その10 森田卓(後編)
その10
森田卓・後編
考えもしなかったことを突然知らない探偵に言われても信じることはできなかった。
聞き返したいことは山ほどある。でも黙って聞けと怒られるから今のところは自重するしかない。
「森田、お前が今考えてることはわかる。三木綾乃のことだろ?」
「え?は、はい。。」
「離婚の原因は彼女だ。当然まずは彼女を仕掛け人から除外することはできない」
「でも…三木さんはずっと僕に弁当を毎日作ってくれてたんですよ?あれが全部お芝居だなんて信じられませんが」
「バカね!メギツネならその程度の演技くらいでいるわよ!そんな弁当なんて投げ返してやれば良かったのよ!あんたにはゆりかがいたんじゃないのっ!」
と美智代さんが苦々しく言う。
「ごもっともで…あとから随分反省しました。。」
と美智代さんに謝る僕。
「さっきも言ったが、これは実に巧妙な作戦だったんだよ。演技がどうのこうのっていうような話じゃないんだ」
と茜崎という探偵が余計理解に苦しむことを言う。
「さて何から説明しようか。。森田は見た目どおり頭の回転も良くないようだから、この一件の綿密な作戦を練った張本人から先に教えとくか」
「え?三木さんが仕掛け人だって言ってたじゃないですか?信じられませんけど」
と率直に聞き返した僕。
「バカ。彼女が単独でやったわけじゃない。お前を離婚させたところで三木綾乃には何のメリットもない。その裏で糸を引いていた人間が別にいるのさ」
「茜崎さんいいの?普通推理小説では犯人の名前は一番最後に言うものよ?」
「美智代さん、これは小説と違うから(^_^;)森田にわかりやすく教えるためです」
「はぁい。。でもなんかドキドキ感が減るような感じだわ」
「美智代さん、僕のプライベートなことでウキウキしないで下さい(⌒-⌒;」
そして茜崎さんは僕にキリッとした視線を向けて言い放った。
「まずは…三木綾乃のことは置いといて…そう、石丸慎也だ。知ってるだろ?」
「( ̄□ ̄;)えっ??石丸・・・慎也・・?いえ、知りません」
「(ノ__)ノコケッ!ウソだろお前!」
「ほら、ゆりかの元彼よ。あんたとも一度面識があるはずよ。ゆりかから聞いたもん」
「あ〜あ、あの人か。ならわかります。思い出しました」
「ったくもう…」
「でもそれはおかしいですよ?慎也っていう人なんて、何年も会ったことも見かけたこともないですよ?それに三木さんとどう関係あるんです?」
「いや、それは全然関係ないんだ」
「は??じゃあ三木さんは仕掛け人じゃないってことでは?」
「それも違う。三木綾乃も仕掛け人であり、ある意味被害者でもある」
「はぁ・・??」
やはり僕にはすぐに呑み込めなかった。黙って説明を最後まで聞くしかない。
「どうぞ、先に進めて下さい」
茜崎さんは腕組みをして軽いため息をついたあと、ややうつむき加減で話しだした。
きっと頭の中で整理しながら口にしているのだろう。
僕にとってはこの方が良かった。威嚇するような鋭い視線で話されたところでまともに耳に入らないからだ。
「この一件の最大の特徴が今言った部分にあるのさ。つまり、森田を罠にハメた人間は別々に存在したってことだ」
僕は生唾を飲んだ。まさかそんな…この僕が気づきもせずに複数の人間に?
「その顔を見るとまだ信じられないようだから、そいつらの動機から教えよう。それなら納得できるだろう?」
僕は激しくうなづいた。そうだよ動機だよ動機!それを聞かなくちゃ!
「まずは石丸慎也。彼は森田をずっと恨んでいた。ゆりかと復縁しようと思って近づいたとき、すでにお前がゆりかと付き合っていた。そして更には予想外の結婚までしてしまったことだ」
「そこでは僕は悪くないと思いますが。。(⌒-⌒;」
「慎也のプライドは大きく傷ついた。ゆりかとあろうものがこのイケメンな自分より、チンチクリンな森田を選ぶなんて狂気の沙汰だと」
「アタシなら違うけどw」
と美智代さんがボソッと言う。
「その中で特に慎也のダメージが大きかったのは、森田とゆりかを交えた3人で会った店で、慎也はゆりかにハッキリとフラレてしまったことだと思う。しかも森田の目の前でだ。こんな屈辱はないだろう。これはみんな美智代さんから聞いたことだ」
「そうよ。ゆりかから聞いてたし。森田も思い出したでしょ?」
「え、ええ…そうです。確かにその通りでした」
「とにかく、慎也の恨みは頂点に達し、ゆりかの選択が間違いだったことを後悔させ、悟らせるために、離婚作戦に走ったわけだ」
「それにしても…方法が。。一体どうやって?」
「倉沢まりもは知ってるだろ?」
「ハッ(゜〇゜;)し、知ってます。あのとき写真を撮られて…」
「そう、それを仕組んだ倉沢まりもは慎也の彼女なんだ」
「Σ( ̄□ ̄;ええっ?!」
「つまり裏で糸を引いてた張本人は石丸慎也ってことだ」
「・・・・」
「まりもがお前に近づいたのも計画的。園崎頼子を金で釣ってお前を誘い出し、まりもと接触させた」
「あ…あのときか。。まりもさんが道端で倒れていたとき…」
「詳しいことは知らんがそういうことだ」
「でも…でもその一件では僕たち離婚はしませんでしたよ?自宅に送られて来た写真を見て、ゆりかが…ゆりかさんがこれは罠だって気付いたんです」
「なるほど。さすがゆりかだ。そこで離婚していたら三木綾乃と是枝英之の出番もなかったわけだ」
そのとき僕は、その意外な名前が出てきたことに仰天してしまった。
「今、是枝って言いました?」
「ああ」
「彼は…僕の親友ですけど?」
「ふんっ。その親友がお前の嫁さんをまんまと横取りしたわけだ」
ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! な、ななななな。。
僕は言葉にならなかった。マジで?是枝君がゆりかさんと?
「あれ?もしかして知らなかったのか?(^_^;)美智代さん、森田に教えてなかったんですか?」
「( ̄┰ ̄;)ゞごめんなさい。うっかり言いそびれてたわ」
「((ノ_ω_)ノバタッ」
僕は自分でも顔が青ざめていくのがわかった。
「まさか…是枝君が。。そういえばここ半年、彼から何の連絡もなかったけど。。」
「それはそうだろうな」
「あぁ…すごいショックだ。。ゆりかさんの再婚相手が是枝君だったなんて。。」
「これでわかったろ。是枝も仕掛け人の一人だったんだよ」
「でも…でも是枝君はいつも僕を応援してくれてたんですよ。それこそ、写真騒動のときも離婚の危機にならないようにアドバイスもしてくれたんです」
「なるほど。森田の相談相手になることで、お前んちの家庭事情を把握してたわけだ」
「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lえ?」
「まったくもうっ!ドジねあんたは!」
「これで是枝の動機はわかっただろうが?」
「つ…つまり。。」
「目的はひとつ。ゆりかを自分のものにするためだ。そのために三木綾乃も利用した」
「・・・( ̄ ̄ ̄∇ ̄ ̄ ̄;)」
僕の頭の中で鐘が鳴り響いていた。どうやって騙されたのかわからないのにショックだけは大きい。
茜崎さんは淡々と話していた。
「結局、石丸慎也と倉沢まりもの計画は失敗した。お前の言った通りだとすると、ゆりかが見破ったからだろう。おそらくそれが慎也の仕業だとは気付かなかっただろうが、とりあえず第1の離婚の危機は回避された」
「すごい話ね。昼ドラみたいだわ」
「そして間もなく第2の危機が訪れる。たっぷり時間をかけた緻密な計画でね」
「それが是枝英之と三木綾乃ってことなのね?」
僕はここで質問をした。
「ちょっと待って下さい。僕の頭の中がまとまりません。つまり、慎也さんたちと是枝君たちは別々な仕掛け人ということなんですか?」
「そうだ。さっきも言ったろ?」
「グルじゃないんですね?」
「そこは正直、俺も一番悩んだポイントでもあるんだ。慎也と是枝の関わりをね。でもはっきり言ってそれはない。その方が話の辻褄が全て合致するんだ」
「はぁ…」
「だが、間接的な関わりはあるんだ。あ、またこんなこと言ったらお前の頭が混乱するからあとで話そう」
「そうですね…あとにして下さい(⌒-⌒;」
「よしっ!ではこれから“森田卓とゆりかの破局実行作戦”の裏側について、こまかい部分の本題に入る」
「そんな題目だったのも事実なんですか?」
「いや、これは俺が今勝手に言っただけだ」
「(ノ__)ノコケッ!」
(続く)