その3 茜崎涼
その3
茜崎涼
「お客さん、ご注文の方はそろそろお決まりですか?」
「あ…すいません。もう少しだけ。。」
「じゃあ決まりましたら呼んで下さいね」
「はい」
昼食時、俺は人気のこじゃれたラーメン屋に来て、メニューを眺めていた。
にも関わらず、俺は昨日の園崎頼子の証言ばかりを思い返していて、目の前のメニューなど全く目に映っていなかったのである。
今のところ考えられること。。
学友でもあった是枝英之と三木綾乃は、何らかの理由で仲が悪くなった。
そして、なぜか三木綾乃は森田卓と男女の関係になってしまう。ここが1番理解に苦しむところでもある。
ところがゆりかに浮気現場を察知されて森田は離婚。三木はおそらく左遷。
程なくして是枝は、独り身のゆりかに接近して付き合い始め、ついにゴールイン。
単純に考えればこれでいい。特に違和感も感じないし、十分あり得ることだ。
だが・・・
だがそうなると、解決できない矛盾もまたいくつも出てきてしまう。
約1年半前の同時期に、森田卓の身辺にいろいろなことが起き過ぎてはいないか?
そう思うのは俺だけかもしれないが。。
この商事会社の部署に是枝と三木が異動して来たことから始まる森田の悲劇。
この悲劇は自然の成り行きなのか、それとも故意的なものなのか。
そして園崎頼子を介しての森田への誘惑。倉沢まりもは何をするつもりだったのか?
園崎に50万も支払うだけの理由は何か?
是枝と倉沢まりもに接点はあるのか?
この二人には接点もないし、直接的な関係は何もないだろうと俺は思う。
ただ・・間接的には・・ある。確かにある。
倉沢まりもの彼氏は石丸慎也だ。
つまりこの男は、ゆりかの元彼という事実がポイントになる。
ゆりかを軸にして是枝と石丸慎也、そして倉沢まりもは間接的に繋がる。
これは一体、何を意味するのか?
「お客さん、注文しないんなら次のお客さんが席の順番待ちしてますので。。」
「ハッ(゜〇゜;)すいません。えっと。。じゃあピリ辛味噌ラーメンで」
「他にはございませんか?チャーハンと餃子をセットで頼むとかなりお得ですが」
「ラーメンだけでいいです」
「トッピングはいかがでしょう?今日は29日・ニクの日で、チャーシュー1枚50円になってますよ?」
「あ、じゃあそれで」
「ちなみにお客様、マイ箸はご持参ですか?当店ではエコ運動に力を入れてまして、マイ箸をご持参の方には半熟味付たまごを1個サービスしておりますが」
「いえ、持ってないです」
「わかりました。ではピリ辛味噌には辛さが3段階ありますがどれに…」
「1番辛いのでいいです」
「麺の太さはいかがでしょう?当店では細麺・中太麺が選べますが」
「じゃあ中太麺で」
「麺のタイプはストレートとちぢれ麺がありますが…」
「ちぢれでお願いします(^_^;)あの…まだ何かあるんですか?」
「いえ、以上です。かしこまりー!」
(;-_-) =3 フゥ 待たせた俺も悪いが、こんな面倒なオーダーも初めてだ。もうここには来ないでおこう。
おひやを飲んで少し頭を休めた。考えすぎもよくないことはわかっている。
自分のCPUも冷やさないとフル回転させる前にクラッシュしてしまう。
数分後、オーダーした俺のラーメンが運ばれる。
真っ赤なスープを一口すすった。熱々のピリ辛で体が温まる。が!あまりにも辛すぎた。
俺は汗だくになりながら、目の前のポットに入った水も飲み尽してしまった。
「店員さん、すごい辛いんですけどこんなもんなんですか?」
「はい。お客様は3段階の最上級を選ばれましたので」
「味噌の味より唐辛子の方が。。(⌒-⌒;」
「当店の3段階は、5倍、10倍、50倍になってますから」
「なんで10倍の次が50倍なんですかっ?(^□^;A」
「さぁ…私、パートですからわかりません」
「(ノ__)ノコケッ!」
会計が終わって、帰り際にポイントカードをもらった。
「いや、僕はいいです」
「お得ですよ?普通はラーメン1杯にスタンプ1個なんですが、お客様は辛さ50倍をオーダーされましたので、スタンプも10個つきます」
「ホホゥ( ̄。 ̄*)」
「30個になりますと、ラーメン1杯分サービスになるんですよ」
「じゃあ、あと激辛2杯か。。サービスのラーメンは好きなもの選べるのかな?」
「いえ、50倍ラーメンのみです」
「やっぱりいらない(^_^;)ごちそうさん」
こんなラーメン屋での荒行も終わり、俺は街を宛てもなく歩いていた。
冷たい風が気持ちいい。たくさん汗をかいたせいだろう。
だがこれで頭も冷えた。冷静に今までの事実を分析できそうな気がする。
なぜ俺はこんなことをしているのか?
ゆりかも再婚したことだし、これ以上調べても仕方ないと思っていた。
だが、この再婚劇の陰には何かがあると確信してしまった。
訪ねた人々の証言を聞くたびに新たな発見も出てくる。
複雑に絡み合っている人間関係。。
森田卓、是枝英之、倉沢まりも、石丸慎也、三木綾乃、そしてゆりか。
部長夫人・小松房江からの電話をきっかけにわかった事実。
森田が仕組まれた罠に見事にハメられたことは確かなのだ。
これだけのことが同時期に偶然起きるはずはない。
あとはそのからくりと、真の首謀者は誰なのか。。。
森田卓と三木綾乃の関係はそれとなくわかった。次は森田卓と倉沢まりもの関係だ。
小松房江からもらったあの森田のSMチックな写真は何を意味するんだろう?
俺は倉沢まりものマンションへ足を運んでいた。
(続く)