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その25 気にしない気にしない

「お邪魔しまーす♪」


 今週末もいずみはひなたちゃんを連れてやって来た。

 これで3週連続。土日は続けて来るから回数で言えば6回目。

 僕の手はかなり回復して、人におしりを拭いてもらわなくてもよくなったので、おふくろはもうここには来なくなっていた。

 とは言え、僕の心配事は次から次へと尽きない。

「なあいずみ、ヤバいよ絶対。ママにきっぱり言われたのにさ」

 こんな僕の心配もいずみには何のその。

「気にしなくていいよ。ママも英之も家にいないときに来てるんだから」


 いずみって子は肝が据わっている。バレたらバレたで仕方ないと平気で言う。

「でもねいずみ、もしこのことが知られたら、僕はゆりかさんにどんな顔して言い訳すればいいか、わからないよ」

「卓くんの顔はこれ以上変わらないでしょ|* ̄m ̄)プ」

「そういう意味じゃなくてさ…」

「わかってるよ。でもそんな必要ないって。私の独断なんだもん」

「そうは言っても僕としては……あ、ひなたちゃんちょ…ちょっと…」

 まだ話してる途中で、ひなたちゃんが僕の腕を掴んで遊んでくれとせがむ。

「ほら、ひなたが退屈してるじゃない。卓くんの手もだいぶ良くなったんだし、これからもっといろんなこと教えてあげて」

「そりゃ僕だってそうできれば嬉しいけど…」

 いまいち煮え切らない態度の僕に、いずみは小さなため息をつく。

「あのね卓くん、ママはたぶんわかってると思うよ」

「!?工エエェ(゜〇゜ ;)ェエエ工!?」

「薄々だと思うけどね。でも安心して。英之は知らないから」

「…じゃあゆりかさんは黙認してるってことなのかい?」

「たぶん」

「なぜだろう?」

「内心はママ自身も助かると思ってるからでしょ。でも英之もいる手前、公認するわけにはいかないんじゃないかな?」

「な、なるほどね・・・」



 こんなこともあって、僕はいささかの後ろめたさはあるものの、更に1か月2か月と、週末にやって来るいずみとひなたちゃんを受け入れ続けていた。

 そんなある日のこと…

「私、やっぱ卓くんの彼女になってあげよっかな」

 冗談半分に言ったことだとわかっていても動揺してしまう僕に、いたずらっ子そうな目で様子を伺ういずみ。

「(*'‐'*)ウフフフ♪♪週末だけ会うなんて、カップルみたいだよね」

「僕はそう思わないけどなぁ(⌒-⌒;」

「え?じゃあ私が援交してるように見える?」

「いやいやいや、そうじゃないよ(^□^;A」

 援交…こんな言葉がいずみの口からごく自然に出るのに軽いショックを受ける僕。

「だいいち、ひなたちゃんも一緒にいるんだからカップルとは言わないだろ」

「アハ(*^ー^*)♪そうだよね。どう見ても親子連れだよねw」

「僕がそう言うのもおこがましいけどね(^_^;)」

「気にしないでね。仮の彼氏でも作っておこっかなかって思っただけだから」

「か、仮?(⌒-⌒;」

 僕はひなたちゃんとあやとりをしながらいずみと話していた。

 いずみは冷蔵庫から自分で買って冷やしておいたミネラルウォーターと、ひなたちゃん用のヤクルトサイズのりんごジュースを出して来てテーブルに置く。

「私ね、今ちょっと反省しちゃった」

「どういうこと?」

「まわりの友達ってほとんど彼氏いるんだよね。だから私も焦っちゃって…」

「なるほど。そうだったんだ。いずみには本命がいないのかい?」

 この質問には即答で帰ってくる。

「いるわけないでしょ!男子なんてみんなガキなんだもん。もっと大人がいいの!」

「でも僕じゃ大人過ぎるだろ」

「だから仮だって言ったでしょ!」

「ごもっともで…(⌒-⌒;」


 いずみはりんごジュースのフタをはがしてひなたちゃんに手渡す。あやとりをやめてジュースを選んだひなたちゃん。勢いよくおいしそうに飲んでいる。

「じゃあいずみの好きなタイプってさ、もうちょっと具体的に言うとどんな子?やっぱジャニーズ系とか?」

「それ大人じゃないじゃん」

「スマップとか大人だろ。その上には少年隊もいるしw」

「あぁ、ダメダメ。基本的に顔のいい人は無理」

「へ?( ̄ヘ ̄)女子高生とは思えないこと言うね。なんで?」

「なんかヤなの。カッコいい人っていかにも自分はモテるって感じでしょ?」

「僕にはわからないけどね(^_^;)」

「勘違いしないでね。別にジャニーズの人がそうだって言ってるわけじゃないから」

「わかってるよ。別に僕はジャニーズのマネージャーでも何でもないから^^;」

「で、そういう人ってさ、大した面白くないこと言っても女子にキャーキャー言われてモテるのね。そんなの見てるとバカらしくてね」

「あぁ、それわかる。僕はそれを遠くから静観してた側の人間だけど^_^;」

「それに比べてブサイクにはそんな余裕がないから、思いが一途でウソがないことがわかるんだ」

 まだ高1なのに、いずみはよくここまで自分なりに分析しているものだと感心してしまう僕。

「だから今は本命はいらないの。男を見極める修行中ってとこかな。ひなたの面倒を見てたらそんな余裕もないしね」

 

 それを聞いた僕は、いずみが言った前半の言葉を受けて、図々しい発言をしてしまった。

「いずみのその条件てさ、なんか僕に当てはまってない?なんなら仮の彼氏に…あ、もちろん仮のままだよ。なってあげよう…か?(~д~ )ゞデヘヘ」

 いずみはキョトンとした顔で僕を見つめていたが、そのうち噴き出した。

「(*≧m≦*)ププッ。ごめん、やっぱ無理。私、顔は面食いじゃないけど、体型はスリムな人がいいの。悪いけど卓くん、軽いメタボ入ってるじゃん」

「Σ( ̄ロ ̄lll) ガビーン…そっかぁ、ここ10年で10kgは太ったからなぁ…」

「え?元々そんなんじゃなかったの?」

「全然違うよ。中学時代は野球部でバリバリだったんだんだから」

「卓くん、もしかしてキャッチャー?」

「あのね、人の体型だけでポジションを勝手に決めつけないように!」

「じゃあどこ?」

「・・・・・キャッチャー」

「きゃははは(T▽T)ノ_彡☆ばんばん!やっぱりー!」


 僕は苦笑いするしかなかったが、こんな会話でさえ、すごく楽しいひとときに思える。

 本当はこんなところに通わせてはいけないことだとわかっていても、いずみたちを拒むことができないでいる。

 特に、最近のひなたちゃんは、教えた手話も上達し、すすんで骨伝導補聴器をつけるようになったから、大きな声で絵本を読み聞かせることを始めた。

 その間、いずみは自分の愛読している本を読んでいる。表紙を見るといつも決まってアガサ・クリスティのミステリー小説。

 特にお気に入りを聞いてみると、主人公以外の登場人物が、全員犯人だった作品が感動したそうだ(⌒-⌒;


 そんなこんなで、先の見えないこれからの僕たち。でもいつかは離れるときがやって来るのだろう。

 いつかは。。。

                      (続く)

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