その6 トークランチ
「卓くんすご〜い!ちゃんとできてるー!」
しきりに感心するいずみ。
「だろ。結構これ得意なんだ」
「へーえ」
ちょっとだけ鼻高々な僕。
ゆで卵の殻を剥いて、先っちょを一口かじったいずみが、中からトロ〜っと出てくる黄身を口で啜るように二口目を頬張る。
「よくこんなに上手に半熟が作れるね♪卓くんが得意なのはラーメンだけかと思った」
「そんなことはないよ。ラーメンの具になるものなら、たいてい勉強したんだ」
「でもやっぱりラーメンからは離れられないんだね(^_^;)」
「僕の作り方は他の人と違うんだ。卵を水から入れないで、沸騰させてから6分きっかり茹でるんだ。そして火を止めて1分放置したあと、冷水に3分…」
「説明は別にいいよ(^_^;)」
「お湯に酢を入れておいたら殻が剥きやすく…」
「だからもういいって(^_^;)卓くん、熱入りすぎw」
「( ̄┰ ̄;)ゞエへへ…ごめん」
「じゃあさ、味付メンマも手作りするの?」
「あのね・・・それは買うよ(⌒-⌒;」
「(ノ__)ノコケッ!」
この日、僕のアパートに来ていたのはいずみ一人だけ。
話に聞くと、ひなたちゃんとゆりかさんは、是枝くんの実家、つまり義理の親御さんのところに顔を出しに行ったとのこと。
いずみの父親は茜崎さんだから、自分は関係ないと言って一緒に行かなかったそうだ。
「さて、こっちの茹で上がりはこんなもんかな」
そう。僕は同時に鍋でラーメンも作っていた。
「ほら、今日は“コク旨とんこつ醤油”だよ。半熟卵もトッピングするからね」
「私、2個もらっていい?」
「今1個食べたのに?」
「だってまだ5個あるじゃん」
「ハハハ♪そうだね。いいよ。遠慮しないで食べなさい」
「ヽ(´▽`)/わ〜い♪」
無邪気に喜んでくれるいずみはホントの娘みたいで可愛い。グレもしないで明るくここまで育ってる。女子高生にもなったら友達と遊んでる方がずっと楽しいはずなのに…
今の自分はつくづく幸せもんだと思う瞬間でもあった。
できれば…許されるなら…こんな日がずっと続くといいのにな。。
「卓くん、私何すればいい?」
いずみの言葉に幸せの余韻から我に返った僕。
「じゃ、じゃあいずみはごはんついでくれる?」
僕は出来上がったラーメンをどんぶりに移しながら言う。
「私はラーメンだけでいいよ。どっちも炭水化物だから太っちゃうもん」
「そっかぁ。でも僕にとってはラーメンライスが定番だからなぁ…」
いずみの言葉にちょっとだけしょげた僕。それを見たいずみが
「卓くんは食べていいんだよ。私が卓くんの分だけ茶碗によそってあげるよ」
と、いきなりごはんを山のように盛るいずみ。
「はい、どうぞ」
「ちょ、ちょっと…いずみ、それはいくらなんでも…( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)」
僕はいずみの行動に面を食らった。
「ん?多すぎた?」
「そうじゃなくてさ…あのねぇ、ごはんの真ん中にハシを突き刺さないで欲しいんだけど(⌒-⌒;」
キョトンと僕を見つめるいずみ。
「あ、やっぱ気になる?」
「一応…」
「だってハシ置きないでしょ。一瞬迷ったんだよね(*^ - ^*)ゞ」
「そうは見えなかったけど…ま、いっかぁw」
「そうそう。細かいこと言ってたらラーメンのびちゃうよ!」
時々いずみには、意表をつかれる行動と言葉遣いをされるけど、これはこれで変わった刺激があって、楽しいものなのだ。
テレビを観ながら二人で食事をしていると、おもむろにいずみが話しかけてきた。
「そう言えば、マッサージチェアが見当たらないけど、片付けちゃったの?」
「あー、あれはまだ梅田さんとこにあるかな」
「!?工エエェ(゜〇゜ ;)ェエエ工!?まさかずっと前に貸したっきり?」
「そうかも。そう言えば全然気にならなかった^_^;」
「ダメじゃん…; ̄_ ̄)」
「(~д~ )ゞデヘヘ」
「あれ、気持ち良くて好きだったのになぁ」
「いずみが前にそんなこと言うから、梅田さんに勘違いされそうになったんだぞ」
「(・_・)ン?勘違い?…あぁ、卓くんが私を買春してるって思われたこと?」
「だからそんな言葉すぐ言うなって!買春だの売春だのって(^□^;A」
「売春とは言ってません!」
「だったっけ?<(; ^ ー^) やば…」
会話が一旦途切れ、ラーメンもほとんど食べ終わったいずみが、再び僕に話しかけて来る。
「ねぇ、卓くんはこのまま一生独身でいるの?」
これまた意表をつかれた質問に浮足立つ僕。
「そうかもしれないね( ̄ー ̄; 僕のとこになんて、もう来てくれる人なんかいないよ」
「そんなのわかってるからハッキリ言わなくてもいいのに」
「((ノ_ω_)ノバタッ」
「でもさぁ、これが小説だったらさぁ、最後はどんでん返しってあるじゃない?」
「最近、小説はほとんど読まないんだ^_^;」
「でも普通はあるの!じゃないとつまんないでしょ?」
「まぁね^^;」
「もし、卓くんと私がカップルになったら、大どんでん返しだよね?w」
「あり得ないよ(⌒-⌒;」
「あり得ないから小説なんだよ」
「読者から苦情が来ると思うよ。話がブッ飛び過ぎ!って」
「そうだよねwo(^▽^)oキャハ♪」
こんな和やかなムードが一変したのが、この5分後に来るゆりかさんからの電話だった。
(続く)