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その16 最後のみっちっちぶろぐ・後編

その16

最後のみっちっちぶろぐ・後編


「なによそれ?引っ越しすることに何か意味あるの?」

「その方がいいと思いまして」

「アタシと交代の炊事当番がイヤなの?」

とアタシは心にもないことを言ってみた。

「いえいえいえ、全然そんなことはありません(⌒-⌒;」

「じゃ何?ゆりかんちだってここから距離あるし、ここにいたってバッタリ会うこともないと思うけど?」

「いえ、そうじゃないんです。。」


 森田はそう言うと、ややうつむき加減で話していた顔を、もっと下げたの。

「言いにくいことなの?なら言わないで帰りなさいよ」

 正直このときのアタシは、これから森田が話すシリアスな内容を聞きたくなかったの。だって森田が哀れに見えるだけだし、何も手を差し伸べてやれないアタシ自身も歯がゆいだけだから。

「いえいえ、言います。言わせて下さい。これは…僕のけじめなんです」

 こう言われるとやっぱり聞くしかないわよね。仕方ないから突っ込みながら聞いてあげよう。

「引っ越したらけじめがつくの?」

「はい。どう考えても今のままではいけないと思うんです。というのは…」

「というのは??」

「毎日、美智代さんと顔を合わしてしまうからです」

「・・・え?どういうこと?」

「美智代さんはゆりかの親友だからです。僕はあなたを見るとゆりかさんを思い出してしまうんです」

「アタシを見ると?」

「はい。かつて僕とゆりかさんが結婚できたのも、美智代さんの機転がなかったらできませんでした」


 そう言われてアタシは思い出した。

 森田が合コンの2次会で、同僚や女の子たちから耐えられないほどの屈辱の言葉を浴びせられていて、まさに堪忍袋の緒がブチ切れる寸前だった。

「僕はあのとき、ゆりかさんに寸前で止められました。あれがなかったら僕は、あの場にあったナイフとフォークで同僚を殺していたかもしれません」

「そうね・・・あのときはホントにそう見えたわ。早くゆりかが来ないかと冷や冷やで遠くから見てたもの」

「ゆりかさんをあの場に呼んでくれたのは美智代さんです。あなたは僕とゆりかさんの愛のキューピットだったんです」

「愛のキューピットだなんて…顔に似合わないこと言わないでよw」

「ほっといて下さい(⌒-⌒;」

「ごめん。少し口がすぎたわ( ̄┰ ̄;)ゞ」

「とにかく、僕は美智代さんのおかげで救われました。今でも感謝しています」

「じゃあ、縁結びのアタシに申し訳ないから引っ越すってこと?」

「いえ、そうじゃないんです。さっきも言いましたが美智代さんを見てると、どうしてもゆりかさんのことも考えてしまうんです」

「アタシとゆりかってそんなに似てる?チャーミングなとことか?」

 また少し話をはぐらかすアタシ。

「チャーミングとかキレイとかそんなんじゃなくて…」

「なんですって!!ヽ(`⌒´)ノ」

「(^□^;Aいやいや、僕の言いたいのはですね・・・美智代さんとゆりかさん…そして翔子さんは大親友で、いつも一緒に僕も交えて遊んでたじゃないですか」

「そうね。。そんなときもあったわね」

「だからなんです。美智代さんと会うと、いつもみんなで遊んだ楽しい場面ばかり浮かんで来るんです。そしてゆりかさんとの思い出も溢れるくらいに。。」

「・・・ふうん。。」

「僕にゆりかさんは高根の花のような存在です。でもそれがひとときの短い期間でも実現したことは僕にとって奇跡でした。だからこんな形になった今でも、幸せだった日々を思い出しては自分の心を癒していました」

「でもそれは大切な思い出なんだから、別に悪いことじゃないと思うけど?」

「でもそれじゃ僕はいつまでもダメなままなんです。現実を見つめない過去に生きる男でしかありません」


 アタシはこんなことを言いのけた森田に驚いた。そして充分理解もした。

 ゆりかと別れてから、やっと森田が前向きに進もうと歩み始めたということを。


「僕は最初、この一連の仕掛けを知らない方が良かったと思いました。知ったところですでに再婚もしている幸せなゆりかさんにどうすることもできないからです」

「うん。それはわかるわ」

「でも今は違います。教えてもらったからこそ、気持ちを切り替えるきっかけができたんだと思います」

「・・・そうなの?」

「ええ。僕が離婚してからの数年は、ゆりかさんもまだ独身でいたようなので、僕の心の中にひょっとしたら元に戻れるかもしれないという浅はかな思いがあったのは確かなんです」

「やっぱりそう思ってたんだ。。」

「情けない話そうなんです。でも、今回のこの一件で目が覚めたような気がするんです。僕はゆりかさんを見守るんじゃなくて、彼女から離れて自分の将来を真剣に考えようって思えるようになったんです」

 森田の言うことは確かに良いことで、ビックリするほど感心もするけど、アタシにはどうしても引っ掛かることがあったの。

「ひとつ聞いていい?」

「はい?」

「あんたはゆりかを奪われたのよ!是枝が憎くないの?慎也は?ゆりかのパパは?みんなあんたを騙した人たちよ?なのに何であんたはそんなに清々しい気持ちになれるの?アタシなら…アタシなら半狂乱になっちゃうわ!」

 

 なんか恥ずかしい。。森田の前で急に熱くなっちゃった。。

 でも聞きたかったの。誰でも悟りを開いてる人間じゃないんだし、人を憎んだり恨んだりもするのは当然。ましてこんな罠にハメられた森田なら尚更のことでしょ?

 それなのに森田の返答は、まさに汚れを知らない心の澄み切った人間が言うような言葉だったの。

 でもまぁ、これはちょっと褒めすぎかなww

 悪く言えばお人よしっていうのかもしれないし。。

                        (続く)


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