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ブルーデイズ  作者: fujito
第一章 蒼い日々の始まり
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【二日目】 初めての朝食

「――私は、メープルシュガーで作ってみたいんだけれど、やっぱり、白砂糖が普通みたいだから、今は、グラニュー糖を使ってるの」


 そんな事を話していると、ドアを開けて誰かが入ってくる。チュンさんだった。


「ん、おはよう、メイ……とアカリさん?」


「「おはようございます」」


 私とメイちゃんは、一緒に挨拶する。

 チュンさんは、何故居る? と言う感じで、不思議そうにこちらを見る。


「今日、アカリさんは食事当番、……な訳は無いよな。セリカさんか。……もしかして、また、アカリさんが代わりをしてくれているのか?」


 もしかしなくてもそうです、と私が思った代わりに、メイちゃんが答えてくれる。


「……あ、はい、悪いとは思ったんですけれど。セリカさんは、実はまだ……」


 そこまでメイちゃんが言った所で、チュンさんは少し驚く。


「え!? そうなのか? 室長は知ってるのか? セリカさんの事」


 チュンさんも、その事は知らないようだ。


「いえ、それは聞けてないんですけど……」


 申し訳なさそうに、メイちゃんは答える。


「うむ、そうか。だがそれなら、……室長に聞いてみた方が、良さそう――」

「何をですか?」

「――だな!?」


 そうチュンさんが言った矢先に、声が続いた。

 チュンさんは驚く。


「うおっ!」


 そう言って、チュンさんが後ろを向くと、開けっ放しのドアから、アンカ室長が答えていたようだった。


「……室長。……いきなり、真後ろから声をかけないでくれ……」

「あ、ごめんさい。おはよう」

「あー、びっくりした」


 アンカ室長は、あまり悪かったという感じに見えない。そして、付け足しのような感じで挨拶をしていた。


「……おはよう、室長」


 しかし、当の本人のチュンさんも、気にしていないようだ。


「「おはようございまーす」」


 私とメイちゃんは、再び一緒に挨拶する。


 それを見て、アンカ室長が言う。


「おはよう、二人とも。………………………………………………ねぇ、チュン、何か、こんな場面を映画で見た事ない?」


 アンカ室長は、唐突に何か違う話題を話してきている。

 多分それは、私とメイちゃんの事を指して、言っているようである。


「……へ? い、いや、それは知らないが……」

「……いえ、ね、こんな感じで、こう、メイドさんが挨拶する場面なんだけれど。……ほら、昔の映画のどこかの場面で――」

「室長、それじゃ多分、誰もわからいよ」


 さらに、アンカ室長の後ろから声がする。

 顔色は変わらないが、アンカ室長はさっと後ろを見る。

 見た事の無い人だ。

 髪が少しソバージュがかった、大人びた感じの人だった。

 アンカ室長は、その人を見ながら言う。


「びっくりしたわ」


 だが、全然顔はびっくりしていない。そして、そこに、チュンさんが追い討ちをかける。


「私が、さっきそんな感じだった……」


 チュンさんは、そんなアンカ室長を見ながら、ニヤリと笑っている。

 アンカ室長は、チュンさんのほうを見て言う。


「だから、悪かったわ」


(……やはり……あまり悪かった、という感じに見えない)


 実は、私と、多分チュンさん、それからメイちゃんは、アンカ室長の後ろに、人が来た事は気付いていたのだけど……。


(……………………はっ! チュンさん、……もしかして、わざと、室長には言わなかった? そして、わざわざ、こっそり真後ろに立ったのだろうか、……あの人。…………メイちゃんは、……多分、突っ込めなかったのだろう……)


「ねー! 何の行列なのーー? これ」


 そんな事を考えていたら、さらにその人の後ろから声がした。

 今度は、そのソバージュの髪の女性が驚き、後ろを見る。


「ちょっと、エレナ! いきなり真後ろで声かけないでよ!」


 先程、チュンさんが言ってたことと同じような事を言っている。


(……あなたも、さっきアンカ室長に同じ事したんじゃ…………)


 そう、突っ込みたくなる。しかもわざわざ……。

 その光景を見て、逆にこっちがなんかこんな昔話があったような、……と思ってしまう。


(……確か、皆で、おっきな蕪を引っ張って、…………じゃない!)


 もう、行列になってしまって、その人は見えない。

 そこで、メイちゃんが、ようやくそこに突っ込む。


「あのー、……そこで立ち話もなんですし。…………行列に、……なってますよ……」


 そう言いながら苦笑いする。

 先頭だったチュンさん、その後にアンカ室長、それからソバージュの女性、そしてツインテールの女性、と、ぞろぞろと入ってきた。

 さらに、その後から、何も言わずに待っていたのだろう、アリスさんも入ってくる。その後にヘアバンドをした少女が入ってきていた。


(……あの人も、何も言わずに待っていたのかな……)


 そんな事を考えつつ、入ってきた人達を見遣る。

 ソバージュの髪の女性、ツインテールの女性、もう一人のヘアバンドの人は初めて見る気がする。

 そのヘアバンドの子が、アリスさんに聞いているようだ。


「あれ……?」

「……………………………………新人…………………………」


(…………………………それで……会話が成り立つの…………?)


 よく分からないが、納得している。

 そこに、「あれー、みんなもう着てるよー早いねー」と聞きなれた、ミランダさんの声が聞こえる。


「あー、みんなー、おはようーって、……どうしたのー……?」


「あ」


 と、何となしに呼吸を揃えて言う。


「「おはようございまーす」」


 私とメイちゃんだ。何か、このやり方が嵌っているようだ。

 アンカ室長に挨拶した後は、挨拶をするタイミングが分からなかった。

 それは、メイちゃんも同じだったようだ。そして、それを見てミランダさんは言う。


「んーー。……なんか、こんな場面を、前にどっかで見た事あるようなー……」


 そこに、アンカ室長が真顔で乗っかる。


「そう、それを話していたの」


(あ、まだ気にしていたのか……)


「………………………………それが議題……………………」


 アリスさんは、よく分からない事を言う。

 他の人も「そうだったの?」とか「では皆さんこれはどんな場面でしょう」とか、「あーお腹すいたよー」とか、楽しそうに話したりしている。

 そこまで聞いていた、チュンさんが言う。


「ち! が! う!」


 その事になのか、それと違う事なのか、皆に突っ込んでいた。

 それにしても、賑々しい。……昨日とは、雰囲気が違う。

 いや、普段は、こっちが普通なのかもしれない。


「あれ? 違った? じゃあ答えは……」と誰かが言う。


 ……もはや収集がつかない。そして、そこにさらに二人入ってくる。


 「賑やかだね」と言いながら、ボーイッシュな髪の短い子と、メガネをかけた女性が入ってきた。


「「おはようございます」」


 メイちゃんと私は声を揃えて言う。


 「おはようございます」と髪が短い子が言い、メガネの女性は、ニコニコ笑いながら会釈する。


 皆、賑々しく会話をしている。ちなみにまだアンカ室長は。


「ほら、あの二人の感じ、何かの映画……」


 と言っている。そしてチュンさんは「だーかーらー」と否定し続けている。ミランダさんは「ご飯まだー?」と言ってくる。


 急に人が増えたので、誰が誰やらと思いつつ、人数を数える。


(1、2、3、4、5、6、7、8、9、あ、後はメイちゃんと私で11人、全員にはもう一人足りない……はず……)


 初めて見る人も多い。いや、ここに居るメンバーの大半は、初めて顔を見る。皆、女性だ。どうもここには女性しか居ないようである。

 そこで突然音がする。


-ボーン……ボーン……ボーン……-


 見ると、音は時計からその音は鳴っていた。非常にアナクロな時計の音のようだ。


 見ると、《7:30》を針が指している。メイちゃんが言っていた、朝ごはんの時間だ。

 どうやら、この時間で音が鳴るようにしているようだった。


 賑々しく会話していた皆も、とりあえず一旦静まる。そこでアンカ室長が話し始める。


「皆さん、初めての人も居るので、先に紹介します。そちらに居るのが、先日から新しく入りました、アカリ・アオノさんです。今日も、食事の当番を、セリカさんの代わりにやってくれています。皆さん歓迎してあげてください。アカリさん、せっかくなので、そのまま皆に挨拶をお願いしていいかしら?」


 昨日と同じように、私を紹介し、私にバトンタッチする。

 突然、バトンタッチされたので、ちょっと緊張するが、昨日程ではない。

 私は一歩前に出てから、自己紹介をする。


「先日から、こちらにお世話になることになりました、アカリ・アオノです。まだ、右も左も分からない事が多くて、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくどうぞ、お願いいたします。」


 そう言ってお辞儀をする。昨日よりは、うまく出来たはず、と思う。

 お辞儀をした後、皆が拍手をしてくれた。


 中から「よろしくねー」声がする。

 それはミランダさんだったけれど。

 他にも手を叩きながら、


「そうか。昨日は忙しかったから、こっちに来れなかったんだ」


 他にも手を叩きながら、そんな事を言っている人も居る。


(あ、あのボーイシュな人)


 そこで、アンカ室長が、続きを話し始める。


「ああ、それから、セリカさんは、今日はお休みするそうです」


 チュンさんが、そこでようやく最初に聞きたかった事であろう事を、アンカ室長に質問する。


「室長、じゃあ、もう聞いてるんだな、セリカさんの事は……」

「ええ、なので今日、……いえ、もしかしたら明日もお休みするかと」


 どうやら、セリカさんは朝食には出てこないようだった。


「そうか……昨日のはそんなだったのか。……実は、今の食事当番は、本当はセリカなんだが。……というか、さっき室長はそれを言ってたな。て、事は、知っていたんだな。アカリちゃんが、セリカの代わりに、食事当番やっている事」

(あ、なるほど、そんな事だったんだ……)


 そのやり取りを聞きながら、そう思う。


「ええ、いい機会かと思いましたので。……私も、そこまでお料理が、出来るとは思っていませんでしたけれど。でも、それならば……」


 少し考えてから、アンカ室長が言う。


「ねえ、アカリさん、申し訳ないのだけれど。……セリカさんが、お休みしている間、変わりに食事当番をやっていただけないかしら。もう一人は、メイさんなのだけれど」


 それは、願っても無い事だった。

 むしろ、こちらからお願いしたかった事だったのだ。

 お料理は楽しい。

 メイちゃんも、私の料理の腕前は褒めてくれた。

 そして、一緒にやっていると、まだまだ私の知らない事を、メイちゃんは知っていた。

 もっと、色々知りたかったし、それにすごく楽しかったし、出来る事なら、もっとやりたい、と思っていたのだ。


(まぁ、ちょっと、…………朝は大変だけれど……)


「はい! ぜひ、やらせて貰います!」


 だから、私は嬉しくなり、そう答えた。


「そう、それじゃあお願いね」


 そのアンカ室長の声で、セリカさんが居ない間は、代わりは私、と言う事でで決定したようだった。

 メイちゃんは、こちらを向いてにっこり笑ってくれていた。

 色々教えて貰おう、それに、私が知っている事は教えれるといいな、そんな事も考えた。

 そこで、ミランダさんが言う。


「いやー、アカリちゃんは料理うまいよー。昨日のシチューは、メイちゃんとアカリちゃんで、作ってるからー」


 それを聞いて、アンカ室長も言う。


「ええ、私も頂きました。とても、美味しかったです」


 それから、ツインテールの女性が言う。


「おぉ! 最強料理人メイちゃんに、遂に最強のライバルが登場かぁ! 最強のライバルと書いて”トモ”と呼ぶ!」


(……よ、よく分からないけど、……メイちゃんの料理の上手さを、褒めている、とは思うけど。……多分……)


 この人は、いつもこんな感じなのだろうか……。

 他の人は、ニコニコそれを見ていたり、ぼーっとそれを見ていたり、それに対して、拍手してくれていたり。でも、それに対して異論の声は出なかった。


 それから、私とメイちゃんは食事を運ぶ、何人かの人も運ぶのを手伝ってくれている。

 後は、テーブルに並べるだけと言う風に、準備しておいたから、すぐに準備は整った。


 皆が、席に着いた。

 席順は、どう決まってるのか分からないけれど、私の席は、ここだよ、と言う風にメイちゃんが教えてくれた。まぁ、単に空いていた席だけど。


(……多分)


 そして、昨日チュンさんが言っていたことを、今日は、アンカ室長が言うようだ。


「それでは、準備も整いましたし、皆さんよろしいですか?」


 皆、一様に、昨日私が教えられた格好をする。

 それを見てから、アンカ室長も同じようにし、私も少し遅れて手を握って目を瞑る。


「では、地球の全てに感謝と祈りを。良い食事を致しましょう。それでは、いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 さすがに、人が多いと声のボリュームも大きい。

 食事を始めようとし、メイちゃんを見ると、昨日と同じようにまだ祈っている。

 ソバージュの髪の人は、胸の前で十字を切り、何かを呟いている。クリスチャンだろうか。

 そして、ミランダさんはやはり早い。すぐに食べ始める。

 他にも、皆、”いただきます”の後は、それぞれに違う様子だ。

 なるほど、昨日言っていたのは、こういう事だったのか、とようやく理解する。


 食事の際も喋る人と、ほとんど何も言わずに黙々と食べる人とに別れるようだ。

 ちなみに私は喋らない方、だと思う。

 ミランダさんは、喋る方のようだ。メイちゃんは、喋らない方。チュンさんも、喋らない方。


 意外だったのは、アンカ室長は、わりと話をしながら食べている。

 と言っても「熱いから気をつけて」とか、「こぼさないように」とか、なんだか皆のお母さん、といった感じだ。

 あと、喋らない人も、話しかけられると、一旦食事をするのを止め、話すようだ。というか一度メイちゃんがそうしていたのを見かけた。

 ツインテールの女性が「ねーメイちゃん。これおかわりあるー?」と聞くと、メイちゃんは口の中の物が無くなってから、口元を拭き、スプーンを置いて、その人に受け答えしていた。

 基本、食事をしながらは、話をしない主義なのかもしれない。


 どうやら、ミランダさんは、昨日は気を使ってくれていたようだ。

 今日は、喋りながら食べながら、また喋っている。相手は、メガネをかけてた人のようだった。

 その人は、ニコニコしながら、でも喋らずに、時折頷いている。

 ああ、なるほど、話さなくても、そういう対応の仕方があるな、と思った。


 食事を終える時間も、皆まちまちだった。何気にチュンさんは一番早く、一番遅い人は、ヘアバンドをした子だ。ゆっくりと食べている。


(けれど、……チュンさんはいつの間に食べてしまったのか……)


 その遅い子は、よく味わって食べてくれているみたいなので、そうであれば何もいう事は無い。

 ちなみに、皆の会話を通して、何人か名前が分かった。


 ツインテールの人が、エレナさん。


 メガネの人が、プランさん。


 ボーイッシュな髪の子が、リーゼさん。


 そのうちの、エレナさんと、リーゼさんとは、話が出来た。

 プランさんは、直接名前を聞けなかったので、多分、だけれど。


 エレナさんは食事しながら、

「アカリちゃん、料理上手なんだねー。いいねぇ。あ、私、エレナっていうんだ」

 と話しかけてくれた。私はそれを聞いて

「エレナさんも、お料理好きなんですか?」

 と聞いたが、エレナさんは

「うーん、自分で作るのはちょっと苦手ね。食べるのは、自信あるよ?」

 と言ってきた。


(……うん、エレナさんは、食べるのは得意っと)


 リーゼさんは、本当に、普通の自己紹介をしてきてくれた。

 私が、食事が終わってそれ見計らったかのように、私の席のところに来て、「今いいかな?」

と話しかけてきた。

 「はい。」と答え何かな?と思っていたのだが……。


「私リ・リーゼ・レノン。ここで技師をやってるんだ。他の人は私の事、リーゼや、リ、あと、リリーゼなどと、呼んでいる。私は、どれでも構わないから、好きに呼んでくれれば良いよ。これからよろしく。アカリさん」

「は、はい、よろしくお願いします」


 そう、私が言うと、それで、会話は終わった。

 そのままリーゼさんは、立ち去って行ってしまったのだった。


(……あ、本当に、これだけなんだ)


 そう思い、ちょっと拍子抜けしてしまった。

 まぁ、自己紹介してくれるだけ、良いのかもしれないが。

 そして、皆自分の食器を片付けをした後は、バラバラに席を立っていく。


(ミランダさんは、また、誰かにやってもらっていたけれど……)


 あのソバージュの人は、食後のお祈りをしていた。

 食器を片付け終わった人は、食堂から出て行く。

 そんな中、ミランダさんが私に言ってくる。


「ねー、アカリちゃーん」

「はーい」


 調理室にいた私は、返事し、ミランダさんの所へ行く。


「これから、午前は本格的に仕事の時間になるんだけどー」


 そうだ。ここからが本来の業務だ。


「始業は《9:30》からだからー。それまでに準備して、四階フロアーの、自分の席に着といてねー」


 時間を見ると、まだ1時間くらいはある。


「あ、はい分かりました」


 そう答えたが、もう、行く準備はしてきたので、後は自分の席に向かうだけだ。

 まぁ、正式に(と言ってもセリカさんの代わりで……)食事当番になった今、それまでに、調理室の使い終わった鍋などを、洗ってしまわないといけない。

 そう考えると、意外と時間は無いのかもしれなかった。


「じゃあー、私もやる事があるから、一旦部屋に戻るねー」


 そう言ってミランダさんも部屋から出ようとしてふと止まる。


「あー、そーだ。アカリちゃん」


 忘れてた、と言うように、ミランダさんが言う。


「はい?」

「アカリちゃん、自分のマグカップとかって、持ってるー?」

「え? あ、いえ……」


 そういうの物は、持ってきていない。


「だってさー、メイちゃん」


 それだけを聞いて、メイちゃんは答える。


「……あ、分かりましたー」

「んじゃー、また、後でねー」


 そう言って、今度こそ、ミランダさんは出て行った。

 私は調理室に戻り、鍋を洗おうとしているメイちゃんを、手伝いながら言う。


「あ、じゃあ私、こっちでこのお鍋洗うね」

「うん、ありがとう」


(そういえば。……セリカさんという人は、食事はしないのだろうか……?)


 それはともかく、先程ミランダさんに言われた事を、メイちゃんに聞く。


「……ね、メイちゃん。さっきの、ミランダさんが言ってたのって……?」


 そう聞くと、うん、と言って、メイちゃんは教えてくれる。


「四階フロアーで、使うカップだよ。それは、自分たちで用意するの」

「うん、でも私、持ってきてないし……」


 そもそも、部屋に戻ってもあっただろうか? 少なくとも、キャリーバックには入っていない。


「……あ、これが終わったら、私の部屋に行こう。私、いっぱい持ってるから。どれか、選んで使ってくれればいいよ」


 メイちゃんは、そう言いながら洗い物を続ける。


(いっぱい? まぁ、ここに来て、一年くらいだそうだし、それくらいは持ってるのかも……)


「え? でも、いいの? 私が使っちゃっても……」

「うん、全然構わないよ。それに、ちゃんと使ってあげたほうが、良いだろうし……」


(ふむ。……じゃあ、メイちゃんのご好意に、甘えて借りるとしよう)


 洗い物は、結構すぐに片付いた。もっとかかると思っていたのだが。

 メイちゃんが、その理由を教えてくれる。


「チュンさんとか、早く食べ終わった人が、自分の食器と一緒に、色々洗ってくれてるから」


 そういう事らしい。私が食べ終わる頃には、大体の物は、洗い終えていたようだった。だからやるのは、空になったお鍋を洗うことと、テーブルの掃除のみだった。


 椅子を整えたりして、食堂の整理が全部が終わり、私とメイちゃんは、食堂を後にした。


お読み頂き、ありがとうございます。

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