表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/89

その23 運命のタイミング(前編)

「ゆりかさんだっ!」

 僕は反射的に急ブレーキを踏んだ。

 車が止まってからちょっと苦笑い。

 

 バカだな…普通に止まればいいのに、僕は何焦ってんだ?


 確かにバス停にいる女性はゆりかさんに違いない。

 三木さんとの面会から30分も時間のズレがあれば、もう会えないものかと思っていた。

 でもどうやらバス停には彼女一人きり。話しをするには願ってもない絶好のチャンス!

 いつもの僕なら、心の準備も何もなしに人と大事な話をするなんて、とんでもないこと。支離滅裂になるのは目に見えてわかる。

 それなのに僕はこのとき、直感的に思った。


 ───今しかない。今を逃したらもう言えなくなる!


 僕みたいな人間に直感なんてあるのかどうかは定かじゃない。それに何をどう言うのかなんて決めてもいない。下書きした原稿があるわけでもない。

 なのに僕は、ゆりかさんの元へ足を運んでいる。僕の鈍感な頭脳より、勝手に進む足の方がよっぽど正直だ。


 ゆりかさんも僕に気づいて、バス停の屋根付ベンチからゆっくりとこちらへ歩み寄って来ている。

 そしてついに僕たちの距離が2メートル以内になったとき、お互いが自然に立ち止まる。

 ──数秒の沈黙。ゆりかさんは落ち着いていた。というより、僕だけが勝手に緊張しているだけなんだけど。

 こんな場所に突然現れた僕に対して、彼女は驚いた風の様子なども感じられない。

 むしろ優しい眼差しで、僕が何かしゃべろうとしているのを待っているようにさえ見える。


 ───ならばしゃべろう!僕の今の本当の気持ちをここで。

 決してロマンティックな場所ではないけれど、真心を彼女にぶつけよう。


「ゆりかさん。僕にはあなたが…」


と言いかけたとたん、僕のおなかが

“グウゥゥゥ〜〜♪”

と、こんな田舎のバス停前で大きく鳴り響いた。


ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!な、なんでここでぇぇぇ!!


 さすがに目を丸して驚いたゆりかさん。でもすぐにクスッと笑ってくれたので、照れ笑いしながらも一安心する僕。

「卓さん、おなか空いてるの?それともおなか壊してるの?」

 久しぶりに会ったのに、会話の始まりがこんなだなんて…(^_^;)

「いえあの…たぶん空いてる方だと(^□^;A でも平気です。これしきのこと」

「無理しないで。私もおなか空いてるの。どこかで一緒にランチしましょ」

「は、ははははいっ!」

「私、バスに乗り遅れちゃってね。1時間も待つ所だったの。図々しいお願いで申し訳ないけど、卓さんの車に乗せてくれる?」

「も、ももももちろんです!」

 ゆりかさんはまたクスッと笑った。

「卓さん、変よ。緊張なんてすることないのに。私たち、元夫婦じゃない。初対面じゃないのよ」

 よくよく考えればそうだった。お互いよく知っている仲なのに、こんなに緊張するなんておかしいや…

「そう…そうですよね。アハハハ…(⌒▽⌒)」

 このぎこちない笑いも、どこかおかしいと自分でもよくわかる。

「卓さんは何が食べたいの?」

「ラーメ…いえ、口に入るものなら何でも^^;」

「じゃあ、車に乗って最初に見つけたお店屋さんに入ることにしましょ」

「はいっ」

 結局、ゆりかさんがリードしてる形になっていた。



───15分後。

 僕とゆりかさんはカレーショップのテーブルで対面していた。

「本当にいいんですか?カレーで」

「全然。卓さんもカレー好きでしょ?」

「はい。でも外食でカレーは初めてなもんで…」

「ホントに?じゃあ家庭のカレーしか食べてないってことね?」

「家でもカレーは作らないし…」

「そうなの?最後にカレー食べたのっていつ?」

「えと…最後かどうかはわからないんですけど、僕の記憶に残ってるのは、昔ゆりかさんが作ってくれたやつかなぁ…」

「(゜〇゜;)ええっ?そんなに前?」

「ええ。おいしかったですもん。辛口と甘口のルーを混ぜて中辛を作った中に、じっくり煮込んだチキンが入ってたあのカレーの味は絶品でした」

「……そんなことなんか憶えてたの。。」

「すいません。なんか急に思い出しちゃって <(; ^ ー^) 」


 大事な話をするきっかけもつかめないまま、注文したカレーが運ばれてくる。

「ゆりかさん、福神漬は?」

「少しちょうだい」

 テーブルには、透明のプラスティック容器に入った福神漬が置かれている。

 僕は備え付けられている小さじで、ゆりかさんの皿にそれを盛りつけた。

「ありがとう。卓さん、少し手が震えてない?」

 緊張しているのがバレバレとはいえ、僕は平静を装った。

「そんなことはないですよ。アハハ(^□^;ほら福神漬だってこんなに早く救える」

 僕は勢いで、自分の皿にさじで5杯分の福神漬を盛ってしまった。

「卓さん、それ多すぎない?」

「いえいえ、これも僕大好きですから。アハハ…」

 そう言いながら、僕は福神漬だけを口に運ぶ。


「卓さんダメっ!それで食べちゃ!」

 ゆりかさんの言葉にハッとした僕。


Σ( ̄□ ̄;しまった!取り分けるさじで食べちゃった!!


 僕は半パ二くり状態で、慌てて小さじを福神漬の容器に戻す。

「戻しちゃダメっ!(⌒-⌒;」

と、またまたゆりかさんの声。


ハッ(゜〇゜;)ヤバっ!僕が口をつけたさじだった…

全く何やってんだ僕は。。


「あの…僕が責任持ってこれ全部食べますんで。。」

「この量を食べきるのは無理よ。何か袋でももらってお持ち帰りしましょ」

「は、はぁ…」


 僕って今でもやっぱりドジなんだ。。これじゃ真剣な話なんてできるわけないよ。

 僕は一体どうしたらいいんだ?何からしゃべれば気持ちを伝えられるんだ?


 どうやら僕の思い悩んでいる表情が、ゆりかさんに読み取られたらしい。

「卓さん、ここでは食べるのに専念しましょう。緊張して言葉を選んだりしてると食べた気もしないでしょ?」

「はい…まぁ」

「お互いおなかはペコペコなんだから、大事な話はあとで。場所を変えてからにしましょう」

「そうですね・・・そうですよね。わかりました」


 結局、ここでも終始リードはゆりかさんだった。

 あぁ…なんか不安になってきた。

 こんなんで、僕はちゃんと言えるのだろうか?

 ドジも治らない、進歩もしていないこの僕が…

 果たしてゆりかさんに再婚の申し入れなんか…

                         (続く)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ