その12 演出者たちの奥に潜むもの
その12
演出者たちの奥に潜むもの
「そっか。。三木さんは暗示にかかっていたから別に演技じゃなくて、本気で僕が好きだったんだ。。」
「勘違いするなよ。あくまで暗示だ。そして今はとっくに解けている」
「そうよ!今あんたが彼女のところに行っても気味悪がられるだけよ」
「(^□^;A ひどい言われようですね。別に行きませんけど」
「おさらいするとこうだ。くしくも石丸慎也と倉沢まりものコンビと同時期に、是枝と三木綾乃のペアが、森田卓とゆりかの離婚劇をもくろんでいた。だが慎也組はあえなく失敗に終わる」
「はい。。」
「一方、是枝は、自分に好意を持つ三木綾乃を利用して暗示をかけ、森田卓を積極的に好きになるように仕組んだ。弁当作戦も含めて、森田に色仕掛けするような行動は全て是枝が指示していた」
「恐ろしい話ね。。」
「是枝本人の行動と言えば、森田の相談相手になるふりをして近づき、ゆりかのことや、家庭の状況を探る必要があった。それに応じて綾乃の暗示を大胆にするか、控え目にするか調整していたんだろう」
「それに全く気付かなかった僕はほんとにマヌケだったんだな。。」
「そして最終的には、ゆりか本人に森田の浮気現場を目撃させるのが目的だったと思うが、どうだったんだ?」
いきなりふられて僕はギクッとした。
「す、すごいですね。。その通りです。あの時は会社の1泊慰安旅行で、その夜に三木さんが僕の部屋に来て…社員はみんな相部屋だからいつ同僚が来るかもしれないのに随分大胆な人だなぁと。。あっ!!」
と、僕はそこで気がついた。
「たぶんそのときの相部屋は是枝だったんだろう?」
「はい。。そうなんです」
「そして部屋割りを決めた担当も是枝だったんじゃないのか?」
「あ…確かに・・確かにそうでした!」
「やっぱりちゃんとお膳立てが出来上がっていたわけだ。そしてそこに是枝ゆりか…いや、当時は森田ゆりかだったな…とにかく彼女もそこに来るように仕向けたのも是枝なんだろう」
「それはどうでしょう?あのときはゆりか…さんの意思で決めたと思うけど。。」
「そういう気持ちにさせたのも是枝かもしれないぞ」
「えっ?だって是枝君とゆりかさんは面識なんてないはずだけど。。」
「絶対そう言えるか?」
「そんな…絶対とは。。」
「俺は面識があったと考える。まだそこまで詳しく調べてないが、お前に近づいたように何らかの方法でゆりかにも近づいていた可能性は高い」
僕は驚きと共に感心してしまった。これだけ勘の鋭い人だ。茜崎さんの言うことが全て本当のような気がしてくるのはなぜだろう?彼の説明が全て自然のように思える。
「で、結果的には俺の言った通りになったってことだな?」
「はい。。部屋でその…現場を見られました。。」
「どんな現場を?」
「言わせないで下さいよ。。そんな。。」
「なによ今さら!エッチしてたんでしょ!三木綾乃とっ!」
「・・そうです。。お酒のせいか、彼女がすごく強引で。。」
「やらしいっ!ゆりかっていう最高に美人の奥さんがいながら何てことしてんのよっ!このドすけべオヤジっ!」
数年の時を経て、僕はまたまた後悔と反省の念で胸が張り裂けそうだった。
「もう…僕には何も言う資格はありません。。僕とゆりかの結婚生活はこれが最大のきっかけで終わったんです。」
茜崎さんは一呼吸して座りなおした。
「仕掛け人たちの演出はこれが全てだと思う。まずはここまでが一区切りになるかな」
僕はその言葉に反応した。
「あのぉ、まずはってどういうことですか?これで全てじゃないんですか?一区切りって…一体何ですか?」
「ん?気付かないか?確かにやつらの演出は全て終わった。だがまだ疑問はいくつも残っているだろうが?それがはっきりしないと、この一件の全貌が見えてこない」
「えと・・僕にはさっぱり。。これがまだ全貌ではないんですか?」
「何だよ。わかってないなぁ。残る疑問はお前が最初に言ってたことだぞ?俺がこれからそれに答えようとしてるんだ」
「はて??・・すみません。思い出せません(^_^;)」
「しょうがないな。じゃ言ってやろう。お前は最初、不思議に思っていただろ?石丸慎也と是枝英之の別々な人間から二重に仕掛けられていたことを」
「え、ええ。。」
「俺もそこはよくよく考えたんだ。お前とゆりかが結婚して約1年半も過ぎた時に、なぜ仕掛け人たちが同じ時期に現れ、それぞれ別々な作戦をほぼ同時に実行するに至ったのかってことだ」
「それは単なる偶然ではないんですか?」
「偶然という言葉をそんなに簡単に使えば、世の中全てが偶然で済まされるぞ」
「はい、すみません。。(^_^;)」
僕はまたまた謝ってしまった。もう何回謝ったかわからない。
「俺がちょっと前に言ったろう?是枝と石丸とは、直接の関連がなくても間接的にはあると」
「はぁ…確かに。。ところであの…美智代さん、随分おとなしいですね?」
「真実が知りたいから黙って聞いてるのよっ!あんたみたいに茶々なんて入れないのっ!茜崎さん、早く続きを!」
美智代さんはなぜか興奮してるようだった。確かに謎解きはわかってくると面白いけど、僕にとっては自分の身に起こったことだし、愛読している推理小説のようにはいかない。
「じゃ続けるぞ。この二つの作戦は、本当に関連性がないのか俺はじっくり考えた。すると、今まで聞いた証言から細かい要素を取り上げると、その関連性が見えてきたんだよ」
「ゴクッ。。」
僕は生唾を飲んだ。これももう何回飲んだかわからない。
そしてこのあと僕は、卒倒するような驚愕する新事実を茜崎さんから聞くことになる。
(続く)