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その17 間の悪い出張

 1泊素泊まり3150円のビジネスホテル。

 ここは僕の出張先の寝どこ。館内にはレストランもなく、夜の食事はぶらっと周辺を探索しての外食。

 色々廻ったところでやはり落ち着くのはラーメン屋さん。

 途中、うなぎ屋さんもあったけど、僕のポケットマネーでは到底無理。

 表の看板メニューの“ひつまぶし”にもそそられたけど、食べ方知らないし店員に聞くのも恥ずかしい。

 もう食事代を領収書で落とす時代じゃないから、安く済ませるのは必定なのだ。


 僕の入った小さなラーメン屋の店主は、まるごと典型的な頑固オヤジ風だった。

 スキンヘッドにねじりハチマキ。ツヤのいいハゲ頭によくハチマキがすべって抜けないもんだと感心してしまうほど。

「兄ちゃん、ここに座んな。すぐできるから」

「は?はぁ…」

 僕はいきなり座席を指定された。カウンター席が5つしかない店だけど、そのド真ん中で、店主と刺し迎えで座る形。他に客はいない。

「あの〜僕、端っこの席の方が好きなんですけどダメですか?」

と、恐縮しながら聞いてみる。

「ダメだ!ここでいいだろが!ラーメン出来たら俺がすぐ目の前に出せるじゃねぇか!」

「あ、はい…すみません^_^; じゃ、えっと…何ラーメンにしようかな…」

「もうできるぞ。麺が茹で上がったらすぐだ」

「( ̄□ ̄;)えっ?僕まだ何も注文してないですけど…」

「ここはラーメン屋だ!餃子屋じゃねぇ!頼むのはラーメンしかねぇだろが!」

 威勢のいいハゲオヤジの声が店内に響く。

「そ、そうですけどあの…味噌とか、とんこつとか…」

「ラーメンと言えば醤油に決まっている!ふざけたことを言うな!」

「…はい(-_-;)」


 どうやら僕はどんでもない店に入ってしまったようだ。

 想像以上の頑固オヤジに、会話などできるはずがない。


「へいお待ちっ!熱いうちにどうぞ!」


 見た目は澄み切ったきれいなスープ。麺はちぢれの中太麺。

 こういったオヤジのいる店は、口は悪くても、ラーメンの味には特別な定評があるものだ。そう願って一口スープを啜ってみる。


 ・・・んと…普通だ。。(⌒-⌒;


 次は麺だ。麺はきっとツルツルシコシコに違いない。


 ・・・あれ?…ちと伸び気味?(⌒-⌒;


 僕がひそかに楽しみにしていた出張先での外食は、見事期待外れに終わった。

「兄ちゃんどうだい?味は?」

「お、おおおいしいです(^□^;A」

 普通そう言うしかないでしょう?


 ちょうどその時、僕のケータイが鳴った。着信表示を見ると…え?いずみから?

 僕はすぐに電話に出る。

「もしもしいずみ?どうかした…」

 オヤジが僕の声を遮った。

「兄ちゃん!うちの店内ではケータイ禁止だ!外に出て話せ。他の客に迷惑する」

「は?他に客なんて…」

「口ごたえするな!そういう決まりなんだ!終わったら戻って来い!」

「すみません(-_-;)」


 渋々外に出て、いずみの用件を聞くことにした。

「卓くん、あのね。おじいちゃん…ダメだった」

「( ̄□ ̄;)ええっ?それって…亡くなったってこと?」

「うん……一応教えておこうと思って。ママから聞いてないでしょ?」

「全然」

「やっぱしね。で、卓くん来れる?」

「ええっと…困ったな。今ね、出張先なんだ。3日間はこの町から出れないんだ」

「遠いの?」

「飛行機で来たからね^_^;」

「そっか…」

「ごめんいずみ。戻ったら必ずお墓参りに行かせてもらうから」

「わかった。期待してないけど」

「行くよ必ず」

「もうどっちでもいいよ」

「え?」

 いずみの言い方がぶっきらぼうになった。

「卓くん、おじいちゃんがこうなる前に、何でもっと早くママにプロポーズしに来なかったの?」

 いきなりの話題転換に戸惑う僕。

「!!!…そっ、それは。。」

「こんな不幸があった後じゃ、また先送りになっちゃったじゃない!バカ!」

 こう捨て台詞を残して、いずみがケータイを切った。


 道端に立ちすくむ僕。

 そっか…いずみは最初からこのことが言いたかったのか。。

 そうだよな…いずみの言う通りだ。チャンスを失ったかもしれない。



 僕は再び店内に戻り、元の席についた。────が、ラーメンがない!

「あの…ここにあったラーメンは?」

と頑固オヤジに聞いてみる。

「捨てた」

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lええっ?何で?」

「あんな冷めたラーメン、食ってうまいはずねぇだろが!」

「僕は平気ですよ?」

「俺が食ってもらいたくねぇんだよ!」

「・・・・・」


 僕は閉口するしかなかった。

“大した味でもないのに、何カッコつけてんだこのハゲ!”

と喉元まで出かかっている言葉を必死にこらえて呑み込んだ。


「兄ちゃん、安心しろ。すぐに新しいの作ってやるから」

「ホントですか?ヽ(´▽`)/やったぁ♪」


 意外なオヤジの言葉に少しは気が晴れた気がしたが、それも一時の喜び。

 結局新しいラーメンを食べ直して清算するときには、しっかりと2杯分の代金が請求されていた。 



 僕はホテルのベッドに寝転がりながら考えた。

 いずみも茜崎さんも、応援してくれているのに、なかなか先に進まない。

 僕がトロいせいもあるけれど、時期的なタイミングも悪いような気がする。

 こんなことが続けば、天は僕に味方してくれないんじゃないかって思う。

 僕自身に気づかない罪でもあるんだろうか?幸せになれない何かの罪が。


 ふと三木綾乃さんのことが浮かんだ。

 彼女は是枝くんを愛していた。愛していたから彼に協力したんだ。

 そしてその結果があんな悲惨な事件を招いた。

 確かに殺人は問答無用でいけないことだ。けど三木さんばかり責めるわけにはいかない。言わば、彼女も被害者。。


 そうだ!!


 僕は気がついた。と言ってもひらめきというものじゃない。

 僕がゆりかさんにプロポーズできるかどうかはわからない。

 でもその前に、しておかなければならないことがあった。


 出張が終わったら、三木綾乃さんに会いに行こう。

             (続く)

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