に資料があるみたい……。あ、じゃあアカリちゃん、この資料の番号を検索して教えてくれるかな。私、そこを探すから」
初めて見るが、なんとなく、一個一個の資料がどれかは分かるようになっていると思われる。
それはなんとなく分かったのだが、明らかに探さなければならない資料が多そうだ。
そのような訳で、役割分担をしてやる事になったようだ。
「う……うん。分かった。やってみるね」
そして、印刷した板を受け取る。
それを調べるのはそこまで難しくは無い。問題は量だ。半端無く多い文字と数字の量の資料を探さなければいけない。まず、一番上から順に検索をかける。
(……うん、やっぱりこちらの端末の方が、まだ分かるかな……)
昨日教えられたやり方で端末を操作する。
「……えと、じゃあ最初から……『シの2045-10-11』……だね」
そう言うとメイちゃんは早速その棚を調べ始める。
「……えと、これかな。……うん。これだね」
取り出した資料を、運ぶのであろう足つきの箱に入れる。
「じゃあ次は……えと、『シの2055-2-3』」
「えと、それはこっちで……確かこの辺りに……あ、これかな」
どうやら、メイちゃんはここの資料の場所はある程度把握しているようだった。
そして、その要領で資料をかき集めていく。だがまだまだ先は長いようだ。
「えと、『ニの2048-5-6』」
端末の操作は上でやっているときよりもスムーズに出来ていると思う。だが、大変なのはそこからその目当ての資料を探す事だ。
今日はそこはメイちゃんがやってくれているから助かっている。
「えと……『ニ』はこっちだからここだね。……ふわー…………ごめんアカリちゃん、ちょっとだけ待ってて」
「うん」
答えながら、私は次の資料の場所を検索する。
次は『初代ブルー空間、2030-2031』と書かれてる。
(なんだろう……これ……)
これまでは本当にただの文字と数字の羅列だった。しかしこれだけは最初の文字が読み取れる物だ。
(初代……ブルー空間……?)
私が不思議に思っている所に、メイちゃんが声を出していた。
「アカリちゃん……?」
「…………え? あ、ごめん、メイちゃん」
「見つけたよ。次いいかな?」
「え、う、うん。えと――」
少し間を置いてその文字を読む。
「――『初代ブルー空間 2030-2031』」
するとメイちゃんが少し驚いた顔でこちらを見る。
「…………え? ……………………嘘………………」
「…………………………え?」
もしかして検索を間違ったのだろうか、と心配になって言う。
「……あ、もしかして間違ってたかな……? ちょっと調べなおすね」
それを聞いてメイちゃんもこちらに来て聞いてくる。
「…………あの、ど、どの項目?」
私は、印刷してきた板を見せながら言う。
「えと、これ、なんだけど……で、これを入れて…………」
そして、端末を操作するが、やはり同じ物が出てくる。
(間違いは無い……はず……)
もう一度検索してみようとしたが、メイちゃんが印刷板を見ながら先に言う。
「……ちょっと、ミランダさんに確認してくるね」
そして、印刷板を持って資料室から出て行ってしまった。私は一人、資料室に取り残されてしまう。
(……どう言う事なんだろ…………?)
私は端末の情報を見る。だがそこには先程見た事以上のことは書いていない。
『初代ブルー空間 2030-2031』
(なんだろう…………?)
手持ちぶさたになってしまったので、その資料を探してみようかな、と端末の場所を立ち上がり、資料の棚に行こうとした時、資料室の扉が開いた。
「あ、メイちゃん早かった………………ね?」
見ると知らない人が入ってきていた。
朝食の時にも見た事が無い人だ。
長い黒髪にとても綺麗な顔立ちをしている。
少し大人びて見えるが、多分私よりも年下だろう。私よりも背丈も低い。大きな瞳をしており、その目でこちらを見ながら言う。
「……誰?あなた」
それを聞いて、あ、う、と言葉に詰まってしまった。
「……あなた、もしかして新人の子?」
そう、そうだ。と思いながら答える。
「あ、その、昨日からお世話になっています、アカリ・アオノです」
そう言いながら思い出す。そういえばもう一人顔を見ていない人が居た。名前だけは何度か聞いていた、そう確か――
「そう、あなたが。セリカよ」
私がセリカ? と一瞬思ってしまったが、自己紹介なのだと遅れて気付く。
「あ、えと、よろしくお願いします」
そう言ってお辞儀した。
「そう、よろしくね。それで、あなた一人でここで何してるの?」
話のテンポが早い、と思いながら答える。
「えと、今ミランダさんに頼まれてここで資料探しを。……あ、メイちゃんも居たんですけど、さっきミランダさんに確認しに……」
私の説明を聞いてセリカさんが聞く。
「何を確認しにいったの?」
「えと、ここの項目で、『初代ブルー空間の2――』」
「初代だなんて、そんな事あるかしら。間違ってるのではないの?」
言いかけた所に、言葉を被せられ、困ってしまう。
間違っているかどうかを証明しようにも今は印刷物は、メイちゃんが持って行ってしまっている。
それに何のことかも、私にはわからない。
「ちょっと、どいてもらっていいかしら」
今度は私の方に歩いてきながら言う。
少しぶっきらぼうじゃないか、と思うが、今まだこの人がどんな人かも分からない上、言われたように、私が間違っている可能性も高い。
私はそう言われて、通路を譲る。セリカさんは端末の方へすっと歩いていった。
「これがあなたが今調べていた項目ね。じゃあ検索のキーワードは”長周期”、”連動”、”多重”、”過少継続”、””X356Y21Z226”番号は”332”と”568” ”6832” ”2233”そのどれかね。番号は今のうちのどれ?」
そう聞いてくるが、端末を見ただけで、もとのキーワードや番号まで分かるとは……。しかも確かにその中に私が検索した番号がある。
確か、最初の”332”だったはずだ。
「えと、”332”……です」
私が最初の「3」と言った時点でセリカさんは既に端末を操作していた。
そして尋常じゃ無い速さで端末を操作していく。しかも先程、私がやっていた検索とは全く別の何かをだ。私はそこまでの事は教えてもらっていない上、それは今まで見た事も無い。
そして操作した結果であろう数字の羅列を見ている。
「…………」
何も言わない。どうしたのだろうか。
「……………………」
私も何も言えない。メイちゃんはまだ帰ってこない。
「………………番号が……間違ってるのでは?」
唐突にそう聞かれる。
(……え、でも多分、それで合ったはず……)
「……えと、その番号で間違いはないと……」
私の答えを途中まで聞いてから、セリカさんは、もう一度何かを、恐ろしい速さで操作し始めていた。
「…………これ、誰が探せと言ったのかしら?」
終わったのだろうか、こちらに、目を向けて聞いてきた。
「……え? ミ、ミランダさん……と、アンカ室長……だと思います……」
(ミランダさんとは、さっき言った気はず……)
「アンカは何処?」
「えっと、室長し――」
そこまで言った所で、セリカさんはさっと部屋を出てて行ってしまった。
(…………な、何なのだろう………………あの人は…………)
私は呆然と立ち尽くしてしまっていた。
端末には先程セリカさんが立ち上げたのであろう、何かの情報が出ている。数字の羅列なのでなんなのかさっぱり分からない。そこに、ドアが開いてメイちゃんが戻って来た。
「ごめん、アカリちゃん、遅くなっちゃっ……て……?」
不思議そうにこちらを見ている。
「………………あ……………………うん…………メイちゃん……」
それだけ答え、私はまだ立ち尽くしていた。
お読み下さり、ありがとうございます。
この場面は、中々上手く表現できません……泣




