その9 森田卓(前編)
その9
森田卓・前編
今日はラーメンのまとめ買いをしに行く予定だった。
食品の相次ぐ値上げの多い中、僕が心から愛してやまないインスタントラーメンも例外ではなく、買えるタイミングといえば特売日のみ。
それなのに、美智代さんからのメールで足止めをくらってしまった。
“一体、大事な話ってなんだろう?”
そして約束の時間通り、美智代さんがやって来た。
でも驚いたことに、やって来たのは美智代さんだけじゃなく、僕の知らない二枚目風な男も一緒についてきていた。
「悪いけどあがらせてもらうわね。あんたの部屋広いからゆったりできそうね」
「あのぉ、お言葉ですが部屋のつくりは美智代さんちと全く一緒ですが…」
「アタシんちは家具と衣類でぎっしりなのっ!あんたの部屋は何もないでしょ!」
「ご…ごもっともで(^_^;)」
更に一緒にいる男が、僕の部屋を見回して一言。
「見事だ。人が住んでる部屋なのにこれだけ何もない部屋は初めて見た」
変な関心を持たれても困るんだけど。。?(⌒-⌒;
「ねぇ森田、こちらの男性とアタシにお茶出して。それくらいあるでしょ?」
「それがちょっと…ラーメンスープの素ならあるんですけど。。」
「そんなのいるはずないでしょっヽ(`⌒´)ノ」
「じゃあ水道水でいいですか?ちゃんと沸かしてから冷ましますから」
「もういいわよっ(`ヘ´#)日が暮れちゃうでしょ!」
「すいません。。」
「じゃあ早速話をするからみんな座りましょう。茜崎さんごめんなさいね。この家イスもないのよ」
「いえいえ、地べたで結構ですよ。ここに丸いテーブルもあることだし」
「そうなのよ。森田んちにあるものと言ったら、この古いちゃぶ台と大量のラーメンくらいなのよ」
「ホホゥ( ̄。 ̄*)でもこの事実は今回の一件とは関連性がなさそうですけどね」
「(*≧m≦*)ププッ ヤダ茜崎さんたらっ!ジョークもうまいわ」
「あのー、お話って何でしょう?僕の方は何も話すことはないですけど?」
「あんたの話を聞くんじゃくて、あんたに話を聞いてもらうために来たのよ!」
「はい、それはわかりますけど・・あ、もしかして?」
「何よ?まだ何も言ってないのにわかるの?」
「美智代さん、そっちらの男性と結婚するんですか?」
「キャ(/−\)あたしたちそんなにお似合いのカップルに見える?」
「見えないでもないですけど(^_^;)」
「何よそのあいまいな言い方ヽ(`⌒´)ノふんっ!」
美智代さんと話すといつもこんな会話のやり取りが日常茶飯事だ。
それを見かねたのか、茜崎という男性が僕たちの会話に割って入ってきた。
「お話が盛り上がってるようですが、そろそろ本題に入ってもいいですかね?」
「あ、またまたごめんなさい。じゃあ森田、ちゃんと彼の言うこと聞くのよ!」
「は、はぁ。。」
「申し遅れました。僕は茜崎涼と言います。探偵やってます」
想像もしなかった職業名に僕は驚いてしまった。
探偵なんて、小説かドラマにしか出てこないものだとばかり思っていたからだ。
「探偵さん…ですか。。僕、何か悪いことしましたっけ?」
「いえ、そうではなくて、むしろその逆なんですよ」
「は?といいますと…?」
「あなたが悪いことしたのではなくて、あなたに悪いことをした人間がいるんです」
「・・・・すみません。まだよくわかりませんが。。; ̄_ ̄)」
「そうでしょう。これから順を追って説明します。さかのぼってね」
「??僕、何も被害にあった記憶はないですよ?お金も盗られてないし…」
「森田は黙って茜崎さんの話が終わるまで聞いてればいいのっ!」
「はいっ(^□^;A」
そして一呼吸おいてから、茜崎涼という探偵がゆっくりした口調話し始めた。
「森田さん・・・なんか…言いづらいなぁ」
「茜崎さん、森田でいいですよ。森田に“さん”付は似合わないですもん」
「わかりました。じゃあ森田!」
なんで初対面の人に呼び捨てにされるのを、美智代さんが許可するのかわからないけど、思えば僕の人生、今までたいていの人に呼び捨てられるのが多かったように思う。そして僕もそれがニックネームのような感覚で受け止めて来たのも事実だった。
「森田の被害は、ゆりかと離婚したことにあるんだ」
僕はまだわからなかった。そんなことが僕の被害といえるのか?
「お言葉ですが、被害を受けたのは彼女の方だし、あの問題は全て僕の落ち度なんです。最近になってやっと吹っ切れようとしてたところだったのに。。」
「気持ちはわかる。お前の落ち度も全然なかったわけではない」
“もうお前呼ばわりになってしまった(⌒-⌒;なぜか口調も荒くなってるし”
「でもだな、もしお前とゆりかが離婚させられたとしたらどうだ?」
「離婚させられた…?」
「そう、罠にかかったんだよ。お前は」
「…んーと。。全然心あたりがないですけど?(^_^;)」
「そこが巧妙なんだよ。これは用意周到に準備された計画に基づいてる」
「お恥ずかしい話、僕の離婚の原因は浮気です。同僚だったある女性に一方的に好きになられて。。それで。。」
「それも全て計画のうちなんだ。単純に考えてみろ。どう見たってお前が一方的にモテるはずがないだろ?」
「それはそうですけど、初対面から人をそこまで言いますか?(^_^;)」
「悪いがちょっと前から調べてたんで、お前のことはたまたま見てたんだよ」
「・・・でも不思議です。探偵さんなら誰かに依頼を受けて調べるじゃないですか?僕が依頼するならともかく、一体誰がそんなことを?」
「誰からも依頼は受けてない。そのことはあとで説明するから先に進ませろ」
「は、はい。。^_^;」
もう茜崎涼という探偵はなぜか完全に“上から目線”になっていた。
それにしても、僕の知らないそんな恐ろしいことが過去に実行されていたなんて。
全くもって信じられない。計画だなんて…まるで夢物語のようだ。
あの綾乃さんのしたことが…全てお芝居だったってことなのか?
(続く)