その5 恥ずかしいお話
恥ずかしいお話
夕方も6時。僕はトイレにしゃがんでいた。お腹の具合がいまいち悪い。
最近は食べるものにも気を遣ってるつもりだ。
もう僕も年齢的には30半ばだし、体の健康のためにも最近食べるカップ麺は、こってり系のとんこつラーメンから、さっぱり系の鶏がら醤油ラーメンに切り替えた。
それなのに一体どこがいけないんだろう?
それでもトイレの便座にじっと座っていると、徐々にお腹の痛みはうすらいだ。
『どうやらやっと落ち着いたようだし、そろそろトイレから出よう』
そう思ってペーパーを手で手繰り寄せよせようとすると・・・
「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lしまった!ペーパーがないっ!!」
そう気づいたところで後の祭り。代用品なんて何もない。
ただし茶の間には、先週ドラッグの特売で買った12ロール入りで158円のトイレットペーパーがあるのはわかっている。
ということは、当然ながらこの状態のまま、僕はそこまで取りに行くさだめにある。
『ま、いいか。誰かに見られるわけじゃないんだし…』
僕は下着やズボンを下ろしたままトイレの外へ出た。それが大きな間違いのひとつ。
特に、目の前が玄関だったのが災いの元。
なんとそこに絶妙なタイミングでいずみが入って来たのだ。
「卓くん何のマネ?( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)」
「わーっ!(ノ≧◇≦ヽ)ノ」
僕はすかさずUターン。でもズボンを下ろしたまま自由に歩行できるはずもなく、慌てるあまり前につんのめって転んでしまった。
最悪だ・・これでいずみは完全に僕を軽蔑する。。
と、一瞬思ったけど、ところがどっこい、それは僕の思い違いだった。
「アハハハハハハ(_ _ )ミ☆ バンバン」
いずみが笑い転げている。これは軽蔑されるよりはよっぽどマシなこと。
ドン引きされたらもう会話すらできない。なんか少し救われたような気がする。
とりあえず僕は態勢を立て直し、再びトイレにこもった。
トイレの外からいずみの声。
「ああーおかしかったw卓くんのドジは今も変わってないんだね」
「ごめん。とんでもないとこ見せちゃって」
「いいよ。私しか見てないんだから」
「軽蔑した?」
「してないよ。卓くんは私の家庭教師じゃん。頼りにしてるんだよ」
『な…なんていい子なんだ。。(゜ーÅ)ホロリ』
「私も15だからね。小3のあのときより少しは大人になったの」
「小3のときって?」
「あのとき、卓くん私の参観日に来てくれて、教室で思いっきりオナラしたでしょ。あのときはマジでむかついたからね」
そうだ。思い出した。あれからしばらくいずみと口もきかなくなった期間があった。
「でも今は違うよ。それが卓くんだもん。ドジのひとつもしない完璧主義者って私、窮屈でいやなの」
「そ…そっか。なんか安心したよ。ありがとういずみ」
「何でお礼言うの?おかしな卓くんw」
「ハハ・・^_^;」
僕はいずみの言葉に引っ掛かりを覚えた。
“たしか是枝くんはミスのしたことのない完璧主義者だった。。ってことは…”
「ねぇ卓くん、なんであんな格好でトイレから出てきたの?」
いずみの声にハッと我に返る僕。
「あ、そうだった。いずみに頼みがある。茶の間にトイレットペーパーがあるから持って来て欲しいんだ」
「なんだ。そういうことだったんだ。じゃあすぐ持って来るね」
「ありがとう」
「卓くん、玄関の戸じまりはしっかりしてなきゃダメだよ!」
「はい…すいません。。」
1分、2分、3分が過ぎても、いずみがペーパーを持ってやって来ない。見つからないのだろうか?僕は少し大きめの声で呼びかける。
「いずみーっ!どうしたーっ?」
するとすぐに反応があった。
「卓くん、この電動マッサージチェアどうしたの?」
「あぁ、それハガキの応募で当選したんだよ。届いて開けたばっかりだったんだ」
「ちょっと…痛いよこれ…」
「あわわ(~▽~;)もう使ってんのかい?」
「うん」
「それ、いろいろ微調整できるから僕がやってあげるよ。だから早く紙持って来て」
「あ、そうだったね( ̄┰ ̄;)ゞ今行くよ」
いずみからペーパーを受け取って、なんとか事なきを得た。
僕は自分ひとりでいるときより、人と接したときにドジが発生する。
まさにこれが典型的な例。マッサージチェアが当たった運の良さもあるのに、ドジ運も同時に存在しているこの不思議さ。
そしてこの日の些細なトラブルはこれだけでは終わらなかった。
(続く)