その6 是枝ゆりか(前編)
その6
是枝ゆりか・前編
(旧姓:須藤ゆりか)
「ごめんねパパ。忙しいのに来てもらって」
「構わんよ。出かけついでの通り道だからな」
「私がパパのところに持って行ければ良かったんだけど、これから美智代が久しぶりに遊びに来ることになってるから留守にできなくて」
「別に気にすることはない。ところでパパ宛ての郵便物ってそんなに多いのか?」
「うん。こんだけw」
私はおよそ30通余りの郵便物をパパに見せた。
「それもこれも全部、須藤源一郎様宛なの。広告や請求書が多いけどねw」
「やれやれ…全く郵便局員にも困ったもんだ」
そもそもパパ宛ての郵便物がうちに届くのも無理はなかった。
元々ここは私の実家。私が英之さんと結婚するまで、うちの両親といずみと4人で暮らしていた。
今回の結婚で、パパは私たちにこの家を譲り、少し離れた静かな場所にママと二人で暮らす家を建てて引っ越したのだった。
「私たちが新しい家に行った方が良かったんじゃないの?」
「それはダメだ。親にそこまで甘えると、ふぬけた人間になる」
「ならないわよ」
「是枝君は…いや、英之君ほどの仕事のできる男は、自分の力ですぐに家なんか建てれるようになるさ。心配はいらん」
「新築の家にパパが入りたかったんでしょ?」
「いいかい、ゆりか。これは以前から決めてたことなんだ。同居もするつもりはなかった。お互い気を遣うからね。かと言って俺とママ二人きりではこの家は大きすぎる。こじんまりした家を建てて余生を過ごすのが昔からの理想だったんだよ」
パパの言うことはよくわかるけど、ここで私にふと疑問が湧いた。
「それならパパはなぜ前のときもそうしようとしてくれなかったの?」
「前のとき?何だ一体?」
「その…私と卓さんが結婚していたとき…」
「そんな昔の話はやめなさい!お前はもう新しい人生に切り替わってるんだぞ!なんであんな男のことを口にするんだ!」
パパの顔色が変わった。余計なことを口走ってしまったバカな私。。
「ごめんなさいパパ。。」
「あいつは全然ダメだ!話にならん。お前を幸せにしてくれるのは英之君しかおらんよ。お前もそう思ったから決心したんだろう?」
「うん。。本当にごめんなさい。心配しなくていいよパパ。もう大丈夫だよ。私の中では過去のことはちゃんとケリもついてるし、全て終わってることだから」
「ならいいが…英之君の前では森田の話なんか絶対するんじゃないぞ!」
「当たり前じゃない。しないよ絶対」
「もし何かあったらすぐに来なさい。いいね?」
「うん。ありがとうパパ」
「英之君の出張はいつまでだったかな?」
「明日には帰って来るってメール来たよ」
「そうか。同じ会社でも部署が違うから詳しいことはよくわからんが、英之君が帰って来たらみんなで一緒に食事でもしよう」
「うん。言っとく」
「お前がオメデタのことも言ったのか?」
「すぐメールしたよ。悪いけどパパより先にねw」
「それはまぁ…仕方のないことだ。もう行くよ。邪魔したな」
こうしてパパは足早に出て行った。たぶん今週もゴルフなのだろう。
そして30分後、美智代が時間どおりにやって来た。
心持ち何か落ち着かない様子に見えるのは私の気のせいなんだろうか?
とりあえず、リビングでくつろいでもらった。
「久しぶりね美智代。いつ以来だっけ?」
「ゆりかの結婚式から会ってないじゃんw」
「そうだよね。バカな質問してごめんねw」
「家の中が前とガラッと変わったみたいね」
「うん。ちょうどいい機会だったから家具も買い替えたし、ついでに少しリフォームもしたの」
「へぇ〜、旦那がエリートだと違うもんね〜」
「それ誰と比べてるの?(^_^;)」
「(^□^;A 別に誰とも比べてないわよ。で、どうなの?新婚生活の方は?」
「うん、まぁまぁ順調よ」
「いずみちゃんは?」
「今日はピアノ教室行ってるの。そのあとお友達のお誕生会だって」
「そうじゃなくて、是枝さんとの仲は?」
「美智代、一応私も是枝だから(^_^;)」
「そ、そうだったわね。(~▽~;))))どうもまだ慣れないわw」
「正直、いずみは少し戸惑ってるみたい。別に彼を嫌いって訳じゃないみたいなんだけどね。まだよそよそしいの」
「そうなんだ。難しい年ごろになって来てるしね」
「うん。でも何とかやっていけると思うわ」
「ゆりかと旦那さんがいつも仲良くしていれば、家庭のムードももっと良くなるし、きっといずみちゃんも溶け込んでくれるわよ」
「そうだといいんだけど…」
「ゆりか、新婚早々まさか夫婦ケンカなんてしてないわよね?」
「えっ?(⌒-⌒;ええと…それがその、1度だけ。。」
「(゜〇゜;)ええっ?もうケンカしたの?何で何で?何が原因?どっちが悪いの?」
「どうしよう…もう仲直りしたことだし今更…」
「言っちゃいなよ。仲直りしたんなら平気でしょ?アタシも参考にするから」
「参考には絶対ならないよ?」
「いいからいいから」
「じゃあ・・・うん。。言うね」
なぜかこれをきっかけに、私は美智代から質問攻めにあうことになった。
(続く)