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その10 サヨナラ、一応

 電話を終えた僕に、すぐさま問いかけて来たいずみ。

 でも僕の方は見ていない。さっきまでは確かに電話中の僕を見ていたが、今はテレビを観ながら僕に話している。

「ママからでしょ」

「うん…そうだよ。よくわかったね」

「何回もゆりかさんて言ってたじゃん」

「そうだっけ?^^;」


 僕はいずみにどう話したらいいのかわからなかった。うまく言える気も全然しない。

 数秒の沈黙の後、口を開いたのはいずみだった。

「もう私、ここに来れなくなるんでしょ?」

「えっ…?」

 この時のいずみはもうわかっていた。

 いちいち僕がヘタな事情なんか説明しなくても…

「聞こえた?」

「聞こえないけどそれくらいわかるよ」

「そっか…」

 僕はこれ以上言葉が出なかった。ただ、事情を察知したいずみがこのことをどう感じているのかが気になっていた。

「(;-_-) =3 フゥ」

 いずみが大きなため息をつく。

「どうしてなのかなぁ…卓くんもママも」

 依然、いずみはテレビ画面を観たまましゃべっている。

「いずみのママはね、もっとじっくり考えたいらしいんだ。僕はそれを尊重するよ」

「ふぅん…」

「ママにとってはいずみが頼りなんだから、しっかり守ってあげるんだよ」

「・・・・・」


 無言のままのいずみ。ふと、おもむろにリモコンでテレビの電源を切ると、サッと僕の方に振り返り、突き刺さるような視線を僕に浴びせた。

「ハッキリ言うけど、ママは卓くんが好きだよ絶対!私、わかるもん!」

 僕は少したじろいだ。これはいずみの怒りなのか、悲しみなのか…

「仮にそうだとしてもね、ママの決めたことだし、僕には口を出す資格なんてないよ」

 いずみの語気は更に強くなっていく。

「ホントにそう?卓くんだってママが好きなんでしょ!」

「いやその…この場合は好き嫌いの問題じゃなくてね…」

「ママが好きなの?嫌いなのっ?どっち?(`ヘ´#)」

 いずみの勢いに押され、つい答えてしまった僕。

「す、好きです。はい…(^□^;A」


 僕からこの言葉を引き出したいずみの表情が少しだけ柔らかくなったように感じた。

「卓くん、私ね、ママの意見を尊重することだけが正しい事だとは思えないの」

「どうしてそう思うの?」

「ママはいつもマイナス思考。自分のことより他人のことを気遣ってしまう人。そして後になってから自分自身の行動を後悔してるの。いつもその繰り返し」

「うん…確かにそんなことろもありそうな気もするけど…」

「だからね、卓くんにさっき電話で言ったことだって、きっとあとで後悔するかもしれないと思うの」

「それはわからないけど…じゃあ僕はどうしたら…?」

 少しの間を置いていずみが言う。

「私、これ以上あまり言いたくないの。子供が出しゃばるのって、ムカつくでしょ?」

「いや別に僕はなんとも…」

「私自身がイヤなの。ドラマでもよくあるじゃない。子役の子が大人顔負けに生意気なセリフをづけづけ言うの。あんなの観てたら私もムカつくもの。貼り倒したくならない?」

「いや、ならないけど…(⌒-⌒;」

「(ノ__)ノコケッ!」

「だから僕には遠慮なく言ってくれないかな。いずみの優しさはよく知ってるから、生意気な子だなんて思わないよ」

「…そんな照れること言わないでよ(*^ - ^*)ゞ…じゃあちょっとだけ言わせてもらうね」

「うん。頼むよ」


 このあと、いずみが持ち出した話は意外にも、僕とゆりかさんの過去をさかのぼって思い出させる部分からだった。

「卓くんとママが結婚したときはどっちからプロポーズしたの?」

「えっ?そんなこと…答えなきゃマズい?」

「別にいいよ。ママの方からでしょ。聞いたもん」

「あら知ってたの^_^;」

「出会って誘ったのもママからだってね。初めて聞いたときはママが大ウソつきかと思っちゃったけどw」

「ヾ(´▽`;)ゝ アハハ…」

 苦笑いするしかない僕。

「確かにママは積極性のある人で、正義の名の元にはとても強い人で、行動力もズバ抜けてあると思うの」


 いずみの言う通りだった。高校生にしては鋭い分析力がある。

 ゆりかさんにはこれまで、独身時代から数限りなく救われて来た。

 僕が何度となく不審者に間違われたときも、テキパキした対応で証明してくれた。

 下着泥棒の濡れ衣を着せられたときは、まさに圧巻。

 彼女は毅然とした態度で相手と渡り合い、正しいと思える論理の説明と推理を元に、被害者側の訴えを退けさせた。

 ゆりかさんは正義の名の下には、絶対勝つまで譲らない気丈さがある。


「でもね…そんなママでもメンタル面ではすごくナイーブ過ぎるほどナイーブなの」

「うん…」

「ひなたを難聴に産んだことにも責任を感じ過ぎて、半ノイローゼになってた。でもね、卓くんが身近になってからママは少しずつ変わって来たんだよ」

「まさかそんな…」

「私は毎日ママを見てるもん。絶対そう!」

「そう言われても僕には…」

「神経質なママはひとりでは無理。ママを守ってあげる人、ママが頼れる人がいて初めて、ママの強さも能力も発揮できるの。ママはそんな人なの」


 さすがいずみだ。まだ15歳にして、親のことをここまで理解しているとは。。


「だから、私が言いたいのはね、卓くんはただママの言うことを聞いてるんじゃなくて、ママを説得するのも大事なんじゃないかって思うの」

「説得って…そのつまり…僕も一緒にいさせて下さいとか言うの?」

「そんなの自分で考えて。恥ずかしいの?」

「なんというかその…ちょっとね(^_^;)」

「全くもぉ…」


 いずみが立ち上がった。

「今のママは言ってる事と心はウラハラ。ママにはパートナーが絶対必要。わかる?」

「まぁなんとなくは…^_^;」

「今まではママからデートに誘って、ママからプロポーズしたんだし」

「何度も言われると、ダメ出しされてるみたいだね(⌒-⌒;」

 いずみが軽く微笑んだ。

「頑張ってよね!次は卓くんの番なんだよ!卓くん次第なんだよ!」


 僕はすぐには返事ができなかった。

 何も言えないまま、立ち去ろうとするいずみを玄関先まで見送る。

 ドアに手をかける寸前で、こちらに振り返るいずみ。

 その顔は、さっきまでとは全く違うシリアスさがあった。

「私からは…もう来ないからね」

「うん…」

「それと、さっき気づいたんだけど、お茶の間に置いてあるお部屋の匂い消し、あれトイレ用だよ」

「( ̄▽ ̄;)えっ?」

「うちのトイレの芳香剤と同じ匂いだから気をつけて」

「わかった…(^_^;)」

「それからみそラーメンのチゲ風味がもう賞味期限切れてたよ。よく見てね」

「そ、そうだったのか。全然気付かなかった(~▽~;)」

「それと、燃えるゴミの中にペットボトルが1本入ってたよ。ゴミの分別には注意してね。目をつけられたらやっかいでしょ」

「ごもっともで…(⌒-⌒;」

「それから…」

「まだあるのかい?; ̄_ ̄)」

「最後にもうひとつ。例の電動マッサージチェアのこと」

「あぁ、あれね・・・」

「早く梅田さんから取り戻した方がいいよ」

「う、うん。わかった(^^ゞ」

「じゃあこれで…」


 いずみが玄関のドアを開けて外に出ようとする。

 僕も外まで送ろうとサンダルを履いて1、2歩進むと、再び振り返ったいずみと鉢合わせのようにぶつかった。

「アタッ…!」

「イタッ…!」

「あ、ご、ごめん。いずみ大丈夫かい?」

「平気だけど今のちょっとヤバかったよね」

「(・д・)ん?何が?」

「卓くんとチュウしちゃうとこだったじゃん。私の方が身長低かったら助かったけど」

「(^□^;Aハハ…そうだね」

 一体僕はどうリアクションしたらいいんだ?


「ごめんね。卓くん。やっぱりまだ言わなきゃならないことがあった」

 なぜかドキッとする僕。

「え?なんだい?なるべくラーメンばかり食べないように気をつけるよ」

「違うよぉ。えっとね・・・とりあえず一応、言っとく」

「どうぞ何でも遠慮なく。ドキドキ(*・ _ ・*)ドキ」


 次の瞬間、突然いずみが深々と僕におじぎをした。

「卓くん、今までありがとう」

「ええっ?Σ( ̄□ ̄;なにもそんな…いいよ別に」

「黙って聞いてっ!」

「はい…^_^;」

「卓くん、私の受験に協力してくれてありがとう。そしてひなたに手話を教えてくれてありがとう。私とひなたをいつも楽しませてくれてありがとう。強盗から私たちを守ってくれて、本当にありがとうね」

「いずみ…(゜ーÅ)ホロリ」

 照れ隠しにハニかんでいるいずみの目には、ほんの少しだけ涙が光ってるように見えた。

「じゃあこれでホントに行くね」

「うん。。」


 外に出たいずみが玄関のドアを後ろ手に閉める。

 僕はその閉じられたドアを数分間、ただ見つめていた。


 僕の思いすごしかもしれない。

 外からいずみのかすかなつぶやきが聞こえたような気がした。


“諦めないもん…私”

                  (続く)


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