表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/89

その2 そのとき僕は

 最近の僕は、少しずつラーメン生活から脱却している。もちろん健康のためだ。

 今日は帰宅早々、実家のおふくろが置いて行った切干大根で味噌汁を作ってみた。

 何分煮ればいいのかわからないから、鍋の中を確かめながら作業をしていたのに、見た目では頃合いがわからない。

 味噌汁はグツグツ沸いているのに、大根が思うようにならない。

 火を止めて、ハシでそれをつまんでみる。


 縄を短く切ったみたいだ…それにまだ堅そうだ( ̄ー ̄;


 さてどうしたものか?大根とはこんなに煮えないものなのか?

 僕は何気に切干大根の入っていた袋に目をやると、何やら説明書きの表示がしてあるのに気付いて愕然とした。


“はじめに、本品を水でもどし…”


ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! 


 しょっぱなの、たったこれだけの説明書きで、自分の愚かな間違いが露呈した。

 水にもどすなんて作業、そんなの生まれてこのかた経験がない。

「あ〜ぁ、失敗だ…仕方ないや。ラーメン食べるしかないな」

 僕は味噌汁の入った鍋は放置して、自慢のラーメン棚から今日の一品をチョイスする。

 そしてお湯を沸かそうとしていたその時、僕のケータイにいずみからの電話が。。


「もしもし。いずみどうしたの?今日はうちに来る日じゃなかったっけ?」

「うん…そのことで電話したの。行けない理由ができちゃって…」

 明らかにいつものいずみではないことが、ケータイごしからでもすぐわかる。

「卓くん…落ち着いて聞いてね。あのね、あの英之がね…」

「是枝くんがどうかしたのかい?」

「うん……死んじゃったの」


「(・_・)...は?」


「だから英之が死んじゃったの」


Σ( ̄□ ̄;えええっ?!


「どういうこと?別に病気じゃなかったよね?もしかして事故?」

 数秒のためらいの後、いずみはその原因をハッキリと口にした。

「英之は…会社で人に刺されちゃったの。。なんか女の人にらしい」

「なんだって!?刺されたって…誰に?」

「だから女の人」

「じゃなくて、その女の人の名前とかわかるの?」

「まだ詳しいことはちょっとわかんない…ひょっとしたら英之の浮気相手だったかも」

「そんなまさか…」

「でも人殺しはいけないよね」

 意外にも、いずみが淡々としゃべっているのに驚いた僕。

「どんな理由があっても殺人は許されない。で、その犯人は逃げてるの?」

「ううん。すぐに捕まったみたいだよ」

「捕まった?逃げなかったんだ?」

「だから詳しいことは私もよく知らないの」

「あ、ごめん。。ゆりかさんは…ママはどう?取り乱してない?大丈夫かな?」

「そんなんじゃないよ。その逆」

「逆?」

「怖いくらいに落ち着いてるの。でも何を話しかけても上の空で…」

「いずみ、それは落ち着いてるんじゃなくて、ママはショックを通り越してしまったんじゃないかな?」

「…私にはなんとも言えないけど」


 行きたい!今すぐゆりかさんのそばに行って、何かしてあげたい!

 でも今の僕はそんな立場にないんだ。。


「是枝くんのご遺体は…今そこに?」

「ないよ。英之は今、しゅ…手動解剖?とか言ったっけ?」

「手法解剖だろ」

「うん、それそれ。今はまだそっちの方に行ってるから」

「そうなんだ。向こうの身内の人にはもう連絡したの?」

「うん。これからみんな来るみたい」

「そっか…なら僕が今そっちに行くのはやっぱりマズイね。元亭主が元妻のそばに行くなんて、変に誤解されるだけだし」

 電話の向こうで少しの間をおいて、いずみが返事をした。

「うん。そうだね…そうだよね」

「ごめん、いずみ。正式な葬儀の参列には必ず行くから」

「うん。じゃあその時待ってる。必ず来てね」


 いずみと通話の後、ものの1分経つか経たないうちに再び着信があった。

「森田、驚かないで聞けよ。本社で大変なことが起きた!」

 小松部長からだ。

「本社の是枝本部長が刺されて亡くなられたんだ」

「は、はぁ…」

 部長は僕のリアクションに不満だったようだ。

「何で驚かない?これは殺人事件なんだぞ!」

「部長が驚くなって…」

「そんなことに素直にならなくていい!とにかく是枝本部長は、以前俺の部下だったし、お前とも同僚だったから縁が深い」

「そうですね…」

「たぶん葬儀は社葬になるだろう。そのつもりで支度をしておけ」

「は、はい」

「森田、お前ひょっとして知ってたな?」

「え?…あ、はい。実は今ちょっと前に知り合いから。。」

「何だ、そうだったのか…じゃあ是枝本部長を刺した女も誰か聞いたんだな」

「えっ?」

「なら良かった。さすがの俺もお前には言いにくかったんだ。数年前の一件のこともあるしな」

「えっ?一体何のことです?」

「あのときの慰安旅行でのスキャンダルのことだ。お前が思い出したくない気持ちもわかるから、言いたくなかったんだ」


 僕は不思議でたまらなかった。何で今、小松部長がそんな過去の話を持ち出すのか。

「すみません。僕あの…意味がわかりませんが…(^_^;)」

 小松部長は明らかに機嫌が悪くなった。

「何だよ!お前、知り合いとやらに聞いたんじゃないのか?」

「聞きましたけど…」

「なら意味がわかるじゃないか!わざとらしいボケをするな!」

「はぁ・・・」

「しかし理由が全くわからん。なぜ三木綾乃は是枝本部長を刺す必要があったのか…」


「工エエェΣ( ̄□ ̄;ェエエ工!?」

                    (続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ