その6 噂の渦中
噂の渦中
ペーパー事件は一件落着したものの、神様は僕にホッとする時間をくれなかった。
トイレから出るなり僕を待っていたのは、同じアパートに住んでいる“噂大好き人間”の梅田さん。
50代半ばのオバサンのように見えるけど、僕も老け顔だから決めつけはできない。でもたぶんそうだろう。
さすがに常識はあるらしく、玄関のドアのカギは開いていても勝手に扉を開けたりせずに、外から声で僕に呼びかけていた。
うちにチャイムがないのも問題だけど^_^;
「森田さん、回覧板ですよー」
「はい、今すぐ」
僕が玄関の扉を半分だけ開ると、その隙間から体をコジ入れるように梅田さんが割りこんで入って来た。いかにもオバサンらしい。
「森田さん森田さん、ちょっとあなたの噂を耳にしたんだけど?」
「ええっ?僕のですか?」
「そうよ。てゆうか、あなた今トイレから出て手を洗ってないんじゃない?」
「あ、いけね…」
「ヤダわあなた!そのまま私に触らないでね。回覧板の端っこだけ持ちなさい」
「はぁ、すみません(⌒-⌒;」
僕はつまむように回覧板を受け取った。
「それであなたの噂のことだけど聞きたい?」
この梅田さんに聞きたくないと言っても無意味だ。なんせしゃべりたくてしょうがないわけだから、どう返事しようと結局は話してくれるのだ。
「あなたが未成年の女の子と付き合ってるって噂よ」
(~ヘ~;)ううむ…なるほどやっぱりそうきたか。なんとなく予感はしてたんだ。
僕はきっぱり否定する。
「それはないですよ。僕が若い子になんてモテるはずないですし」
「そうよね。誰が見てもそうよね。だから私も驚いちゃったのよ」
ちょっとムカついたけどそれが事実だからしょうがない。
「でもね、向こう隣の奥さんがね、森田さんのお風呂の窓の前を通り過ぎたときに、女の子の声を聞いたって言うのよ」
Σ( ̄□ ̄;!!やっぱりあのとき聴かれてたのか!!
「絶対私が言ったって言わないでね?いい?」
「も、もちろんです」
「私はあなたのためを思って、教えてあげようと思って来たのよ」
そんなわけないだろうけど、一応お礼は丁重にしておいた。
「はい。わざわざありがとうございます」
「で、ホントのところはどうなの?お風呂場でしゃべってたのはあなたなの?」
「どうって…その…風呂場では僕も独り言しゃべってしまうときってありますから…」
「そ、そうよね。でも…でもよ。決して私はあなたを疑ってるわけじゃないけど、隣の奥さんが言うには、女の子のヨガリ声っていうのかしら?やだわ私ったら、こんなハシタナイ言葉使って。隣の奥さんの言葉だと思って聞いてね」
「はい…わかりました(^_^;)」
「それでうめき声のようにも聞こえたって言うのよ」
; ̄_ ̄)ヤバ…いずみのしびれた足を踏んだときだ。。
「まさか森田さん、少女を買春なんてこと…?」
「と、とととんでもない!してませんよそんなこと絶対!」
「そうよねそうよね。わかるわ。うんわかる。当然よ。私は信じるわよ。私はね。向こう隣の奥さんがそう言ってたものだから、ただそれだけなのよ」
とその時、奥の茶の間から僕が凍りつくような声が。。(⌒-⌒;
「卓くん、早くぅ〜!もっと気持ちよくしてぇ〜!」
・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)いずみ…
「森田さん何なの?今の」
「いや、知り合いの子が来てて…」
「卓くん、痛いよぉ〜!」
Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lゲッ!最悪だぁ〜!
「森田さん、まさかあなた少女を監禁してるの?!」
「だから違いますって」
「違うも何も中に女の子がいるじゃないの?」
「じゃあ中にあがって確かめて下さいよ」
「いやよっ!怖いわ!私にも何かする気じゃないでしょうねっ!?」
「いえいえ、興味も何もないですよ」
「なんですって!!」
「いやその…なんてゆうか(^□^;A」
(;-_-) =3 ハァ…弱ったなぁ全く。。
『ねぇオバサン、それって自意識過剰じゃないの?』って言いたいところだけど、もちろん言えるはずもない。しかしこのまま帰られても大変な噂になりそうだし、警察沙汰にもなりかねない。なんとか理解してもらわないと。
「卓くん、何してるの?あ、お客さん?」
いずみがひょっこり玄関に出てきてくれた。
「あらま、お譲ちゃん。あなた大丈夫?何ともないの?」
「え?…ちょっと調整が強すぎて痛かったですけど?」
「んまぁ!やっぱり。。」
「いずみ…(^_^;)そんな間接的なこと言っても理解してもらえないだろ?」
「は?」
いずみは僕と梅田さんの表情を交互に見て、どうやら事の事態を察知したようだ。
「あぁ、わかった!そういうことね」
いずみは梅田さんの方を向いて笑顔で答えた。
「おばさん、心配ないですよ。卓くんは私の家庭教師なんです。私、受験生なので毎日勉強教えてもらってるんです」
「それ、言わされてるんじゃないでしょうね?」
「梅田さん頼みますよー(⌒-⌒;さっきは僕のこと信じてるって言ってくれたじゃないですかー」
「だって、家庭教師なら普通、親御さんのいるこの子の家に行くのが常識ってもんでしょ?何でこの子があなたの家に来るの?」
「それはその…」
すぐに答えられない自分が情けない。でもいずみがすぐにそれをカバーしてくれた。
「親戚なんです。私が子供の頃からお世話になったおじさんなんです。ずっと仲良くさせてもらってるので、卓くんて呼び捨てにしてるくらいなんですよ」
い…いずみ。。(゜ーÅ)ホロリ
僕はいずみの機転の良さに感激と感動を覚えた。ホントに頭の回転のいい子だ。梅田さんもどうやら納得してくれたようだし。
「あらそうだったの。お譲ちゃんがそこまでニコニコ言うなら…お芝居にも見えないしねぇ。でもあなた、お風呂もここで入るの?」
(○∇○) ドキッ!ヤバい質問。。
でもいずみは動じなかった。
「はい。部活で汗をかいてくるので、ここのお風呂を貸していただいてます」
「なるほどね…じゃあもうひとつ。さっき奥で気持ち良くして〜とか痛い〜とか言ってたのは何?」
いずみは少し頬を赤らめた。
「聞かれてたんだ…(*^ - ^*)ゞえと、あれは電動マッサージチェアです」
「あらま。森田さん、そんな良いもの持ってるの?」
「はい。ハガキで応募して抽選で当選したんです」
「んまぁ(゜〇゜;)ひょっとしてテレビでやってるあのクイズ番組の?」
「そうです。それです」
「私も20通ハガキ出したのよ。それなのにカスリもしないわ!あなた何通出したの?」
「1通です」
「(ノ__)ノコケッ!」
「あの…梅田さん、たまに貸しますので、遠慮なく言ってください」
僕がそう言った瞬間、梅田さんの表情が一変した。
「えっ?いいの?嬉しいわぁ。じゃあ遠慮なくそうさせていただくわね。今夜から」
「はやっ!…い、いいですよ。どうぞお気軽に^_^;」
「今夜が楽しみだわぁ」
「喜んでもらえてうれしいです(⌒-⌒;」
「そういうことならまぁ…色々と事情を聞くと話のツジツマもちゃんと合うし、何も問題はないようね」
「どうもご心配おかけして申し訳ありません」
いずみは深々とおじぎをした。その態度に梅田さんも気をよくしたようだ。
「しっかり勉強するのよ。隣の奥さんには私から事情を説明しておきます」
「は、はい。よろしくお願いします!」
僕も一礼して梅田さんの退出を見送った。
なんだか知らないけど、これから先もまだまだ波乱含みな展開になりそうだ。。
(続く)