その23 元家族スリーショット
元家族スリーショット
ゆりかさんは思い悩んでいるようだった。
「困ったわね…パパに知れたら大変なのはわかってるわよね?」
「売られたケンカなら私買うよ」
「バカね、いずみがケンカ売ってることになるのよ。パパの言いつけ守らないんだから」
「そういうことになるならそれでいいもん」
僕は不思議だった。いずみが必死になってまでここに通うと言っている意味が。
ひなたちゃんが僕によくなついてくれるという理由も一理ある。でもいずみの主張は何かそれ以上のものが感じられる。
推測できるのは、きっと我が家での居心地が悪いのだろうということ。いずみと是枝くんのぎくしゃくした関係がよくわかる。
と考えれば、僕の家が特別良いわけじゃないってことだ。
そんなことより、問題はこれを良しと考えるかどうか…
もし、これからも二人が来るとしたら僕はどうすればいいんだろう?
ひなたちゃんとは遊んだり、手話を教えたりできるけど、いずみは何が面白い?お受験も終わって勉強なんて教える必要もないし、だいいち進学校の学習内容なんて、僕はもうついていけない。
ゆりかさんがふと、包帯でグルグル巻きの僕の両手を見た。
「卓さん、その手じゃ随分不便でしょうね?」
いずみもそれには同調する。
「そうそう、私もさっきからそう思ってたんだ。そんな手じゃごはん作れないでしょ?どうしてるの?」
二人とも心配した顔で僕をみている。なんとなく嬉しいけどなんか照れくさい。
「あぁ…それはね、実家のおふくろが来て食事は作ってくれるんだ」
「お母様が…」
「私の元おばあちゃんが来てるんだ。でも今いないのは何で?」
「実家には82歳のばあちゃんがいるから、おふくろはそっちの面倒もみてるんだ。泊まり込みってわけにはいかないんだよ」
「ふうん…」
いずみがちょっと考えてから再び僕に質問する。
「でもさ、ごはん作ってくれたってその手じゃ箸もスプーンも持てないじゃん?」
なんだかこの二人には、核心を突かれているようで焦ってしまう。
「だからその……食べさせてもらってるんだ(´▽`;)ゝ 」
「えっ?マジで?卓くんが私の元おばあちゃんにアーンってしてもらってるの?」
「あのね…そんなアーンとは言わないよ(^_^;)」
「(*≧m≦*)ププッ でもなんか想像できない」
「想像したから笑ったんだろ(⌒-⌒;」
「いずみ、笑っちゃダメよ。卓さんは不自由してるのよ」
と言いながらゆりかさんも半笑いしている。
そんなゆりかさんの笑顔を見れたことに、嬉しさを覚える僕っておかしいのかな?
「卓さん、今日の夕飯はどうするの?お母様、また来られるの?」
半笑いがおさまったゆりかさんが僕に尋ねる。
「今日はもう来ないよ。夕飯は食べないことにしてるんだ」
「ええっ?お腹空くじゃない」
「いいんだ。夕飯抜くのがダイエットに良いって聞いたからさ。こんなことでもなけりゃ実行できないから、いい機会だと思ってやってるよ」
「じゃあお母様は朝早く来られてごはん作りされるのね?」
「ていうか、実家で作って持って来るって感じかな。昼ごはんはここで作ってくれたりするけど」
それを聞いたいずみの反応の早いこと。
「朝も昼も家にいるの?卓くん、会社クビになったの?」
「いやいや、クビじゃないよ。有給休暇ってのを使って休んでるんだよ」
「うわー、もったいない使い方。普通、旅行したりしてリフレッシュしたりするんじゃないの?」
「中にはそういう人もいるけどね。ケガしちゃったから仕方ないよ。でもね、これでもリフレッシュしてる気がするんだ。仕事から離れてゆっくりできるのは久しぶりだからね」
「そういうもんかなぁ…?」
今までうつむき加減だったゆりかさんが、だいぶリラックスしてきたようで、正座していた足をさりげなく横に崩すと、ゆっくり首を持ち上げて部屋をグルリと見渡した。
「卓さんの独身時代を思い出すわ。あの時も棚にラーメンばっかり(*^m^*)」
「全くもってお恥ずかしい…( ̄┰ ̄;)ゞ」
「でも今はお母様が食生活の管理をして下さるから、すごく健康的な毎日でしょ?」
こう聞かれると僕はちょっと答えづらい。
「いやそれなんだけどね…どうもお腹の調子が悪いんだ」
「( ̄▽ ̄;)えっ?何で?」
この反応は、ゆりかさんといずみが同時だった。
「やっぱし普段食べつけないものを食べると、僕の体が敏感に反応するみたいで…」
「食べつけないものって…(^_^;)お母様がそんな変なもの作るかしら?」
「いや違うんだ。朝も昼もごく普通の純和食だよ。ごはんとみそ汁とおかずが数品」
「それなのにどうしてお腹が?」
「もう何年も定食みたいなごはん食べてなかったからねぇ。たぶんラーメンの方が体になじんでるんじゃないかって…」
「卓くん・・・それってあり得ないから; ̄_ ̄)」
いずみが不可解な顔で僕を見つめていた。
「ママ、私思った。やっぱり卓くんのお手伝いしたい。昼過ぎにはおばあちゃん帰っちゃうんだし、そのあと私が来て洗濯したりしてあげる」
「いずみ…」
「なんなら私が夕飯用意して、卓くんにアーンしてあげるよ」
それを聞いた僕はドキッとして、内心嬉しいのに軽く否定する。
「いや、それはちょっと恥ずかしいから…(~д~ )ゞデヘヘ」
「遠慮しないの。別に私、卓くんの彼女じゃないし。簡単に言えば介護だよ介護」
「まぁそうなんだろうけど…(^^ゞ」
ゆりかさんがいずみを頼もしそうな目で見ている気がした。
それでも小さなため息をひとつ漏らして言う。
「いずみ、介護ってね、口では簡単に言えるけど楽なもんじゃないのよ」
「わかってるよ。でも卓くんは寝たきりのお年寄りじゃないんだから大丈夫だよ」
「だといいんだけど。でもね、甘く見てると大変な目にわよ」
「平気平気♪」
いずみは余裕さえ感じる口ぶりで返事をした。
だがこの後、そのいずみの余裕が一気に豹変することになろうとは…
(続く)




