表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/89

その23 元家族スリーショット

元家族スリーショット


 ゆりかさんは思い悩んでいるようだった。

「困ったわね…パパに知れたら大変なのはわかってるわよね?」

「売られたケンカなら私買うよ」

「バカね、いずみがケンカ売ってることになるのよ。パパの言いつけ守らないんだから」

「そういうことになるならそれでいいもん」


 僕は不思議だった。いずみが必死になってまでここに通うと言っている意味が。

 ひなたちゃんが僕によくなついてくれるという理由も一理ある。でもいずみの主張は何かそれ以上のものが感じられる。

 推測できるのは、きっと我が家での居心地が悪いのだろうということ。いずみと是枝くんのぎくしゃくした関係がよくわかる。

 と考えれば、僕の家が特別良いわけじゃないってことだ。


 そんなことより、問題はこれを良しと考えるかどうか…

 もし、これからも二人が来るとしたら僕はどうすればいいんだろう?

 ひなたちゃんとは遊んだり、手話を教えたりできるけど、いずみは何が面白い?お受験も終わって勉強なんて教える必要もないし、だいいち進学校の学習内容なんて、僕はもうついていけない。

 

 ゆりかさんがふと、包帯でグルグル巻きの僕の両手を見た。

「卓さん、その手じゃ随分不便でしょうね?」

 いずみもそれには同調する。

「そうそう、私もさっきからそう思ってたんだ。そんな手じゃごはん作れないでしょ?どうしてるの?」

 二人とも心配した顔で僕をみている。なんとなく嬉しいけどなんか照れくさい。

「あぁ…それはね、実家のおふくろが来て食事は作ってくれるんだ」

「お母様が…」

「私の元おばあちゃんが来てるんだ。でも今いないのは何で?」

「実家には82歳のばあちゃんがいるから、おふくろはそっちの面倒もみてるんだ。泊まり込みってわけにはいかないんだよ」

「ふうん…」

 いずみがちょっと考えてから再び僕に質問する。

「でもさ、ごはん作ってくれたってその手じゃ箸もスプーンも持てないじゃん?」


 なんだかこの二人には、核心を突かれているようで焦ってしまう。

「だからその……食べさせてもらってるんだ(´▽`;)ゝ 」

「えっ?マジで?卓くんが私の元おばあちゃんにアーンってしてもらってるの?」

「あのね…そんなアーンとは言わないよ(^_^;)」

「(*≧m≦*)ププッ でもなんか想像できない」

「想像したから笑ったんだろ(⌒-⌒;」

「いずみ、笑っちゃダメよ。卓さんは不自由してるのよ」

と言いながらゆりかさんも半笑いしている。

 そんなゆりかさんの笑顔を見れたことに、嬉しさを覚える僕っておかしいのかな?


「卓さん、今日の夕飯はどうするの?お母様、また来られるの?」

 半笑いがおさまったゆりかさんが僕に尋ねる。

「今日はもう来ないよ。夕飯は食べないことにしてるんだ」

「ええっ?お腹空くじゃない」

「いいんだ。夕飯抜くのがダイエットに良いって聞いたからさ。こんなことでもなけりゃ実行できないから、いい機会だと思ってやってるよ」

「じゃあお母様は朝早く来られてごはん作りされるのね?」

「ていうか、実家で作って持って来るって感じかな。昼ごはんはここで作ってくれたりするけど」

 それを聞いたいずみの反応の早いこと。

「朝も昼も家にいるの?卓くん、会社クビになったの?」

「いやいや、クビじゃないよ。有給休暇ってのを使って休んでるんだよ」

「うわー、もったいない使い方。普通、旅行したりしてリフレッシュしたりするんじゃないの?」

「中にはそういう人もいるけどね。ケガしちゃったから仕方ないよ。でもね、これでもリフレッシュしてる気がするんだ。仕事から離れてゆっくりできるのは久しぶりだからね」

「そういうもんかなぁ…?」


 今までうつむき加減だったゆりかさんが、だいぶリラックスしてきたようで、正座していた足をさりげなく横に崩すと、ゆっくり首を持ち上げて部屋をグルリと見渡した。

「卓さんの独身時代を思い出すわ。あの時も棚にラーメンばっかり(*^m^*)」

「全くもってお恥ずかしい…( ̄┰ ̄;)ゞ」

「でも今はお母様が食生活の管理をして下さるから、すごく健康的な毎日でしょ?」

 こう聞かれると僕はちょっと答えづらい。

「いやそれなんだけどね…どうもお腹の調子が悪いんだ」

「( ̄▽ ̄;)えっ?何で?」

 この反応は、ゆりかさんといずみが同時だった。

「やっぱし普段食べつけないものを食べると、僕の体が敏感に反応するみたいで…」

「食べつけないものって…(^_^;)お母様がそんな変なもの作るかしら?」

「いや違うんだ。朝も昼もごく普通の純和食だよ。ごはんとみそ汁とおかずが数品」

「それなのにどうしてお腹が?」

「もう何年も定食みたいなごはん食べてなかったからねぇ。たぶんラーメンの方が体になじんでるんじゃないかって…」

「卓くん・・・それってあり得ないから; ̄_ ̄)」

 いずみが不可解な顔で僕を見つめていた。


「ママ、私思った。やっぱり卓くんのお手伝いしたい。昼過ぎにはおばあちゃん帰っちゃうんだし、そのあと私が来て洗濯したりしてあげる」

「いずみ…」

「なんなら私が夕飯用意して、卓くんにアーンしてあげるよ」

 それを聞いた僕はドキッとして、内心嬉しいのに軽く否定する。

「いや、それはちょっと恥ずかしいから…(~д~ )ゞデヘヘ」

「遠慮しないの。別に私、卓くんの彼女じゃないし。簡単に言えば介護だよ介護」

「まぁそうなんだろうけど…(^^ゞ」


 ゆりかさんがいずみを頼もしそうな目で見ている気がした。

 それでも小さなため息をひとつ漏らして言う。

「いずみ、介護ってね、口では簡単に言えるけど楽なもんじゃないのよ」

「わかってるよ。でも卓くんは寝たきりのお年寄りじゃないんだから大丈夫だよ」

「だといいんだけど。でもね、甘く見てると大変な目にわよ」

「平気平気♪」

 いずみは余裕さえ感じる口ぶりで返事をした。


 だがこの後、そのいずみの余裕が一気に豹変することになろうとは…


                (続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ