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その14 元カレと元亭主

その14

元カレと元亭主


 体は横になっていても心のダメージは消えない。

 僕はお義父さんにそこまで嫌われていたんだ。。


 確かに考えてみたらそうかもしれない。

 うまく付き合おうと思えば思うほど、全て結果は裏目だった。

 お義父さんの前では緊張のあまり必ずドジるし、まともに会話すらできなかった。

 情けないと思われても当然な僕。

 可愛い娘の亭主がこんなんだから、社会的地位のあるお義父さんにしてみれば、世間体にも示しがつかないと思ったに違いない。

 親が介入して無理やり夫婦仲を引き裂き、愛娘ゆりかの心を傷つけるよりは、僕の失態を誘い、ゆりかさんも納得した上で離婚させる方が最良の策だ。


 だるい。。体の疲れがピークになっているようだ。

 ゆうべ一睡もしていないだけに、あれこれ考えていてもさすがに意識が朦朧となってきて、知らぬ間に僕は眠りに落ちていた。


 それからどれくらい眠ったんだろうか。。

 僕は玄関のチャイムの音で目が覚めた。時計を見るともう夕方の5時過ぎ。

 しまった。。こんなに寝てしまったらまた今夜眠れないや(⌒-⌒;


 玄関を開けると美智代さんが鍋を持って立っていた。そしてその後ろには探偵の茜崎さんもいた。

「カギくらいいつも開けておきなさいよ!この鍋重たいんだからねっ!」

「そんなムチャクチャな…(⌒-⌒;」

「とにかく上がらせてもらうわよ」

「じゃあ俺も上がらせてもらおう」

「はぁ…」


 美智代さんはうちで唯一の丸いテーブルに鍋を下ろした。

「あんたのためにシチュー作って来たの。どうせ何も食べてないだろうから」

「はい…よくわかりましたね。当たりです」

「だってあんた、昨日は魂のぬけがら状態だったじゃない。それくらいわかるわよ」

「すいません。。今日の炊事当番は僕だったのに。。」

「いいのよ。アタシだって昨日は作らなかったし。あんな話のあとじゃね。。」

「・・・・」

「お腹すいたでしょ?今すぐ食べなさいよ」

「いくらなんでも僕ひとりでこの量はとても…」

「バカ!アタシも一緒に食べに来たのよっ(^_^;)」

「え…?こんなの初めてのパターンですね」

「余計なことは言わない!いっぱい作ったから茜崎さんもどうぞ」

「はい。遠慮なくいただきます」

「あのー、皿は僕の分しかないんですけど。。(^_^;)」

「(ノ__)ノコケッ!そ、そうだったわね。あんたんちには来客用なんて存在しなかったわね(^_^;)じゃあアタシ取って来るから待ってて」

「はぁ。。」

 美智代さんは足早に玄関を出て行った。そして部屋には僕と茜崎さんの男二人きりになった。


「あのー、今日も二人一緒で僕に何か用でも?」

「いや、美智代さんとは偶然ここで会っただけなんだ」

「はぁ?」

 僕は不思議に思った。偶然なんて言葉を簡単に使ったら、世の中全部偶然で片付けられると昨日茜崎さんが言ったばかりなのに。

 でもここはそれを言わずに抑えた。というか、そんな思ったことをすぐに口にできる僕でもなかったし。。


「君の今思ってることはわかる。でもこれはホントに偶然なんだよ」

 昨日は僕のことを“森田”と呼び捨てにしたり”お前”呼ばわりだったのに、今日はなぜか“君”扱いになっていた。

「俺が今日来た理由は君に謝ろうと思って来たんだ。美智代さんは単に、君が気の毒になってシチューを届けに来ただけだろう」

「そう言われればそうかもしれませんが。。で、僕に謝るって一体…?」

「うん。。さすがに昨日は俺も強く言い過ぎたよ。もっと君の気持ちを考えて言えば良かったよ」

「確かに心にズシンと響きましたけどね(⌒-⌒;」

「ごめん。本当に悪かったよ」

「もういいですよ。茜崎さんは探偵でしょ?心のケアをするカウンセラーとは違うんですから仕方ありません」

「そう言ってもらえるとホッとしたよ」


 ここまでの会話が成立すると、なんだか少しだけ心が和んだ気がした。

 だから率直な僕の疑問も、今なら茜崎さんに聞くことができると思った。

「あのぉ…どうしてこの件をここまで詳しく調べようと思ったんですか?確か誰からも依頼されてはいないとおっしゃってた気もしましたけど?」

「そうだよ。俺ひとりの勝手な捜査なんだ。だから報酬も何もないんだ」

「その理由って教えてもらえないんですか?なぜ兄弟や親せきでもない僕のことを調べたんですか?しかも2年近くも前のことを。。」

「うん。。実はその理由も昨日言うつもりだったんだけど、君のショックが大きくてずっと放心状態だったろ?だから言えずにそのまま帰ったんだ」

「・・・そうだったんですか。。」

「だから今日はそれを言うつもりで来たんだ」

 今日の僕は落ち着いて聞くことができた。でもそれは決して冷静だからじゃなく、完全に腑抜け状態になっていたからだ。

「君に…森田君になんとかゆりかと復縁できる手立てはないもんだろうか?」

「えっ?(゜〇゜;)突然何を。。?」

「あんな是枝みたいな卑怯な奴が、まんまと作戦通りにゆりかと結婚したなんて許せないんだ。ゆりかも騙してることになるんだし」

「まぁそうなんでしょうけど。。」

「あんな奴にゆりかを奪われるくらいなら、純粋な君の方がきっとゆりかを一生幸せにできると思うな」

「ちょ…ちょっと待って下さい。なんで急にそんなことを?」

「今ふと思ったんだよ」

「それに茜崎さんはゆりかさんのことを知ってるんですか?親戚の方とか?」

「いいや…親戚じゃないが…」

 茜崎さんは一呼吸おいてから話した。


「実は…俺はいずみの本当の父親なんだ。でもゆりかとは結婚しなかったのさ。彼女が妊娠してるとも知らずトンズラしてしまった薄情な男だよ俺は」


 二人ともうつむき加減で話していたため、美智代さんが皿を数枚持って立っているのに気付かなかった。

「そうだったの。。いずみちゃんの。。どうりで茜崎さんをどこかで見たような気がしてたと思ったら。。」

「あ…美智代さん。。そうでしたか。俺に見覚えが。。」

「ええ、でも思い出せなかったの。今までずっと」

「俺がゆりかと付き合ってるときに一度か会いましたっけ?」

「いえ…たしか昔、ゆりかに写真を見せてもらったことがあったからだと思うわ」

「そんな昔の写真の記憶が残ってるなんてすごいですね」

「アタシ、いい男の顔は忘れないのよ<(; ^ ー^) 」

                     (続く)

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