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その4 倉沢まりも

その4

倉沢くらさわまりも


 その探偵は誠実そうに見えた。

 普通、こういう男がアタシの絶好の金づるになるんだけど、尋ねて来た内容が内容だけにそうもいかない。

 それに今は慎也は留守。警戒しておかないと。。

 アタシは探偵を中には入れずに、玄関で立たせたままにした。


「もう2年近く前になるもの。そんなこといちいち覚えてないわ」

とそっけなく言ったアタシ。

 でも目の前の探偵はまともに信じていないようだった。

「あのですね、さっきも言いましたけど、決しておおやけにすることはありませんし、警察沙汰にはならないことも全て保障します。それは約束しますから」

 見かけによらず、かなり押しの強い探偵。

「そんな昔のこと調べてどうするの?誰があなたにそんな依頼してるの?」

「いえ、依頼主はいないんです。僕個人の調査なんです。当時あなたが森田卓を誘った理由を知るだけでいいんです」

「悪いけどアタシ、当時はデートする人多かったから、その中の一人にすぎなかったと思うけど?」

「園崎頼子に50万も支払ってですか?」

「Σ( ̄□ ̄;!!!」


 アタシの鼓動がドクンと鳴った。なんでそんなことを。。あ、もしかして。。

「そ、その女がしゃべったのね?」

「はい。伺って来ました。反論しますか?」

「そう思いたければご自由に。人にお金あげたら罪にでもなるの?」

「いいえ、とんでもない。どうやらあなたはあまり答えたくないようですね」

「そんな急に来て2年も前の話を細かく言えったって無理に決まってるじゃない!」

と、アタシは強引に突っぱねる。


「そうですか。。それなら仕方ないですけど、このままだとあなたにとっても損だと思いますけどね」

「どういうことよ?」

「僕は探偵です。ある程度は推理もできます。ですからあなたに思い出していただかないと、僕の勝手な推測であなたを判断してしまいますよ?」

「それはあまり良くない推測ってことなのね?」

「失礼を承知で言わせてもらいますが、あなたはあらかじめ、ターゲットにしていた男たちの何らかの弱みを握るために、多方面に金をばら撒いては情報を入手し、その出資金の元を取るために時にはベッドを共にし、男たちをゆすり続けた。違いますか?」

 あまりの唐突で無礼な言葉にアタシは怒り心頭してしまった。

「違うわっ!全然違う!」

 なんなのこの探偵!?アタシが誰とでも寝るアバズレ女みたいに解釈してるわけ?冗談じゃないわ!

「探偵さん。見当違いも甚だしいわ!アタシをナメないで!」

 そう言って睨んでやったのに、至って冷静に返答する探偵。

「お気に召さなかったら本当に申し訳ありません。ですから、あなたが話してくれないと、僕はこう思ってしまうわけです」

「・・・・」

「小松部長もあなたの金づる。それと同じように森田も…」

「森田なんか、お金も持ってないのにアタシがそんなことするはずないでしょっ!」

 アタシは自分のプライドが傷つけられたようで、とっさに探偵の言葉を打ち消してしまった。男は色々選ぶけど、森田みたいな年収の少ないブ男にまで手をつけるアタシじゃない。あれは頼まれただけのこと。

「なるほど。。どうやら思い出してくれたみたいですね?」

「探偵さん、あなたはどこまで知ってるんですか?」

「あなたが森田を誘ったのは確認済みです。ただ、その理由がわかりません。金づるじゃないとしたら、森田は何だったんです?」

 アタシはこのとき、もう観念した方がいいと思った。

 もう正直に話そう。理由はわからないけど、この探偵の個人的捜査にすぎないんだし、罪になるわけでもないんだから。

 それにアタシ一人が単独の極悪女のレッテルを貼られたら、いい迷惑だもの。


「言うわ。ずっと口止めされてたんだけど…もう時効よね」

「ありがとうございます。決してご迷惑はかけませんので」

「約束よ。実は、森田はアタシの彼氏の恋敵だったのよ」

「コイガタキ?」

「そう。慎也は…アタシの今の彼は、森田の奥さんの元彼だったの」

「ということは…あなたの彼氏は森田卓に恨みがあったということですか?」

「恨みってほどじゃないけど、気に入らないっていつも言ってたわ」

「つまり、森田に自分の彼女を横取りされたと?」

「いいえ、フッたのは慎也の方。でもそのあとに彼女がブサイクな森田と付き合い始めたもんだから、慎也のプライドが許さなかったのね」

「プライドねぇ…」

「そして結婚しちゃったわけだし、ショックも大きかったんじゃないかしら?」

「でもあなたという女性がいるにも関わらず、そんなことに腹を立ててるのは未練がましい気もしますが…それにあなたにも失礼でしょうに」

「ううん。アタシは慎也の気持ちがわかるから。それに彼はゆりか…あ、ゆりかってその女の名前ね」

「ええ、わかります」

「で、慎也はそのゆりかって女には未練は全然ないの。とにかく森田だけに腹を立ててたわ。まぁ男の嫉妬っていうのかもね」

「でもそれは未練からくるものじゃないんですかねぇ?」

「かもしれないけど、慎也はずっとアタシを大事にしてくれてるから別に平気よ」

「そうですか。では話を戻しますが、つまり森田を誘ったのは、あなたが慎也さんから頼まれたということですか?」

「ええ、そうよ。でもボコボコにしたわけじゃないわ。これは絶対ウソじゃない。慎也もアタシも暴力は嫌いだもの」

「それはわかります。逆に誘惑したんでしょう?SMバーみたいなところで」

「えっ・・・(゜〇゜;)」

 アタシは思った。この探偵はもうかなり知っている。うちに来たのは事実確認か、情報のおさらいをするためかもしれない。

「驚かせてすみません。実は森田卓がSMバー風な場所で縛られながら目隠しされている写真を入手してまして」

「そうだったの。なら話が早いわね。そういうことよ」

「つまり、森田を誘惑して密かに証拠写真を撮り、それをゆりかさんに送った」

「ええ」

「そして家庭崩壊と彼らの離婚を狙ったんですね」

「そうよ。その通りよ。でもね、その作戦は失敗したの」

「ホホゥ( ̄。 ̄*)なぜ?」

「全然効果なかったもの。あの夫婦が離婚したのはかなりあとからだったし、直接アタシたちが仕掛けたことが原因じゃないわ」

「お互い辛抱してたのかもしれませんよ?」

「いいえ、森田の離婚の原因は、信じられないことだけど、社内での不倫が原因だって聞いたもの」

「それは誰から?」

「アタシが言わなくても探偵さんはもう知ってるんでしょ?」

「小松部長…ですね?」

「人が悪いわね。アタシの口から言わそうとして」

「すみません。仕事柄こんなパターンになることが多くて(^_^;)」

「これでもういいかしら?さっきも言ったように、アタシたちの作戦は失敗したの。だから罪にはならないわ」

「ええ、それは大丈夫です。じゃあ最後にもうひとつだけ」

「なんなの?」

「園崎頼子に支払った50万のことで。。随分太っ腹ですね?あなたのお金ですか?それとも慎也さんが出したんですか?」

「慎也よ」

「慎也さんはそんなにお金持ちなんですか?あるいはセレブなご実家とか?」

「いいえ。あのときのお金は…確か人にもらったお金って言ってたような。。」

「えっ?人にって…普通そんな大金をすんなりもらうってことがありますかね?」

「アタシもそう思ったけど…あ!そうそう、思い出した!必要なときには用立ててくれる強い味方がいるって確か言ってたわ」

「(・。・) ほー。それは今でも?」

「いえ全然。あのときだけだったわ。今はそんことアタシに言わないもの」

「ふぅん。。。なるほどね。。」

「なんだかアタシ、しゃべりすぎちゃったようね。もし慎也に会うことがあったら絶対内緒にしてね。アタシがおしゃべりだって思われたくないの」

「わかってますよ。安心して下さい。ありがとうございました。もういいです。」


 アタシは探偵が玄関から出ていくと、自然に深いため息が出てきた。

 結構、勘の良い探偵さんだった。このアタシが随分焦らされた。

 さすがのアタシもこんな男を誘惑して貢がせるなんてマネ、できっこないわねw

 でもなぜ、そんな過去なんて調べる必要があるのかしら?

 あの人の個人的な捜査なら、森田と関わりのある人なんだろうか?

 でもそんなこと考えたってアタシには関係ないし、変なことに巻き込まれるのはたくさん。

 今日のことは慎也には言わないでおこう。

                (続く)

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