その4 なんだ?この繋がりは
なんだ?この繋がりは
●茜崎凉の私的記録より
森田という冴えない男と部長を無視して、俺は5分後に店から出て来たターゲットの女を尾行した。
女の名は倉沢まりも。下調べはしてある。ブランド物を身にまとい、派手目な化粧で目鼻立ちがハッキリしている。
どう考えても、この都会派の女とくたびれかけた中年部長は釣り合わない。
つまり外見的には二人の不倫関係などあり得ないように思われる。
やはり単なるSMクラブでのパートナーに過ぎないか、あるいは女にとって部長は絶好の金づるになっているかのどっちかだろう。
倉沢まりもは午後6時半頃までに、数件のブティックをハシゴしたあとタクシーを拾った。俺もすかさず跡を追う。
そろそろ家路に向かうと思われたが、俺の調べた彼女の住まいとは明らかに違う方角へ向っている。
『どこへ行こうとしている?もしかして本命の男のところなのか?』
数分後、俺の読みが正しいことが証明された。
まりもは、とあるマンションの前に到着した。もちろん彼女の自宅ではない。
にも関わらず、まりもはすんなりマンションの一室に消えて行った。
『ほらなやっぱり…本命の男が他にいると思ったぜ。。』
俺は外からマンション全体のベランダを眺めた。数分後、暗いベランダに明るい照明が点灯した。
「5階か。。」
暗い部屋に入ったということは、まだ男は帰って来ていないということだ。そして彼女は合鍵を持っている。
俺はどんな男か見極めようと、男の帰りを待つことにした。
目立たぬようにマンションの5階に上がり、非常階段付近で待機し、エレベーターから降りてくる人物と故意にすれ違い、顔を見極めてから入って行く部屋をチラ見で確認する。
そういった地道な行動をして4人目、なんとなく見覚えのある男とすれ違った。
そう、どこかで見た。でも最近ではない。いつだろう?結構前かもしれない。でも見たことがある。誰だったろう?
そんな思いで俺はその男の入る部屋をさりげなく見た。
すると、正にそれが倉沢まりもがいると思われる部屋だったのだ!つまりこの男の部屋ということになる。
俺はそっと扉の表札を見に行く。
こんなことは5階に来た時点で先にしなくてはならないことなのにと、駆け出し探偵の未熟さをこの時反省した。
“石丸慎也”
聞いたことがある。慎也…うん、確かに覚えがあるぞこの男。名前も顔も。。
(゜〇゜;)ハッ!!
わかった!思い出したぞっ!そうだ間違いない!
こいつは・・・こいつはゆりかと付き合ってた男だ!!
それはもう5年以上経つだろうか?俺が全国を転々としながら食いつないでいた頃、不意にゆりかに会いたくなってこの街に帰って来たことがある。
子供まで産ませておきながら、結婚も認知もせずに逃げたこの俺がゆりかに会う資格なんてないのは当然だ。
だが、この時の俺は何をやってもうまく行かずに精神的にもナイーブになっていた。
自己中で都合のいい話ではあるが、かつて自分が愛した女と、自分と同じDNAを持つ我が子を一目見たいという強い気持ちを抑えることができなかったのだ。
(続く)