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その21 かつての同僚・かつての妻

かつての同僚・かつての妻


 ケガをしたのは僕だけだったけど、一応全員がバタバタと病院に搬送された。

 だからゆりかさんとの再会は、お互いを確認しただけで、会話をするどころではなかった。

 僕は、両手の手当をし、一通りの事情聴取を終えたあと、速やかに帰宅した。日を改めて現場検証をするらしい。


 翌日の午後、例の逃走犯がスピード逮捕されたとテレビで報道された。

 どうやら事件当日、警察に通報したのは仲間の少年グループらしい。つまり裏切り。

 どうりでおかしいと思った。あの時、僕が連絡する前に突然警官隊が家に入ってきたのが不思議でならなかった。


 なにはともあれ、これで再び狙われることもなくなった。逆恨みされたままビクビク過ごすのはたくさんだ。僕は胸をなで下ろした。

 それよりも気になるのはひなたちゃん。

 この一件がトラウマにならないだろうか?悪夢ばかり見ないだろうか?ふとした瞬間に思い出して、恐怖に駆られないだろうか?精神障害になったらどうしよう?

 心配は尽きない。でも、もう会うこともないだろう。

 いや、僕の方から改めて謝りに行くべきかもしれない。ゆりかさんと是枝くんに迷惑をかけたんだ。かもしれないじゃなくて行かなきゃ…


 ────6日後(日曜日)


 事件以来、僕は有給を使って会社を休んでいる。

 なんせ両手が包帯でグルグル巻きだし、デスクワークすらできないからだ。

 でもそれは家にいても同じこと。このまま何もせずに体がなまっていくと、更におデブになるのは必然だと思われる(⌒-⌒;


 そんな日曜の午後、予想もしない突然の訪問客に動揺する僕。

「ゆりか…さん」

「ど、どうも…」

 ゆりかさんは伏せ目がちで、チラッと隣を気にしながら僕を見る。

 そう、隣には是枝くんも一緒なのだ。

「森田さん、少しお話があって来ました。お時間いいですか?」

 是枝くんは本社の本部長で、僕は関連会社の課長。当然彼の方が上司なんだけれど、かつて僕と同じ部署にいたときのように丁寧な言葉遣いをした。

 こんな頭の低い人が、茜崎さんの推理した恐ろしい計画を本当に実行した人なのかと疑問さえ覚える。

 是枝くんは知らない。僕が6年前の真実を全て知っていることを。

 そして僕もそんな過去をほじくり返す気もない。ゆりかさんが傷つくだけだ。


 二人を茶の間に通すとすぐに是枝くんが話し始めた。

「いずみから聞きました。ずっとここにお邪魔していたんですね」

「……うん。隠すつもりはなかったんだけど…言ってもマズイかなって」

「それが隠すって言うんですよ(^_^;)」

「うん。申し訳ないですホントに。近々僕の方から挨拶に行こうと思ってたんだ」

「来てくれない方がいいので、こうして今日伺ったわけですよ」

「は…はぁ。。やっぱりそうですよね・・・」

 是枝くんの言葉遣いは丁寧だけど、内心怒りが込み上げているのがよくわかった。

「森田さん、失礼ですけど僕とゆりかへの復讐ですか?」

 僕はその言葉に仰天した。

 ゆりかさんは顔をややうつむけ気味に黙って聞いている。

「まさか!何で僕が?」

「僕がゆりかと結婚したから、いずみを手なずけて自分の味方にしようと思ったんじゃないですか?」

「ととととととととんでもないっ!」

「まぁいいです。何にしてもいずみが目標の高校へ合格できたのは森田さんのおかげでしょうから、そういう点では感謝します」

「・・・・」

「問題はですね、今回の事件です。わかりますよね?」

「……はい」

「少しきつい言い方かもしれませんが、はっきり言わせてもらいますよ」

「そりゃもちろん…」

「いずみとひなたと僕は、森田さんの巻き添えをくったようなもんです」

「……うん。。返す言葉もないよ」

「あの男は森田さんに恨みを持ってた。だからあなたの行動をずっと追ってたんだ」

「・・・うん。そうらしいね」

「だから、あなたがいずみと接触してなかったら、うちの家族はこんな風にはならなかったんですよ。それなのに、ひなたとまで遊んでたなんて」

「・・・・」

「今のひなたは夜になると怖がって寝ません。とがったものを見るだけで恐怖を感じてしまいます。果物ナイフやカッターすら見れません。誰のせいだと思いますか?」

「……僕のせいです。間違いなく」

「でしょう?それなのに森田さんは僕たちを助けてやったとお思いですか?」

「いえいえ、そんなこと思ってませんよ」

「なら良かった。第一あのとき、森田さんの一言で、僕たちは犯人に殺されるところだったんですからね」

「…??すみません。正直あんまし僕、あの時の記憶がないんです。興奮しすぎて…」

「じゃあ僕が言いましょう。犯人は僕たちを人質に『こいつらが殺されてもいいのか?』と言ったのに対して森田さんは『やれるもんならやってみろ!』と言ったんですよ」

「…あぁ、それは一か八かで。。(^_^;)」

「冗談はやめて下さい。一か八かで子供の命を賭けるなんて無謀もいいところです!人の子だからそういうことが言えるんです!」

「そんなことは…」

「じゃああの時、ひなたが犯人の手にかかったらあなたはどう責任をとるつもりですか!あなたも人殺しと同じゃないですか!」

「それは・・・・」


 その時、是枝くんのケータイに着信があった。どうやらメールらしい。

「すみません。話の途中ですが、仕事の急用が入りました」

「日曜に?」

「役員になるといろいろあるんですよ。なんか話が腰砕けになっちゃったな…で、まぁ、僕だって森田さんを恨んだりしたくない訳ですよ」

「はぁ…」

「ちゃんと反省はしてるんですよね?」

「それはもちろん。ずっとひなたちゃんのことが気になってて…」

「ひなたのことを思うなら、今後は二度と会わないことです。いずみも同じです。また変な連中に狙われたら大変ですからね」

「わかりました。僕もそう思ってたんで、これ以上は…」

「それを聞いて安心しました。ではこれで帰ります。ゆりか、行くぞ」

 是枝くんが立ち上がって足早に玄関に向かう。でもなぜかゆりかさんは後をついて行こうとはしなかった。それに気づく是枝くん。

「ん?ゆりかどうした?」

「あの、私ちょっと…もう少しだけ卓さんと話をしたいの。ダメ?」

「…………わかった。少しだけならな。家にはいずみとひなたがいるんだ。早く帰って夕飯作ってあげなさい」

「はい。。」


 こうして是枝くんは先に去って行き、部屋には僕とゆりかさんだけが残った。

 不謹慎きわまりないかもしれないけど、正直僕はドキドキした。こんな綺麗な人が僕のお嫁さんだったんだ。。

 しみじみ思ったところでどうにもならない。我に返った僕は、ゆりかさんにあらためて事件のお詫びをした。

「是枝くんの言った通りなんだ。ごめんね。。僕のせいでいずみとひなたちゃんまで巻き込んでしまって…本当に悪いと思ってる。ホントだよ」

 ゆりかさんはさっきより顔を上げて僕を見ているような気がした。

「わかっています。卓さんは正直な人だもの。でもひとつ確かめたいんだけど…」

「いいよ。何でも聞いて」

「さっき英之さんの言ったことは本当なの?犯人に『やれるもんならやってみろ』って言ったこと…」

「…うん。本当だよ…」

「そう…」

 ゆりかさんは軽いため息をついた。僕に幻滅したのかもしれない。

「卓さんには感謝してるわ。子供たちは無事だったんだもの。でも一歩間違えたらって思うと…ね。。」

「うん…そうだよね。。ごめん。。」

「私は卓さんに何の恨みも持ってないわ。ただ、子供たちを危険な目に遭わせた点ではショックだったけど…」

 僕は何も言えなかった。言い訳する気なんて毛頭ない。ただゆりかさんの話す言葉を深く噛みしめようと思っているだけだ。


 と、そこへなんと、次なる訪問客が現れた。

                     (続く)

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