その20 事件の終息
事件の終息
世良拓真が戻って来るのを車の中で待っていた少年グループ。
その中の一人、マサがドライバーのテツに問いかける。
「兄貴を…裏切るんだな?」
テツの表情は険しかった。
「……あぁ」
そう、テツは車を走らせ始めたのだ。待機しろと卓真に言われているにも関わらず。
「俺は…俺は兄貴を見限る!」
一同の反論は全くなかった。みんな気持ちは同じだったのだ。
「兄貴の傲慢ぶりにはもうウンザリだ。別に借りがあるわけでもねぇし」
その言葉にも全員が賛同した。
「全くそうだぜ!いつまでも兄貴にヘコヘコする筋合いはねぇ!」
「あんなテング野郎にもう用はねぇ!」
1Kmほど走ると、公衆電話を発見し、車を停めて自ら降りるテツ。
「( ̄ー ̄)フフ…これからケーサツに電話してくる」
「マジでそこまでするのか?」
マサが驚いた顔で言う。
「バカだな。兄貴にうまく逃げられたらこっちが困るじゃねぇか!」
「あ、あぁ。それもそうだな」
「兄貴にはずっとブタ箱に入っててもらわにゃ」
テツは躊躇なく、拓真が押し入っている是枝宅の情報と場所を通報した。
そして公衆電話から出ると辺りを見回しながらすぐに車に駆け込んだ。
「さ、早いとこズラかるぞ」
────是枝宅────
「ぐ…ぐあっ…ぐぐ…このぉ〜うぐ…ぬぉっ…うりゃあああぁぁぁ〜〜〜!!」
卓の声にならない雄たけびがリビングに響いた。
卓は両手で拓真の包丁の刃を握りしめ、更には力づくでモギ取っていたのだ。
目を見開いて驚く拓真。充血した目でにらみ返す森田卓。気合と興奮で息が荒い。
これにはさすがの拓真もひるんだ。
“ヤバい。こいつ逆上してやがる。マジでメッタ刺しされそうだ”
瞬時にそう悟った拓真は、それまでの凶暴な態度を一変。卓から離れると、一目散に玄関から出て行ってしまった。
一気に気が抜けて床にペタンと座り込む森田卓。
柱に縛られている是枝が足をバタバタさせて、テープで塞がれた口とロープをほどけと催促する。それに卓はハッと気づいて解放しようと近づくが、包丁が手に食い込んで離れない。
痛みをこらえてなんとか片手だけは外れた。そして血だらけの手で全員の粘着テープを剥がす。
ひなたが放心状態なのが気になる。
「卓くん、ありがとう!」
いずみが半泣きで言う。
続いて是枝もすぐに口を開く。
「いやー、森田さんの火事場の馬鹿力ってすごいですね」
「え?火事にはなってないと思うんだけど…(^_^;)」
このとき、いずみは心底、是枝英之に幻滅した。
”こんなとき、この人はなぜお礼の一言も言えないんだろう?”
そんな中、卓が困ったように言う。
「あのー、申し訳ないんだけど、このロープは切れそうにないんだ…」
無理もない。持っている包丁でロープを切ろうとすると、刃を握っている卓にも激痛と更なる出血が襲うのだ。
「今から僕は警察に連絡しますから、この家の電話貸して…」
とそのとき、リビングに警官隊が5,6人ほど一気に押し寄せて来た。
そして包丁を持っている卓が真っ先に取り押さえられ、はがいじめにされた。
「おとなしくしろっ!抵抗しても無駄だぞっ!」
「別に抵抗なんて全く…」
「話は署で聞く。おとなしくしろっ!」
「おとなしいつもりなんだけどなぁ…(^_^;)」
卓が何を言おうとしても途中で遮られ、事情さえろくに説明できない。
「説明させてくれませ…」
「お前は黙ってろ!」
ロープもほどかれて解放されたいずみ。
こんな調子を見ていたいずみの怒りが頂点に達した。
「ちょっとあんたらっ!!もういい加減にして下さいっ!!」
一同の視線が一斉にいずみに集中する。
「その人は…卓くんは、命の恩人なのっ!!犯人はとっくに逃げましたっ!!さっさと追いかけてよっ!このウスノロ警察っ!!」
キョトンしてる警官隊の中を割って、ひとりの女性が入って来た。
「いずみ……これは。。」
その女性はいずみから少し視線をずらし、取り押さえられている男を見た。
「卓さん…?」
森田卓も当然それに気づいた。
もう何年ぶりの再会なんだろうか?まさかこんな形で会うなんて…
「ゆりか…さん。。」
(続く)